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1-43 覚悟と約束

 エルは俺が念の為に打ち明けた恥ずかしい秘密を聞くと、予想外のことを言われたという顔になった。

 俺はそんな経験豊富な遊び人と思われていたのか、エルは失礼なことに大笑いを始めた。


 涙を流すほどの大笑いである。

 俺は恥を忍んで打ち明けたのに笑うなんてヒドイと文句を言った。


「うんうん、そうだね。ヒドイね。うんうん。可愛いなあ」


 なにを言いたいのか分からないが、ヒドイだなどと思っているとは到底信じられない。

 それはエルが、まだ笑っているからだ!


「これ以上笑ったら、ホントに怒るからね! こんなに恥ずかしい秘密を打ち明けたのに!」


 もう俺はプンプンである。激おこプンプン丸だ!


 それでも、笑うのをやめないエルは、その代わりなのか俺を抱きしめてくれた。

 ――俺は解体作業のせいで、血まみれなのに。


 当然なのだが、俺は一瞬で機嫌が直った。

 なぜかと言うと、美熟女の柔らかいモノがめっちゃ当たっているからだ。

 この謝罪は非常に有効である。


 クリスを女神、姉妹を天使と例えるなら、エルは聖母……そう聖母の抱擁と称して良いだろう。

 ちょっと下品なのがたまにキズではあるが、その欠点は特殊ギャップ萌えとして解決済なので、むしろ下品な聖母はご馳走とも言える。


「ヨウスケは本当に素直で優しい子だな。あんたは自分が死んでも元の世界に戻るだけだから、何かあったら命を懸けるのは自分だけでいい、なんて考えてるんだろ? でも、あたしは死んでもあんたを守るからな」


 確かにそう思っているが、俺の恥ずかしい秘密から、なんでこんな話になったのかがよく分からない。

 俺は思わず首を傾げてしまったが、エルが優しく諭すように話を続けた。


「ヨウスケにとってこの世界の人生は、おまけのようなもんだろ? だからこそ、この世界を楽しんでもらいたい。それなのに、この世界がつまらなかったなんて思われたら恥ずかしいからな。あたしはこの世界の人間としてヨウスケが楽しい人生を送れるように守ってやる。だから、良い思い出を持って帰って欲しいってことさ。――深く考えたらダメだぞ?」


「ん――、でも、俺は否定するよ。俺はみんなで一緒に楽しみたい。だから、エルも一緒に良い想い出を作ってくれないと俺は楽しめないからね!」 



 そのあとも、からかわれながらおしゃべりを続け、気がつくとだいぶ作業は進んでいた。

 解体、運び出し作業は夜遅くまで続いたが、目処が立ってきたので先に帰らせてもらうことにした。


「じゃあ、明日迎えに行くけど自宅でいい?」


「そうしてくれると……んん? あんた、あたしの自宅をなんで知って……ああ、レーダーか。――っとに、女の家を調べるなんてホントにヤラしい奴だな」


 しまったー! 口が滑った! 

 

 しかし、嫁のことが心配だっただけで、着替えを覗いたり、寝顔を見ようとか思って調べたわけではない。やったとしてもこのレベル差では気配でエルにバレてしまうから、妄想だけで我慢している。


「嫁が心配だったの! 他意はないからね!」


「ふふっ。そういう事にしといてあげるよ」


 エルは顔を近づけ夫婦の寝る前の挨拶を交わすと、また顔を赤くしている俺に「おやすみ」と言って倉庫へ戻った。


 みんなを起こなさいようにリビングに転移をした俺は、身体中の汚れを洗い落とすために風呂場へ向かう。

 

 久しぶりに自分で服を脱いだ。

 そして下着だけ洗濯籠に入れて、着物は水で流すために風呂場へ持ち込んだ。


 普通なら当たり前のことが意味もなく新鮮に思えて、少しこの世界に来る前のことを思い出した。

 日本にいた時の俺はダメダメだった。ニートではないが誇れるようなまともな職にも就いていなかったし、何か夢があるわけでもなかった。


この世界へ来てからまだ数ヶ月。これから冒険の旅に出てどんな浪曼が待ち構えてるかを考えると興奮が止まらない。しかし、この数ヶ月で得られた長いとは言えない幸せな時間ですら日本に居たままだったら一生味わえなかっただろう。それは今まで出会ったみんなのおかげである。


 エルが貴重な情報をくれたおかげで、万が一異変が起きた場合に備えることができる。

 役に立つものを作る才能もある。俺はこの世界ではみんなの役に立って恩をちゃんと返せる男なんだ。

 

 嬉しくて思わず涙が出てきた。

 好きな人たちの役に立てることが、こんなに嬉しいことだなんて日本にいたときは知らなかった。

 

 俺はボヤけた視界のまま着物にお風呂の残り湯をかけて汚れを洗い流していると、突然風呂場の扉が開き声をかけられた。


「あなた、おかえりなさい。お疲れ様でし……た? ――あなたどうしたのですか!?」


 寝ていると思っていたクリスが服を脱いだ状態でそこに立っていた。

 レーダーで位置を確認してはいたが、こんな遅くまで起きているとは思わず状態までは調べていなかった。


 突然話しかけられ思わず振り向いてしまったため、泣いているのを見られてしまった。

 クリスは慌てて駆け寄り、俺を抱きしめてくれた。


「本当にどうしたのですか、あなた? エル様と何かあったのですか?」


「ううん、違うよ。ちょっと昔の自分を思い出しちゃって……」


 俺は自分がいかにダメな人だったかを語り、今は役に立てることが嬉しいと素直な気持ちを話した。

 そして役に立てる男だからクリスにも好かれたし、エルにも必要だと思ってもらえたのに、それを裏切って嫌われない様に、これからも頑張るからと本音を吐露した


「では、エル様とは問題があったわけではないのですね?」


「うん。イロイロ話をして、なんかよく分からないけど、何回も可愛いとか言われた」


「…………」


 妙な間があった。

 

 話を聞いてくれたクリスは優しげな顔のままだが、どこか不思議そうでもあり、何かを危惧しているような表情でもある。


「……あなたの能力や才能は凄いですけど、なぜ、役に立たないからと言ってわたくしがあなたを嫌わねばならないのですか?」


「だって、クリスには夢があるでしょ? だから俺みたい男は都合が良かったんだろうけど、能力がなかったらクリスみたいな美女とは仲良くすらなれなかったと思うから」


「――あなた、前にわたくしが話した事を忘れたのですか? しかも、同じ場所だというのに」


 あのときは……噛まれた!

 超痛かった!


 あとは、愛してると言ってもらえたが、自信は持てない。

 自分にはそう言ってもらえるだけの価値があるとはまだ思えない。

 所詮はチート能力頼みだからだ。


 クリスはそんな俺の心を読み取ったのか、ちょっと不機嫌になった。

 無言で俺のカラダを修練なしで洗い始めると、そのあと温め直した湯船に浸からせた。


 自分は俺の着物を洗うと何処かへ干しに行ったのか風呂場から出て行ったが、数分で戻って来た。

 そして俺を湯船から上がらせカラダを拭くと、そのまま俺の手を引いて俺の研究室に入った。


 研究室にはベッドがある。俺は今夜も研究開発をする予定だが、クリスはその部屋で寝るつもりだと思った。アルヴァたちを起こさないためだとすれば、不思議でもない。本当はみんなに何を作っているか秘密にしたかったが、クリスになら見られても仕方がない。


 俺はクリスにおやすみを言って離れようとすると、ベッドで横になったクリスは手を離さずそのままベッドに引きずり込まれた。


「ちょ、ちょっと、クリス。俺はまだ寝ないよ?」


「それは分かっています」


 と、言うなり修練を始めた。


 これはヤバイ。二日間のお休みに加え『疲れなんとか』が俺のカラダの一部に力を与えた。

 そしてクリスは俺に股がると、力が溢れんばかりの状態の俺の分身体を掴み、おもむろに自分の中に入れた。


 入れた? 入れたの? ――入っちゃったの!?

 ――どうしようどうしよう……


 さすが騎士団の寄宿舎で熱心に同僚を観察(のぞき見)していただけあって、クリスはさほど道に迷わず目的地に侵入させていた。


「クリス、クリスだめだよ、まずいよ」


「もう手遅れですわ。ことは成し終わりました」

 

 やはり痛みはあったのか少し顔を歪ませている。


「あなた。なぜ、ダメで、まずいのか、説明して頂けますか? もしや、わたくしを生涯の伴侶にしたくないからですか? これから結婚をするのでしたら問題ないのではないですか?」


 確かにその通りなのだが、俺なんかがクリスとしちゃってもいいのかとずっと考えていたせいで、躊躇していたのも事実だった。


 まあ、それ以外は色々(エロエロ)としちゃってたけど。

 ――だって、しょうがないじゃん……男の子だもん!


 俺は苦悩の表情を見せたが、クリスを支えている軸は元気なままだ。

 心とカラダは別々の思考回路が組まれているという噂は本当であった。

 男とは、ホント『しょうもない生き物』である。


 俺がそれらの質問に答えられる性格ではないと知っているクリスはそのまま話を続けた。


「これでわたくしがあなたを愛していると信用して頂けましたか? これで覚悟は決まりましたか?」


 クリスは怒っているようにも見えるが、悲しそうにも見えた。俺に信用されていなかったと思って、こんな事を無理やりしたのだろう。お互いに気まずい雰囲気で見つめ合っていたが、さすがの俺でも支えの強度が下がり始めた。クリスはそれに気付くと、顔をしかめながらそっと位置をずらし、剣を鞘から抜くように移動して、横になって俺に寄り添った。


わたくしはあなたを愛していますので嫌われたくはありません。ですから、今のことはなかった事にして下さい。やはり、初めてはあなたにちゃんと愛されたいですから」


 俺としてもこんな初めては嫌だった。たとえ実際は初めてじゃないとしても。


「ですが、わたくしはキズモノになりました。覚悟を決めてちゃんと責任を取ってもらいますからね」


 いつも思うのだが、無茶をしでかしても終着点、妥協点を見いだせるクリスは男らしいというか女傑であるというか、とにかく俺には真似が出来そうもない。


 そしてトドメの一言には、さすがクリス! と、言うしかなかった。


「もし、わたくしを捨てたら、わたくしが責任をもって元の世界に帰して差し上げますわ」


 今の出来事は俺とクリスの中ではただの約束事、生涯を共にするという約束の証と考えていた。

 本当の初めてはちゃんと結婚してからと話し合って抱きしめ合った。

 そして聞こえるか聞こえない程度の声でクリスはつぶやいた。


「これで、エル様に先を越される心配はなくなりましたわ」


 今のセリフは聞かなかったことにしよう。――そう思って気付かなかったフリをすることにした。



 しばらく何も語らず二人で抱き合っていた。

 

 このままでは、寝てしまいそうだ。

 正直に言えば朝までこのままでいたい。

 しかし、俺にはやらないといけないことがある。


 この状況でひとり起きて違うことをする男、まさに外道!

 ――と、言われてしまうかも知れないが、旅に出てしまったら落ち着いて実験も出来ない。それに旅へ出る前に完成させるとエルに約束してしまった。


 俺は事情を話して起き出すと、クリスも俺の実験を見ていたいと言って一緒に起き上がった。

 すると、クリスが小さく驚きの声を上げた。


「まあ、あなた! ごめんなさい」


 そしてなぜかクリスが慌てて謝ってきた。

 俺には謝らなくてはならないことが山ほどあるが、クリスに謝って欲しいことなんて今まで……たくさんある気はするが、ここは敢えてないと言うべきだろう。


「え? どうしたの?」


「実は先ほどあなたのカラダを洗っていたときに、色々と考え事をしていたのです」


 それはそうだろう、あんなことしてしまうぐらいなのだから。


「それで、うっかり洗い残しがあったようですわ。もう一度お風呂へ行きましょう」


 クリスの視線の先、それは先程まで元気にクリスを支えていたモノだった。

 まあ、所詮は自学のぞきで得たクリスの知識などその程度だ。

 獲物の解体作業時に付着した汚れがまだ残っていたと思い込んでいる。


 間違いを指摘して恥ずかしい想いをさせてしまうぐらいなら、そのまま何も言わない方が良い。

 だが、それを汚れと思って洗われてしまうのは、非常に残念でもある。


 お風呂へ向かう道中、俺は頭をフル回転させて良い案を模索した。

 しかし、そんな短い距離では良い案など浮かぶはずもない。


 結局、俺は『優しくして下さい』とだけお願いした。




 カラダを洗い終わってから、先程はゆっくり浸かれなかった湯船に二人で入った。


「ところで、あなた。エル様とはどんな話をされていたのですか?」


「特には……。まあ、魔法具の仕組みとか冒険の話とかかな?」


「それでは辻褄が合いませんわ!」


 なんの辻褄だか分からないが、クリスは自分が家に帰ったあと、俺がエルとどんな話をしたのか最初から説明をしろと強要してきた。

 エルを妻にして修練に参加することをクリスも了承しているのだから、いまさら隠す必要もないし、隠してもすぐバレる気がする。

 なので、思い出せる限りどんな話をしてどう答えたかを教えた。


 そして、俺の恥ずかしい秘密を話したことも教えた。


「危なかったですわね。やはり正解だったようですわ。しかし、まだ安心は出来ません」


「は? なにが?」


「あなたは知らなくて良いのです。そんなことより、あなた! さっさと結婚してやることをさっさと済ませましょう。そうでないと、わたくしは夜も眠れませんわ!」


 全く意味が分からないので、その理由も聞いたのだが「見張らないといけないからですわ!」と、さらに意味不明なことを力強く答えただけだった。


「あなた。その話は終わりにして下さい」


 なんて言って、自分が話せと言ったくせに強制的にこの話題を終了させられた。


「それで、あなたはいったい何を作っているのですか?」


「んーと、実はねー……」


 こうして二人だけの夜が過ぎていった。


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