表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リトルウィッチ・プログラム  作者: 坂本一輝
第一部:魔法少女ルーチェ×アイリス
7/60

魔法ときらきら 06

「きゃあああ!!」


 轟音と同時だっただろうか、店内に誰とも確認できない声の悲鳴が駆け抜けた。


「美湖っ!」


 わたしは美湖にそう叫ぶとすぐに姿勢を低くして、テーブルの下に頭と身体を隠した。美湖もわたしに一瞬遅れて同じように身を隠す。

 

(今の音・・・爆発音? それにこの震動・・・)


 地震という可能性は限りなくゼロに近い。

 日本の国土はその全てが地殻制御魔法の管理下に置かれているからだ。


(これは、やっぱり・・・!)


 こんな繁華街のど真ん中で、理不尽な轟音をまき散らす原因。わたしの知っている限り、それは一つしかない。戦争が無くなり、自然災害を未然に防ぐことも可能となり、楽園とも言える平和状態になったこの地球上で、唯一人類を脅かすもの。



 第一種特別指定災害、"魔力爆発"―――



轟音と、店内を揺らしていた震動が収まり、客が様子を窺うようにテーブルの下から顔を出し始める。


「お姉ちゃん、今のって・・・」


 美湖が心底心配そう、まさに真っ青な顔をしてこちらを見てきた。その目はまるで身寄りをなくした小猫のようにか弱く、わたしに全てを委ねているような危うささえ感じられる。


「魔力爆発、だろうね」

「じゃあ早く逃げなきゃ・・・!」


 美湖が、血相を欠きながらわたしの手を取る。


「逃げるって、外出たら危ないよ」


 その言葉に、美湖は信じられないというような顔をして。


「バカ姉貴! 新聞読め、ニュース見ろ!」


 そこまで言われて、ようやくわたしは気づいた。

 "魔力爆発が起きた時の対処法"。それはまず第一波の「一次爆発」が終わった事を確認したら。


「爆発が止んだって事は、もうすぐあいつらが出てくるんだよ!」


 その場からどんな(・・・・・・・・)手段を使ってでも、(・・・・・・・・・)即座に逃げること(・・・・・・・・)


「バーストモンスターが!!」


 この掟は絶対に守らなければならない。

 さもなければ、死ぬ。


「早く、逃げなきゃ・・・!」

「待ちなって」


 わたしの手を取って走り出そうとした美湖を引き留めた。今の妹は、明らかに冷静さを欠いている。それに比べれば、まだわたしの頭の中はクリアだった。魔力爆発への対処法を知らなかったのは、単にわたしがバカだっただけの話なので、それはそれだ。


「魔術障壁くらい展開させときな」


 ブレザーのポケットからスマホを取り出し、美湖に明示するように指で画面をとんとん、と叩く。


「丸腰で飛び出したら、それこそ死んじゃうよ」


 突然ビルが倒れてくるかもしれない。突然地面が崩れるかもしれない。その可能性を排してしまうのはあまりにも危険だ。


「あっ・・・」


 虚を突かれたように虚を漏らすと、美湖は意外そうな顔をして、すぐにスマホを操作し始める。

 わたしも急いで『ライフライン』アプリを起動させた。そしてそのリストに入っている一つをタッチすると。


『アプリ"魔術障壁"セットアップ』


 次の瞬間、携帯から丸い形をした魔法陣が展開された。虹色に発光した魔法陣は、大きさにして2m弱・・・女の子一人分の楯になるには十分な大きさ。

 美湖も障壁を展開させたことを確認すると、急いでファストフード店から外へと出る。出入り口の自動ドアが壊れていなかったのは不幸中の幸いだったと言うべきだろうか。


(それにしても、まさか実際に魔力爆発なんかに巻き込まれる日が来るなんて・・・)


 朝、隣街で魔力爆発が起きたというニュースを話半分に聞いていたのを思い出していた。今から思えば、あれが何かの予兆だったとしか考えられない。今日のわたしの運勢、ダントツだったのになあ。


 外に出て飛び込んできた光景に、わたしは思わず閉口してしまった。

 そこには人っ子一人見つからない、ゴーストタウンになってしまったかのような繁華街が広がっていた。高い商業ビルが立ち並び、本来ならたくさんの車が行きかっているはずの幹線道路、歩道。そのどこからも、人の気配が感じられない。道路にある無数の車は運転手が逃げ出したのか、乱雑に乗り捨てられている。

 最早ここはわたしの知っている、いつもの駅前繁華街ではなかった。


「姉貴、あそこ・・・」


 美湖が、わたしの後ろを指差す。振り返ってみるとそこにあったのは、わたしの立っている位置から数百mほど離れた、駅前の商業ビルでも一番栄えていたビル『だったもの』だった。

 そのビルは『わたしの知っているビル』と比べると、明らかに背が低くなっている。あのビルは確か、他と比べると頭一つ分ほど高い、この街一番の商業施設だった。だけど、今、目に映っているそのビルは、わたしの記憶の中のビルと比べその高さはおよそ半分。

 他のビルより少し背の小さなビルが、黒煙を上げている。炎もくすぶっているのか、わずかに赤い色も確認することが出来た。


「あの大きさのビルを半分吹き飛ばしたって事は・・・多分、"中規模爆発"だよ」


 美湖の震えた声は痛々しさすら感じる。

 この子は基本的に気が弱い。本来ならこんな状況、耐えられたものではないはずなのに。

 それでも美湖は、わたしにこの災害の規模を伝えてくれた。だけど、やはり全く知識の無いわたしが一方的に悪いのだけど、中規模爆発と言われても。その大きさや強度が分からないのだ。


 ただ、分かることが一つだけある。

 とんでもなくヤバい事に巻き込まれたという、その危機感だ。


「とにかく今のうちに逃げよう。駅の方は危ないから、裏路地から学校方面へ抜けて・・・」


 逃げること。今はそれを何よりも優先すべきだ。

 今、この繁華街からは一切の音がしない。辺りがまるで水を打ったかのように、怖いくらいに静かになっている。災害が現在進行形で起きているその現場とは思えないほどに。

 気味が悪い。

 そうとしか言いようが無かった。


 美湖を連れて、ここから立ち去る算段をしようとした、その時。

 わたしは『見てはいけないもの』を見てしまった。


(陽菜・・・!?)


 茶髪のボブカットに、ハッキリした目鼻立ち。背は小さいもののやたらスタイルが良い・・・そして何より、わたしと同じ制服を、ボタンを外し崩した着方で着ている。

 その彼女が道路を挟んで反対側の路地裏へと消えていく姿を、ハッキリと見てしまった。


(こんなところで何やって・・・)


 一瞬そんなことを思ったが、それを考えている時間も、余裕もない。

 もうすぐ"奴ら"が出てくるっていうのに、あんな震源地に近い路地裏なんかをうろついていたら、間違いなく。


「美湖、わたしちょっと用事があるから先帰ってて」

「は、はあ!?」


 美湖に、再び信じられない、と言うような、驚愕と極限の呆れを足して2で割ったような表情をさせてしまった。


「なに考えてんの!? 死にたいわけ!?」


 美湖は決してわたしが行くことを許しはしないだろうと、頭のどこかでなんとなくだけど直感した。下手をしたら、しがみついてきてもう離してくれないかもしれない。

 だから、わたしは強硬策に出るしかなかった。

 サブバックを美湖の方に放り投げる。美湖はそれを見事、地面に落とさず捕ってみせた。


「さすがわたしの妹だね」


 そう言って、にっと笑いかける。


「いい、絶対。絶対一直線に家へ帰るんだよ。もしそうしなかったら、一ヵ月間口きいてやんないから!」


 わたしは振り返り、全速力で走り始めた。

 目指すは、向かい通りの路地裏。陽菜が入って行った、あの場所。


「待って、待ってよお姉ちゃん・・・お姉ちゃーん!!」


 後ろから美湖が半分泣き声のような声色で「行かないで」と懇願してくる。わたしは罪悪感で頭がいっぱいになりつつも、それでも歩みを止めて戻ることは出来なかった。こっちには魔術障壁もある。陽菜を見つけて、連れ戻すだけ。それだけの話だ。それ以上は絶対に、絶対に何もしない。だから、今からすることは怖くないんだ。


(お願い、間に合って・・・陽菜!)


 こんなこと、するつもりは無かった。

 別に陽菜とはダチでもなければ何でもない。だけど、それでも放っておくなんて出来なかった。

 なんか、かっこつけたような言い方になるけど、身体が勝手に(・・・・・・)動いてしまったのだ(・・・・・・・・・)


 だって、今ここで陽菜を放っておいたら、『間違いなく』死んでしまう。

 それだけは絶対に嫌で、認めたなかった。だから連れ戻すだけだ。あそこで何をしていたのかと聞くつもりはない。引きずってでも、"連れ戻す"だけ。大丈夫、何も危険じゃない。危なくなったら逃げればいい。



 この世のものとは思えない咆哮が聞こえたのは、わたしが駆け出してから数十秒と経たない頃のことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ