1-22 休日とご褒美
ドリアーヌの村から帰った翌日は休みにした。
初の遠征の疲れもあるし、掃除や洗濯などやらねばならないことがたくさんある。
そして、一番の理由は昨日の晩からの事だった。
風呂場から始まり、そのままベッドへ移行して明け方まで繰り返し行われたことがその理由だ。
クリスがビッグウェポンを振りかざし俺に攻撃を仕掛けると、ベアトリスも負けじと参戦していた。
アルヴァも早く参戦したいだろうと気を利かせて、攻撃を受けているあいだ中、伝統の技を駆使し続けた為に全員が疲れていた。
その為に、ゆっくり寝過ぎてしまった。
今日は日曜日であるにもかからわずだ。
俺は急いで起きて朝食を取ることにした。
昼を過ぎたら朝食と呼べなくなるが、無事に昼前には食事の用意が整った。
おかげで日曜日にのみ許可をした朝食準備正装姿を、料理中から食べている時までじっくり堪能して目と心を休ませることが出来たのは僥倖だった言えるだろう。
朝食のあと、クリスと姉妹は掃除と洗濯を始めた。
もちろん手伝うつもりだったのだが、疲れが取れていないと今夜の修練に影響を及ぼすと言われば致し方ない、今日1日、何もしないでゆっくり休むことにした。
サービスなのか彼女たちは朝食準備正装姿のまま家事を行っていて、それはイロイロな部分にグッと来るものがあった。
今まで頑張っていて良かったなどと、本当は自分以外のみんなが頑張っているお陰なのに、そんなずうずうしいことを考えていた。
ぼんやり絶景を眺めていると、いつも働き者のアルヴァがさらに人一倍働いているのが目に付いた。
アルヴァはあまり戦闘が得意ではない。
しかし、最近はクリスとベアトリスの指導のお陰で俺が戦闘役でも収入は高水準をキープしている。
普段は朝食のあとに家事を全員で終わらせてから狩りへ行っていたが、アルヴァに家事を任せて、自分たちが朝早くに出かけて狩りをしても充分採算が合うのではないか。
それならアルヴァに無理をさせないで済む。
彼女たちが休憩をしている時を見計らって、俺の考えを意見として相談した。
クリスとベアトリスはその意見に同意をした。
それでも家の仕事を全てアルヴァに頼むのは悪いと思ったようで、二人とも狩りから帰ってきたら夕食を作るのを手伝うと言って、当の本人の意見を確認しようとしていた。
そしてアルヴァが泣き出した。
俺たちは突然のことに本気で慌ててしまい、その理由を尋ねた。
「ア、アルヴァ! ど、どうしたの!?」
その問いには何も答えずただ泣いていたが、ベアトリスが姉を宥めると、少しずつ話してくれた。
「ご、ごしゅ……じんさま……やっぱり、ご主人様は……私が……いらなくなって……しまったの……ですね……」
突然のそんな発言に全く心当たりなどなかったが、それでも俺は何かとんでもない間違いを犯したと思った。
アルヴァは勘違いの天才だが、何もなければこんなことを言い出すはずがないと知っていたからだ。
そして、時間をかけてアルヴァから聞いた話で分かったことは、やはり俺が間違いを犯したせいで泣かせてしまったのだということだった。
アルヴァはずっと悩んでいた。それはクリスが戦闘に参加したことで自分の存在価値が無くなってしまったと思っていたからだった。クリスにはアルヴァが必要な存在だと言われてはいても、家事は一応みんなが出来る。アルヴァは戦闘をもっと頑張って、家事も人より働いて本当に必要な存在になりたいと考えていたのに、俺は家事だけでいいと言ってしまった。
意図は全く違うが【いつもみんなで一緒】で、と言っていたにも拘らずアルヴァをのけ者にしようとした。アルヴァはその【いつもみんなで一緒】に入れないなら、自分はもういらなくなったと思ってしまった。
最近のアルヴァはずっと元気がない様子だったが、それでも毎日無理をして頑張っていた。それはいらない存在だと思われたくないという想いで必死だったからだ。
それなのに自分で常に言っていた事を曲げてしまった。それも俺は打算からアルヴァの気持ちを裏切ってしまったのだ。
「昨晩も……私はご主人様を疲れさせてしまっただけで、私のモノは全然大きくならなくて……。クリス様と妹に比べて貧相な身体……の私ではやはり満足させることなど出来ません……だから何の取り柄もない私はもう切り捨てられるのだと…」
伝統の技の効果など一日で出るはずもないのだが、それほど悩んでいたのに、気がつきもしてあげられなかった。
「あなた……私はあなたが悪いと思います。確かに私も先ほどの意見に同意いたしましたけれど、この娘の主人はあなたなのですから」
クリスはハッキリ俺が悪いと言ってくれたが、同じく俺の意見に同意をしてしまったベアトリスは、何も言わずただ黙って姉を見ている。それは、いまさら何と言えば良いのか分からないという感じの表情で悔いている気持ちもあるように見えた。
俺はただ呆然としていただけだったが、この事態を収拾してくれたのはやはりクリスだった。
「あなた。私はあなたが、この娘が言うようなことなど考えていないのは分かっています。私も迂闊でしたが……あなたは奴隷というモノがどんな存在なのかをまだ分かっていませんわ」
クリスは佐藤から俺たちの世界には奴隷がいないということを聞いて知っていた。
佐藤自身どう扱っていいのか分からないと言って買ったことがない。そしてそれも知っていたから、俺の奴隷に対する寛大な態度にも何も言わなかった。しかし、本来なら奴隷は物として扱うのが当然なのだから、いらなくなったら捨てられる。生真面目なアルヴァはそう考えてこんなことを言い出した。
だから、この事態を引き起こした責任は俺にあるのだとクリスは言った。
「私は戦闘に向かないこの娘のことを想って、あなたがあのような事を話したと分かってます。だから、一度は同意いたしましたけれども、別にお金に困っているわけではないのでしょう? ドリアーヌとは事情が違うのですから、もう一人、家事のために奴隷をお買いになって、みんな一緒に朝から狩りへ行けば良いではありませんか? あなたに買われるならその奴隷も幸せでしょうし」
それで、アルヴァの気持ちが収まるなら安いものだと思ったが、本人は消極的だった。
「で……でも、クリス様。それではまた……ご主人様の夢が遠のいてしまいます」
自分の為にまたお金を遣わせてしまうと思って、さらに暗く沈んだ表情を見せた。
そのことを知らないクリスは不思議そうに尋ねてきた。
「夢? あなた……夢ってなんですの?」
家を買いたい、商売もしてみたいなどの話をしたが、それは絶対したいわけではないと付け加えてクリスに説明した。
「あなたの本当の夢は冒険者として生きることで、それらはその中のほんの一部に過ぎないのでしょう? あまりお金を必要としない夢もたくさん持っていることでしょうし」
驚いたことに、クリスが最後までまともなことを言っている。
しかも、俺の夢……いや、男の浪曼を理解している。
「アルヴァ。あなたの主人の夢にはあなた自身が必要なのですよ。なぜか分かりますか? それは、その夢をみんなで一緒ですることも、またその夢に含まれているからですわ」
好きなことには子供みたいに喜び、人の気持ちを汲んでくれる馬鹿なクリスが、もし金髪巨乳で美人の女性だったら惚れていたな、と思った。
「アルヴァ、ごめん。良く考えもしないであんなこと言っちゃって。俺にはアルヴァが必要だ。ずっとみんな一緒でって今度こそ約束するから」
アルヴァがそれで泣き止むことはなかったが、分かってはくれた様子だった。
ベアトリスも心底ホッとした表情を浮かべ、俺とクリスにお礼を言った。
そして一人しかいない第一功労者は自慢気に自分をアピールしてきた。
「こんなに女性に対して寛大で、しかも優秀な妻にどんなご褒美を頂けるのか楽しみですわ。これで2つ目ですものね、あ・な・た」
ニヤニヤするクリスに対して、気分よく敗北感を味わいながらご褒美は何を作ろうかな、と考えていた。
俺は休みをは返上してクリスへのご褒美とアルヴァへのお詫びの夕食準備を始めることにした。
まずは、ふわとろに仕上げた自家製ケッチャプを使ったオムライス。
そして、魔バッファローのすじ肉に多種の野菜と魔チキンがらを煮込み、赤ワインをふんだんに使い、多種の香辛料に、玉ねぎを炒めて、ソースを混ぜて…と、いちからデミグラスソースを作った。
そのあと、魔バッファローと魔イノシシの肉を叩いてミンチにしてハンバーグを作り、デミグラスハンバーグを完成させた。
さすがに、カラアゲまで作るのは量が多すぎるのでクリス様にお伺いを立てて次回にさせて頂いた。
もちろん、見物人はクリス様お一人で姉妹には手伝ってもらっている。
仕上げはスポンジケーキを焼き、手持ち全ての生クリームを使って豪勢なデコレーションケーキを作った。
夕食にそれらをクリス様とアルヴァ様に献上して、心配をされていた妹君にも差し上げた。
ケーキは食べきれずに半分以上残ったが、生クリームを使い切ったと知っているクリス様は後日ゆっくり召し上がるそうで大事に保管するようにと仰られ、俺はそのご命令に唯々諾々と従った。
しかし、お風呂の時間は違った!
美味しい料理が食べられて幸せな自称妻が独自の大技スキルを使用しまくる夫へのご褒美を繰り広げ、献身的な姉妹はそれに対抗して今までの集大成とも言える熟練スキルを披露し、俺に尽くしてくれた。
またもや、そのままベッドへ修練場を移行して、カラダは疲れて果てても昨日に続き今日も大満足だった。
翌日は根本的な解決を急ぐために、俺とクリスで家事のための新たな奴隷を買いに行った。
姉妹は連れて行きたくなかったので家に残し、クリスにドレスを着せて出かけた。
俺はイグナシオの店に行くつもりだったが、広場に続く大通りが賑わっているので見に行くことにした。
大通りには露天が並び人が溢れている。
人を捕まえて何事かと尋ねてみると、今週は各地から商人が集まり市が開かるということだった。
露天を冷やかしながら話を聞いていると、広場で奴隷のオークションが開かれていると皆が騒いでいるのに気がついた。
ここは、どんな美女が俺を待っているかを確認しなければ男が廃るだろう。
「あなた。また、お顔が……」
「ち、違うからね! こ、これは、どんな娘が家事に合うか考えていた顔だからね!」
広場には大勢の見物客がいたが、オークションに参加するのは、ほんのひと握りの人数しかいない。
ちょうど屈強な男が60万で競り落とされたが、恐らく冒険者か護衛にでも使うのだろう。
次に紹介されたのは、俺好みの22歳の女性だったがスキルがない。俺がわざわざ診なくてもオークショニアが説明しているので誰でも分かる。
俺はチラリとクリスを見たが、睨まれて終わった。
いくら女に寛大でも、無意味に増えるのは嫌らしい。
その女性は持ち主の希望額が高すぎたのか、結局誰も競りに参加しないまま次回に持ち越されていた。
そして次は10歳の女の子だった。
スキルに家事Lv2、料理Lv1があり、なぜその年で、と思ったら両親ともに奴隷でその子も生まれた時から奴隷として存在し、物心つく前から働かされていたそうだ。
10歳になったので売りに出されたらしく顔立ちは良いのだが、初めて見る大勢の人間にビクビクと怯えていた。
それは仕方がないだろう、まだ10歳なのだから。
ただ、なまじスキルがあるだけに、この子も値段が高額だ。
それぐらいの年齢なら20~30万が相場だとアウルが言っていたが、この子は30万からのスタートだった。
俗にいう好事家はスキルなど求めない。
いくらスキルがあっても10歳ではどこまで役に立つか分からない。
それでも38万までいった。
そこで決まりかけたとき、俺はクリスに懇願した。
「あ、あの子! あの子にしよう。お願い、クリス。あの子買ってきて」
「あなた。何の為に来たのか覚えてます?」
まあ、言いたい事は分かる。昼間は誰もいなくなるのに、10歳の女の子一人に家事をやらせられるわけがない。少なくとも最初は誰かが面倒をみる必要がある。言ってしまえば本末転倒だ。
「でも、あの子がいいんだよ!」
必死でその子の一部に指を差して、未来の妻かもしれない人物にお願いをした。
優しいクリスはちょっと苦笑すると、その女の子を40万で競り落としてくれた。
その歳の女の子にしては破格のこともあり、周りから拍手を受けたが、どうやらなかには買った目的を勘違いしてイヤラシイ目でみる観客もいるようだ。
しかし、そんなことは関係がない!
いぬの【けものみみ】の【10さい】の女の子の【いもうと】系のふさふさの【しっぽ】つきの【メイド】だよ?
日本男児なら誰でも買うでしょ!!




