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1-35 罰金で被害者

皆様のお陰で累計PVが150000を超えることが出来ました。

読んで頂いた皆様へお礼申し上げます。


ブックマーク登録して頂いた方々、評価を付けて頂いた方々

重ねてお礼申し上げます。


 街の入口にいる衛兵の妬む目に満足しながら冒険者ギルドへ向かった。

 途中でアウルに「趣味が悪いですよ」と言われたが、以前あれだけビビらされたので当然の報復だと思っている。


 薄いグリーンのボディーラインがバッチリ分かるドレスを着た美女クリス。

 美人姉妹であるアルヴァは黒、ベアトリスは赤、けもみみ美幼女のフローラは青。デザインはお揃いだが色違いの可愛いメイド服を着ている。

 そして、そんな彼女たちを率いるショボイ俺。


 クリスがぴったりと寄り添った状態でギルドへ踏み込んだ。

 やはりこの時間は冒険者が大勢集まっている。数人の冒険者が俺たちに気付き驚きの表情を見せた。

 そして波紋はあっという間に広がり、全ての視線は俺に集まった。


 だが、俺はそんなのは気にしない風を装い、堂々とカウンターの方へ向かい歩いて行った。

 しかし、今回は障害物が現れた。バカみたいにでかい斧を背中に担いだ身長2mほどの巨漢が、俺の行く手を妨げたのだ。


「おい、若いの。いいご身分じゃねーか。ここはお前みたいのが来る場所じゃねーぞ」


 キター! まさに異世界ファンタジーの王道とも言えるテンプレである。

 日本にいたときなら速攻逃げるが、今日の俺はこんな巨漢に恐れる必要はない。

 敢えて言おう、所詮はザコであると。

 俺は余裕の表情を見せて、振り向いた。

 

 さあ、ウスターシュ様。出番です。


「ああ! ヨウスケ様。申し訳ないのですが急用を思い出しましたので、先に帰らせていただきます。明日また同じ時間にお待ちしております」


 ウスターシュは、明らかに嘘だと分かることを真顔で言うと「では、ごきげんよう」と、さっさとギルドから出て行ってしまった。


「ヨウスケさん、ウチの使用人が失礼しました。しかし、私もお客との打ち合わせがありますのでお先に失礼します、義弟おとうと殿」


 そんな嘘を平然と言うアウルも踵を返すと笑いを漏らしながらギルドから出ていった。


 しかし、俺は知っている。二人とも帰らずに隠れてこちらを覗いていることを!

 レーダーにはハッキリ二人ともギルドの入口にいることが映し出されているからだ。


「おい! 何とか言ったらどうなんだ!? お仲間が逃げてビビって声も出なくなってんのか!?」


 正直に言えば俺はビビっている。こいつはLv38で俺はLv42だからビビる必要はないのだが、周りがヤバイ。

 クリスは完全にヤる気になってしまっている。しかも、姉妹のカラダから発する魔力が増大していき、魔法をぶちかます気満々なのが伝わって来る。 

 フローラが怖がっていないかと心配になったが、魔獣と対峙できるのだから怖がるはずもない。それどころか、「ご主人様、もう攻撃してもいいですか?」と、目で訴えてきている。


 俺は彼女たちがこの建物を破壊しませんように、それが無理ならせめて相手を殺してしまわないように、と願う気持ちでいっぱいなのだ。

 

 自ら蒔いた種なのだが、収穫が難しすぎる!

 ここは穏便に済ますしかない。


「あのー……すいません。ちょっといいですか?」


「あー!? なんだー? 女を譲ってくれるって話なら、お前を無事に帰してやってもいいぞ?」


 本気なのか冗談なのか分からないが、ここはギルド内なのだから、まあ、クリスたちの前で恥をかかせて俺を笑い者にしようってだけだろう。


「いえ、そうじゃなくて、邪魔だからどいてくれませんか?」


 巨漢は顔色を変え、見守る観客は不思議なことに息を飲んだ。


「な、なんだとー!? 俺を誰だか知らねーようだな。その身体からだに分からせてやってもいいんだぞ?」


 まずい。クリスが限界だ。今にも巨漢を斬り殺してしまいそうだ。


「いえ、結構です。それで、早くどいてくれませんか? 妻がもうこれ以上は我慢できない様子なので。あ、知らなくてすいません」


 どこからか「あいつ死んだな」と聞こえたが、確かにその通り。本当に早くしないと巨漢が死んでしまう。

 なのに、「妻が我慢できないって、あいつ確か風呂場で……」とか「妻とメイドを同時に……」などと俺のことを話す声が聞こえてくる。今は俺の話などしている場合ではないのに。


 すると、巨漢の男はなぜか顔が真っ赤になるほど怒り出して、拳を振り上げた。

 俺は自分の悪ふざけが過ぎたと反省して、穏便に済まそうとしたのだから、観客が何か余計な事を言って怒らせたに違いない。


 そんな事を考えている間に、振り上げられた拳が俺に迫ってきた。

 やばい、なんとかしなければ……


 しかし、クリスと腕を組んでいるので避ける事が出来ない。空間魔法の結界をこんな場所で見せるわけにもいかない。

 どうしようか悩んでいると、腕から物凄く柔らかいモノが当たっている感触が消えた。

 クリスが先に動いてしまったのだ。


 「お願いします、剣は使わないでー!」と、心から願った。

 その甲斐あってか、クリスは巨漢の腹を目がけて殴りつけたので、ホッとした。

 ――が、そのあとはいただけなかった。


 クリスは雷魔法を使っていたらしく、巨漢はよろめきながら悲鳴をあげた。アルヴァは容赦なく蛇状に火魔法を飛ばして炎で相手を巻き上げると、ベアトリスがエア弾を撃ち込み巨漢を吹っ飛ばした。飛ばされた巨漢の後方にはなぜか土障壁があり、そこへ激突。土障壁からずれ落ちるようにして床に倒れた巨漢はピクピクと痙攣しているがまだ生きている。「良かったー」と、思ったのも束の間、クリスは「しぶといですわね」と、言うなり剣を抜き巨漢に走り寄ると、その剣を首筋へと走らせた。


「クリス、だめー!」


 俺は焦って即座に叫んだ。

 おかげで間一髪で間に合ったのだが、クリスは不満そうに「なぜですか、あなた?」と聞いてきた。

 姉妹もフローラも「なぜ!?」と、表示されているかのような顔をしている。


「ご主人様、獲物は確実にトドメを刺さないと危険だと思います」


 ベアトリス……。これ獲物じゃないからね!

 しかも、今の手順はクマを狩るときと同じだったよね?


「ご主人様に失礼な真似をした魔獣には、ちゃんとトドメを刺すべきだと私も思います」


 アルヴァ……、その気持ちは嬉しいけど、魔獣じゃないから!


「ご主人様。せっかく倒したのに売らないんですか? トドメを刺さないと売りに行けなくなっちゃいますよ」


 ――うん、そうだね! フローラが間違ったことを言うはずない。それに、トドメを刺さないとストレージにも仕舞えないからね。


「あ、クリス。止めちゃってごめんね。やっぱり、トドメ刺しといて」


 すると、呆然と見守っていた観衆の中から巨漢の仲間と思われる男たちが「カシラー!」と、叫びながら走り寄ってきた。

 「てめー、ウチのカシラになんてことしてくれるんだー!」と言って襲いかかって来ると思ったのだが、クリスの迫力に圧されたのか必死で止めようとしてきた。


「すいません、すいません。勘弁して下さい」


「カシラはちょっと短気なところがあるけど、悪い人ではないんです」

 

 巨漢の仲間たちは謝罪や弁明をしているが、クリスはそんな言葉ではブレない。


「勘弁する理由がありませんわ! どきなさい。夫から頼まれたのに、早くトドメを刺さないでわたくしが夫に嫌われてしまったらどうしてくれるのですか?」


 そんな可愛いことを言うクリスに、思わず胸が『キュン』としてしまった。


 さすがのクリスでも、すがりつくように謝る連中を斬り捨てて、トドメを刺しに行くことは出来ず、そうこうしているうちに、ぬしが現れた。

 

「なんだい、騒がしいね」


 万を辞したようなタイミングでエルが大物ぶって登場した。

 エルが俺の気配に気づいていないわけがない。それに、俺は見ていたから知っているが、ドリアーヌが血相を変えて2階へ上がって行ったのだから事情を知らないわけもない。間違いなく一番いいところで登場する気だったのだと分かる。


 屈指の実力者でもあるギルド長の登場に皆が驚きの表情になり畏れの心情を抱いた。


 あ、これを狙ったんだな。


「ギルド長、来るのが遅いですよ。危うくこの大きい人殺しちゃうところでしたよ」


「ほぼ死んでるのと変わらんじゃないか。ほれ、とっとと治してやりなよ」


「え!? 俺がですか?」


 なんで俺が……と、思ったのだが、諦めて自慢の光魔法で治療してやった。


「へー、光魔法も使えるようになったんかい……って、それだけかい!」


 俺の魔法の治療など、まだかすり傷程度しか治せない。だから、重症の巨漢にかけても殆ど効果がなかった。


「最近覚えたばかりなんですから、仕方がないじゃないですか。もう、しょうがないですね」


 俺は渋々偽装用鞄から一番安いポーションを1本取り出して振りかけた。

 みるみるうちに……ほどは治らなかったが右腕のやけどがちょっとだけ良くなった。

 1本では身体全体になどかけられる量はないし、効果も安いポーションではこの程度だ。

 俺は満足げにエルを見たが、なぜか不満そうである。観客の俺を見る目は鬼か悪魔の所業を見ているようだ。


 納得がいかない状況だが、このまま死なせてしまうのも面倒だと思い、1本25000円もする高級品を取り出して振りかけてやった。

 結局、全てのやけどと怪我を治すのに4本も使ってしまった。3本振りかけて1本を嫌々だが飲ませてやったのだ。まあ、それだけ重症だったということだ。


「まったく、お前さんたちは……。とっとと罰金払って2階に来な。そっちのデカいのも罰金払うように」


「え!? 罰金!? なんで!? 俺たち何も悪いことしてないですよ!」


 観客は一部始終見ていたのだから穏便に話をしていたのを知っているはずなのに、なぜか俺の発言にドン引きをしている。 


「お前さんたち剣と魔法使っただろ。だから1人金の小判1枚、5人で5枚。そっちのデカいのは殴りかかったから銀の小判1枚だ」


「おかしくないですか!? 俺は被害者ですよ! なんで俺の分も含まれてるんですか!」


「あんたはチームのリーダーなんだからそのぐらい払え」


 そう言うとエルは先に2階へ上がってしまった。

 無性に腹が立ってきたので、元凶であるカシラの怪我が治って安堵している仲間連中に八つ当たりをした。


「お前たちのカシラのせいで余計な出費しちゃっただろ! 今度会うときまでに俺たちの罰金50万円と高級ポーション代10万円、それと安いポーション代2000円払えよな! お金が足りなかったらカシラを奴隷商に売るからな」


 こいつらは罰金のことを知っていて、襲いかかって来なかったのではないかと思うと余計に腹が立った。しかしまあ、やってしまったのだから罰金は仕方がないが、せめてポーション代は払ってもらうつもりだ。ここまで脅せばそれぐらいなら払うだろう。

 これから夏に向かい衣装代がかさむので少しでも回収したい。


 俺の考案した水着を何着も作らなくてはならないのだ。

 実際はどの水着も使用する布の量が少ないので大して高くはないのだが。


 俺の夢の障害になった奴らを睨みつけて、カウンターへ行き罰金を払った。

 その際に貯め込んだ大量の魔珠をこれみよがしに並べてやった。


 もちろんそこはドリアーヌのカウンターで、「騒がして、ごめんね」と、ちゃんと謝ってから計算を頼み、俺たちはエルが待っている2階へ上がった。


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