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リトルウィッチ・プログラム  作者: 坂本一輝
第一部:魔法少女ルーチェ×アイリス
16/60

世界の嘘 03

「『人類の救済』・・・?」


 怪訝な顔をして、アイリスの話を聞く。


「このままでは近い将来、人類は地球規模の魔力爆発によって滅びる、というのがワタクシたちの見解です」

「・・・笑えないね、それ」

「笑いごとじゃありませんから」


 アイリスは至って真面目な顔をしている。

 だから、嘘をついていないのはハッキリと理解できた。


「しかし今の国連が世界のトップであり続ける限り『人類の救済』は不可能だと考えています」

「なんで?」

「1番の理由はトップの腐敗です。そして常任理事国が幅を利かせている組織体系・・・。これらは最早変えようがないものです。国連そのものを破壊しない限りは」


 彼女の言葉には不思議とリアリティがあった。お題目や大義名分ではなく、本気でそれを成そうとする者の気概を感じられたのだ。

 だから。


「だからって、国連の解体なんて無理だよ。200ヶ国近くの国と地域を敵にまわすなんて、いくらあの力を使ってもさすがに無理がある」


 アイリスのその想いが、わたしに『到底現実離れした話』を出来る限り本気で理解しようとさせ、かつ会話をしようと思わせたのだろう。

 とはいえ、わたしに難しい事は分からない。

 でも、世界中の国連軍を壊滅させても国連は解体されないだろうし、今の世界でそれを行えば『地球規模の魔力爆発』が起きる起きないのその前に、人類は破滅してしまう。


「何も今すぐ国連に戦いを挑もうなどとは思っていません。マスターのおっしゃる通り、絶対的な物量が違い過ぎますから。ワタクシたちが最初にやるべきこと・・・それは人々の心を一つにすることです」

「心を一つに・・・?」


 言っていることがあまりに大きすぎて、理解が追いつかない。


「そうです。その為にワタクシたちW.I.T.C.H.プログラムは作られました」

「と、言うと?」

「当面はバーストモンスターを討滅していくことでそれは達成できると考えています。ワタクシたちはバーストモンスターを倒すために設計されたデバイスでもありますので」


 ・・・頭が混乱してきた。


「どういうことなの? みんなの心を一つにすることと、バーモンを倒していくことに何の関わりがあるわけ?」

「そここそが我々の計画の最重要ポイントです」


 アイリスは左手の人差し指を立て、話を続ける。


「バーストモンスターをいとも簡単に倒していく可憐な少女たち・・・今の世界にこれ以上魅力的な存在は居ません」


 彼女の言わんとしていることが、分かってきたような気がする。


「計画の第一段階として、我々は全世界的に『魔法少女』を広告塔とした扇動を行います。人々の心を魔法少女に集め、人類の意志を統一する。あのBMに命を懸けて戦う美少女に、人々も知らん顔は出来ないでしょう」

「ついでに国連の魔導師たちが無能だってことも印象付けるわけね」

「さすがワタクシのマスターです」


 アイリスは嬉しそうにそう言うと、ぴちゃぴちゃと浴槽の水面を叩いた。


「最初の質問にお答えしましょう。今の国連に反対する勢力が作った、人類の敵であるバーストモンスターを倒しながら人々の心を惹きつけることを可能にしたデバイス。それこそがワタクシたちW.I.T.C.H.プログラムなのです」


 彼女の正体は分かった。

 だけど、納得できない部分も多々ある。


「W.I.T.C.H.プログラムって、量産とか普通の軍人が身に着けることとか出来ないわけ? こうしてる間にも世界中では1日に多くの人が魔力爆発で死んでるんだよ?」

「量産は現段階では不可能です。マスターが体験した通り、W.I.T.C.H.プログラムは一騎当千・・・あの爆発的な性能のデバイスを量産できれば、今ごろ世界中からバーストモンスターなど消滅しているでしょう」


 アイリスは立てていた人差し指をひっこめる。


「そして量産が出来ず、国連にも非協力的である我々の技術を他の組織に提供することは非常に危険だとも考えています。W.I.T.C.H.プログラムは魔法少女にのみ利用する、というのが我々の考えです」

「わたしが国連にアンタを売ったらどうするつもりなの?」

「簡単な事です。自爆して、証拠を抹消します」


 彼女の真剣な表情と語気に、冗談では返せない雰囲気を感じた。

 アイリスはなに一つ嘘などついていない。だから、今の言葉だって恐らく本当だ。


「・・・でも、マスターはそんなことを出来る方ではないとお見受けします」


 ニッコリと微笑んだアイリスは、どこか誇らしげだった。


「まあね」


 目を瞑り、彼女の言葉を肯定する。今の言葉で、踏ん切りのようなものがついたのかもしれない。


「わたしバカだから、国連の転覆とか、人の心を集めるとか、よく分かんないけど・・・」


 そして再び目を開け、まっすぐにアイリスを見つめながら。


「アンタに協力する。だって、わたし、マスターだもんね。アンタはわたしのものだって言っちゃったし、嘘はつけないよ」


 そう言って、彼女の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「マスター・・・!」


 その言葉を聞いた彼女は目を潤ませ、感情を昂ぶらせた様子を見せたかと思えば。

 狭い浴槽、そして勿論お互い裸なのに。


「ありがとうございますぅ~」


 思いっきり抱き着かれて、抱きしめられ。頬と頬をすり合わされた。


 ・・・本当にこれでよかったのか、少しだけ不安になったりもしたけど。

 だけど、信じたい。

 今はこの選択が、間違っていなかったことを。





 お風呂から出て、わたしはアイリスの髪を乾かしてあげる。ドライヤーを当てながら、彼女のくせっ毛をブラシで撫でていった。


「でも、まだ納得できないことがあるんだ」

「それは・・・?」


 ドライヤーでかき消されまいと、声を張りながらアイリスはこちらを見上げるように瞳を動かす。


「なんでアンタが路地裏に落ちてたかってこと」


 話しながら、彼女の髪の毛を何度もとかしていった。波は打ってるけど、しっかりとした綺麗な髪の毛をしている。


「申し訳ありません。デバイス登録前のワタクシはただの機械でして、記憶や意思のようなものはなかったので・・・」

「分かんない、と」


 アイリスは申し訳なさそうに首をぶんぶん、縦に振った。


 言葉には出してみたが、わたしの中で一つだけ。結論のようなものは出ていたのかもしれない。

 思い浮かぶ人物は、たった1人。


(陽菜―――)


 わたしがこの事件に巻き込まれた原因。


 あの時、魔力爆発後に震源地を動き回るという彼女の行動は明らかに不自然だった。陽菜がアイリスのパトロンである「反国連勢力」に加担している可能性を考えるのが懸命だろう。


 つまり、アイリスは陽菜の落とし物である―――

 今の情報を繋ぎ合わせると、それしか考えようが無かった。

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