1-29 魔法で連携
庭へ出てきたフローラは、皆が魔法を使っているのに驚いていた。
「す、すごいです! フローラはまほうをはじめて見ました。おくさまとおねーさまたちは、まほうがつかえたんですね!」
またしても、俺は除外された。
空間魔法は任意の大きさで空間を作り出すことが出来て色々と使えそうだが目には見えない。
しかし、俺にも目に見える魔法を覚える方法はある。
そこで、痛いのと熱いのを我慢してクリスとアルヴァに魔法を、ホントに軽くでいいから当てて欲しいとお願いをした。
「ご、ご主人様!? まさか、そのようなご趣味が!?」
「ア、アルヴァ! ち、違うから!」
「分かりました、ご主人様。私が役に立てるところをお見せ致します」
「ちがーーう! 魔法を覚え……」
その叫びも虚しく、俺の一張羅である着物は燃えだした。
「クリスー!! ひ……火を消してー!」
「まあ、大変なことに! 私にお任せなさい。雷で消し飛ばしてあげますわ!」
それも、違う! と、叫ぶ間もなく熱いだけではなく痺れるという痛みも加わった。
ベアトリスも慌てて拷問に参加してきた。
火をどうにかしようと必死になったおかげか、扇風機のような気持ち良い風にまで威力を上げている。
そして、いつもみたいにカラダの一部だけではなく、珍しく全身を燃え上がらせた。
ダッシュのスキルを使い、井戸に向かって突撃をした。
自力で火を消して、今は井戸の前でみんなにポーションをかけてもらっている。
やはり人に頼ってばかりではダメだ。
いろんな意味で他力本願は控えるべきだと悟った。
しかし、良い事もあった。
なんと、ベアトリスまでがスキルを取得した。
人間、必死にやれば何でも出来るということだ。
3つも同時に魔法スキルを取得した俺は、他にも得たモノがあった。
それは、それぞれの魔法耐性スキルと『痛みを伴わないとイロイロと学べない』という教えだった。
翌日からは予定を変更した。
剣術の練習も欠かせないので午前中は今まで通りに剣主体で狩りを行ったが、午後からは家に帰り各々の魔法訓練時間に当てた。
レベルが急激に上がることに慣れていなかったフローラも、5日目には調子が悪くなることも無くなりLv20になっている。
それは森の最奥部にまで侵入して格上ばかりを相手にしていたおかげだった。
無駄に転移を繰り返し、空間魔法をLv3にして、そこまで行くのが楽になったということもある。
ただ、一度の転移でそこまで行けるわけではない。
複数で転移をすると魔力の消費が著しく、そこでも魔力回復用ポーションを多用していた。
ちなみに、行き帰りに時間が掛からないお陰もあって収入はさほど下がってはいないが、移動時の魔力回復用ポーション代に、その収入は消えている。
現在Lv34の俺は、Lv30を超えた辺りから急激にレベルの上がりが遅くなっていると感じ始めていた。
Lv35を超えた当たりで中堅と呼ばれる冒険者らしい。
そのレベルの冒険者はもっと身入りの良い場所に移動している者も多いので、この森はそろそろ卒業かな、などと甘い事を考えていた。
しかし、それは完全に誤りであった。
この森最強の体長15mほどで胴回りが50cmはある魔ボアに出会い、それを痛感させられた。
対峙したときは何とかなると軽く考えていたが、仕掛ける前に先手を取られて、恐ろしい速さの尾っぽの攻撃が俺と姉妹に向かって振るわれた。
俺はなんとか避けたが、Lv29のベアトリスとLv26のアルヴァは、剣でガードこそしたが威力を防ぎ切れなくて吹き飛ばされてしまった。
体勢を崩したアルヴァに、魔ボアは口を大きく開けて鋭い牙を突き立てようと迫っている。
焦った俺は魔ボアの頭を目がけてダッシュを使い、体当たりをかました。
……と同時に、慌てたアルヴァが覚えたばかりの火魔法を使い火球を放った。
魔ボアは体当たりと炎に驚いて少し離れるが、直後に怒りを露わにして今度は俺に迫ろうとした。
しかしその時すでに、クリスはその背後にいた。
剣を振り下ろすと一撃でその首が落ちる。
フローラの守りをしていたクリスの咄嗟の判断だった。
おかげで姉妹には大した怪我もなく難を逃れることが出来たが、俺は着物がまた燃えてヤケドをした。
さすがに格上すぎたと反省する。
クリスに助けられなければ、この程度では済まなかっただろう。
魔法を併用して戦う練習も始めてはいたが、実戦で、しかも咄嗟ではやはり難しい。
着物の替えとポーションは大量にあるが、そういう問題ではない。
クリス頼りの戦いはそろそろ終わりにして、連携が取れる戦い方を学ぶ必要がある。
騎士団にいたクリスならそういう戦い方には慣れているだろう。
従順なる嫁に頼んで教えてもらおうと考えた。
「クリス。頼みがあるんですけど……」
「あなた。今までは効率を求めた戦い方でも良かったですけど、そろそろ連携した戦闘方法を学んでいきませんとこの森一つ制覇出来ませんわ」
だから今、それを教えてもらおうと思ったのに……
「全くあなたったら、チームプレイがなってませんわ! これからはベッドの中で複数でのプレイをみっちり仕込みますからね」
嬉しそうにそう言うクリスに不満を述べる気はないが、その連携プレイで本当に戦闘が巧みになるのか疑問だった。
が、その連携プレイは重要である!
クリスの提案に姉妹も乗り気になって、今日はもう帰ることにした。
当然の流れなのだが、家に着くなりフローラが恐ろしい発言をして返答に窮してしまった。
「フローラもいっしょにふくすうのプレイのれんしゅうをします」
足を引っ張りたくないのか、真顔でそう言われた。
足なら寝ている時にクリスがいつも引っ張っているから気にしなくていいよ、などとくだらないことが頭に浮かんだが、まさかそれを言うわけにもいかない。
しかし冷静に考えてみたら、フローラを残して俺たちだけで真昼間からベッドに入ることなど出来ないことに気が付いた。
その事を忘れて家まで帰って来てしまったのだが、いまさら誰も『ただベッドに潜って連携プレイをする為に早く帰ってきた』とは言えなかった。
そこで、それを誤魔化す為にフローラにも魔法を教えて一緒に普通の練習をすることになった。
「フローラには土魔法がいいんじゃないかな?」
いつまでも重い盾を持たせるより、自分で障壁を作れる様になったほうが良いと考えた。
犬は大事な物を土の中に隠すって言うこともある。
大事なモノ=俺
土魔法で手足を拘束されて身動きが取れなくなった俺の前で、あられもない姿のフローラが……
俺の妄想はさておき、クリスもその意見に賛成した。
「そうですわね。守るという観点から見てもそれが良いと思いますわ。あなたの顔はそれ以外にもいかがわしいモノを感じますが……。フローラはどうですか? これは自分に合っているかが重要ですから、他に好きな物があれば、それでいいのですよ」
「し、失礼だな、クリス。俺は将来のフローラの事を考えて発言しただけだからな」
当然、俺の妄想はちゃんとフローラの顔にアルヴァのカラダを足した将来のフローラだ!
「でもクリスの言う通り、俺たちの意見は気にしないで、フローラの好きな魔法を選んでいいんだからね」
「お土はすきです。よく、お土であそんでいたからお土のまほうおぼえたいです」
フローラ自身もそれが良かったらしい。
この世界において子供が遊ぶモノといえばそう多くないはずだからそれも納得がいく話だ。
それから2週間は森の奥まで行かずにクリス指導のもと、俺と姉妹による連携での戦闘及びそこにクリスが加わった場合の訓練を重ねた。
もちろんフローラの剣の練習も欠かしていない。
剣術、土魔法のスキルも取得出来ているし、恐らくこの街最強の10才児だろう。
今なら猪ぐらい一人でも倒せそうだ。
そろそろ頃合かと思い、その日の夕食時にみんなに提案をした。
「明日は最奥部に行こう。魔ボアにリベンジしようと思うんだけど?」
吹き飛ばされたのがよほど悔しかったのか、この提案を聞いた姉妹はやる気満々になった。
「ご主人様! 私が丸焼きにしてやります!」
「ダメです、姉さま! 私が切り刻みます!」
頼もしいと思う前に今夜の修練は激しくなりそうな予感に襲われた。
実際、それは凄いことになってしまった。
魔ボアの1/100ほどの長さしかない、やる気満々状態である俺のカラダの一部を見る姉妹の目は、まるで獲物を狙う狩人のようだった。
アルヴァの攻撃は火魔法を使っていないのに煙が出そうなほどで、ベアトリスの締めつけ技はちぎれてしまうのではないかと思うほど激しかった。
念の為に言っておくが、フローラは毎日疲れているせいで、どんなに激しい声や音がしてもスヤスヤと寝ているので気づかれてはいないはずである。
クリスはいつも通りではあったが、寝る前に俺が今までしていなかった探検について聞かれてしまった。
「あなた。そろそろ私の黄金の森の最奥部も探検して頂きたいですわ」
「そ、それは……」
もちろんしたい! ……が、俺は熟練の冒険者ではない。道に迷う恐れもある。
「魔ボアを倒せれば、一人前の冒険者ですわ。ですから、明日の夜には新しい探検を始めて下さいね」
「さ、最初は手探りになるけど頑張ってみるよ」
手探りもなにも、要求はそのまんまなのだが……
「では、私たちは楽しみにしてますので。おやすみなさい、あなた」
さ、3人共!
よく見ると姉妹も興奮気味でその話を聞いており、この様子だと明日出会うであろう魔ボアが少し可哀想な気になる。
クリスはフローラのところへは行かず、恐ろしい3人のハンターが魔ボアの1/100スケールから1/300スケールにまで縮みあがってしまったモノを取り囲んで寝ることになった。
そして翌日……
魔ボアと対峙した姉妹が揃って魔力回復用ポーションを口に咥えたまま魔法を連打して、炎に包みこんだ魔ボアを風の刃で切り刻んだ。
その結果、魔珠と灰以外は何も残らず、俺の出番はなかった。
きっと俺も今夜は灰になってしまうのだろうと思うとちょっと怖かった。
いつも読んで頂き有難う御座います。
また投稿したばかりなのに誤字等を修正してしまいました。
投稿前に、何度も読み返しているのですが……
お見苦しくて申し訳ありません。
呆れずこれからも読んで頂ければ幸いです。




