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1-19 浮気で洞察力

 空が白み始め、普段ならまだ寝ている時間だが、ベアトリスを起こすことにした。

 

 レーダーにはまだ動く者の反応はないが、村人が来るまで寝かせておいたら、ベッドの出処が問題になってしまう。

 その前に全員を起こす必要があるが、先にベアトリスを起こさねば俺が一人で起きていたことがアルヴァにバレてしまう。


「ベアトリス、起きて。朝だから」


 俺は昨夜のことを思い出さないように、可愛らしい寝顔のベアトリスを出来るだけ見ないようにして起こしたが無駄だった。


 相変わらず朝は寝ぼけるベアトリスを腰をかがめて起こしたが、ベアトリスは目を覚ますと俺の顔を見るなり腕を伸ばして抱きついてきた。

 驚いて顔を向けた瞬間に、昨晩と同じ恋人同士のような長い朝の挨拶をされてしまった。


 接触させていた顔を少し離すと、ベアトリスは目をパチパチっとまばたかせ、顔を赤くさせて普通の朝の挨拶をした。


「お、おはようございます、ご主人様。あの……きょ、今日は頑張りますね」


「あ、う、うん。よ、よろしくね、ベアトリス」


 お互い顔を赤くして下を向いたまま黙ってしまった。

 正直な話、何をいい年をしてやっているんだと思った。

 しかし、やっていることはともかく、日本社会に置き換えれば、高校生と中学生だから恋人同士でも不思議はない、まさに純愛! と都合の良いことが頭に浮かんだ。


 俺より大人であるベアトリスの方が立ち直りは早く、ベッドの中で外した装備品の胸当てを着け直し、腰に剣を差すと、姉たちを起こしにそのまま走って行ってしまった。


 俺も慌ててベッドを収納してあとを追うと、ベアトリスはまず姉であるアルヴァを起こしにかかっていた。


 反対側から真下を見ると、クリスはまたベッドに潜って丸くなって寝ているようで、かけてある布団がこんもりと盛り上がっていた。


 俺はベッドの中に手を入れてクリスを引き摺り出そうとすると、何かとてつもなく素晴らしい感触の柔らかいモノが手に当たったが、ベアトリスの朝の挨拶に比べれば全く恥ずかしくもなく、このままこの感触を堪能しようかと思うことすら出来た。


 しかし、まさかうぶなベアトリスの前でそんなことが出来るはずもなく、同じくうぶな俺がそんなことをしている姿を見せるわけにはいかないと思い、どこまで持つか分からないが、今だけは自制した。


 もぞもぞと這い出してベッドから顔を出したクリスは俺の顔を見るなり何かに気付き、ジッと俺の目を見つめた。


「あなた、おはようございます。ところで浮気しましたわね?」


 俺は意味もなく焦ってしまった。


 一瞬、ベアトリスの顔を見てしまったが、それはクリスも分かっていることで、いまさらである。

 特別なことはなくとも、やはり男とは『浮気』と言われるだけで動揺して慌ててしまう生き物なのだと思った。


 しかし、クリスの意見は違った。


「あなたも男という生き物なのですから、カラダだけの関係でしたら問いもしませんし、気にもしませんわ。ですが、心が動くとそれは『浮気』なのですよ、あなた」


 まだ嫁でもないクリスを相手に、口から心臓が飛び出そうなほど鼓動を早くしてしまった。


「ですが、相手はわたくしの妹のような存在ですし、それに……ちゃんと一晩中寝ないでいたようですから許してあげますわ」


 そう言って微笑むクリスに見つめられて、早くなりすぎた鼓動が今度は止まってしまうかと思った。


 相手が分かるのは昨日の状況からすれば当然なのだが、まさか本当にベアトリスが言った通りクリスが俺の考えに気づいていて、しかも俺の心の動きまで読み取られるとは、驚き過ぎて死んでしまうところだった。


「心配しないでもいざというときは、寝ているあなたをわたくしが、ちゃんと起こして差し上げますわ」


 などという言葉は既に俺の耳には届いておらず、女のカンとクリスの洞察力という世にも恐ろしいモノを体験した俺は、泣いて謝ろうかと真剣に考えていた。



 そしてそれは、俺だけではなかった。

 ベアトリスに起こされたアルヴァは、朝まで寝てしまったことに愕然として動けなくなっていた。


 俺が近くにいることに気が付くと、飛び上がる勢いで跳ね起きて、俺の足元で土下座をした。

 取り返しのつかない失態を犯したと思い、涙を浮かべ、声を震わせながらお詫びの言葉を述べ始めた。


 この事態を予想できなかった訳ではないが、如何様いかような罰でも受けるからまだ見捨てないで俺に仕えさせて欲しいと言うアルヴァに、どう答えてこの事態を収拾させるかまでは考えていなかった。


 俺はベアトリスと交代で寝ていたから問題ないと伝えて、ベアトリスにも話を合わせてもらった。


「姉さま! 本当にご主人様は姉さまを大切にしてくださっただけですから。姉さまがそんなことを言われてしまうと、ご主人様のご温情を無碍にすることになりますから、お礼を申し上げて今日も私と一緒に頑張りましょう!」


「でも、私……いつも足を引っ張てて……」


「そんなことないよ! アルヴァがいてくれないと俺は困る。だから気にしないで、今日もみんなで一緒に頑張ろう?」


 アルヴァはどうしても、目に見える形で俺の役に立ちたいと考えているのは分かっているが、実際はアルヴァのおかげで色々と助かっているし、そんなものがなくても一緒にいたいと思っているという俺の気持ちをどうにか伝えられないかと考えていた。


 そんなとき、間が悪いことにレーダーに村人が動き出しているのが映り、このままではマズイ状況になる。

 人の機微に聡いクリスならなんとかしてくれるのではないかと、非常に都合の良いことを思い付き、アイコンタクトで時間がないことを伝えた。


 ムラビトガウゴキダシテイルナントカシテクレ


 ゴホウビシダイデスワアナタ


 カエッタラオイシイオムライスヲツクルカラ


 これでもう大丈夫だと思ったのだが、生意気にも交渉スキル持ちの俺に勝負を挑んできた。


 カラアゲモタベタイデスワ、ソレトナマクリームノケーキモ


 唐揚げはともかく生クリームは本当に貴重だ。

 クリスが満足させることが出来るだけの量になるとかなりの消費が予想される。


 なんとか妥協を求めようと、ほかの物で色々と交渉したがクリスは譲らず、こうしている間に村人が家を出てこちらへ向かっているのがレーダーで確認された。


 ……ワカッタカラハヤクタノム


 キャーアイシテイマスワ、ア・ナ・タ


 クリスの愛など生クリーム以下だが、それにしても、こうも簡単に敗れてしまうとは、やはりスキル頼みではこの世界は生き残れないということが判明した。


 クリスは子供の頃に食べた佐藤の料理のような、子供が好きな食べ物を好む傾向がある。

 子供心が忘れられないというより、子供そのものなのだろう。


 そのクリスに負けた俺はただの道化か……

 

 なんて言っている場合ではない。


「ほら、クリスを見なよ。コイツだってずっと寝てたのに、こんな堂々としてるでしょ? アルヴァは働き者だから、疲れてると思ったんだよ。ねー、クリス?」


 出番待ちのクリスに無理やり話を振り、あとを託した。


「アルヴァ、よく聞きなさい。わたくしたちには、貴女が必要なのです」


「え? ク、クリス様にもですか? 私が?」


「そうです。貴女がいないと普段の食事は誰に作って頂けば良いのですか? わたくしは、まだまだですし、ヨウスケはあまりここの調理器具の扱いには慣れていません。ベアトリス一人では大変ですわ。」


「やはり、私にはそれだけしか……」


「何を言っているのですか! 一番重要なことではありませんか。食事をしないでどうやって生きていくのですか? 家事をやらずにどうやって生活するのですか? わたくしたちの一番重要な部分を支えているのは貴女なのですよ」 


 さすが、クリス! アルヴァの目に光が戻り始めたよ! 


「それに、修練の成果も出て来ているようで、昨晩は今までの記録を大きく塗り替える量を翔ばしていたではありませんか」


 いや、それは……し、しかし、アルヴァの目が輝いていて本当に嬉しそうだ。

 よし、クリス! もう一息だ。一気に勝負に出ろ!!


 俺の合図に気がつくと、クリスは頷きトドメの言葉を口にした。


「貴女に比べれば、わたくしなど、たかだか剣が使えるだけで、あとはこの大きすぎるモノを使って夫を喜ばせるぐらいしか役に立ちませんわ」


 アルヴァの目からは一気に光が消えて、両手を胸に当てたまま、どんよりした空気に包まれていた。


 クリスは人の機微に聡く、男心にも詳しいが、残念なことに女心だけは全く理解できていないことがよく分かった。


 姉思いの優しいベアトリスは、そんなアルヴァを励ます為に声をかけた。


「姉さま、私もクリス様と一緒です。クリス様には及びませんが、私もこの大きいモノでご主人様を喜ばせてあげるぐらいしか出来ないのですから。姉さまの動きやすいお身体からだが羨ましいぐらいです」


 優しさとは残酷なモノで、トドメをすでに刺されているアルヴァに追い討ちをかけていた。


 灰のようになってしまったアルヴァに希望を与える為、仕方なく俺は、未だに真偽のほどは確かめられていない日本古来より伝わる技を使ってあげる約束をした。


「アルヴァ。俺の国では『人それぞれ違う大きさのモノ』を、伝統の技によってさらに大きく出来ることがあると聞く。もちろん不公平になってしまうから、アルヴァだけとはいかないが、それを今夜から実践してあげよう」


 こうして俺はアルヴァの為に、各人2つずつ備わっている【人それぞれ違う大きさのモノ】を手で掴んで動かすという運動を全員にいられることとなった。


 身体からだに光が戻り始めていたアルヴァに防具である胸当てを着けてあげた。

 そして、恐縮してカラダを硬くしてまったアルヴァのために、少しだけ伝統の技も試してあげた。


 すると、緊張が溶けたのかアルヴァのカラダが柔らかくなり、それをベアトリスが羨ましそうに見ていた。

 公平な主人である俺は、そんなベアトリスにも緊張をほぐす効果があると証明された伝統の技をしてあげたかったが、村人がもう近くまで来ていたので、今夜必ず披露すると約束して我慢してもらった。


 

 村長率いる村の住人は小さい子供以外の全員が集まっていた。


 作戦自体を変更していた為に参加人数を増やす必要があった。

 集めた村人全員の前で、クリスは確認の為にもう一度作戦を説明した。


 魔カピバラが出現したら、畑に多少の被害は覚悟してでも、確実に全滅させる為、一箇所に集まるまで待つ。

 村人たちによる囲みが完成したら、囲みを縮めながら姉妹が群れを溝の罠に追い込む。

 俺とクリスは、罠に落ちなかった魔カピバラをダッシュで追いかけて仕留める。

 ベアトリスが先頭に立ち、村人と共に、隙をついて罠に落とした奴らの手足を狙い、罠から出れないようにする。

 そうやって時間を稼ぎ、俺たちがトドメを刺す為に戻って来るまでは無理をせず、溝の外に出て待機する。


 襲いかかれば魔カピバラは逃げの一手で、退路を立ち塞がなければ向かってくることはないとクリスが思い出したから立てられた作戦だった。

 村人への危険は軽減されたと思い、出来るだけ大勢の参加を求めてはいたが、それでも危険はあるので、まさか大人全員が参加するとは思っていなかった。

 それだけ、深刻な問題だったということだろう。


 そして、作戦は開始された。


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