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リトルウィッチ・プログラム  作者: 坂本一輝
第一部:魔法少女ルーチェ×アイリス
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魔法ときらきら 01

「ふわぁ・・・」


 わたしは大きな欠伸を一つすると、肩をすぼめる。


 特段寒いわけではない。季節はもう四月・・・確かに肌寒い日というのはあるし、家には今でもこたつが出しっぱなしで、着ている制服も冬服。

 だが、正直そんなことどうでもよくなるくらい、今日の学校はいつもの十倍増しでめんどい。英語のグラマー、数学、体力測定という名目で長距離走をやらされる体育・・・午前中4時間の授業のうち、3時間がこれだ。


 わたしこと、織部(おりべ)咲弥(さや)のやる気メーターは確実にゼロを振り切っている。

 もっとも、普段からまともに機能したことが無いメーターだが。


 ふと、何の気もなしに空を見上げる。

 "それ"に気づいたのはその時だった。よく目を凝らして見ていると、視認できる限りで七、八ほどの白い光が糸を引いて真っ青な空を突き進んでいる。太陽の位置から考えてちょうど東から西へ、その光は飛んでいるようだった。


「ああ」


 寝起きで頭がぼんやりしていたが、ようやくあれが何なのか理解できた。


「今日もバーモン退治ご苦労様です。国連軍さん」


 そう小さく呟いて空に向かって軽く敬礼すると、わたしは再び視線をもとに戻す。空を見上げたせいで首が少し疲れてしまい、今更ながら無意味な行動だったと後悔した。


「あー、しんど」


 今日は髪も上手くセットできた。その上、占いなんて信じてないけど、朝のニュースでやってた星座占いも、わたしのてんびん座は見事1位に輝いていた。アナウンサーがてんびん座を褒め殺しかというくらい、べた褒めしてたっけ。だから今日の時間割を見た時の絶望感と言ったら無かったのだ。

 自画自賛みたいに聞こえるかもしれないけど、わたしの髪は透き通るような金色をしている。その髪が腰辺りまですらりと伸び、かと言ってくせ毛のようにボサボサになることは滅多にない。いや、これはどう聞いても完全なる自画自賛か。

 この髪のせいなのかどうなのか、街中で普通に歩いていても視線を浴びていることだって、何となくだけど分かっている。そんなわたしが・・・などと言うつもりはないけど。花も恥じらう女子高生が、だ。

 どうしてこんなハイキングコースを毎日登らなきゃならんのか。


(入学式の時から思ってたけど、何なのこの通学路?)


 おもむろに、後ろを振り返った。急斜面の坂を上る女の子が・・・少なくとも二十人くらいは居る。中には友達同士で楽しそうに会話をしている子も居るが、一人で歩いている子のほとんどは苦悶の表情を浮かべていた。理由は簡単、なぜなら。


「いくらなんでも・・・この坂、急だし長すぎでしょ・・・」


 何を思って作ったのかは知らないが、名門でも進学校でもなんでもない我が高校は、なぜだかこの街にある大きな丘の上に建てられていた。理由は分からないし、どういう経緯でここに学校を作ることになったかは全く知らない。だけど、女子高でこの立地は無いだろう。


「咲弥っち、チャオー」


 踵をかえして坂を上ろうとした瞬間、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。そしてそれと同時に、後ろから抱きつかれるような感触も。

 朝からこんなバカみたいな声を出して抱き着いてくる知り合いは一人しか居ない。


「おはよ陽菜・・・あのさ」


 一応、挨拶はしておく。わたしは困り顔で後頭部をかきむしると、ため息交じりに目の前の女の子、烏江(からすえ)陽菜(ひな)に話しかけた。


「いい加減、その過剰スキンシップやめて欲しいんだけど」

「え? なんで?」


 陽菜は全く分からないと言った表情で口を半開きにしている。


「いや、暑いし」

「まだ全然暑くないじゃん。むしろ寒いよ?」


 その問答はさっき、やったっつーの。


「これから暑くなるでしょ」

「暑くなる・・・あっ!」


 目の前の、わたしと比べるとずいぶん小柄な女の子、陽菜は小さく手の平をぱちんと合わせると、右手人差し指を突き出してずいっとこちらに身体を乗り出してきた。


「咲弥っち、夏服みたいな薄着であたしに抱き着かれると興奮しちゃうから!」

「はあ?」

「だから今のうちから嫌だって言ってるんでしょ! どうよあたしの推理!」


 この高校で成績「下の中」くらいのわたしと大差ない、難事件をひっかきまわして、結果迷宮入りにしそうな闇鍋探偵がはじき出した答えは、まったくもって的外れな解答だった。


「そもそもさ、それって推理じゃなくてただの憶測・・・」

「薄着で抱き着くって事は胸とか当たっちゃうしねー」


 ・・・ダメだ聞いてねえ。

 わたしは迷探偵が迷推理(?)を披露している間に、ゆっくりと彼女から遠ざかる。


「あたし背はちっちゃいけどスタイルには結構自身あるし・・・って、誰も居ない!?」


 横に居るはずのわたしに話しかけていたつもりだったのか、誰も居ない事に陽菜はひどく驚いた仕草を見せると、10m近く先を歩いているわたしに向かって駆け出してきた。


「もー、咲弥っちー」


 陽菜はそう言いながらわたしの隣へと並び、息を少し乱しながら一緒に歩き始める。


 わたし達二人には共通していることがそれなりにある。

 そのうちの一つは同じ制服を着ている・・・同じ高校の、同じクラスに通っているという点。

 一番上には深い紺色のブレザー、その下には灰色のベスト。更にその下に白いワイシャツを着ていて、下は赤チェックのスカート。本当はワイシャツを赤い、1年生指定のネクタイで留めなくてはならないのだが、わたしも陽菜もしていない上にワイシャツの一番上のボタンをだらしなく開けている。


「今日の授業超ダルいよねー。フケる?」


 茶髪のボブカットと、それが御世辞でもなんでもなくとても似合う顔、陽菜自身が先ほど言っていたようにスタイルも良い。一見愛くるしい見た目をしている陽菜だが、学校ではわたしと同じく・・・いわゆる「不良グループ」というものに属している。この学校に入学した直後に知り合った陽菜と意気投合したのは、その辺の部分が正直大きい。


「それでも良いけど、わたし達、最近教師に目ぇつけられてるよね・・・」

「大丈夫大丈夫。あたし良いサボり場見つけたからっ」


 陽菜は嬉しそうに右手でブイサインを作り、わたしに向かってウィンクをした。


「真紀と晶も誘ってレッツサボタージュですよ」


 ホント、その行動力を勉強することに注いだら不良なんてやらずに済んだだろうに。何もしないわたしに比べたら、行動できる陽菜の方が何倍も有能なんだろうけど。


「じゃあ、今日も元気にサボるかー」


 仕方ない。陽菜がサボりたいって言うんだから、一緒にサボろう。なんて、誰に向けているのか分からない言い訳を頭の中でしてみたりする。


 何も変わらない、いつもと同じ朝。

 わたしは大きな背伸びをして、再び学校へと続いていく坂道を登り始めた。

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