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1-38 返事と誠意

 エルは俺の助力を求める為に結婚を望んでいる。

 その対価は己のカラダのみ。

 しかし、そのカラダはエロスの塊である至高のモノだ。正直、俺の命程度では安すぎる。

 この買い手が一方的に大儲けの話だが、俺の独断で決められるものではない。


 クリスはなんだかんだ言っても、俺には甘い。だから勝手に決めても拒絶しないとは思っている。ただこの話は、引き受けると同時にクリスたちを危険に巻き込むことを示唆している。


 俺の仲間になった者は成長速度が早いとエルは知っているのだから、恐らくそれを含んでの頼みでもあるのだろう。


「ギルド長。返事をする前に、確認したいことが幾つかあるのですが……」


「なんだ? あたしのカラダなら後日いくらでも確認させてやるぞ?」


 ダメだ。エルの下品さは一生治りそうもない。


「そうではなくてですね! もし、その異変が起きたらクリスたちも当然巻き込まれるんですよね? 俺としてはそれは避けたいのですが」


 俺自身が戦いに臨むのは構わない。何と戦うかは知らないが、チート能力という反則技を持ってこの世界に来ているのはこの為なのではないかと思ったからだ。そこに、クリスたちを巻き込むのは不本意だった。もちろん、争いごとなんかに携わらずに、みんなで楽しく過ごせれば良いに決まっている。もし、世界中に異変が起きるのなら、俺が先頭に立って平和を取り戻せばいい。


 俺はそう思ったのだが、エルは首を横に振ると似合わない神妙な面持ちを見せた。


「それは無理だろうな。好む好まざるなどという問題ではなく、自分の命を守るためにも彼女たちは戦うしかない。あんたがあたしと結婚することで変わることがあるとすれば、その立ち位置ぐらいだろう」


「念の為に聞きますけど、それは他国を侵略するとかそういう話じゃないですよね?」


「それはない。その内容は国家機密だから詳しいことは話してやれんが、もし、その異変が起こるとしてもそれがいつかも分からんのだから、万が一にでもそんな噂が市井に広まって、余計な不安を与えることは絶対にさけねばならん。だから、お前さんはもしも起こったら……程度に考えていてくれればいい」


 それならば、エルに協力するのは吝かではない。なにしろ、対価は至宝とも言えるカラダだ。

 しかし、気になることはある。


「それならいいんですけど……ギルド長はいいんですか?」


「ん? 何がだ?」


「だから、その為に好きでもない男と結婚するなんて。なんか自己犠牲みたいで嫌なんですけど」


 するとエルはマジマジと俺の顔を見つめて不思議な生き物を見ているような表情になった。

 そして「ぷっ」と吹き出すと大笑いを始めた。


「あーはっはっは……あ、あんたかわいいねー、ホントに。これだけ重大な話をしているのに愛や恋の方が重要なんてさ」


「お、俺にはそっちの方が大事なんですから仕方ないじゃないですか!」


 思わず赤面しながらも叫んでしまったが、ここは政略結婚など当たり前の世界なんだろうし、愛や恋、年齢すら考慮に値しないことなのかもしれない。


「そうかそうか、うんうん。まあ、愛しているかと聞かれりゃあ、もうそんなことが言える年じゃないと答えるしかないが、あたしはあんたのこと好きだぞ? 特にくだらないことに熱中してるところとかな」


「くだらないって……下着とかドレスとかですか?」


「まあな。方向性は違うがゴンジュウロウも、年中くだらん物を作って喜んでたからな。あんたもどうせ『それが男の浪曼だ』とか言うんだろ? 好きだぞ、そういうの」

 

「…………」


 だって、それが男の浪漫なんだもん。


「でも、ギルド長と結婚するのは、佐藤さんが気を悪くするかと……」


 二度と会えないとはいえ自分の嫁が知り合いと結婚するなんて、嫌だろうと思ったのだが、エルはその意見を真っ向から否定した。


「はっ! なに言ってんだい。確かにまだ生きてんだろうけど、あたしにとっちゃ死んでるのと変わらんじゃないか。それに、ゴンジュウロウが世界最強なんて有名人だったせいで、あたしは再婚も出来ずにこの年になっちまったんだぞ? 残した家族を面倒みてくれるあんたにあいつは感謝こそすれ、文句を言われる筋合いなんかない!」


 ――ごもっともです。


「それにあんたはあたしの事を何も聞かされてなかったんだろ? ならいいじゃないか、黙っとけば。お互い知らずに出会って年齢差はあるが結婚した。ただそれだけだろ!」


 うわー……マジで怒ってる。

 

 いつもあんな調子だから気付かなかったが、佐藤には言いたい事が山ほどあって鬱憤が溜まっていたのだろう。


 いくら本人の希望とはいえ佐藤への罪悪感はあった。

 しかし、エルの憤慨している姿を見て、それは完全に無くなってしまった。


 もし佐藤が生きていれば、まだ自由に冒険の旅へ出かけていただろうし、こんな事に悩む必要もなかった。お金には苦労しなかったみたいだが、子育ても大変だったろうし、娘が父親のように世界最強を目指すと言って面倒を掛けることもなかった。


 もう、佐藤を庇いようもない状態のなか、エルは先ほどの返事を求めた。


「それで、もう聞きたいことは終わりかい? なら返事を聞かせてくれないか」


 俺の返事は既に決まっている。なぜなら断る理由が全くないからだ。

 仮に断ったとしても、俺には失うものはないが、得られないモノがたくさんある。


 例えば、エルのカラダとか他には……まあ、イロイロだ。


「クリス。お前はギルド長の話をどう思う?」


 そうは言っても俺はクリスが大事である。ちゃんと確認を取られば、あとが怖いということもある。


「あなたが良いのであればわたくしは構いません。わたくしとて貴族の一員ですわ。そのような大事が起こったときには役に立ちたいですから。ただ……」


 クリスはエルの方に向き直りエルの気持ちを確かめる為に話しかけた。


「エル様にとってゴンジュウロウ様は大切なお方です。ですから忘れることなど出来ないとは思います。ですが、結婚されるのであれば、ヨウスケを大事にして欲しいのです」


「嬢ちゃんはそれでいいのかい? あたしだって年も弁えずこんな頼み事をしてるんだから、大事にするさ」


「それならばわたくしは結構ですわ」


 反対はしないだろうとは思っていたが、拍子抜けするほどあっさり了承したクリスだったが、むしろここからが本番だった。


「それで、エル様は夜の方はどうされるのですか?」


「夜の方? ああ、それかい。まあ、あたしは昼間でもいいぞ。もし、嬢ちゃんがそれも嫌ならあたしは我慢するしかないが……」


「いえ、ウチは何をするのもみんな一緒が基本ですわ。いつも、わたくしとこの姉妹と一緒に、ということになります。それだけはご理解して下さい」


 言うと思った。

 クリスが余計な事を言わないなんて有り得ないのだから。


「は? みんな一緒?」


 エルはそう呟いたあと、まさに爆笑と言える大笑いを始め、その笑いは暫く止まなかった。

 いつまで笑ってるのだろうと思っていると、笑い過ぎてむせ返っていた。

 やっと話が出来るぐらいにまで回復すると、いつも通りの下品な笑いを浮かべた。


「げほっげほっ……ハアハア……笑いすぎて死ぬかと思ったぞ。ん、あたしはそれでいいよ。なんか楽しそうだしな」


 まさかの連携プレイへの参加表明だった。

 俺は夢が叶い有頂天になったが、ここで満足するほど小さい男ではない。

 まだ俺の【ハー】なんとかには、耳の尖った女の子(エルフ娘)羽の生えた小さな女性(妖精さん)もいないのだから。

 

「しかし、あたしの新しい旦那様は想像以上のエロだな。この前、下であんたの話が飛び交ってたのはそういう理由か」


 あの時もクリスが余計なことを言ったせいなのだが、最近は慣れもあって特に驚いたり慌てることは無くなった。ほぼ諦めているので精神メンタル修業と最近では考えている。


 それに今までの人生でモテたことはないので悪い気はしていない。クリスや姉妹ほどの美女に愛されているのだから、このぐらいの羞恥プレイなら甘受するべきである。先ほどの騒ぎは俺の悪ふざけが過ぎただけなのだから、ほんのちょびっと自重すれば、今後は嫉妬の眼差しの集中砲火程度で済むだろう。


「あはは。まあ、今日はちょっと悪乗りをしてしまって絡まれましたけどね。そういえば、さっきの男は有名なんですか? なんか自分のことを知らないことに怒ってたみたいですけど?」


「ああ、まあな。中堅どころといった程度だが、この街は大して大きくもないしな。だから、あいつはそれなりに有名なのさ。まあ、普段は自分からあんな騒ぎを起こす奴じゃあないんだが、誰かに焚き付けられたんだろ」


「なら悪いことしてしまいましたね。やりすぎちゃった気がしますし」


「騒ぎなんざ日常茶飯事だから気にする必要なんかないさ、怪我も治してやったんだしな。だがまあ、あんなに容赦なく魔法をぶっぱなす奴は普通いないがな」


 荒くれ者の集まる冒険者ギルドでは喧嘩などは珍しくないのだろう。恐らくエルという超高レベルギルド長がいるから誰も本気で騒ぎを起こす気はないといったところか。

 と、いうことは、あれだけ平然と騒ぎを大きくしてしまった俺たちは、悪い意味で有名となってしまったかもしれない。


「じゃあ、ギルド長が辞めちゃったら騒ぎを抑えられなくて、問題になったりするんじゃないですか?」


「いいや、その為に罰金が高いんだ。払えなかったら冒険者資格剥奪のうえに奴隷堕ちもありえるからな。だから普段は殴り合い程度だ。あたしがいなくても問題はないよ」


 聞けば聞くほど俺たちは非常識だったようだ。

 まあ、罰金は払ったのだし、今後は気をつければ、今日のことなどそのうち皆の記憶から薄れていくだろうと思っていた。


 しかし、その考えは甘く、後日知ったのだが俺たちの悪名は知れ渡ってしまっていた。



「ところで、あんたの嫁さんからは了承を得られたんだが、肝心のあんたからの返事はまだのような気がするんだが?」


 全ての問題がクリアになったのだから、返事はもちろんYESだ。

 ――ひとつ条件は付けるが。


「もちろん、受け入れますよ。ただし、ひとつ条件があります」


「あたしのカラダだけじゃ足りないってことだな。年増のか弱いあたしにどんな無体なことをさせようってんだ? エロならどんなことでも受け入れてやると言ってんだろ?」


 ホントに口の減らない人だな。


「もう、ギルド長の下品なところは諦めました」


 美熟女が下品……これは、ギャップ萌えというカテゴリーに分類することで、脳内変換により興奮を呼び起こす、という新スキルを開発することにした。


「ですが、その口調は残念すぎなんです! 美女なら美女らしい話し方をして下さい。それが無理なら、乱暴な話し方はともかく、せめておっさん臭い話し方だけでも控えてください」


 誰もが思っていることだと思ったが、当の本人は心外だと言わんばかりの顔になった。


「そうか? 普通に喋ってるつもりなんだが……。まあ、大事な旦那様の言うことだからな。いっちょ、頑張って女らしく喋ってみるか」


「まったく、直ってませんけど!」


「ん、これからだ、これから。いや……、これからですわ、あなた」


 おかしい。全く似合わない。

 俺の予想では『キュン』クラスにはなると思ったのだが、どちらかと言えば『やめてほしい』という感じだ。


「それで、あたしの新しい旦那様はご満足いただけましたか? ――ああ、そうですね。まだ夜のご奉仕はしておりませんので、エロ旦那様が満足するわけがありませんね」


「……ごめんなさい、ちょっとだけ直してくれればいいですから」


「そうか? 残念だなあ。あたしもあんたに好かれようと頑張ったのにな」


 うそだ! そのニヤケヅラからは全く誠意を感じないからね!




いつも読んで頂きありがとうございます。


短編を書いてみたのでお暇な時にでも

読んで頂ければ嬉しいです。


『もし勇者として異世界を救いに行くとき一つだけ好きなものを選べるとしたら何にする?』

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