1-39 発言と花畑★
いつも読んで頂きありがとうございます。
はぐれ勇者様のご好意で挿絵を頂きました。
すごく可愛くて主人公が羨ましくなります(笑)
あとがきに貼らせて頂きますので是非ご覧下さい。
エルが俺の嫁になることが決まった。
今後、色々な問題も出そうだが、対価の価値を考えれば全てを受け止めてもまだ余りある。
しかし、クリスとまだ結婚していないのに、エルと先に結婚をするわけにはいかない。
そのことをハッキリ言っておかないと、今後クリスにお願いを為難くなる。
「ギルド長。俺はまだクリスとも結婚してないので、ギルド長とはその後でいいですか?」
「ん? まだ結婚してなかったのかい!? それなのに公爵家の令嬢にエロいことしまくってるとは……。あんたもなかなかやるねえ」
「し、しまくってなんていないですよ! ちょ、ちょっとだけです」
言ってから気がついたのだが、これは明らかに失言だった。
「あなた! あれでまだちょっとなのですか!? では、これからもっと凄いことしてくださるということですか? 隠していたなんてズルいですわ。あなた、早速今夜からお願いします」
「ち、違うよ、クリス。まだメインをしていないと言う意味で、今は前菜――、そう、オードブルみたいなもんだってことだよ!」
俺にそんな高度な技などあるはずがない。
嬉々としてお願いをしてくるクリスに、必死に言い訳をしたが、経験の浅いクリスにその違いなど分かるはずもない。そしてそこに性格の悪いエルが便乗してきた。
「へー。それなら、あたしも参加資格があるわけだ。嬢ちゃんにはしてあげて、あたしにはしてくれないなんてことないだろ? あたしも久々にオードブルを味わいたいもんだねぇ。なんならあたしにはメインを味わわせてくれてもいいんだぞ?」
明らかにからかっている様子なのが分かる。
すでに経験者――自称、どんなエロも受け止められるというエルは、俺はエロいが経験は浅く恥ずかしがり屋さんのシャイでウブな少年だと見抜いたようだ。
「そ、それは……」と、またもや言い淀んでしまい、うまく切り返せる言葉が見つからない。
早くしないと、クリスがまた余計な事を言い出してしまう。
それなら、もういっそ全てをクリス任せにしよう。
少なくとも俺が望んでエロエロするわけではない、と言い切ることも可能になる。
「それは……オ、オードブルだけですけど、クリスが望むなら俺は構いません。それにアルヴァとベアトリスの意見もクリスなら尊重してくれますし」
これで切り抜けられるはずだ。
しかも、クリスへの株も上がり、姉妹への配慮も怠っていないと心象づけられる。
まあ、百戦錬磨のエルには俺の浅知恵などお見通しのようだが、建前は重要である。
「んふふー。ということは、やっぱりその姉妹の嬢ちゃんたちにもイヤラシイ事をしてるわけだ、結構結構」
今更バレても関係はない。
開き直りスキルのレベルもだいぶ上がってきているのだ。
そんな事を言われた姉妹の反応だが、ベアトリスは「えへへー」となぜか嬉しそうにしているが、アルヴァは心外だという表情だった。そして、俺に発言の許可を求めてきた。
「ご主人様。奴隷という身分で無礼なのは重々承知なのですが、少しだけ発言しても宜しいですか?」
相変わらずのアルヴァだったが、それでも自ら発言をしようとするようになったので少しは成長したようだ。
「アルヴァ。気にしないで言いたいことがあるときは、好きに発言していいんだよ。俺はアルヴァを奴隷だとは思ってないからね」
「ご主人様。私たちは本当はいつまでもご主人様の忠実な奴隷でいたいのです。ですから、そのような事は出来ません」
姉妹には何度となく解放してあげると言っている。二人とも、もう捨てられるとは考えていないが、解放されると『自分たちを大事にしてくれる主人に買われた』という幸運が逃げてしまいそうで、少なくとも俺に恩を返すまでは奴隷のままでいたい、という理由で拒否されている。
フローラに関しては、まだ幼いので俺の庇護下にしておいた方が安全だろうということで、そのままにしてある。俺の奴隷としておけば、人さらいにあって売られる心配はない。言い方は悪いがフローラは俺名義になっているので、勝手に売って名義変更など出来ないからだ。
本人がいいと言うなら、いずれフローラも解放して、大人になるまでは俺の養子にしようと考えている。【おにいちゃん】という地位は惜しいが、【パパ】もアリだから問題はない。
「ご主人様は私たちを解放したいと望んでいるのは分かっておりますが、妹も解放して欲しいなどと微塵も考えておりません」
ベアトリスも姉の言葉に「うんうん」と頷いて同意していた。そして、エルの方を向き「ギルド長様。奴隷の私が話しかける無礼をお許しください」と、下品なエルになどする必要はないのに前置きとして失礼を詫びた。
正直、このあとの発言内容にはあまり良い予感はしないのだが、いまさら発言を止めることは出来ない。
俺は神妙な面持ちになりアルヴァがどんな発言をしても動じないように身構えた。
「ギルド長様はご主人様が私たちにイヤラシイ事をされていると、仰られましたが、そのような事はされておりません」
「――は? いや、毎日してるのだろ? 今そういう話をしてたじゃないか」
さすがに意表を突かれたようで、エルは珍しくちょっと間抜けな表情を見せた。
「いえ、それは私たちの為を想っての修練なのです。しかも、ご主人様はその身を挺してまで私たちの将来の為に毎日何回もご自分の夢と希望を未来の架け橋から飛ばして下さっているのです。ですから、ご主人様がイヤラシイなどということはありませんので、ギルド長様も安心して下さって大丈夫です」
俺は頑張ってまだ無言を貫く。これも精神修行の一環だからだ。
「……う……ぷっ……ぐ、ぐーうぅーたい的には……ど、どんな……しゅぅーれぇん…………だぁい?」
こんなに笑いを我慢してまで分かりきった事を聞こうとしているエルの気持ちは分からなくはない。
――が、すでに顔を下へ向けて机の上に置いた拳をプルプル震わせているので言う必要はない。 俺としてもホントは死にたいほど恥ずかしい。
アルヴァは満面の笑みを浮かべ俺の優しさを話そうとしたので、そろそろ限界の俺は冷静に止めた。
「はい! まずは、ご主人様のおカラダを……『あーいーてんきだ! よし、みんな早く帰ろう!』」
不自然なくこの話題を終わらせてこの場を去ろうとする俺の見事な機転が功を奏してアルヴァの話が止まった。
間に合って良かった……と、一瞬安堵しかけたのだが、俺の華麗なる状況の切り替えも「突然帰るなんて、エル様に失礼ですわ!」という空気を読むなどという高等テクニックを使えないクリスによってぶち壊しになった。
結局、クリスは得意げに俺がいつもクリスと姉妹に何をされて何をしているかを語り、アルヴァは満足げに色々なことを丁寧に補足して、ベアトリスはエルと一緒に笑いを必死に堪えていた。
このまま転移で日本に帰れないかと考えるほどの羞恥には流石に耐え切れそうもなかったが、笑いを噛み殺しながらもエルは俺の様子を不憫に思ってくれたのか、やっと話題を変えてくれた。
とりあえずクリスと共にエルも婚約者ということになったが、結婚後はクリスが第一夫人でエルが第二夫人ということになった。エルは姉妹の後ろ、つまり第四夫人でも良いと言ったのだが、姉妹にそんなのが通じるわけもなく結局こういう形で落ち着いた。
妻と妾にはそれほど明確な線引きはないそうだ。書類を司法機関、この街なら領主に提出して婚姻をスキルで契約すれば晴れて夫婦ということになるのだが、庶民はわざわざそこまでしないそうだ。後継の問題が起こりそうな貴族や大商人には必要だが、一般的には妻と言えば妻、妾と言えば妾といった程度のことらしい。そして、重婚には上限がないことが分かった。ただ、結婚すると相手に責任を取らなくてはならないので女性は何番目になろうと妻を望み、男は妾のままを希望するという問題も発生するらしい。
ここまでが、俺が命懸けで知り得た情報である。本当は何の為に知りたいのかバレない様に、ただの興味本位だという態度を貫くのは非常に困難だったと言わざるを得ないだろう。
やっと話が終わり帰れると思ったのだが、エルが見送ると言い出した。
何らかの嫌がらせをして楽しもうと考えているとしか思えない。
あからさまに嫌そうな顔を見せて無言の拒否を示したのだが、エルは嘘くさい悲しい笑顔を作り婚約者の権限を発動させて旦那を見送るのは当然のことだと主張した。
それに続きクリスが腕を組んで来たので、また面倒事になるのはゴメンだと思いやんわりと断って離れようとしたが、そうは問屋が卸さないようだ。
「あなた! エル様がいるから、もう私がいらなくなってしまったのですか!?」
人間、何事も諦めが肝心だ。自業自得でもある。
階段が狭いから歩きにくいと思っただけだと言い訳をしてしっかり腕を組んで1階へ下りた。
分かってはいたが、そこには当然のようにアウルとウスターシュがいた。
忙しい時間帯のハズなのにドリアーヌのカウンターの前に座っておしゃべりをしていたが、俺に気付くと『待っていたんですよ』と言わんばかりの表情になった。
今更、お客との打ち合わせはどうしたのか、などと尋ねるのは愚問である。
「アウル、お待たせ。忙しい時間帯なのにドリアーヌの邪魔したらダメだよ」
「いえ、彼女のカウンターには誰も来なくてお暇そうにしていたので」
ああ、なるほど。先ほどの俺の態度でドリアーヌと俺は親密な関係と思われたわけだ。以前の騒ぎを知っている奴もいるだろうから、ギルド内でむちゃぶりを発揮する俺たちとは関わり合わない様にドリアーヌを避けたのか。
それにしても、俺と目を合わそうとする奴がいない。むちゃぶりを発揮したのはクリスたちで俺は何もしていないはずなのに、完全に俺だけが悪者の様に感じるのはなぜだろう?
エルとの結婚話をこんな衆人環視のなかで話す度胸はないので、あとで話があるとだけ伝えた。
そしてドリアーヌから魔珠の清算金を受け取りギルドから出ようと歩き出した。
スーっと音もなく、クリスと腕を繋いでいる手と反対側にエルが近づいた。
隠密系のスキルでも使ったのか、間近に来るまで気づかなかった。
そして何を考えてるのか俺と腕を組んだ。
「ギ、ギルド長! な、何考えてるんですか!?」
「ん? 別にいいだろ? 婚約者なんだから。それとも第一夫人と第二夫人の扱いは別々で差別をするのかい?」
やられた。
何かするとは思ったが、まさかこんなダイレクトなアプローチをしてくるとは!
両手に花。いや、周りを姉妹とフローラが囲んでいるので花畑だ。
正直、嬉しい。しかし、そういう問題ではない。
「さ、差別なんてしないですけど、ギルド長はまだ仕事中なんですよ!」
「嬢ちゃんが言っただろ? あんたを大事にして欲しいって。だから、あたしなりに大事にしてるんじゃないか」
クリスは満足げに「さすがですわ、エル様」なんて褒めているが、アウルたちが驚きの表情を見せているだけならいいが、周辺からは殺気しか感じない。
危険感知のアラームは鳴っているが、そんなものがなくても分かる。
もし、エルがいたずらでやっているだけなら、仕事中だという事を盾に取って離そうと思ったのだが、エルは何気に嬉しそうに見える。
佐藤がいなくなって10年。
周りには多少の羨望の目はあっても声をかけてくるような男などおらず、ずっと畏敬の対象としか見られていない。
娘とも離れて暮らしているし、もしかしたらエルはずっと寂しかったのかもしれない。
そうと分かれば俺も男である。
俺は覚悟を決めて嫉妬と殺意にまみれた冒険者に囲まれた血塗られた道を歩き出した。




