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1-23 名前と奥様

皆様のお陰で累計PVが50000を超えることが出来ました。

読んで頂いた皆様へお礼申し上げます。


ブックマーク登録して頂いた方々、評価を付けて頂いた方々

重ねてお礼申し上げます。


 自分ではなくクリスに競りをお願いしたのには理由があった。

 オークション参加者はよく分からない手つきで金額を提示していたので自分では出来なかったのだ。


 10歳の女の子を自分で競り落とそうとするのは恥ずかしい、というわけではない。


 クリスはまたもや役に立つ良妻だと言わんばかりの得意げな顔で「夕食が楽しみですわー」と、大きい声で独り言を言っている。

 

 このままでは、日本から持ち込んだ料理のレパートリーが尽きる日もそう遠くないだろう。


 

 オークション会場に設置されているテントの中に入り契約を始めた。

 彼女の所有者は思った以上の高値が付いたことに喜びを隠さず俺に媚びた笑顔を向けた。


「好きに使って下さい。よく言い聞かせてありますから夜のお相手も問題ありませんよ。もちろん、私は手を付けてませんから、ご安心を」


 まったく申し訳なさそうに見えない顔で「おっと、奥様の前で申し訳ない」と付け加えた。


「ところで、この子の名前は?」


 個体情報診断のスキルを既に使っているのだが、名前の欄が空欄だったことが気になった。


「最初から売るつもりでしたのでね。買って頂いた方が自由につけたいと思いまして、名前を付けてません。ですから、好きな名前を付けてやって下さい」


 俺はクリスの話を思い出していた。

 本当に奴隷とは物でしかないのだと痛感させられ、アルヴァとベアトリスにはもっと気を遣ってあげないとダメだとやっと理解できた。


「クリス、何がいいかな?」


「あなたの奴隷なのですから好きにしていいわ」


「じゃあ、フローラで」


 俺はたっぷり1秒ほど考えて、最初から決めていた似合いそうな名前をつけてあげた。


 代金を支払い契約が終わるとフローラを檻から出して俺たちの前へ連れてきた。

 その際に元の所有者から奴隷としての心構えらしきモノを厳重に言い渡されて、返品などされて恥をかかせるなと念を押されていた。

 そして、フローラと名付けられたと教え、俺たちに引き渡した。


 おずおずと俺たちの前に来たフローラは買って頂いたお礼をクリスに言おうとしていたが、俺はこの場にいることに気分が悪くなりクリスを促してさっさと会場を出た。


「クリス。買い物に行こう」

 

 これ以上この子にこんなカッコのままで居させるなんて、俺には我慢出来なかった。


 オークションにかけるためなのか、水浴びだけはさせてもらったらしいが、綺麗な碧いストレートの髪がバサバサで、ぼろ布のような服しか着ておらず靴も履いていない。


 馬鹿のハズなのに、最近はたべものに関係することになるとやたらカンの鋭いクリスは何も言わず頷いて了承の意を示してくれた。

 クリスもフローラの姿にはあまりいい顔をしておらず、今は純粋におっとに共感していたからと思えた。


 俺は先に歩き出し、クリスはフローラの手を引いて後ろからついて来た。

 挨拶をするタイミングを完全に外して戸惑っていたフローラは、何か自分がとんでもないことをしたかのように、クリスが繋いだ手を慌てて離した。


 そして一歩離れるとフローラはなぜか謝罪を始めた。


「も、もうしわけありません、おじょうさま! どれいのあたしがおじょうさまのキレイな手にさわってしまいました」


 どこかで見たことがある首振り人形のように、カックンカックンと忙しそうに頭を下げているその姿は妙にかわいく見える。

 しかし、この小さな娘もウチの姉妹と同様に気を遣ってあげなければならない存在なのだと知った。


「あら、フローラはわたくしに手を繋がれるのはお嫌なのかしら?」


「そそそ……そんなことはありません! 買っていただいたお礼もまだなのにそのようなぶれいをしてしまったらごはんをいただけなくなってしまいます!」


 慌てて釈明をしていたが、その言葉には平仮名のように聞こえるモノが多く混じっていた。

 きっと、教育など今まで受けさせて貰えなかったのだろう。

 そして……この子はクリスと同じ匂いがすると思った。


「おそくなってもうしわけありません。買っていただいたうえに名前までいただけてありがとうございます。おじょうさまのためにがんばります! できればごはんはおねがいします」


 うん、間違いない。クリスと同類だ!


「フローラ。わたくしはお嬢様ではなくて『おくさま』よ。それにあなたの主人はわたくしではなくてこの人よ」


 クリスは勝手に俺の【おくさま】と名乗りを上げて、俺に目を向けた。


「おくさまだったんですか!? まさかこちらのかたですか? めしつかいの人じゃ……ほそいぼうをもってますし……弱そうなごえいにしか見え……」


 まあ、いつものことだから気にしないが……

 俺の自慢のスタイルなのに……


「あっ……ご、ご主人さま、もうしわけありません! いっしょうけんめいご奉仕しますからおゆるしください」


 目を潤ませながら自分の失言を慌てて詫びているが、どう見ても申し訳なく思っている様子には見えない。それは「ごはんぬきだけは、どうかごかんべんを……」と必死に懇願しているからだろう。

 

 俺が苦笑してその様子を見ていると、フローラは何かを思い出したようだ。


「ご、ご主人たゃみゃ……」


 噛んだな。


「ご、ご主人さま。フローラは夜もがんばってご奉仕します。でもはじめてだかららんぼうにしていたくしないでください」


 噛んだことには顔を赤くしているが、後半はまるっきり棒読みだ。


「……フローラはその意味を知っているのかな?」


「わかりませんけど、前のご主人さまが男のご主人さまに買われときは、ねる前にそう言えばまいばんかわいがってくれてごはんもいただけるとおしえてくれました」


「でも今は夜じゃないからダメですか?」と心配そうにしている、この超かわいい俺の新しい【いもうと】のためにある決断をした。


「クリス。悪いけど買い物任せていい? 俺は一人で先に帰ってお風呂とお昼の準備してくるから」


「何がしたいのかは分かりますけれど、わたくしへのご褒美も忘れずに作って下さいね」


 クリスは楽しそうにクスクス笑いながら答えた。


「それと言いたい事はあるだろうけど、この子の装備一式も買ってきてくれる?剣はミスリルでいいから」


「そうですわね。一人で留守番をさせるのですから、護身の為に少しはレベルを上げないと危ないですわ」


 あまりにも、ツーカー過ぎてドン引きしそうだったが、話が早いのは助かる。

 50万円ほどお金を渡して、黒のメイド服と白いエプロンと紫やピンクのでっかいリボンと白い靴下だけは忘れないように言って、ほかに必要なモノは任せた。


 金銭感覚にはまだ不安はあるが所詮は子供の物なのだから大したこ金額ではない。

 それにクリスは物の善し悪しだけは分かっている。

 装備品にしても大凡おおよその値段は俺にも分かっている。恐らく30万円で足りるだろうが、クリスに頼むのだから50万円は必要だろう。


 くれぐれも迷子にならないようにしっかり手を繋いで行くようにと、俺の頼んだモノだけは忘れないように言って急いで家へ帰った。


 ウチの姉妹にフローラという娘を買った事を伝えた。

 お風呂に入れて綺麗にしてあげて、美味しい物を食べさせたい。

 それを聞いた姉妹は喜んでくれて、すぐ準備に取り掛かった。


 お昼の献立はカラアゲとカレーライスだ!

 昨日大量に作って鍋ごとストレージに収納したデミグラスソースを使ったビーフストロガノフと、どちらにしようか迷ったがやはりお子様にはカレーだろう。


 自作のカレー用ブレンドスパイスも作ってあるが子供には辛すぎるので、持ってきた貴重な中辛カレールウに飴色になるまで炒めた玉ねぎをたっぶりと加えて甘味を出した。



 煮込み中のカレーとご飯の火の番をベアトリスに任せ、カラアゲをアルヴァに頼み、俺は風呂の準備を始めた。


 水を張り終わり熱玉を入れる際に、子供だからぬるめがいいか、熱めでさっぱりした方がいいかを悩んでいると、外から「あなたー」と叫ぶ声が聞こえた。

 窓から外を見ると、まるで最愛の妻が帰って来た! と、でも言いたげな顔のクリスがいた。


 俺は汗をかいている様子を見てぬるめにすると決めて、いつもより数を減らした熱玉を水に入れた。

 クリスがしつこく呼んでいる。

 あまり良い予感のしないモノが見えたが、外までわざわざ出迎えに行った。


「クリス、お帰り。ご苦労さま……で、その馬車いったい?」


「持ちきれなくなったので辻馬車を拾いましたの」


 予感的中だな、と思いながら荷台の幌の中を覗いた。

 持ちきれないどころではない量の荷物と青ざめて震えているフローラがいる。


「別にいいけど……どれだけ買ったか説明してくれる?」


 フローラの何か恐ろしいものを見た、という顔が気になって荷物を下ろす前に聞いてみた。


「あなたに言われた通り黒いメイド服と白いエプロンと色々な大きいリボンと白い靴下で、フローラに似合いそうなモノはすべて買いましたわ。あとはミスリルの小剣と銀製の胸当てと……盾も買いました。かわいい服もたくさん買いましたし、耳飾りやネックレスも買いました。他にもあるのですが忘れてしまいましたわ。だって、この子には何でも似合ってしまうのですから、仕方ありませんわ」


 確かに何着買って来てとは言わなかったし、他の物は任せるとも言ったけど……


「……ちなみに、お釣りはいくら?」


「お釣り? ああ、残りのお金ですか? 全部使ってしまったので、辻馬車代が払えませんの。あなた、お願いできるかしら?」


 さすがだよ、クリスティーネさん!

 まさか、馬鹿のなかでも最上級スキルと言われている【親バカ】まで習得するとは……


 フローラがクリスを恐れるのも仕方がない。

 ウチの姉妹だって俺の買い物に驚いていたしな。


「はいはい、分かったよ。俺が運ぶから荷物はここで全部下ろしていいよ」


 ストレージに入れて運ぶと分かってるクリスは「さすがですわ、あなた」と言いながら荷物を下ろし始めた。

 俺がそれを手伝い始めると、フローラは我に返った。

 慌てて荷物を家の中に運び込もうとしたので、下ろすだけでいいと言った。


「でも、ご主人さま。このおにもつはご主人さまとおくさまのお子さまのおにもつではないのですか? ほかの家に住んでらしてここからまたはこぶのですか?」


 これらの服が着れる年の子供が俺とクリスにいるなんて年齢的に有り得ないと思うんだけど……

 

「いいからここに置いて。あとで説明してあげるから……イロイロとね」


 料金を払って辻馬車を帰すと、一瞬で全ての荷物をストレージに仕舞った。

 説明が面倒だったので見せたほうが早いと思ったが、この娘の反応はオモシロ過ぎた。


 一瞬ですべて誰かに盗まれたのかと勘違いしたようだ。

 庭中を駆け回ったり、鼻を動かしたり、いぬみみをピクピク動かして周りを確認したり、と疲れて動けなくなるまで走り回っていた。


「ご主人さま……もうしわけありません……」


 俺の前で泣きそうな声で謝罪するフローラのいぬみみはへニョんと折れてしっぽまで元気なく垂れ下がっていた。


「あなた、悪趣味ですわ」


「いや、クリスだって面白そうに見てたじゃん」


 俺たちはお互いの顔を見やり……納得はいかないが、二人はまるで仲の良い夫婦のように微笑み合った。


 それもあとで説明をすると言って、まだ周りを見回しているフローラの頭を撫でてやり、手を握って家に入った。



 ウチの優秀なメイド姉妹を紹介すると、同じ奴隷とは思わなかったらしく目を見張って驚いていた。


「お、おねーさま方もどれいなんですか!? フローラはこんなにきれいな女の人のどれいなんてはじめて見ました」


「よろしくね、フローラ。私はアルヴァ。こっちが妹のベアトリス。買って頂いたご主人様に少しでもご恩をお返しできる様に、みんな一緒に頑張りましょうね」


「フローラ、初めまして。私たちのご主人様はとっても優しいから心配しなくても大丈夫よ」


 優しい笑顔を向ける美人メイド姉妹に、フローラは緊張してしまっている。

 緊張をほぐすには【あれ】しかないだろう。


 もちろん、伝統の技ではない!


「クリス、フローラをお風呂へ入れてキレイにしてあげて」


「あなたが自分で洗ってあげればよろしいのではないですか?」


 クリスはそれが主人として当然だと言いたいらしい。

 しかし、それは……


 むり、だーーーーーーーー!!!!


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