1-34 連携と仲間
俺には魔法具を作る才能があった。
俺の探究心のお陰でそれが分かった。
これからは、今までみたいな控えめではなく、探究心全開でイロイロ作っていこうと思う。
そんな俺の作った作品に驚いていたアウルは、クリスに近づくとマジマジとドレスアーマーを眺めた。
「お兄様、そんなに見つめられると恥ずかしいですわ」
「いや、別にクリスを見ているわけじゃないから、気にしないでくれ」
「お兄様! 失礼ですわよ! こんな綺麗なドレスに包まれた美女に対して!」
アウルは笑いながらクリスに謝罪をしていたが、目は完全にドレスに向いている。
商人としてというより、子供がスーパーカーを見ているような表情だった。
「もしかしてアウルも欲しい?」
アウルの装備は中堅の冒険者のような革装備だが、作りは安物ではない。
剣はロングソードで素材はダマスカス鋼。かなりの高価な代物である。
さすが、稼ぎが俺とは違う。しかし、そんなアウルでもお金では買えない装備、恐らく高価だからというより、服が鎧より防御力があるという意外性に惹かれているのだろう。
「よろしいのですか!? これは昔使ってた装備なのです。念の為に旅に出ているときはいつも持ち歩いてはいたのですが、商人らしくないので普段は装備してませんでした。ウスターシュという護衛もいますし」
アウルは既に冒険者登録をしているとのことだった。
ランクはD。商人として旅に出る前は、修業を兼ねて冒険者をしていたそうだ。
そして、驚くべきはウスターシュだった。
若い頃は腕利きの冒険者だったらしく、Lv76で冒険者ランクはAであった。
剣ではなく魔法が主体で土魔法Lv9と水魔法Lv8、他にもいろんなスキルを持っていた。
以前に会ったときは、俺の後ろからいろんな音や悲鳴が聞こえていたので、診る余裕がなかったのだ。
15年程前にアームストロング公爵にスカウトされたらしい。肉体的にピークを過ぎたと感じていたウスターシュはちょうど良い機会だと思い冒険者を引退した。
アウルが商人として家を出るとき、一緒について来たのは護衛という意味もあったが自分自身もまた旅に出たいと思っていたからだった。
「それなら、商人風より貴族の若様の服で作ろう。その方が見栄えもいいし似合うから」
美女であるクリスの兄は、マジ物のイケメンだ。これほどの優良物件に地味な服を着させておくのはもったいない。
クリスと姉妹に愛されている俺は、もう自分の容姿を気にする必要がないから気持ちに余裕がある。
言わなくても分かると思うが、俺みたいなフツメンが美女に囲まれているのだから、すでに勝ち組だ。
イケメンが美女に囲まれているのも嫉妬の対象だが、俺みたいなフツメンが美女達に……。
気分は「羨ましいか、このフツメン冒険者どもが!」と、叫びながら冒険者ギルドへ行きたいぐらいである。
「ウスターシュさんも、執事服など、どうですか?」
「いやはや、驚きました……。おお! これは失礼しました。クリス様を引き取って……おほん。クリス様とのご婚約、誠におめでとうございます。それと、躾の行き届いていないクリス様をヨウスケ様の嫁にして頂けることを、アームストロング家の元家臣として心よりお礼申し上げます」
相変わらず失礼なウスターシュだが、アウルは子供の頃から世話になっているせいか、ただ笑っているだけで気分を害した様子には見えない。それだけウスターシュへの信頼も厚いのだろう。実際ウスターシュもわざとそんなことを言っているだけのようで、クリスをずっと心配していた様子が窺えた。
まあ、クリス一人「いつも、ウスターシュは失礼ですわ!」と、プリプリ状態だが。
「しかし、私はアウル様の使用人でしかありませんので、そこまでのことをして頂くわけには……」
「でも、俺にとってはこれから一緒に冒険をする仲間だから遠慮しなくていいですよ。ウスターシュさん」
ウスターシュの装備は彼の身長と同じぐらいである175cmほどの魔法の杖に、いくつかの耐性や状態異常を軽減させる効果が付与されたローブを纏っている。魔法の杖は魔力を上げて威力を増幅させる効果があるようだ。
それらを装備しているウスターシュの姿は、さまになっていて間違いなく似合っている。
しかし、彼自身の容姿は細身で若い頃は確実にモテたと思われる優しげな顔であり、どこかのマンガに出てくるような素敵なロマンスグレーだ。もちろん髭も標準装備されているので、ぜひ執事服を着てもらいたい。
金髪美女の嫁に美少女姉妹とけもみみ美幼女のメイド、貴族のイケメン若様に熟練の執事。
これでだいたいテンプレは揃ったが、俺の立ち位置は微妙だ。
日本人標準身長と脚の長さ。布キレとしか思われなさそうな着物と棒にしか見えないカタナ。
これでは、俺が使用人……いや、ただの荷物運搬用下僕にしか見えないではないか!
しかし、解決策はある。
「クリス。これからはいつも腕を組んで歩かない?」
「もちろん、喜んでいたしますわ! 私、これからはいつも傍にいますわ、あなた」
そしてクリスは満面の笑みを湛えて俺に寄り添い腕を組んできた。
これで少なくとも俺が金髪美女の連れであると分からせることが出来る。
しかも抱きつかれた腕には、とてつもなくでかくて柔らかいモノが常に当たるので一石二鳥というやつだ。
男であるアウルとウスターシュは俺の心情を察知したようだ。
アウルは少し苦笑しただけで何も言わなかったが、ウスターシュには「仲が宜しいようで安堵いたしました」と、白々しく言われた。
あとになって気付いたのだが、これは自分の首を締める発言だった。
クリスはよほど嬉しかったらしく、買い物など俺がどこへ行くのにも必ずついてくるようになり、結果としてこの街にいるあいだは【特殊な技術】を売る繁華街へ行くことが出来なかった。
最近は冒険者ギルドへは行ってないので家から直接転移をしていたが、今日は門をくぐらないと戻るときに怪しまれてしまう可能性がある。
街を出てからしばらく歩き、周辺に人がいないのをレーダーで確認をしてから森の最奥部に転移した。
徒歩なら数日掛かる距離だが、空間魔法をレベル4まで上げたおかげで、転移出来る距離が100kmにまで伸びて、森の最奥部へ一気に飛べる。
今のところ、クリスは雷と氷、アルヴァは火と水、ベアトリスは風と雷、フローラは土の魔法スキルを取得している。
俺は当然それらの魔法と耐性スキルをズルして取得しているうえに、かすり傷に5000円という大金を払って魔法の治療を受けて光魔法スキルも取得した。
光魔法でどんなことが出来るかを教会に10000円寄付して司祭から聞き出す事にも成功した。
門外不出というわけではなく、聞いたら普通に教えてくれたのでお礼に寄付をしただけとも言えるのだが。
スキルレベルとは関係なく資質によって使えないことも多いらしいが、怪我の治療の他には解毒や疾患の医術的な治療、液体や土壌の浄化などが出来る。攻撃としては不死生物へダメージを与えたり、光を収束させてレーザーを発射することも可能だそうだ。
ただ、それらを全部使える光魔法使いなど聞いたことがないと言われたが、既に光玉程度のあかりを出したり、ちょっとした怪我なら治すことが出来るようになっている。あとはどうやって使うのかというコツを学べば、俺なら全部使えるようになるだろう。
なぜなら、概念さえ分かればあとはイメージである。俺はイメージトレーニングを常日頃から欠かしてはいない。そんな俺に出来ない魔法など無いはずである。
俺たちの魔法練習を兼ねた、最近している狩りの方法をアウル達に見せた。
最初の獲物は魔イノシシだった。突進してきたところにフローラの土魔法で段差を作り躓かせる。そして俺の土魔法で魔イノシシの下に穴を作り落とす。アルヴァが穴に水を満たし、俺が土魔法で作った岩でフタをして5分ほど待てば出来上がり。
次は魔ジカだ。馬並にでかいので突進されたら面倒である。だからクリスが稲妻を落とし動きを止める。そのスキにベアトリスがかまいたちを飛ばし脚を攻撃。そして俺が土魔法で穴に落として、アルヴァが穴に水を満たす。ただ、いくら脚を傷つけたとはいえ、飛び出してくる可能性もあるので、水を満たしているあいだ、念の為にフローラと俺で岩を降らせ埋めていく。そして最後は大きい岩でフタをして10分ほどで出来上がり。
「どうりで最近の獲物は無傷な物が多いと思いました」
この華麗な連携プレイに、もっと感動してくれると思ったのだが、アウルはなぜか冷ややかな反応である。
「――ヨウスケ様。見事と言えば見事なのですが……、いささかズルいと言いますか、マジメに狩りをされている方々に申し訳ない気がするのですが」
ウスターシュも困惑の表情を浮かべている。
しまし、いまさらそんなことを気にする必要はない。
「えー? それって今更だと思うよ! だって俺の存在自体がズルなんだから気にしたら負けですよ、ウスターシュさん」
俺の暢気な発言には二人とも苦笑していたが、納得した表情になり俺が非常識な存在だと再確認したようだった。
全員で戦う必要がある魔獣は、もはやこの森には存在しない。
なので、2人組、3人組で対峙して戦うようにした。
スキルレベルも上がっているお陰で、レーダーの探知単位は広く、獲物など見つけたい放題だ。
どんな組み合わせになっても連携が取れるようにパートナーを変えながら、サクサク獲物を仕留めていった。
手が空いている時にはウスターシュが魔法を教えてくれた。
アウルも魔法に興味を持ち一緒に練習を始めている。
小隊編成は5人までしか組めなかったが、すぐに中隊編成を取得したのでパーティーも組めたし、これなら一週間ほどで出発できそうだ。
夕方になり本日の狩り兼修業を終了し、街から1kmほど離れたところに転移した。
昨日までは少し憂鬱だったが、今は冒険者ギルドへ行くのが楽しみである。
なぜなら、俺にはウスターシュ様というランクAの強い味方がいるからだ。
他力本願ではない。
虎の威を借りるいち冒険者だ!
ウスターシュ様は、まだ【暁の新撰組】ではないが、仲間なので何も恥じることなどない。
俺はクリスに腕を組んでもらい、鼻歌を歌いながら街へ向かって歩き出した。




