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1-47 魔珠で技量

 みんなを驚かすことに成功したことで、俺は充分満足していた。

 しかしこの魔法の鞄は未完成品なので、もしかすると現状の性能を聞いてがっかりさせてしまうかも知れない。


 うーん、どうやって説明しようかな?

 まあ、今更だけど……

 

 そんなことを考えていると、エルは驚きながらも真っ先に正気に戻っていた。


「なんちゃって? 未完成って意味か? どう未完成なんだ?」


 そんな言い方をするのは、やはり現代日本人だけらしい。


「実はそれ、誰でも使えるわけじゃなくて、しかも内容量が無限じゃないんだ」


 最初は特定の場所に別空間を作って、そこから取り出せるように作ったのだが、鞄に入れた手がその空間から現れるのだ。一度どんな反応するかと思ってクリスに見せたら、ドン引きして余計なものを見せるなと怒られた。


 他にも欠点がある。

 まず、中のモノが見えないので取り出すのが手探りだ。

 自分が保管空間と同じ場所にいるならいいが、うっかりすると何があるのか忘れてしまうこともある。

 物質がちゃんと時間とともに変化してしまうので食べ物は腐る。

 

 だからすぐ断念して本物の魔法の鞄を作れないか実験をしていた。


 ストレージは収納したモノがメニューに羅列表示されるから問題はない。

 未完成ながら魔法の鞄は手を中に入れると収納したモノが記憶として流れてくる。

 そして、選んだモノが鞄の中に現れて、手で掴める。


 内容量を調べる為に、夜中クリスと一緒に森へ行き、長い棒を作って中をつついた。

 その結果、ポーチは一辺が1m、旅行鞄は10mぐらいの空間でしかないことが分かった。

 この程度しか入らないのであれば、俺ならすぐ満杯になってしまうだろう。


「だから大した量は入らないんだ。この前狩った獲物の量ぐらいしか収納出来ないし、鞄の口に入る大きさしか入れられない。だから出来るだけ大きい鞄にしたんだ。ポーチはポーションぐらいなら結構入ると思うけど……」


「……一応先に聞くが、誰でもは使えないというのは?」


 さっきまであんなに大騒ぎしていたのに、俺の説明を聞くとエルは急に冷静になって話を進めた。

 正直、少し寂しいと思った。


「実は……それ、汎用じゃないんだ。鞄の中にストレージと同じ空間を開くには、鍵となる魔珠を取り付けないと空間が開かないんだ。だから、魔珠を外すとただの鞄になっちゃうし、一度魔珠を設定するとその魔珠でしか空間が開かない。しかも、10回程度で魔珠の魔力がなくなるから補充が必要になるんだ」


 誰も口を開かない。

 やっぱりがっかりさせてしまったらしく、もうちょっとマシに作れば良かったと後悔した。

 不安になって振り向くと、クリスはそんな俺を励ますように笑顔のままなので、もう一度エルの方へ向き直った。


「えっと……がっかりさせちゃった? ごめんね。今度は頑張ってもっと便利な鞄を作るから」


 まだまだ努力が足りないと反省してエルに謝罪すると、やっと口を開いてくれた。


「え? あんたが言ってた『なんちゃって』の意味はそれだけか? 未完成と言った理由はそれだけなのか?」


 それだけと言われてもこれだけ欠点があれば充分未完成と言えるだろう。

 まあ、俺の作ったのだから、全然大したモノではないと思われていたのかも知れない。


「うん……だからせめて見栄えが良くなるように魔珠を削ってお花の形にしたんだけど」


 そう言って鍵となる2つの魔珠をストレージから取り出してエルに手渡すと、それを見てなぜか目を丸くして驚いていた。


「魔珠を削った!? ど、どうやって!?」


「え? 小さい金属ブラシで磨く感じ? まあ、魔力で先が回転するような道具だけど」


 はっきり言えばフィギュアを削り出しで作る要領と同じである。


「バカだ……ここにバカがいるよ……よりにもよって、それがあたしの旦那様だなんて……」


「ええ? 魔珠を削ったらダメなんですか!? 違法とか?」


「いや、良く分かった。あんたの世界とこの世界の技術の差がな。いいかい、魔珠は金属並みに硬いだろ? この世界にも彫金という技術はある。確かにスキルが上がれば技術も上がるが、金属を削るんだからそんなに早く、しかもこんな精緻な図柄で作れるもんじゃない。こんな感じのを一つ作るのだって、10日、いやそれ以上かかるだろう。すでに、道具の発想が違うんだ」


 手彫りと電動工具もどきでは、確かに速さはまるで違うから当然と言えば当然である。


「それで、あんたはこれを何日で作ったんだ? 魔珠の利用法を知ってからまだ5日か6日しか経ってないだろ?」


「……2時間だけど?」


「………」


 冷たい風がどこからか「ヒューヒュー」と吹いている気がする。


「……もう、いい。次だ! それでこの鞄だが、あんたは未完成品だと思ってそんな顔をしてるんだろうが、それは間違いだ。あたしの知っている魔法の鞄は、魔珠は使わないが性能的には明らかにこの鞄の方が上だ!」


 それはおかしい。

 各スキルのレベルが低いせいで魔珠が必要になったのだから、魔珠を使わない鞄の製作者は俺よりスキルレベルが高いはずで、それであれば内容量も増えるはずである。

 俺はそう言ってエルに疑問を投げかけたのだが答えは明確だった。


「単純に技量が劣っていたんだろ。スキルレベルが同じでも個人の技量には開きが出る。そんなの常識だ! 鍵がないと開かない? そんなの欠点にすらならん」


「じゃあ、これでも立派な魔法の鞄と言えるの?」


「当たり前だ! 自分で価値を調べなかったのか? 鑑定金額ですら凄い金額になってるはずだぞ!」


 確かにポーチは300万円で旅行鞄は1000万円だったが、コテツンより安い。

 アウルが魔法の鞄と引き換えならコテツンをタダでくれると言ったのだから、当然もっと高い金額でなければ魔法の鞄として価値が低いのかと思っていた。


「旅行鞄でも1000万円だけど、これで高いの? このカタナより安いよ?」


「……その金額で満足してないあんたは大物だよ」


 エルは呆れているようだが、急に優しげな顔になり、なぜか子供をあやすような口調になった。


「いいか、ヨウスケ。魔法の鞄は魔道具ではあるが、空間魔法しか使っていないだろ? だから、今は作れる人がいないというだけで、過去に作られたモノは出回っている。たくさんあるわけではないが、美術品としての価値はないから、実用品レベルの価値になる。しかし、欲しいと思っている人がどれほどいると思う? カタナが高いのは美術品として価値もあるからだ。恐らく、実用品として使っているのはヨウスケだけだ」


 後ろから、アウルに「分かってなかったんですか? 家族として恥ずかしいですから、もう少し常識を勉強して下さい」と、囁かれた。

 俺が喜んでコテツンを使っているのと同じように、手に入れるのが夢だった魔法の鞄がそんなに価値が低いわけないでしょう、と言いたいようだ。


「だから、まずありえないが、市場に出たら世界中から人が集まりオークションが開かれるだろう。そして、億の値段が付いてもあたしは驚かないね」


 後ろからアウルが「うんうん」としきりに頷いているが、姉妹とウスターシュは顎が落っこちてしまったのかと思うほど口が開かれていた。


「どうせあんたのことだから、価値も考えずに大量に作ったんだろ?」


「……全員分。2個ずつ……あ、でも、魔珠を彫り込んだのはエルの分だけだからね!」


 俺はこれ以上馬鹿にされないよう、必死に言い訳をしたが、そんな問題じゃないと一蹴された。

 ただクリスからは「わたくしの分も彫って下さい」と、命令としか思えない口調で頼まれた。


「それで他に作ったモノも見せてごらん。――大丈夫、もう怒らないから」


 やっぱり怒られていたのかと知って、比較的に怒られなさそうなモノから出していった。

 

 まずは、マント。

 これは俺が日本から持ち込んだ天鵞絨ビロードで作られている。表地は黒、裏地は赤である。

 最初は自分用にと思ったのだが、恥ずかしいほど似合わない。鏡を見た瞬間、知り合いに見られたら一生引き込もれるほどのダメージを受けた。


 エルはこの国の王様にも会うことがあるらしいし、ドレスアーマーにマントを着けた美人将軍が闊歩する姿を想像しただけでヨダレものだ。

 そこでサイズをエル用にするために仕立て直して、魔力と結界を張り直した。


 ドレスアーマーにマントがあれば防御力は鋼鉄やミスリルの鎧など遥かに凌ぐ。俺のスキルが上がっているお陰で以前より、物理的にも魔法に対しても防御力は格段に優れている。

 だから、これらを着て王様に会っても失礼には当たらないはずだ。



 次は実用品の魔導コンロと魔導冷蔵庫だ。

 魔導コンロはカセットコンロの応用で、魔法玉に火魔法を付与した。火魔法単体しか付与していないので、難なくつまみで火力を調節する機能を取り付けることが出来た。野営には必須のアイテムである。


 魔導冷蔵庫は従来の魔法玉でただ冷やすだけではなく、ちゃんと冷風が出て、冷凍、冷蔵室がそれぞれあるように作った。


 作ったと言っても本体は鍛冶屋に依頼しているので、俺が手を加えたのは、コンロの火力調節機能と冷蔵庫に冷風と凍風が出るようにしただけである。

 ただ、火が出るだけなら誰でも作れるだろうが、火力の調節機能は俺にしか作れないし、合成魔法の賜物である冷蔵庫も他の人には作れないだろう。


 だからこれら魔道具も秘匿するしかないが、旅行鞄に入るサイズにしてあるので、エルに10個ずつ渡した。万が一俺がいない時に何かあったときの用心である。

 

 まあ、夏だから冷たいものが飲みたいだろうし、ギルド主催のバーベキュー大会があるかもしれないと思ったから作っただけとも言う。


 今までのモノですらエルはこめかみをヒクつかせているが、怒らないと言った手前我慢していた。

 だからこの様子から考えて、最後の品を見せたらどうなるか不安だった。


「それで……、これが最後なんだけど」


 恐る恐るそれをエルの机の上に出した。


「魔法玉? ずいぶん大きいが、聞いてあげるからどんな魔法を付与したか言ってごらん。大丈夫だって、そんなにビクつかなくても」


 と、言われてもその笑顔が逆に怖い。

 しかも、目が全く笑っていない。


「電話」


「――は? なんだそれは?」


 サラっと言ったらすんなり終わるかと思ったが、意味が通じていないので、説明するしかないようだ。


「言葉を送る魔法玉だよ」


「言葉を送る? 言玉と同じか? そっかぁ……」


 エルは急に身体の力を抜いて深く息を吐いた。


「まあ、レアではあるが最後にしては……いや、十分レアなんだがヨウスケにしては地味だから逆に驚いたよ。身構えて損した」


 先程までと違いエルは本当の笑顔になった。


「それでどうやって使うんだい? あたしは使ったことはないんだ」


 その様子を見てホッとした俺は、身体から力が抜けていった。

 笑顔を取り戻した俺は、嬉々として使い方の説明をしてあげた。 


 使い方は簡単である。手で触れて話すだけだ。

 ただ魔力の消費が著しいので触れた手から魔力を流し、補充しながらしか使えないが、エルなら魔力譲渡のスキルもあるし、高レベルだから魔力切れの心配もない。

 

 そして念の為に、これは本当に未完成品だと強調した。

 2つセットでお互いとしか通話が出来ないのだ。


 俺のレベルが上がれば、いずれは改良出来て魔力消費も抑えられるだろうし、他の魔導電話とも話せるようになると思う。相手を識別して通話させる方法も考えているので、もっとスキルレベルが上がったら汎用品を作ってみるつもりだ。そしてその完成品を重要人物に配ってあげれば、エルもネットワークが広がり異変に備えやすくなるだろう。


 俺はエルのために頑張ったんだよ! と、力いっぱい力説して褒めてもらおうと思っていた。


「……ヨウスケ。ちょっといいかな? ――こういうのはあんたの世界では珍しくないのかい?」


「うん、誰でも持ってるよ。それこそ子供だって持ってるぐらいだよ。この世界にもあるみたいだけど、レアなんでしょ? だから俺が増やしてあげるね」


 俺は満面の笑みを浮かべエルからの「ありがとう」のセリフを待った。


 待った。


 まだ、待った。


 もうちょっと、待った。


 そこで様子がおかしいことに気が付いた。

 

 エルが震えているのだ。

 俺はエルが感激のあまりに泣いているのかと心配になったのだが、全く違った。


 エルが約束を破ったのだ!

 猛烈に怒られたのだ!


 エルが言った言玉とは、言葉を記憶するICレコーダーのようなモノだったのだ。

 

 それすらもかなりの貴重品で俺が言った電話の話など、今まで実現不可能と言われていた絵空事だった。そんな道具があればイイな、程度に誰もが思っているだけで、そんなことは夢のまた夢と言われていた。

 

 俺にしてみれば未来の道具のようなモノらしい。


 じゃあ、作れたんだからいいじゃん! と、目一杯反論したが、常識の範囲を知れとさらに怒られた。

 要はこんなものが作れる俺は、そのうち衆人環視のなか、それと気付かず常識外れのことをしでかしそうだということらしい。


 言われてみれば、現代科学を使った機械は作ってないが、それを応用したモノはたくさん作っている。

 しかし、それはこの世界においては未知の知識であり、道具である。

 だから、今までの常識が覆されかねないとのことだった。


 俺が作った道具のせいで1つや2つ現在流通している産業が激変したり潰れかねない。

 そうなったら、失業者が溢れてしまう。


 俺が作っているモノはそれほどのモノなのだと言われた。


 全くもって俺は浅はかであった。

 研究室だけではなく、かなり外注に出していろんなモノを既に作ってしまった。衣類などは問題ないだろうが、馬車にしても技術の権利は俺にあるが、そういうモノがあると知れ渡ってしまったのも事実だ。


 俺はしょんぼりしながら謝って、魔法玉電話をストレージに仕舞おうとすると、エルがなぜか待ったをかけた。


「いや、その、なんだ。約束を破って怒って悪かったな。ヨウスケがせっかくあたしのために作ってくれたんだしな、ちゃんと貰うから仕舞わなくていいぞ」


「え? だって、こんなの世間に知れたら大問題になるんでしょ? 大丈夫だよ。ちゃんと後で解体してほかの物作るから」


「いや! そんな失礼なことはできん! だから、もらってやるって」


 ん? これは……


「ねえ、エル。もしかして実は欲しいの?」


「そ、そんなことないぞ。未知の技術は危ないからな」


「じゃあ、壊すよ」


 そう言って魔法玉電話を窓の外に投げようとすると、ついにエルは観念した。

 エルが俺に素直に欲しいと言ったのだ!


 大金星である。

 

 今まで連戦連敗でいつも辛酸を舐めさせられていた俺がついにエルに勝ったのだ!

 苦節何日か分からないが、俺はこんなに気分が晴れたのは生まれて初めてだった。

 喜びのあまり快哉を叫んでいたら、魔法玉電話を落として割ってしまった。


 エルは顔が真っ青になっている。

 しかし、何の問題もない。

 

 ちゃんと10セット作ってきたのだ。


 俺はエルを安心させる為に、ストレージからバラバラと出して机に並べたら、なぜかまた怒られた。


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