1-36 美人で下品
2階へ上がるとギルド長室の扉が開いたままになっていた。
俺たちがすぐ来ると分かっているので、ノックをされてわざわざ返事をするのがメンドクサイと思ったのだろう。
開かれた扉の中へそのまま入り、自分の椅子にふんぞり返って座っているエルに話しかけた。
「ギルド長。前から言おうと思っていたのですが……」
「ん? なんだい? 愛の告白ならいつでも受け付けてるぞ。カラダだけでもいいがな」
「はぁぁぁぁ……」
俺は思わずため息が出た。
「仕方がないだろ、ゴンジュウロウが帰っちまって10年以上もヤる相手がいないんだから。で、何を言おうとしたんだ?」
「その話し方やその座り方……ですよ」
話し方は言うに及ばず座り方も、ただのおっさんにしか見えない。
そして下品だと言いたかったが、とりあえず我慢した。
「せっかく美人なんですから、なんとかならないんですか?」
「おや、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。まあ、あたしみたいな年増なんざ誰も相手になんかしないから関係ないさね」
「いや、容姿だけなら間違いなく美女ですよ」
エルは俺が今まで出会った女性の中でも5本指に入る美女だ。
もちろん、残りの4本はクリスとアルヴァとベアトリスとフローラである。
しかし、特筆すべきはエルの円熟したカラダ……ハッキリ言ってしまおう、エロスだ!
エルのカラダから漂うこのエロスは若いクリスたちでは敵わない。
先ほど、騒ぎの中にエルが登場した際、男どもからは驚きや畏れ以外にも羨望や欲望の眼差しが混じっていた。俺もこのカラダを凝視していたからよく分かっている。
「容姿? 20年前ならともかく、今はあんたぐらいしかあたしのカラダに興味ある男なんざいないぞ」
いるいる、いますよ! 世の中、どんだけ熟女好きがいると思ってるんですか!
と、俺の趣味とかは関係なく、声を大にしてマニアの気持ちを代弁してあげたい。
「充分魅力的ですよ。だから、そんなギルド長にプレゼントがあります」
「お? 熱い夜でもくれるのかい? しばらくヤってないから自信はないが」
なぜこんなにとことんまで下品なんだ……。
「まあ、あたしも女だ。餓えるほどじゃないがチャンスがあるならヤりたいが、あたしのレベルと『最強のクマゴン』の元連れじゃあな……。だから誰も相手なんざしてくれないまま、この年になっちまった」
下品な美女は世界最強の男のパートナーにしかなれないという決まりでもあるのかと思ったが、出来る女の宿命らしい。
いくら美人でも高レベルのエルにアタック出来るほど勇気のある男など少ないということだろう。
そして、最強の男の元嫁でしかも下品。
完全に女として終わったと言える。
しかし、手立てがないわけではない。
そう、俺という存在がまだ残っているではないか!
「だから、あんたが相手してくれるならあたしはいつでも脱ぐぞ」
「仕方ないですね。そこまで言うなら僭越ながら俺が……」
そのとき突如、危機感知スキルが働いた。
はっ! 殺気!
まさか、俺のレーダーを掻い潜って来たというのか?
この強力な魔力は魔王クラスか? しかもかなり近い……い、位置は!?
――真後ろだ! しかも3体もいる。
「せ、僭越ながら……お、俺がそんなギルド長のために用意した品があります」
レーダーを確認すると、まだ魔力反応は消えていないが、どうやら魔王は去ったようだ。
しかし、まだ見張られているので迂闊なことは話さない方が良いだろう。
俺はストレージからエルの為に作った品々を出して並べた。
「なんだい、これは? ん? ずいぶんと薄い生地で作られているが、こっちは乳当てだな」
俺がエルに似合うと思う図柄を描き、数種類の乳当てを作ってあげたのだ。
生地は日本から持ち込んだ透けてしまうほど薄い繻子を使い、鋼糸で型を作り、エロスあふれるモノがエロスあふれるように作った名品たちである。
サイズはちゃんと合っているのかと心配になるだろうがそれは問題ない。
俺には鑑定アイが備わっている。
これは鑑定眼スキルとは違うが、日本にいるときから鍛えてある。
具体的には、水着のみや服を着ていない女性モデルがたくさん掲載されている教本を使ってだ。
しかも、その手の教本はご丁寧にスリーサイズが記入されていることが多い。
それらを使い、毎日のように自己鍛錬していれば、自ずと鍛えられる。
そして今や、俺は服の上からでも各サイズが分かるエキスパートだ!
以前、バッチリ鑑定したのでサイズに間違いはない。
大体の大きさで言うと、ベアトリスとアルヴァの中間ぐらいで美熟女にふさわしいサイズだと言える。
ちなみにクリスとベアトリスの乳当ては、生地こそ実用にしているが作り方は同じである。
他意はないのだが、アルヴァ用はデザインは似ているが、鋼糸は使っていない。
「それで、そっちのはなんだい? 乳当てと同じ布みたいだが……随分と小さいな。それに紐がついてるだけだな。紐が輪っかになっているのもあるが?」
「それぞれ同じ色の物がセットですから、分かると思いますが?」
「まさか、下履きか!?」
説明はいらないと思うが説明したいので言わせて頂くと、紐○ンとT○ックである。
「これらを着用して誘惑すれば、ギルド長なら男なんてイチコロですよ」
「見せる相手がいないんだから、意味がないだろ!」
だから、それは俺が……と、危うく言ってしまうところだった。
「それに、こんな小さい布であたしの大事なところを保護できんのかい!? ……まあ、今となっちゃあ生理現象ぐらいしか用途はないがな」
「ギルド長……それだけは言って欲しくなかったです」
「ん? 保護できるのかってことか?」
「――その後ろです!」
保護出来るのかという部分は既に解決策がある。
実はあのメイド服アーマーには重大な欠陥があったのだ。
水に濡れないという事は汗を吸わないということだ。お陰で暑くて暑くて着ていられないほどだった。 鎧に比べれば大した事はないとクリスは言ったが、欠陥であることには変わりがない。
そこで俺は土魔法で簡易更衣室を作り全員の服を脱がせた。
すると、クリスとベアトリスの乳当てだけだが、表面部分の布に擦れた跡が残っているのが見えた。
恐らくこれは結界による弊害だと思われる。下着自体を強化しないとこの問題は解決しない。
そこで下着類にも魔力を付与することにした。魔力付与のみであれば強度が増すだけで吸水性には問題がないことも実験済みだ。
魔力付与は既にお手の物なので、わざわざ下着を脱がす必要もなく、着用している状態のまま上下とも直に触れて魔力を流した。
何故だか分からないが、なかなか集中出来なかったので、明鏡止水、乾坤一擲の精神を発揮した。
おかげで何とか全員の下着強化は出来た。
俺はやればできる子なのだ!
誤解されると困るので補足すると、フローラはお子ちゃま用下履きとシャツだけなので、後ろから触れたから、一線は超えていない。
あとはメイド服アーマーの問題だ。
吸水性のために結界を外すのは意味がない。
ならば、涼しくなるようにすれば良いと考えた。
涼しいと言えばエアコンだろう。
メイド服の内側に涼しい風は送り込む事が出来れば問題は解決するはずだ。
氷魔法と風魔法を合わせる。
あっけないほど簡単に合成魔法と二重魔法のスキルを取得して、涼しい微風が内側に流れるようにした。その程度の小さい魔法であれば覚えたてのスキルでも問題なく出来たので、その場で全ての服の内側に魔法を重ねて付与した。
アウルとベアトリスの驚いた顔は見ものだったが、これで問題なく使えるようになった。
冬場は温風を付与すれば問題ないので、無駄に作ってしまったと思われた予備のメイド服アーマーに付与することにした。最後の1着は春秋用として、そのままにすればオールシーズン使える。
このことを予期して3着ずつ作った俺はさすがとしか言い様がない。
話を戻すとエルの為に作った下着類に手を触れて魔力を流し始めた。
俺が触れた下着をエルが……と、思うと興奮しないでもなかったが、今は見張られているので余計なことを考える余裕はない。
「あんた、もう魔力を付与して留めることができるのか!?」
「はい。まあ、それだけじゃないですけどね。それと、もう1つ……いや、もう3つプレゼントがあります」
俺は全ての下着を魔力で強化して、まだストレージから出していない本命のプレゼントを取り出した。
それは落ち着いた色合いを出している紺色のドレスだ。
すでに夏用、冬用も作ってある。
デザインはクリスのドレスとほぼ同じ細身で、丈は普通にロングドレスになっている。
エルの年を考えると、短いのは流石に体裁が悪いからだ。
「これがメインのプレゼントです。このドレスを着るときは必ずこの下着類を使って下さい。普通の下着だと結界のせいで破れてしまうと思います。それに、細身のドレスだから、この世界の下着だとラインが出ちゃって格好悪くなりますから」
「じゃあ、このエロい下着は本当にお前さんの世界で使われてるってことか?」
「はい! それが主流です!」
俺が教本で調べた限りでは、皆がこういう下着を着用していたので間違いない。
「それにしても、そっちの世界は豊かだと聞いていたんだが、随分と節約した作りだな」
「それは、エコ……物を大事にする精神に富んだ世界なんです」
『高額なドレスを実験台にして何着も炸裂させたくせに!』という視線を背後から感じるが、それは大いなる野望の為の尊い犠牲なので仕方がなかったのだ。
「まあ、生地は高級そうだから技術的にはこちらとは比べ物にならないという話は本当のようだな。それで、なんで同じドレスが3着……」
そこまで言いかけたエルはドレスが普通ではないことに気がついて目を丸くした。
「はあ!? お前さん、このドレスに何をした!?」
ふふん。さっき無実の俺まで罰金を払わされたけど、エルの驚いた顔が見れてちょっとすっきりした。
「魔力で強化して結界を張り付けました。でもそれだと通気性も吸水性も無くなってしまったので、快適に着れるように、涼しい風が出る夏用と温かい風が出る冬用、それと春秋用のそのままのやつと3種類ご用意しました」
エルは開いた口が塞がらないようだったが、屈指の実力者は立ち直りが早かった。
「あんた、バカだろう?」
「え!? なんでですか!?」
「この才能尋常じゃないぞ? ゴンジュウロウだって魔法具を作るのには苦心してたんだからな」
佐藤はどう見てもパワーファイター型だから、こういう細かいことは苦手だったのだろう。
それでも、空間魔法の魔法具を作ったのだから大したものだと言える。
「その才能をこんな事に使う奴はあんただけだ! これがどれだけ凄いことか分かってのか? まったくお前さんのエロへの執念には言葉が出んよ」
「今、散々言いましたよね! ベアトリスとアウルにも言われましたよ。……せっかくギルド長の為に作ったのに」
「ああ、それは嬉しいさね。あんたがあたしのことを愛してる事も分かったから」
エルヴィーラぁぁぁ! 事実に近いが事実じゃない!
「な、何を言ってるんですか、ギルド長! ち、違いますよ!」
俺は慌てて否定してからクリスの方へ顔を向けた。
「クリス、クリス。違うからね。ホント、違うからね」
カラダだけなら魔王程度にしかならないようだが、愛があるなどと思われたら何に変身してしまうか分からない。しかし、よく見るとエルは完全にニヤけていて、俺の慌てぶりを面白がっている。
幸運なことにクリスもそれに気が付いたようで不問にしてくれた。
危うく冒険の旅へ出る前に、日本へ強制送還されるところだった。
「ひ、ひどいですよ、ギルド長!」
「まあ、仲が良くていいことじゃないか。で、こんなプレゼントをくれるって事は、そろそろこの街を出るってことだな」
やっと、本題に入ることが出来た。




