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1-27 魔法とお土産

 ぷりぷりクリスが家に入ると、俺は荷馬車に乗せられた満載の贈り物を仕舞って代わりに貯め込んだ獲物を荷台に置いた。


「大きい馬車で来てくれて助かったよ。……まさか、護衛もなしで屋敷からきたわけじゃあないよね?」


 アウルに限ってそれはないと思ったが、血は争えないというから一応確認をしてみた。


「まさか! どこかの困った妹とは違いますよ。ちゃんと護衛に騎士団の方々がついて来てくれましたから。今も一緒に来てますが、ストレージを見られては困ると思いまして、表通りで待ってもらっています」


 妹と一緒にされるのは心外だと言いたげだったが、ふと何かを思い出した表情になった。


「そういえば……サトウ様はどんな魔獣を倒したというような話だけでなく、その魔獣は美味しかったとか、あの迷宮の主の肉は柔らかかったとか、そういう話もされてましたよ」


 まったくしょうがない妹だと言って苦笑していた。


「クリスらしくて俺はいいと思うよ。アウルだって商人になりたかった理由は同じようなモノでしょ」


 クリスが戦いが好きで鍛えていたわけでなく、好きなことはしたいために強くなろうとしているその姿勢は、とても好ましく、俺もまったく同じだと思っていた。


「そうでした。私も同じような夢を持っていますからね。やはり、私とクリスは似ていたということですか……」


「いやいや、お父さんもお兄さんもでしょ? まったく、しょうがない似た者家族なんだから」


 俺は仲の良い家族を羨むように冷やかすと、アウルが大げさに眉を上げてわざとらしく驚いた表情を見せた。


「お忘れですか? これからは、ヨウスケさんもその家族の一員なんですからね? 自分だけ違うとは言わせませんよ、義弟おとうと殿」

 

 

 せっかくだから、夕食を一緒にどうかと誘ったのだが、今のクリスの相手をするのはメンドクサイようでどうやらこのまま帰りたい様子だ。


「じゃあ、これお土産ね」


 ストレージから紙と布で包まれた30cm四方ぐらいの柔らかくて温かいモノを手渡した。

 受け取ったアウルは、そのずっしりした重さと、その感触に目が丸くなった。


「こ、これは、まさか……持ってきてくれたのですか?」


「もちろん。まあ、持ち帰るのに手間は掛かってないけど、人目を盗んでストレージに仕舞うのは大変だったよ」


 お祭りの最中さなかはどこへ行っても人に囲まれてしまっていた。

 そのせいで丸焼きから肉を切り取り、人に見られないようにストレージに収納するのは大変だったのだ。


「ははは! さすがヨウスケさん! これは楽しみですよ。護衛の騎士たちも喜ぶでしょう。みんな豪快な料理は大好きですからね」


 そういうアウルも子供のように目を輝かせ、温かい肉の塊をまだ抱えている。

 いくらお金持ちの貴族とはいえ、庶民の贅沢でしかない丸焼きなど食べたことがなかったのだろう。


 旅に出たとき、必ず一緒に作ろうと約束してアウルは帰って行った。



 俺が家に戻るとツン状態クリスはデザートであるケーキをストレージから出すように要求した。


「遅いですわ、あなた! フローラに食べさせてあげたいのですから、早く出してください」


 テーブルを片付けて、アルヴァに紅茶を淹れてもらってから、半分以上残っているホールケーキを出した。

 それをクリスは自慢の剣術を使い、ナイフできっちり4等分にしてみんなに配った。


「聞かなくても分かってるけど、俺の分はなしだよね?」


「あなたに分けたら、わたくしたちの分が少なくなってしまうではありませんか」


 そのやりとりを見て、また俺がからかってクリスを怒らせたのだろうと見当がついているベアトリスは可笑しそうに笑っていたが、アルヴァは慌てて自分の分を差し出そうとしていた。


「アルヴァ、いいんだよ。みんなが楽しんでくれれば俺も嬉しいから。それに、生クリームを作る研究も始めることにしたからさ」


「そうですわ、アルヴァ。 妻を大事にしない夫になどあげる必要はありません。こんなに美味しい物は女性だけで楽しめばいいのです」


 アルヴァはベアトリスが笑っている姿を見て、それでいいのだと納得したようで、自分も嬉しそうにケーキを味わい始めた。

 椅子からはみ出したしっぽの慌ただしい動きと、忙しそうにピクピク動くいぬみみで喜びを表しているフローラには、わざわざ聞く必要はないようだ。


 俺はみんなの幸せそうな様子を眺めながら、紅茶に口をつけていた。


 そんな様子をいつから見ていたのか、クリスは「仕方ありませんわね」と呟きながら立上った。

 俺の前まで来ると「口を開けなさい、あなた」と言ってケーキを乗せたフォークを差し出した。

 もちろん、俺は大きく口を開けた。

 それを見た姉妹も順番に、幸せの味がするケーキを口に入れてくれた。


 フローラはケーキが逃げ出すとでも思っているかのように、初めて食べるケーキを無我夢中で食べていた。空になった皿に付いている生クリームを舐めようとしていたフローラは、みんなが何をしているかに気づき、慌ててフォークでかき集め俺に分けてくれた。


 美味しくそれを頂いた俺は、お礼を言って頭を撫でた。

 そして、クリスはフローラを抱き寄せて褒めてあげていた。

 フローラも嬉しそうに抱きついていたが、特には悔しくはなかった。

 

 フローラの両親は何年も前に別々に売られてしまっているらしい。

 本当は母親にまだ甘えたい年なのだ。

 と、思うと同時に【おにいちゃん】と呼ばせる夢を諦めて【パパ】でもいいかなと、妥協を始めていた。



 フローラを先に寝かせてから、俺たちは明日からの狩りの体制について話し合った。

 自分達の剣術を上げるためにも、やはり俺と姉妹で戦うのが良いだろう。

 フローラを戦いに慣れさせる為に、いつもの狩場ではなく俺と姉妹が三人で狩りをしていた場所から始めることにした。


 そのあと、俺たちも寝ることにしたが、最大限の注意を払って部屋へ侵入した。

 メニュー画面を何度も確認してフローラが睡眠状態であることは分かっていても、獣人族は五感が鋭いと聞かされているので、どうしても慎重になってしまう。


 クリスは、敵意や害意を持って近づかなければ大丈夫だと経験上知っているらしく、平然といつもの寝る姿になった。

 そして、早く修練を始めようと声を掛けてきた。


 姉妹は特に抵抗もなく同じ姿になっていたが、俺にはそう簡単なことではない。


 しかし、クリスを妻にすると約束したばかりである。

 クリス曰く、子作りの練習も兼ねている修練をしないわけにはいかない。

 超巨大なモノの影に隠れるようにして、俺もいつもの寝る姿になったが、なかなかカラダの一部が元気にならない。


 それでも、男とは悲しい生き物でクリスと姉妹の献身に、敢え無く篭絡されて、いつも通りの元気な姿を取り戻した。

 

 俺が物音も立てずに技を繰り広げているのもかかわらず、クリスは普段通りに雄叫びを上げるがごとく声を出すので、俺はビビってフローラの状態を何回も確認をしていた。


 そのせいで高度が下がり墜落する危険が何度もあった。


 その都度、気を利かせて声を出さないように我慢をしているアルヴァの顔を見て高度を回復させた。

 ベアトリスの身をよじらせ耐えている姿で高度を維持することにも成功した。


 

 翌朝俺が目を覚ましたときには、俺のベッドには誰もいなかった。

 姉妹がいないのは分かるが、クリスが既に起きて姉妹の手伝いをしているなど考えられない。

 周りを見回すと、やはりクリスはしっかり寝ていた。――隣のベッドでフローラを抱きしめながら。


 思わず俺も一緒に寝ようとしたが、初日からそんなことしてる場合ではない。

 クリスを起こして俺の服を着させてから、フローラを起こした。


 フローラは主人とおくさまより遅く起きてしまった事を謝っていたが、そんなことを俺たちが気にするはずもなく、服を着替えさせて一緒にダイニングへ向かった。


 ほぼ朝食の準備を終わらせていた姉妹に声をかけた。


「おはよう、アルヴァ、ベアトリス。ごめんね、二人に任せちゃって」


 姉妹はフローラも昨日ウチに来たばかりだし、今までの疲れが出てるだろうからと笑顔で答えてくれた。フローラは食事が1日3食もあることに驚いていたが、しっかり完食していた。


 行きたくはなかったが、一応フローラも冒険者登録をさせておくために、ギルドへ寄った。

 もちろん俺は中には入らず外で隠れていたが……



 森へ入り手頃な獲物を探した。

 ウサギを発見した……が、ベアトリスが即座に仕留めてしまった。

 おかげで、フローラの盾を出す暇もなかった。


 結局いつもの狩場へ向かったが魔獣を三匹倒したあたりで、フローラの様子がおかしくなっていた。

 いきなり手も足もでないような格上の魔獣を倒した経験値が10倍で流入した結果、レベル5でしかなかったフローラが一気にいくつもレベルアップしたため身体の急激な変化で具合が悪くなったのだろうと、クリスは説明した。


 明日になれば治っているはずだと言うので、まだ昼前だが今日は帰ることにした。


 ウチに帰り、フローラをベッドに寝かせた。

 時間が空いたのでちょうど良いと思い、昨日のクリスの荷物と持参金とやらを整理することにした。

 ストレージに入れたままでも、鑑定眼は使えるが、実際にどんなものなのかを確認したかったからだ。


 すでに、クリスの下着類は鑑定眼Lv10でしっかり調べてある。

 その結果、乳当てが特注で作られたサイズである事は判明している。

 今までは布を巻いてなんとか押さえつけていたが、形が崩れてしまうことを危惧していた俺は、気を利かせて、それだけは朝のうちにクリスに渡しておいた。 


 クリスは下着以外必要なものはないらしく、今ある物で充分だと言った。

 防具類もいずれは必要になるだろうが、今はいらないそうだ。


「この特注の魔ミンクのグローブも使わないの?」


「そのグローブは剣が振りにくいのです。もう、式典などに出る必要もないのですから必要ありませんわ」


 自分がまだ貴族だということを忘れて、すっかりただの冒険者となっているクリスであった。


 

 贈り物にあった金目の物は現金と宝石類を合わせれば1億円近い。

 なかには、ヒヒイロカネやダマスカス鋼の全身鎧や盾、上半身の鎧や小手や脛当て、長剣などがあった。

 その全てに魔法がかけられていて、軽くなっていたり、強度や攻撃力が上がっていたり、状態異常、魔法の耐性が付与されていたりしていた。

 

 その全てが非常に高価で、ヒヒイロカネの全身鎧など、ダモクレスには及ばないがとんでもない金額だった。

 他にも魔力を上げる効果がある杖や魔法具もいろいろある。

 野営に使えそうな品はあったが、クリスの私物以外、普通の生活に役立ちそうな物が全くない。

 これでどんなところにでも行けて、どんな魔獣相手でも装備を合わせて戦えるだろう、と言っているような品揃えだ。

 

 お義父さん、どれだけお土産を期待してるんだよ! と、ツッこみたい。


 

 いいものを見つけた。


 『良い子の初級魔法講座』


 豪華な装飾がしてある本で、魔法の覚え方、スキル取得の練習方法が載っていた。

 これによると火、水、土、風、氷、雷の練習要領は同じらしい。

 まずは、自分の中の魔力を感じてそれを高める。

 あとはイメージをしながら、魔力を使い発現させる。


 光魔法の練習方法も基本は同じみたいだが、難易度がまるで違うらしく並大抵の事では習得出来ないので、自学は無理だと書いてあった。


 闇、召喚魔法なども存在はしているらしいが空間魔法と同様に習得方法は分かっていないそうだ。


 タイトルの割にかなり本格的な内容であった。

 もちろん魔法には興味がある。

 ただ、何もかも同時になど出来ないから、後回しにしていただけだ。


 誰かに魔法を撃ってもらい、自分の身体で受ければ覚えるような気もするが、今、魔法が使える冒険者にそれを頼むのは殺して欲しいと言っているのと変わらない。

 それが分かっている俺は、地道に練習する必要がある。

 

 良い機会だからみんなで練習しようと思い、片付けを終わらせて、庭へ向かった。


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