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1-49 悪魔で冒険

 エルの好意で俺たちは冒険者ランクがアップして、チームのクラスまでも上がった。

 冒険の人生を楽しもうと考えている俺たちにとって、これは最上級のご褒美である。


 しかし、そこにはおまけが付いていた。

 なんと、俺とクリス、そして姉妹に二つ名が付いているのだ!


 二つ名とは自分が申請して周知の名だと認められるか、逆に公然と呼ばれるようになった名をギルドが認めると本人へと贈るモノである。


 もちろん気に入らなければ拒否することもできるが、公然と呼ばれている名ということは、それだけ知名度がある名だということでもあり、贈られた名を大抵の場合そのまま本人は受け取っている。


 なかにはとんでもない名前もあるらしいが、それこそ覚えられやすく、さらに知名度も上がりやすいそうだ。


 そして、俺たちは申請などしていないので、もちろん後者だ。

 二つ名は公式にもそれが自分の名であると名乗ることが許されているため栄誉でもある。


 しかし、それはその二つ名の名前にもよるだろう。

 俺たちは目立ちたいわけではないのだから、あまり変な二つ名は遠慮したい。


 ベアトリスに贈られた名は【風の妖精】だった。

 あのような危ないエア弾を飛ばしたのに、なぜそんな可愛い名なのか不思議である。


 アルヴァは実に分かりやすく【炎蛇の姫】と贈られれている。

 まあ、これは魔法を使ったときの印象そのままだろう。


 しかし、非常におかしなことに、俺は【悪魔の局長】となっている。

 さらに納得がいかないのは【女神の副長】となっているクリスの二つ名だ。


 ちなみにエルの二つ名は【嵐の鬼姫】だそうで、まさにピッタリではあるが、この世界に鬼という言葉があるのを知ったときは驚きだった。


 俺たちの二つ名の由来は、間違いなくこの前引き起こした騒ぎが原因だ。

 あのときクリスは、あの巨漢を殴り飛ばして、しかもトドメを刺そうとしていた。

 

 だったらクリスは【鬼の副長】でいいではないか!

 俺なんて一度はちゃんと止めたのに!


 どう考えても仕組まれているか、このギルドの冒険者どもは馬鹿で阿呆だから、あの非情なクリスたちの攻撃は一切見えず、クリスと姉妹の美貌だけが記憶に残り、俺に関しては「トドメを刺しちゃって」しか聞こえなかったということになる。


 しかし不思議なのは、栄誉ある二つ名がそんな簡単に付けられてしまうモノだろうか?

 なにか、エルが知っている気がしてならない。


 ――と、言うか、エルがこのギルドの総責任者なのだから、エルが皆の噂話を聞いて面白がって付けたに決まっている。


「ちょっと、エル! どういうことか説明してよ! 俺は(・・)この二つ名を了承してないし、俺は(・・)無実で攻撃したのはクリス(・・・)でしょ!? だったら、2人仲良く【嵐の鬼姫】と【鬼の副長】でいいじゃん!」


 聞けば分かると思うが、これはいつも通りの失言である。

 当然だがエルは自分の二つ名が嫌いで、誰にも呼ばせていないし、クリスも鬼と称されて嬉しいわけがない。結果的には2階で怒られた内容の比ではないほど怒られて、嫁を大事にしない夫は【悪魔の局長】が似合ってるとまで言われた。それにもう手遅れで、とっくに俺たちの了承済みとして処理したうえ、王都へ報告の書類を送ってしまったそうだ。


 周りからは「あんな美人の嫁を鬼と呼ぶなど、やはり悪魔の所業としか思えない」などと聞こえてきて、原因を作ったあの巨漢に今度もし会ったら、絶対に許さないと考えていた。


 ――そう言えばあの巨漢……すっかり忘れていたが、ポーション代を払わせてやるつもりだった。

 いったい、どうしたのだろうか?


「ねえ、美人の奥さん。今夜はエルのためだけに料理を作ったんだよ? ところでこの前の巨漢はどうなったの?」


 この程度ですっかり機嫌を直した鬼姫は「そういえばヨウスケにまだ用事があったんだ。忘れてた」と、質問と繋がらない返答を返してきた。


 そして、さらに機嫌が悪くなった女神に「この前は守ってくれてありがとう。やっぱり頼りになるね」と、ゴマを摺って抱きしめてあげた。


 俺も日々精進しているのだ。


 ご機嫌のちょろいん二人はニコニコしているが、俺は女を誑かす悪魔として名高い『インキュバス』というさらなる不名誉な名前も付けられる結果となってしまった。

 

 そしてそれが事実ではないのが余計に腹が立つ。

 俺は床下手なのだ。 誰かに教えて欲しいぐらいである。


 こうなると、あの『特殊技術』を売る繁華街へ行けなかったことが、本当に悔やまれて仕方なかった。


「実はヨウスケに会いたいって奴が、この前ドリアーヌと話をした部屋で昼からずっと待ってるんだ。すっかり忘れていたよ」


 このタイミングで会いに来るのは巨漢しかいないと思うが、この扱いには少し可哀想な気がして思わず同情をしてしまった。


 エルは自分がいると話し難いだろうと言って、部屋にはついて来なかった。

 一人で待たせるのは、暇を持て余してしまうだろうと思い、姉妹とフローラにエルと一緒に部屋の外で待っているようにお願いをした。


 本音を言えば、巨漢を見た瞬間に攻撃しそうなので、エルが一緒に部屋へ来ないと言ったのは非常に都合が良かった。

 それを言ったらクリスも同じなのだが、念の為に俺の指示があるまで攻撃をしないように伝えてある。


 それにアウルもいる。

 最悪の場合は実の兄に責任を取ってもらい、肉の盾になってもらうつもりだ。


 俺を散々怒ったのだからそのぐらいは当然である。


 部屋へ入ると椅子に座っていた巨漢はいきなり立ち上がった。

 俺は焦って思わず「クリス(ポチ)行け(ゴー)」と、号令を掛けてしまうところだった。


 俺たちに襲いかかってくるために近づいてきたと思っていた巨漢は、俺の目の前に立つといきなり頭を下げてきた。

 身構えていた俺たちは状況が理解できずに、目が点になっている。


「すまねぇ、旦那。この前は迷惑かけちまったうえに、怪我まで治してもらって、詫びるどころか礼も言わず申し訳なかった」


 予想外の展開には俺たちの誰もがついていけず、とりあえず全員座ってから話を聞くことにした。


「実は、複数の女を連れてやりたい放題してるうえに、ドリアーヌさんにまでちょっかい出している奴がいるから懲らしめてくれって頼まれたんだ。それであの日、旦那が女にドレスやメイド服を着せて連れてきたんで、冒険者ギルドをナメてるのかと思って、カッとなっちまったんだ」


「あっ、でも、この服は……」


「いや、エルヴィーラ様から聞いている。その服はそんじょそこらの鎧より頑丈なんだってな。自分の嫁や女を守って、しかも綺麗に着飾ってやるなんて、旦那は優しい男だったんだな。てっきり、俺たちに見せつけるためなのかと思って余計に腹が立っちまったんだ」


 巨漢さん、ごめんなさい。

 実はその通りで、俺はあなたが思ってるような優しい人間ではないんです。


「それに人前でも嫁と腕を組んで歩いてやれる男なんてそうはいないからな。夫婦仲が良いだけなのに、ゲスの勘ぐりをしちまった」


 はーい、そこの2人ー! 今すぐ笑うのやめなさーい!

 笑うのなら部屋から出て行ってくださーい! 


「それなのに半死半生の俺を治してまでくれたんだからな。だから……」


 俺は正直心が痛かった。

 この巨漢さん、エルやこの人の仲間の言う通り悪い人ではなかった。

 どちらかと言えば俺の方が悪人……はっ! 

 だから、エルは噂通りに悪魔の号をそのまま使ったのか!

 

 ――もう、このまま一生【悪魔の局長】と言われ続けるしかないのか……。


「その二つ名なんだが……申し訳ねえ。――俺は仲間連中にもそう呼ぶなって言ってたんだが、ギルド内であんなに魔法を派手にぶっ放したインパクトが強すぎて、噂が広がるのを止めらんなかったんだ」


「もう、それはいいよ。どうせこの街だけでしょ? 言わなきゃ分からないんだから」


 明日にはこの街を出発するのだから、IDカードさえ見せなければ誰も俺のことなど知るはずがないと思った。


「それが……冒険者ってのは話好きが多くてな……」


 巨漢さん……今更だが、彼の名前はエドアルド。エドと呼んでくれと言った。

 エドが言うには冒険者の受ける依頼ではポピュラーとも言える商隊の護衛で、ほかの街へ行った連中が、こんなとびきりの話を広めない訳が無いとのことだった。


 酒場へ行けば、アルコールが口をなめらかにして、どれほど尾ひれが付いた話になるか想像も出来ない。


 俺が馬鹿なことを考えたばかりに……まあ、でも仕方がない。

 開き直って、惡、一文字もカッコ良いかもしれない

 いつも侍スタイルだし、ちょうどいいや。


 俺は前向きな男なので、次の街へ言ったら背中に『惡』と書いてもらおうとさっそく考えていた。


「それで、旦那。金のことなんだが……」


「あ、それもういいよ。今、俺は絶賛反省中だから気にしないで」


「は? なんで旦那が? いや、そんな訳にはいかねえ……んだが、金がない」


 エドは自分のチームを既に仲間に譲ってしまったらしく、持ち金もほとんどないそうだ。

 奴隷商に売られる覚悟を決めていたエドに、エルが俺に正直に全て話せば悪いようにはしないはずだと、アドバイスをくれたそうだ。


「それで、本来なら俺を売って旦那が金を受け取ればいいんだが、出来れば旦那の奴隷として飼ってくれないか?」


「それは、エルに言われたの?」


「だいたいそんな感じの事を言われた」


 エドはそのデカイ身体を少し震わせていたので、やはり誰に買われるか分からない奴隷商に売られるよりは、俺の方がマシだと考えているのだろう。

 下手な主人に買われたら使い潰されるのがオチなのだから、エドにしてみれば運命の分かれ道というところだろう。


 一連の出来事は、俺に非があると考えている。

 エルだってこれを仕組んだ以上分かっているはずである。

 ――と、言うことは、エドと俺を引き合わせたかった、ということか。


「エド。確認したいことがいくつかあるけどいい?」


 それはもちろん当然だから何でも聞いてくれと、神妙な面持ちで答えた。


「まず、家族はこの街にいないの?」


「俺は天涯孤独だ。こんな図体だと嫁の来てもないからな」


 いや、むしろ容姿は良い方だ。

 俺とエドを比べたら、間違いなくエドの方がいい男である。

 年齢は30歳なので、少し年はいってるが、そこがまたいい感じで、絶対に隠れファンがいると思った。


 昔の俺なら嫉妬したかも知れないが、今の俺には絶世の美女軍団がいるから心に余裕がある。


「じゃあ、馬車は扱える?」


「もちろんだ。護衛依頼では何度も馬車を扱ってるから腕には自信がある」


「へえ――……じゃあ、最後の質問だけど……」


 俺はアウルをチラッと見ると同じ質問を考えていることが分かった。


「なんで冒険者になったの?」


 これこそ最も重要な質問である。

 この答え次第ではどんなに優秀な人物であろうと連れて行くわけにはいかない。


「そりゃあ、いろんな場所へ冒険に行きたかったからだ。しかしまあ、俺の実力じゃあ、そんな事は出来なかったから、この街で大人しく依頼を受けてんのさ」


「じゃあ、もし冒険に行けるとしたらどうする? もちろん、実力の問題はあるだろうけど、気持ちとしてはどうなの?」


 アウルは真剣な眼差しでエドを見つめていた。

 彼なりにエドを鑑定しているのだろう。


「行きたいに決まってますでしょう! 子供んときからの夢なんですから! 知ってますか? 世界にはまだ誰も行き着いていない場所がたくさんあるんですぜ? そんな場所へ行くことを想像したらワクワクしないですかい?」


 俺とアウルの視線がピタリと合った。

 数秒ほど見つめ合うと、どちらからともなくニヤリと笑い、2人揃って同じことを言った。


「「合格!」」


 これはもう、疑う余地もないほどの核心を得た。

 全てがエルの思い通りにことが運んだということだろう。


 エドは自分が奴隷になることを決めている。

 その上で心配する家族もいないし、使える男でもある。それに人柄も良い。


 そして、夢があった。――俺たちと同じような夢が。


 それを考えるとあの二つ名だって好意的に考えることが出来る。

 つまり、人払いを兼ねているということだ。


 いろいろ秘密のある俺たちは出来れば他の人とは関わりたくない。

 そこで、俺の悪名が役に立つというわけだ。


 エルも女の子にはその役をやらせたくないと思って、俺にその名を背負わせたということだ。


 さすがと言うしかない。


 あとでお礼をして謝らないといけないな、と思いつつも自然と笑みがこぼれた。


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