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リトルウィッチ・プログラム  作者: 坂本一輝
第一部:魔法少女ルーチェ×アイリス
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御崎大橋決戦 -オペレーション・バリアブレイク- 03

 一時も経たない後、ミーティアから返事が来る。


「貴女達には私がヘマをしたせいで、そこの女に抱かれてる娘を助けてもらった恩もある」


 ミーティアはちらっと、感情が籠っていない冷徹な目で、お姫様だっこをされているこちらに目をやる。

 ・・・なんか、目がいつもより何倍増しで怖かったように感じたんだけど。


『では・・・?』

「共闘の申し入れ、了解したわ。全てのビームと大規模型の動きを停止させる・・・。今の私になら、不可能な事じゃない!」


 そう言うと彼女は止むことのない、自在に曲がる赤ビームの雨をかいくぐるように戦闘宙域を縦横無尽に舞ったかと思うと、次の瞬間には。


「ヴィジョン、全機起動!」


 叫び、彼女の腕から20基すべてのヴィジョンが剥がれていく。

 腕から離れた瞬間、ヴィジョンは自由意志を持っているかのように空中を動き回る。

 勿論そのようなものなど持っているはずがなく、ミーティアが途方もない量の演算をして操作しているのだけど。


「動きを止めるには、まず数的優位が絶対に欲しい。だったら・・・」


 自身も飛行魔法で旋回しながら、ミーティアはヴィジョンを操作する。

 いつものようにビームをビームで落としていっているものの、砲門の数が同じ20なのでまるでモグラたたきでもしているかのような要領だ。

 あちらを打てば、こちらから他のビームが出る。


 すべてのビームを撃ち落し、一瞬だが「静寂」の時間が訪れた。

 しかし、ここですべてのヴィジョンによる収束攻撃を行っても無意味なことは分かっている。

 ミーティアが狙ったのはそこ(・・)ではなかった。

 BMがビームを出すべくその管の中が僅かに赤くなり・・・


「今よ! この時を待ってた!!」


 まさにその刹那と言うべきだろうか。

 管の目の前に、ヴィジョンが出現する。

 しかもそれは1つではない。同時攻撃を行おうとした実に5つの管の前にヴィジョンが現れ、その砲門は確実に『管の内部』をロックオンしていた。


「自らの魔力で弾き飛びなさい」


 管から赤ビームが射出される、その瞬間。

 ヴィジョンから紫色のビームが放たれ、その光は管の内部へと突き刺さった。


 BMが再び大声で悲鳴を上げる。

 それと同時に、BMの管5本・・・背中のもの2本、右腕2本、左手1本の管が、チャージしていたビームとヴィジョンのビームにより、吹き飛んだ。


あの武器(ヴィジョン)を、遠距離攻撃じゃなく近距離攻撃に利用するなんて・・・」


 先ほどは取り乱していたが、ミーティアは至って冷静だ。

 少なくとも、自分の武器の特性を最大限に活かし、未知の敵を止める、その方法を考えられる程度には。


 だが、ここでミーティアは攻撃の手を緩めない。

 あの管にはかなり深いダメージを与えただろうが、それでもあの特種の能力なら、3分も経たないうちに回復してしまうだろう。

 BMは残り15本の管からビームを射出してくる。5本の管が潰れたことなど、まるで効いていないかのように。

 ミーティアもヴィジョン15基利用し、その全てを撃ち落す。

 そして。


「今度こそ、動きを止めてやる・・・! これは試したことが無かったけれど、バケモノ相手なら丁度良いわ」


 余った5基のヴィジョンが空中で集まったと思えば、編隊を組むが如く、直列に、一直線に並ぶ。


「元来武器は細いものを使うのが基本なの。槍や、刀の切っ先が細いのは、力を一点に集めて余計なパワー分散を防ぐため。なら」


 5基のヴィジョン、その最前列に配置されたものからビームが照射される。

 そのビームは先ほど行ったすべてのビームを合体させて巨大なビームを作った方法とは逆の発想。

 照射されたビームは細く、それはただ1つ、ある一点のみを狙っていた。

 それは。

 

「5基の自在兵器を連結させて、5倍のパワーを持った細いビームを作ったというの!?」


 わたしを抱っこしている国連兵も相当に驚いていたようだったが、それでもしかし、わたし自身も同じくらい唖然としていた。


(なんて強力で都合の良い武器・・・)


 ちょっとだけ『欲しい・・・』という考えが頭をもたげてくるほどまでに。

 収束された細いビームが狙った点はただ一つ。

 大抵の脊椎動物の急所で、かつビームが貫通するほど細く、外装皮膚が薄い部分。

 そう、"首"だ。

 ビームが首に直撃する。

 今までの攻撃なら、ここですべてが弾き飛ばされてきた。だが。


「「貫通した!!」」


 思わず国連兵の女の子と自分の声がかぶってしまった。

 紫色の細いビームは見事に首のうなじから喉元へ、貫通した。


 さしものBMもこれは応えたらしい。


 一瞬、全身の動き(・・・・・)が止まったのだ。


『"リュウセイ"、作戦協力感謝する! 奴の介錯・・・私が引き受けた!!』


 恐らく世界で最高の飛行技術を持つ魔導師が、BMの足元まで低空飛行していったかと思うと、喉元まで飛行魔法をブーストさせて急浮上した。


 目視能力も大幅に低下しているわたしは、視覚情報を維持する魔法の計算を自らこなし、必死に彼女の動きへその視線を移す。

 准将さんは神速・・・まさに『神の速さ』で左腰辺りについている鞘から剣を抜き、右手で持ったそれをBMの喉元に突き刺した。そこから自分の身体が粉々になるのではないかというくらいに飛行魔法のギアを最大出力で上げ続け、そのままBMの喉元からうなじまでを斬り付けて、だがスピードは失う事なく。最後には勢い余って、何もない空中・・・BMの真上まで飛び出してしまうほどだった。


 彼女は瞬きをしている間にも思える時間で、BMの首半分をざっくりと切り裂いてみせたのだ。


 またもやBMが地響きとさえ思える叫び声を上げる。

 だが、最早ここに居る兵士たちはそんなことでは動じない。


『たった一撃食らわせるだけで我が愛刀がナマクラと化すか・・・』


 准将さんはBMの赤い魔力が身体中・・・特に顔の右部分にびっしゃりと付着しているのも意に介さず、ボロボロになった剣を捨てると、左腰に身に着けている3本の鞘、その残り2本のうち、もう1本を抜刀した。


『だが、次の一手で貴様は終わりだ。これで(・・・)確実に首を刎ねる(・・・・・・・・)


 首を切り落として動きを止めれば、国連軍には何らかの手立てがある。

 それは准将さんや、後方で様子をうかがっている国連軍本隊を見れば分かる。


 ―――ならば、ここが勝負の分水嶺。

 准将さんが大規模型に突撃しようとした、その瞬間。


 信じられない、全く信じられない光景が目の前で展開された。


 BMの背中に2つの穴が空いたかと思えば、次の瞬間、そこから黒い物体が現れたのだ。


 いや、現れたという表現は間違っているのかもしれない。

 少し離れていた場所に居たわたしには、その姿かたちはまるで。


BMに(・・・)、"()"が生えた(・・・・)・・・!?」


 としか、喩えようがないものに見えた。


 そして、この羽が100%、ただの飾りでは無いことも、アイリスの力を借りてもいないのになぜだか直感的に理解することが出来た。


 一瞬の休みもない。

 まるで高圧の電気が流れるかのように、ビームがバチバチという音を立てながら羽中を駆け巡ったと思えば、次にはそのビームが拡散し、BMの周囲数十メートルの空間がその透明なビームで満たされた。


 そう、"周囲数十メートル"が。


「きゃあああっ!」

『ぐあぁぁっ!』


 BMに最も近いところで戦闘を行っていたミーティア、及び准将さんはその攻撃を全身に浴びてしまった。

 このビームフィールド攻撃は今まで大規模型が繰り出してきた攻撃とは、

 

 威力も。その射程も。使い勝手の良さも。


 何もかもが"段違い"だった。


「ミーティア! アイリス!!」


 わたしは涙目になりながら叫ぶ。

 目視できたのは、ミーティアと准将さんが気を失い、落下していくところまで。

 それ以降はビームフィールドの影響なのか、目で追うことが出来ず、彼女達をズームしようとすると四角枠には砂嵐しか表示されなくなっていた。


「そんな、アリーナ准将が、一撃で・・・。人類最高戦力の1人なのよ・・・!?」


 泣きそうな顔をしているわたしを抱いている彼女は、もっとひどかった。

 この世の終わりのような顔をしている。


 でも、今から数秒後、わたしも彼女と同じ心情になった。


 BMは羽をたたむと、再びうつ伏せのような(・・・・・・・・・・)体勢になり始めたのだ(・・・・・・・・・・)


『まずい! あれはまさか・・・!?』

『絶対遮断フィールドを形成するつもりだ!』


 兵士たちが血相を欠いて後方から飛んでくるが、もう間に合わない。

 大規模型は先ほどのように赤いフィールドで自らの身体を覆い、眠りについてしまった。


 ・・・絶望しかない。


「准将、准将、応答を願います、准将!」


 国連兵の彼女が何度通信を開いても、准将さんから言葉が返ってくることは無い。


 わたしもミーティアやアイリスのプライベートチャンネルからメッセージを発信しようとしたが、見事に通じない。

 この状態から察するに、アイリス、ミーティア、准将さんの三人は。

 絶対遮断フィールドの内側に閉じ込められた。

 そうとしか、考えようが無かった。


「ただ不完全な状態で起こされただけで、"羽化"は失敗なんてしてなかったんだ・・・っ」


 名無しの彼女はそう言って歯を噛んだ。

 歯が欠けるんじゃないかと言うほど、強く。


「じゃあ、あれは・・・今度こそ"完全体"になろうとしてる、ってこと?」


 わたしはあえて、何も分かってないような間抜けな声で彼女にそう語りかけた。


「ええ、そうよ。もうああなったら、私達じゃ、とても・・・!!」


 国連兵の彼女はわたしから目を逸らした。

 その瞳にどんな気持ちが宿っているのか、今の私に知ることは出来ない。

 だけど、きっとその目は。

 かつてわたしがしていた目と同じだ。

 全てを諦めて、それでもその"しがらみ"から決して逃げられない、『呪い』を宿した瞳。


 ―――ああ、分かってる。

 ―――分かってるよ。


 変性異識の精神制御でこんな顔をしているが、内心焦っているどころの話ではなかった。


 あれで不完全? それでミーティアと准将さんを一瞬のうちに討ったって言うの?

 じゃあ、"完全体"になったらどれほどのバケモノになるのか・・・

 怖くて(・・・)、想像もできなかった。


 しかも、先ほどあの絶対遮断フィールドを破ったアイリスとミーティアは、BM大規模型と共にフィールドの向こう―――


 外部からあれを崩すのは、間違いなく不可能だ。


 ・・・少なくとも、今のわたし達には。

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