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1-24 推測で対象物

 いくら聖人君子の俺でも出来ることと不可能なことはある。


「あら、あなたまさかこの子だけ『みんな一緒』の中に入れてあげないのですか?」


 むぅぅぅ……言い訳が思いつかない。

 淫行罪で逮捕される……と、言っても、すでに終身刑レベルまで達成している。


「俺の国では13歳以下の女の子と修練をしてはいけないという規則がある」


 一部を改竄かいざんしてしまったが、だいたい合ってるから嘘ではない。


「……? あなたの国では結婚は14歳からということですの?」


「よく分かったね、クリス。その通りだよ!」


 年齢以外は嘘ではない。


「ずいぶんと、遅いのですね。わたくしは9歳のときに、35歳の貴族の方から結婚を申し込まれたことがありますわ」


「……それでどうしたの?」


「あまりわたくしの好みではありませんでしたのでお断り致しましたわ。その方は小さい女性(幼女)がお好きなようで……目つきがあなたと少し似ていた感じが……します」


 俺を見ながらその人を思い出すのはヤメテ。

 マジで傷つくから……


「あなた、ではこうしましょう。ここは、あなたの国ではないのですから、いつも通りみんな一緒に入れば良いのです。わたくしも汗をかきましたし、食事はあなたのストレージに仕舞っておけばよろしいではありませんか?」


 そういう問題じゃないんだけど……

 いや……待てよ……そうか!


 【おにいちゃん】と【いもうと】が一緒にお風呂へ入ることは普通のことだ。


「よし! みんなで一緒にお風呂へ入ろう!!」



 しかし俺にも節度はある。

 俺の服を脱がす仕事はちゃんと大人の美人姉妹にしてもらった。

 しかし、家事スキルを上げさせてあげるためには、やはり修練に参加させてやるしかない。

 そして新人のフローラには難易度の高い場所を掃除させてあげた。


 そう、一番面積が広い背中である。


 起伏が激しい正面側には危険が伴うこともあるので立入禁止区域に指定した。

 しかし、やはり若い子は興味津々だ。

 何度となく防衛ラインが破られかけたが、鋼鉄の処女(びじんしまい)が死守した。


 そしてフローラをみんなで洗ってあげることにした。


 俺の背中だけを洗うために風呂場へ来たと思っていたフローラは、そんなことしてもらったらご飯抜きにされると思い込んで逃げようとした。

 だが、ウチには優秀な戦士が2人もいる。

 あっという間に捕まえて、丸洗いを始めた。


 俺の担当は毛類だ。


「髪といぬみみとしっぽを洗う権利は誰にも渡さない!」


 そう言って髪を洗い始めた。


 使ったのは俺のオリジナル配合で作った【つやつやしっとりなめらか特製リンスインシャンプー】だ。

 フローラのやわらかい髪を堪能したあとは、いよいよ、いぬみみに移った。

 楽しみを我慢して待つことが出来る俺は、髪を洗いながらつい何度も触れてしまった、いぬみみだけを丹念に洗った。


 へにょへにょとコリコリの中間の手触りはまさに至福。

 しっぽにも【つやつやしっとりなめらか特製リンスインシャンプー】を使って潤いを出させた。

 

 そして俺の仕事は終わった……


 クリスがフローラの一点を見つめている。

 その顔は、なにげに不満そうだ。


「あら? あなた、まだ洗い残しが」


 まさか!? あれほど丹念に洗ったのに?


「ど、どこに!?」


「少しですけれども、前のほ…」


「ない! 絶対にない! 10歳の女の子には髪といぬみみとしっぽにしか毛は生えない!」


 気分を害した俺は先に湯船に浸かり、邪念を払う為に心頭を滅却させようとした。


 しかし、うちの家族は向上心が高すぎる。

 お互いに修練を交わし合うという絶景スキルを発動させるので、滅却どころか、さらに燃焼しそうになった。



 細部にまで念を入れていた修練が終わった。

 核反応を起こすところだった俺の一部も、危ういところで落ち着きを取り戻した。


 クリスはフローラを、自前の大きなゆりかごに包み込んで湯船に浸かった。

 姉妹はいつも通り定位置の俺の両サイドいる。


「ありがとうございます、ご主人さま。フローラは、はじめておふろに入りました。まだなにもしてないのにこんなごほうびを……フローラはまたおふろのごほうびをもらえるようにがんばります」


 クリスのゆりかごのなかに埋まっているフローラは、楽しそうにお湯を手で弾きながら俺にお礼を言った。


「そっか。でもお風呂は毎日みんなで一緒に入るから心配ないよ」


 驚いたフローラはクリスの顔を見上げて、どう答えればいいかと目で問いかけていたが、親バカスキルを習得したクリスは頭を撫でながら優しく「遠慮したらだめですわ」と答えていた。



「勝手につけちゃったけど、フローラは、その名前気に入ったの?」


 いつの間にか自分の事を【フローラ】と呼び始めていたので気になっていた。


「はい! すてきなお名前です。ありがとうございます。すっごくうれしかったです」


 それまで、どう呼ばれていたかなど聞きたくない。

 本人にそこまで喜んでもらえるなら名付け親として俺も嬉しい。

 それだけで充分だ。



 幼い分、アルヴァたちよりは順応が早くて聞き分けは良い。

 しかしこのまま昼食になれば、一緒に座ろうとしないことは予想できる。


「ベアトリス。風呂からあがったら、昼食前にウチはみんな一緒に何でもするって事を教えてあげてくれる? あと俺自身の秘密も。リビングのソファーを使っていいから」


「アルヴァはそのあいだにフローラに買ってあげた服とかの整理を俺と一緒にやろう」


「クリスは……役に立ちそうなことがないから紅茶でも飲んでて」


「失礼ですわ、あなた! 昨日と今日の最大の功労者に向かって。わたくしみたいな寛大な妻でなければ離婚になってますわ」


 離婚の前に結婚もしていないと言いたかったのだが、ぷりぷりと怒るクリスを見て、かわいい奴と思ってしまった。


 まさか……、俺……このお馬鹿に惚れちゃったの?

 いやいや、それはない。

 だってクリスは優しくて、美人で、俺に甘いし、つい甘えちゃうけど、それはないな。



 ウチには3つの部屋がある。

 一番大きい部屋は全員が寝る部屋だ。


 ほかの部屋は姉妹の私物のための部屋ともう一つは俺の研究室になっている。

 今のところは【つやつやしっとりなめらか特製リンスインシャンプー】や【ふんわり泡立ちまろやか石鹸】などが実用化にまでこぎつけた成功例だ。

 ちなみに、ソースや醤油、香辛料などは、ちゃんとキッチンで作っている。


 毎日毎日、夕食後に風呂へ入ったらすぐベッドに直行、と思われがちだが、本当にそれはたまにだけで、普段は風呂から出たら、自由時間として過ごしている。

 

 みんなで紅茶を飲みながら談話していることもあるが、俺はもっぱらネットで調べて書き写してきたメモを見ながら生活に役立つモノの試作品を作っている。

 アルヴァはリビングのソファーで裁縫の練習をしているし、ベアトリスは全員の装備品を楽しそうに手入れをしている。

 そして、クリスはいつも俺のそばにいて、何か美味しい物を作っているのではないか、と目を光らせている。



 フローラの荷物は姉妹の部屋に置くことにした。

 寝室にある2つのベッドをつなげれば5人でも余裕で寝れる。

 クリスは相変わらず俺の足にしがみついて寝てるから実質4人だが…


 買ってきた荷物をストレージから全部出して片付けを始めた。

 改めて見ると凄い量だ。

 服など一ヶ月は毎日違う服が着れるほどある。


 ぷりぷりと怒りながら一緒に来たクリスだが、今は自慢気な表情で服の説明をしている。

 しかし、この物量では丸一日かかっても説明が終わると思えない。

 不平を述べるクリスを無視して、本当に必要な物を俺とアルヴァで選別した。



「クリス、この盾ちょっと大きすぎない?」


 クリスはフローラの為に盾まで買ったのだが、この大きさでは持って戦うなど出来ない。しかも、かなり重い。これでは両手でしか持ち上げられないし持ったら動けそうにもない。 


「ええ、大きいのを選んだのですから当然ですわ」


「なんで? これ重くてフローラじゃ動けなくなると思うけど?」


 その質問にクリスは呆れたような顔で答えたが、それを聞いて俺は人生最大の屈辱を受けた。


「あなた、バカじゃありませんの? こんな重い物をフローラが持てるわけないではありませんか」


「じゃ、じゃあ何のためだよ! それによっては俺にも考えがある!」


 馬鹿にバカと言われて思わずカッとなり、今後の家族計画をお互いのカラダを使って話し合う必要がある、と考えるほど熱くなってしまった。


「何を言っているのですか、あなた。これはフローラの前に置くのです。腰をかがめば身体からだ全体を隠せるでしょうし、支えるぐらいでしたらあの子でも出来るでしょう。わたくしはその前に立ってあの子を守りますから、あなたとアルヴァたちで獲物を倒してください」


「それは、安全でいいかもしれないけど剣術はどうする? それじゃあ、上達しない思うけど?」


「それは空いている時間にわたくしがきちんと教えて練習させますわ」


 こいつ……マジで良い母親になるかも……



 物量を減らしたお陰で思ったほど時間はかからず服の整理は終了した。

 リビングへ来るとベアトリスもちょうど話を終えるところだった。


「ご主人さま。ホントはすごい方だったんですね。フローラはそんけいしました」


 前半部分は気になるが、尊敬を勝ち取ったから良しとしよう。


「絶対に秘密だよ、分かった?」


「はい! おくさまとおねーさまたちにめいわくがかかるのでぜったいしゃべりません!」


 ……俺は?



 湯上りのメイド姿のフローラは実に可愛かった。

 バサバサだった髪も俺が丹念に洗った甲斐があって、乾き始めるとふんわりさらさらになった。


 そしてここに、いつか俺を【おにいちゃん】と呼ばせてみせる、という新しい夢が誕生した。



 俺は新しい夢に近づく第一歩としてフローラのカレーを大盛りにした。

 初めて見る食べ物にフローラは匂いを嗅いでるのか、差し込んでるのか分からないほど大盛りカレーに鼻を近づけていた。


「フローラは獣人族だから香辛料や辛い食べ物は嫌いか?」


 作る前に確認をすれば良かったのだが、喜ばせてやりたいとばかり考えていてすっかり忘れていた。


「こうしんりょうがなにかは分かりませんが、食べれる物はなんでもすきです」


「もしダメだったらちゃんと言うんだぞ? ほかの食べ物もいくらでもあるからな」


 普段から大量に作ってストレージに収納している出来立て料理は、ドリアーヌの村へ行った時にもほとんど消費をしていない。



 恐る恐るカレーを口に入れたフローラは、俺が知っている普通の子供の反応をしてくれた。


「お、おいしーです、ご主人さま! フローラはこんなにおいしい食べ物ははじめて食べました」


「うん、良かった。いっぱいあるからいっぱい食べるんだよ? 遠慮はダメだぞ? 明日からはフローラも頑張って仕事をするんだから」


「はい、ご主人さま! フローラは夜もがんばってご奉仕します。でもはじめてだかららんぼうにしていたくしないでください」


 それはもういいから……



 フローラもよく食べたがクリスがすごい。

 今までこんなに美味しい食べ物を妻のわたくしにまだ隠していたなんて……と言いながらおかわりをしていた。


 普段から俺以上に食べているが一向にふとる気配がない。


 俺の推測だがあの胸に付いている巨大な物体がエネルギーを吸い取っているのでないだろうか?

 そうなると、あれには俺の知らないアルゴリズムが働いている可能性がある。

 しかも2個もあるということは、どれだけのエネルギーが詰まっているのか見た目では分からない。

 一人の冒険者として、これを見逃す訳にはいかない。


 伝統の技程度では気づけなかった謎である。

 感触や反応を俺自身の手で調べるだけでは足りない。

 もっと詳しく知るためには、俺の顔を直に埋め込み対象物に挟んでもらう必要がある。

 

 やはり異世界には不思議なことが多い、と思った。


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