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1-3 奴隷は家政婦

 俺が可能な限り冷静で、さも「ちょっと興味あるよ」風に尋ねた質問に対し、アウルは拍子抜けするぐらい普通に答えてくれた。


「ただ家事をさせるだけの奴隷なら20万か30万、子供でも同じぐらいですね。愛玩できる年頃の奴隷ですと器量に依りますが…50万から100万ぐらいといったところですか。もちろん上限なんてありませんからもっと高い場合もありますが…。しかし、まあ、どんな奴隷でも買ってしまえば、どう扱おうが基本的には自由です」


 思ったよりは安い。

 生活の面倒も見なくてはいけないのだろうから、そんなものなのかも知れない――が、重要なのはそこではない!


 今、愛玩奴隷って言ったよね!?

 愛玩ってあれだよね!?

 いやいやいや、目的は家政婦なんだから! だから、見るだけ見るだけ。


「手数料払うから紹介してもらえませんか?」


「家ですか? 奴隷ですか?」


「――両方です!!」


 俺は完全に目的を見失っていた。




アウルの衝撃的すぎる話に、これ以上冷静でいられる精神状態ではなかった俺は、今日のところはここまでにして、自分の希望する家の内容を伝えて、翌日待ち合わせをすることにした。

 

 そしてアウルと別れると、次は買い物に出かける。


 衛兵に教えてもらった大衆向けの商店が立ち並ぶ通りで、まず服を見繕った。

 街の人たちが着てるような一般的な服や下着、タオルになりそうなものなどを大量に買う。いつ洗濯ができるようになるかわからない以上は必要だと思ったからだ。


 次に選んだのは、冒険者としての装備である。正直防具は重そうなので、ひ弱な俺がそんなもの着けて動けるとは思えない。防御的にはどの程度効果あるかは分からないが伝説級と言われた漆黒のローブと同じく伝説級のダモクレスがあるのだから、ここはそれらに似合いそうな地厚な革製のジャケットやブーツなどで十分ではないだろうか。購入代金で合計3000円ほど支払い店を出る。


 他にはポーション類も必要だろう。どの種類も非常に高く1本2000円以上だったが命には代えられない。これも必要不可欠と思えるのでかなりの量を購入した。


 他の物はまたアウルに相談するつもりで、さしあたりすぐに必要そうなモノだけ買い集めた。




 翌日、待ち合わせ場所でアウルと落ち合うと、まずは家を見に行く。


 紹介された家の家賃は相場よりかなり高めの半月で15000円ということだった。

 大きいダイニングルームと寛げるリビングがあり、部屋は15畳程のが1部屋と8畳程のが3部屋あった。キッチンも大きめに作られていて、さらに希望した広い風呂が設置されている。

 それなりの広さがある庭もあり、そして井戸まであった。


「ここは裕福な商人が自分の別宅として使っていたようで、必要な家具は全て揃っていますよ」


「家具があるのは助かるけど広すぎない?」


「ヨウスケさんはいずれ他の街に移動されるのでしょう? それなら、家具が揃っていた方がいいと思って探したのですが、希望された風呂付きの家自体が滅多にあるものでは無いのでここしかなかったのです」


 そう聞けば広すぎるのではないかという以外問題はない。

 それに、俺も大抵の日本人の類に漏れず風呂が好きだ。

 この世界にも風呂付きの家がまれにあるということだったので希望していた。


 水玉みずだまという水が出る魔法具があり1個100円ほどでたらい一杯ぐらいしか出ないうえに、沸かすには熱玉と言う焼き石のようなものを使うらしい。ただ、この大きさの風呂を沸かすには何個も必要になり合計2000円はかかると言われた。


 前のあるじは奴隷や使用人を使い庭の井戸から水を汲ませていたそうだが、ストレージを使えば大した苦労もなくこの世界には珍しいお湯のお風呂に入れる。


 一つ一つ部屋を確認したが、言われた通り必要な家具は揃っていてベッドも各部屋にあり、一番広い部屋にはキングサイズのベッドがある。

 恐らくその商人は愛人を囲っていて、使用人に世話をさせていたようだ。


 電気の代わりに光玉が各所に設置されている。

 光玉や熱玉は使い捨てではなく魔法店で魔力を補充してくれるそうだ。

 スキルやレベルにもよるが魔法を使える人は自分で魔力の補充が出来るとのことだった。


 今は完全に空家なので、すぐに住めるそうだ。

 探せば他にも似たような家はあるだろうが、頼めば今日中に掃除などもしてくれるというので、それなら! と、今日からここに住むことにした。


 家が決まれば次は当然アレだ。

 待望の家政婦探しである!


 アウルが紹介してくれる奴隷商の商館はかなりの大きさがあり、所有奴隷の数も多いそうだ。

 期待で胸がいっぱいの俺は、足取りも軽く気がつけば目的地に到着していた。


 重厚そうな扉の前には護衛の冒険者風の男が2名立っていたが、既にアウルとは顔見知りのようで顔パスで通していた。扉を開く冒険者がチラリと俺を見たが、その目はアウルの付き人か売られる奴隷と思われているとしか思えない。


 まあ、所詮は雑魚。こいつらが羨むような美女を買って見せつけてやればいいだけだ。なんの目的で来たかなど頭の片隅にすらなくなっていた俺としては、まずは容姿のことだけを考えている。


 中に入り使用人らしき男に、かなり煌びやかな装飾をされている部屋に案内をされて、主人を呼ぶのでここで待つようにと告げられた。


 さほど時間をおかずしてやってきたのは、イグナシオという奴隷商人だった。 イグナシオは自己紹介が済むと、アウルにお客を連れてきたことの礼を述べていた。




 挨拶もそこそこで、まずはどのような目的でどんな奴隷が希望かと聞かれた。


 口を挟んで、高額のものを買おうと意気込んでいる人の気を削がないためだろうか、全ての内容に首肯をしている。


 実は、どんな家政婦がいるのかが気になりすぎて、本来の目的をすら忘れていたので、確認するのをすっかり忘れていたことがあった。

 どう扱おうと自由だとは聞いてはいるが、一緒に冒険者になってモンスターと戦わせても良いのかどうか疑問だった。直接命を取るわけではないが危険なことではある。


 しかし、イグナシオは、向き不向きを別にすれば、どのように扱うかは自由だとアウルと同じことを言った。戦闘用の奴隷だっているのだろうから、それを勧めるのかとも思ったが、家事が優先なのは分かっているようで全くそういう奴隷もいるとは口にもしなかった。


 それならば、当然のことだが『スタイルが良く若くてかわいい娘』をお願いする。


 そして出来れば家事ができるを……と控えめに再度付け加えた。

 ちゃんと目的だってここまでくれば忘れていない!


 気を利かせたのか、アウルは別の部屋で待つと言って、案内された応接室から出て行った。

 しかし、一人で待つのは寂しい。

 

 ――仕方がない。

 ここはいろんな家政婦メイドを想像して時間を有効活用しよう。


 

 

 しばらくして、ノックの音が聞こえた。イグナシオが戻って来たようだ。

 俺の心音が部屋に響くのではないかというほど緊張しているが、声が震えないように深呼吸を繰り返してから返事をした。


 正直、買ったあとの想像と妄想は極大に膨れ上がっているのに対し、どんな女の子なのかは思いもつかない。所詮は彼女もなく女性づきあいも殆どない貧乏フリーターだ。多少浮かんできた女の子といえば、滅多に行けないキャバクラのお姉さんとか自分ご褒美で数回だけ行ったことのある風俗のお姉さまぐらいである。

 そしてイグナシオが女性を連れて部屋に入ってきたときは、心臓が止まるほどの衝撃が走った。


 なぜならイグナシオは俺が生涯で口を聞いてもらえることなどないだろうと思える程の『スタイルが良く若くてかわいい娘』を連れてきたのだ!

 しかも、なんと! 4人もだ!!


「お待たせしました。ご希望通り若い娘を揃えました」


 まずは落ち着こう。

 大体にして、『俺が生涯で口を聞いてもらえることなどないレベル』を基準で考えてしまうと、大半の若い女性が当てはまってしまうではないか。


 もっと冷静に考えなければ…

 全員を買うことなどできないし、迂闊に選べば後悔することにもなりかねないのだから。

 


 そんな葛藤の中、イグナシオは俺の前に4人の『スタイルが良く若くてかわいい娘』を並べてひとりずつ紹介を始めた。


 1人目は13歳。スキルに家事Lv1があり、金髪でかわいい女の子。少し生意気そうだし13歳ではイロイロさせたらマズイかも。


 2人目は17歳。洋風の顔立ちではなく大和撫子を思い立たせる黒髪の大人しそうな娘でスキルは料理Lv4があった。そして、不安げにこちらを窺うように見ている顔は、俺にはハードルが高すぎるほどの美少女だ。


 3人目は14歳。2人目の娘に似ていた。赤みがかった茶髪で大人しい感じはなく、活発そうにも見えて、こちらに興味津々の目を向けていた。彼女はLv20と一番レベルが高い。――なぜか、スキルに剣術Lv2がある。


 4人目は18歳。スキルは家事Lv1と料理Lv1。俺がこの世界に来てから密かに期待していた猫耳としっぽがあったが、俺が若くて金持ちに見えないせいか、露骨ではなくともがっかりした様子が見て取れる。


 少し冷静さを取り戻して客観的に見ていた俺にイグナシオは追い討ちをかけてきた。


「お客様はお若いので気にされると思い全員処女を用意しました」


 イグナシオは気を利かせたのだろうが、もういっぱいいっぱいに近い。

 しかし俺は、


 それは当然のことだ!


 ――と、思われるように、俺は赤面しながらも平静を保つ努力だけはしている。


 他にもいるなら見たい! などと偉そうに言おうと考えていたのだが、全くもって無理である。

 それにもう非の打ち所がない2人目と3人目に目が釘付けで、どちらにするかを悩み始めている。


 だって、めっちゃかわいいんだもん。

 

 ちょっと冷静に見ればこの二人は他の子より数段上と言える。

 やばい。俺には選ぶなんてできないかも…


 それを察したイグナシオは、特に確認をするようなことはせずに、気がつくとその二人だけを部屋に残している。


 そして俺の方を向くと、口を開いて話を始めた。

 どうやらさらに詳しい説明をしてくれるようだ。

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