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リトルウィッチ・プログラム  作者: 坂本一輝
第一部:魔法少女ルーチェ×アイリス
39/60

御崎大橋決戦 -オペレーション・バリアブレイク- 01

『遮断フィールドが薄くなっているポイントは全部で20、つまり、これを全て稼働させられれば・・・!!』


 傍受したチャンネルから、しっかり声が聞こえてくる。

 この声・・・間違いない。あの黒ツインテ魔法少女だ。声色から、相当な焦りの様子がうかがえる。


『いけえっ!』


 黒魔法少女の右腕から、20基の黒ランスが剥がれていく。


 しかし、それは"明らか"だった。


 宙に浮く20のランスはまるで統率が取れておらず、ふらふらと右往左往するばかり。

 8基のランスを使っている時と比べれば、別人が動かしているのかと見紛うほど。


『ダメっ、スラスター、ビーム出力、コントロール・・・空間把握の演算が追いつかないっ!』


 だが、それでも彼女はその不完全な状態の武器を用いようとしている。

 加えて、先の戦闘であれほどまでボロボロになるまで戦った彼女なら、この戦いは文字通り"命がけ"で来ているのだろう。

 刺し違えてでも・・・と考えている可能性は高いと考えざるを得ない。

 黒魔法少女はその覚悟を持ってここへやってきたのだ。


 だから"わたし"は。

 彼女もこの街も世界も、すべてを守ること(・・・・・・・・)にしたわたしは(・・・・・・・)


「ここから先へは、行かせない!!」


 身に纏っていた光学迷彩魔法を解除すると、突進してくる黒魔法少女を完全に遮るような形で両手を開き、彼女が駆け抜けるべき進路上へと、その姿を現した。


『"シロガネ"!』


 わたしの姿を確認してか、国連軍の兵士たちが歓声を上げる。


「どうして・・・」


 だけど、肝心の黒魔法少女は。

 わたしの登場を、喜んではくれていないようだった。


「どうしてまた来たの! 貴女は!!」


 その時、何が起こったのか理解するのに数秒の時間を要した。

 黒の魔法少女は直進してきたスピードのまま眼前にまで迫ってきたかと思えば、わたしとぶつかるギリギリのところで緊急停止し、怒りの籠った目でこちらを睨むように見上げた。

 ・・・いつも上からわたしを見下げていたことを思い出せば、初めて彼女がわたしを上目づかいで見た瞬間だった。

 まさに顔と顔とが至近距離、目と鼻の先ほどの間隔しか開いていない。

 加えて、物騒なことに彼女の展開した20のランスのうち1つが、わたしの喉元に付きつけられていた。


 こちらは丸腰だ。

 武器や防御手段など持っていない。

 彼女が今、このランスからビームを射出すれば。

 多分、わたしは死ぬだろう。


「なんで・・・どうして逃げないの!?」


 一瞬の静寂の後、黒の魔法少女は目を俯き、口に出した。

 初めて聞く、彼女の弱音を。


「私がここまで戦ってきたのは、命を賭して戦場に出てきたのは、全部・・・!」


 震えた声で言葉を続ける彼女からは痛々しさすら感じるほど。

 それを途中で遮るかのように。

 わたしは、彼女の両肩を掴む。


「ごめんね、わたしバカだから(・・・・・・・・)。あなたがどんな気持ちで、どんな覚悟を持って戦ってきたのか、そんな事ちっとも分かってないんだと思う」


 そして半ば無理矢理に、前を向かせた。


「だけど、わたし達が目指してるところは、きっと違う場所じゃない・・・。そうだよね」


 彼女は目を泳がせるようにこちらから目線を逸らした。


 だけど、わたしはもう逃げない。

 この子からも、絶対に逃げたりしない。

 わたしはただ一点、彼女の目を見つめ。


「勝とう、一緒に。あなたが命を投げ出すことなんてないんだよ。わたしはこの宙域に居る人たち全員が命を落とすことなく生き残る道を選んで、その上でBMを討滅したい」

「そんなこと・・・」

「出来る」

「絵空事だわ」

「出来る!」


 語気を強めてそう声に出す。

 言わなきゃ、何も伝わらないって。そう思ったからだ。


「わたし達は、世界を救う魔法少女でしょ。わたし達に不可能な事なんて、無いんだよ!」


 黒魔法少女は一瞬、逆上せたような顔をしてわたしの目を見つめると。

 その表情はすぐに普段の凛々しい顔に戻り。


「・・・勝機は、あるんでしょうね?」


 話しかけてくれた。

 初めて彼女が、わたしとの対話に応じてくれたのだ。

 ようやく交わせた、初めての言葉。

 それに対して、わたしは。


「もちろん」


 自信満々に、大きく首を縦に振りながら答えた。


 わたしは何もない空中をタップする。

 指紋認証、ID、パスワード、入力完了。W.I.T.C.H.プログラムのマイページへと飛ぶ。

 そして、"それ"を表示させた。


「今から、わたしのOSの管理者権限をあなたに譲渡する」

「OSの譲渡・・・?」

「わたしのOSは、量子コンピュータとリンクすることが出来るの」


 それを聞いた黒魔法少女は相当に驚いた顔をした。


「量子コンピュータ・・・そんなものが、存在していた・・・!?」


 目を丸くする、とはこういう状態を表す慣用句なのだと、分かるほどに。


 黒魔法少女・・・恐らく"ファースト"ではない6人の魔法少女には、そこまでの情報や権利は与えていないことが彼女のリアクションから推察できた。

 そして同時に、OSに意思があり、しゃべったり実体化したりするようなことも、"ファースト"の特権なのだろう、ということも。


『完了しました。こちらはいつでも構いません』

「よし・・・っと」


 アイリスの返事を待ち、わたしは黒魔法少女の方へと再び向き直った。


「量子コンピュータを介せば、今のあなたの問題を全て解決できると思うけど、どうかな?」


 甘えた声でそんなことを言ってみる。


「ほら、手、出して」


 わたしは左手を水平に上げる。

 その手の甲からはアイリスの個体情報を表す小さなウィンドウが表示されていた。


 あとは。彼女さえ了承してくれれば。

 信じるしかない。


 数秒の沈黙が訪れた。

 そして。


「もう、迷ったり悩んだりしている暇はないようね」


 彼女も、こちらをしっかり見据えて。


「乗らせてもらうわ、その賭けに」


 黒い魔法少女は、すっと手を挙げると。

 わたしにその手を合わせ、指と指とが絡み合うようにゆっくりと手を繋いだ。


 わたしの中から、アイリスが出ていく。

 もちろん完全に譲渡したわけではないので、変身が解けたりはしない。

 しかし、それでも基本OSを失ったわたしの戦闘能力がとんでもなく劣化したのも確か。

 視界に表示されていた画面表示が一瞬暗転すると、次の瞬間には身体が重くなり、各部パラメータが通常ではあり得ないほど低く表示され、飛行魔法の推力を計算する事さえ自分で行わなければならなくなっていた。


「確かに受け取ったわ」

「行こう。今のわたし達にだったら、世界だって救えるはずだよ」


 そう言って、わたし達は絡んでいた指をほどく。

 そしてもう一度、今度はわたしの左手を彼女の右手が、しっかりと掴んだ。


「絶対に私から離れないようになさい」


 そう言って彼女は全速力で移動を開始する。

 BMはまだ動きを見せていない。

 ・・・いける。


『有効射程距離まであと3秒!』


 アイリスの声が聞こえる。

 わたしの頭にではなく、チャンネルがオープンになっている黒魔法少女の通信から。


 3秒後、わたし達は御崎大橋の上空に居た。

 四角枠の照準が20の管、それと同じポイントにある防御フィールドの薄い部分を示してくれている。


「やってやるわ、私だって・・・!」


 彼女は一瞬、瞳を閉じると。


「MG-Vision(ヴィジョン)、起動! 展開数・・・20!!」


 黒魔法少女から、ランス改めヴィジョンが剥がれていく。

 1つの出し惜しみもしない、20基すべてが、だ。


 彼女は先ほど、演算が追いつかないと言っていた。

 魔法少女個人で、あの武器を扱うのは本当に難しい事なのだろう。

 現に彼女の力で自由自在に動かせるのは8基が限界だった。


 ―――だったら、ヴィジョンの武器使用に必要な演算を、量子コンピュータで行えば良い。


「これは・・・!」


 黒魔法少女は信じられないものを見るように零す。


 ―――よってアイリスを、量子コンピュータへのアクセス権を、彼女に譲渡すれば。

 ―――量子演算であの武器を完全に制御することが可能になるはずだ。


「出来る、コントロールが! この量の演算をこんなに簡単に・・・!! 20基すべてが手足みたいに、動く!」


 黒魔法少女はわたしの手を掴んだまま、BMの真上へとやってくる。

 ヴィジョンが展開され、20基がすべて統制のとれた完璧な動きで管のポイントへ1mmもたがわず照準を合わせる。もちろん真下へその砲撃を放つため、銃口は下を向けて。


「突き刺さりなさい、私たちの・・・希望!!」


 それはいつかのように、天から降り注ぐ"流星"のように。


 その星々は管部分へと、寸分たがわぬコントロールと最大級の威力を持って貫通する。

 次に聞こえてきたのはBMの悲鳴に似た叫び声と、絶対遮断フィールド消滅に伴う、薄いガラスが割れるような、あるいは卵の殻が破れるような音だった。


「これが人間の力・・・未来を切り拓く、魔法少女の力だよ!」


 バリアの破壊を上空で確認しながら、姿勢を立て直す。

 わたしは握り合っている手に少し力を込め、握り直した。

 彼女もそれに呼応するように、強く手を握り返してくる。


「ちょ、ちょっとっ」


 痛いよ。

 そう言ってこの子の、しっかり手を握る"彼女"の名前を呼ぼうとした。

 だけど、今になって気づいた。

 わたしは彼女の名前(・・・・・・・・・)など知らない(・・・・・・)

 そんな事を一瞬考えてしまって、何も言えなくなってしまった。


 そんなわたしの様子を見かねたのか。


「ミーティアで良いわ」

「えっ・・・?」


 彼女は何かもじもじとした様子で、ばつが悪そうにそっぽを向きながらそう言った。


「名前。私、"リュウセイ"って呼ばれてるみたいだから、それで・・・」


 恥じらいを見せた表情から繰り出された言葉から。


「それとも、何か文句でもあるかしらっ!?」


 後半、突き放すように言って・・・彼女はそっぽを向いた。


「ううん、文句なんて無い。嬉しいよ、名前・・・教えてくれて」


 わたしは彼女の事なんて何も知らない。

 わたしを攻撃してきた理由も、時折見せるわたしへの怒りも、そして命を張ってわたしを助けようしてくれた理由も。


 何も知らないのだ。


 知らないから、だから。

 ここからこの、どうしようもなく不器用で無愛想で、性格ひん曲がってて・・・

 だけど、何よりも強い意思を持っている魔法少女。

 こんな彼女との関係が、今日を『スタート』として、始められるのなら。


(それは、すっごく嬉しい事だよ)


 素直に、そう思えた。


「じゃあミーティア、まずはアイリスの管理者権限を」


 わたしが新たな話題を切り出そうとしたその瞬間だった。

 真下から、ビームの雨あられが飛んできたのは。

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