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リトルウィッチ・プログラム  作者: 坂本一輝
第一部:魔法少女ルーチェ×アイリス
13/60

魔法ときらきら 12

「アイリス、武器を!」


 BMと間合いを取り、牽制。

 どうやら奴も、こちら(わたし)の存在に気が付いたようだった。

 ゆっくりと地に這っていた身体を起こし、四足歩行の脚を伸ばして立ち上がる。BMに目はないが、確実にわたしに攻撃の照準を合わせ、戦闘態勢へ入るのが見て取れた。


「アイリス・・・?」


 おかしい、返事が無い。

 サポートに徹するとは言っていたが、機能がオフになっているわけではないはずだ。こちらの問いかけに何も答えないなんて、何か異常でも・・・


『武器などありません』

「・・・へっ?」


 変性異識でも心の中でも、わたしはそう素っ頓狂な声を漏らしていた。


「いや、あのね。魔法のステッキみたいな、ああいう感じのを・・・」

『そんなものございませんわ』


 汗こそ流れないものの、サーッと何か血の気が引いていくような感覚がする。


『"試作一号機"の豪華七大特典に武器は含まれません。武器は外付けでいくつか装備できますので、そちらをダウンロードしていただければと』


 そんなこと初耳だ。

 そして、そんな時間など、もうありはしない。


「じゃ、じゃあどうやって戦うの!?」


 声色や、オーバーな仕草こそ違えど、今現在の心境は変性異識のわたしと共通していた。

 わたしは勝手な先入観で、魔法のステッキからビームなりなんなりを出して戦うのだとばかり思っていた。だから、彼女の「武器が無い」という言葉は全くの想定外だったのだ。


『どうやって、ですか。そんなもの決まってるじゃないですか』


 アイリスは至って冷静に、そしてそれがさも当たり前であるかのように。


『マスターには親御さんからいただいた立派な手と足がありますので、それで十分かと』


 そう言い放った。

 要するに、武器なんて無いから、拳と蹴り・・・肉弾戦でBMと戦え、と彼女は言っている。

 だけど、その方が分かりやすいかもしれない。今まで説明続きでうんざりしていたところだ。パンチとキックなら説明など無いだろう。この魔法少女の身体が常人と違うことは重々承知している。


 だったら、やれない理由は無い。


「よっし!」


 わたしは胸の手前でグーに握った右手と、パーで開いた左手をパチンと合わせた。

 BMが再び雄叫びをあげる。どうやら奴も痺れを切らしてきているようだった。ならば。


「やられる前にやる!」


 宙を蹴り、超高速でBMへと突撃する。あまりの反応にさすがのデカブツも怯んだのか、一瞬隙が生まれた。

 ルーチェ・アイリス(わたし)はそれを見逃さない。

 右手に魔力を振り、拳を強く握りしめる。魔力を集めた右拳は、わたしの魔力色である白と金色に燃え上がっていた。


「先手必勝だあぁぁ!!」


 突進で生まれた運動エネルギーを乗せ、わたしの右ストレートがBMの左頬とでもいうべき、口の上部分へと衝突する。


 あのBMが。

 15メートルほどの巨体を持ち、街を破壊し蹂躙し、国連の魔導師たちをも退け、人類の繁栄を破壊し続けてきたバーストモンスターが。

 まるで紙粘土のように軽く、ピンポン玉を飛ばすように簡単に。


 その身体が向かい側のビルに激突し、停止するまで殴り飛ばされた。


 ・・・場が静まり返る。


 戦いを見ていた国連の魔導師たちも、何も言うことが出来ない。

 今まで人類を一方的に踏み潰してきた彼らを、こんな小さな女の子がぶん殴るなんて、そんな発想、誰も持ち合わせていなかったからだ。


 あれだけの巨大で質量のあるものを殴ったのに、拳に痛みが走ることは一切なかった。

 精神の高揚と爽快感で頭の中がパンクしそうになっていたのだけれど、それも変性異識による精神制御により抑えられていく感覚が、段々と心地よくなってきていた自分が居る。


「まだまだこんなもんじゃないよね」


 BMが突っ込んだビルがガラガラと崩壊を始め、奴は生き埋めのような形になった。

 でも、視界モニタに表示されるBMの数値は活動の停止を示していないし、今の一撃で倒せるほど簡単ではない相手だって分かっている。


 砂埃でBMの姿が見えなくなった、次の瞬間。


『マスター、右です! 旋回と機動性をブースト!』


 アイリスの言葉と同時に、わたしの身体が再び超加速を始めた。

 それとほぼ同じタイミングで、わたしの左を赤色の閃光が突き抜けていく。


「あれがBMの遠距離攻撃ビーム・・・!」

『マスターまだ来ます! 熱源前後左右、四方から!』


 ―――BMのビームは空中で方向を変えることが出来る。

 ―――だけど、さっき記憶したBMの個体情報にはこうも書いてあった。


 わたしが選んだ道は正面突破だった。


「そんな攻撃じゃ、わたしは捉えられないッ!!」


 加速を全開にして左右からの攻撃をかわし、正面から来たビームのみを寸でのところで避ける。

 全開加速のままBMへと突進。しかし、わたしはギリギリのところで旋回し、BMの身体を這うように、空へと上昇した。

 すると後ろからわたしを追ってきた閃光(ビーム)がBMの鼻っ先へと突き刺さり、奴の真正面、『顔』と言われている部位の、その真ん中に大きな穴が開いた。


 ―――バーストモンスターには脳が無い。

 ―――だから、彼らが戦術的、あるいは戦略的な行動を執ることは無いと。


 瞬間、BMが大声で鳴き始める。

 如何に化け物でも、自分の顔と身体の中心に穴が開くのは相当なダメージのはずだ。

 自分のビーム攻撃で、自らが窮地に陥るその姿は滑稽さすら覚えるほど。


 ―――つまり、BMは自らの意志でビームを曲げているわけではないのだ。


「今だよ! あの穴に向かって総攻撃!」


 わたしは先程のオープンチャンネルを開いて、叫ぶ。

 何度、どんな声量で叫んでも声が枯れないというのは非常に便利だ、と初めて気づいた。


「今です! この機を逃す手はない! 総員、一斉照射!!」


 国連軍の兵士だろうか、チャンネルからそんな声が聞こえてくる。

 魔導師たちは、そのすべての砲火を1m四方ほどの穴に全てぶち込んだ。BMが今まで聞いたことのないような悲鳴に近い騒音をまき散らす。


 その攻撃で国連軍がBMを引きつけている間に、わたしは奴の真上10メートル弱というところに来ていた。

 この高さがあれば十分(・・・・・・・・・・)。視界モニターに表示されている予測ダメージ数値はそう告げている。


「いくよぉっ!」


 高らかに宣言し、わたしは空中で回転するように宙をつま先で蹴った。くるりと身体が一回転する。

 これが、最後の仕上げだ。

 即座に高速移動用の魔法(ギア)を『オン』に切り替えた。


 瞬間、靴の踵から魔力が噴出する。爆発的な速度を誇る高速移動ブースター、それにわたしは回転を加えた。

 そう、BMに最もダメージを与えられるのはこの攻撃手段。

 景色がぐるんぐるんと凄まじい速さで回転していく。もちろん回転しているのは景色ではなく、わたしなのだけど。

 それでも。


 ―――ここからはまるで『世界の方が』動いているように見えた。

 ―――そう、それは。

 ―――わたしを中心に、世界がまわり始めたように。


「てやああぁ!」


 超高速で回転しながらBMめがけて降下するわたしは、攻撃用のすべての魔力を右脚のかかとに乗せた。かかとが白色に発光する。右足を思い切り伸ばし、すべての運動エネルギーと魔力エネルギー、それを一点に集め―――


「これで・・・終わりだあぁ!!」


 その全てを、BMの脳天に叩き落とした。


 瞬間、地を裂かんばかりの轟音と地響きが街中にこだました。

 BMが立っていたコンクリートで固められた大通りが、まるでビスケットかの如く。簡単にひび割れ、その下の大地がめりめりと浮き上がり姿を現す。


 BMが、今までで一番大きな悲鳴を上げた。

 踵落としを食らった脳天に亀裂が入り、その亀裂がパリパリと身体中へと広がっていったのが、あたかもスローモーションを見ているかのようにハッキリと見えるのだ。

 そして次に瞬きをした時、BMはその身体ごと弾け飛び、無数の粒子となって文字通り"消滅"した。


 すべての音が遮断され、時間が停止したような感覚。

 わたしの勝利を祝うように宙を舞う光の粉。

 そのどれもが幻想的で、儚げだった。


「やったぁ! やったよ、やったよぉっー!」


 わたしはと言うと、ぴょんぴょんと小躍りをしながらその粒子が大地へと散っていく様を見ていた。ぽよんぽよん、とジャンプをするたびに胸が揺れる。

 視界モニタに『Mission complete』のウィンドウが現れ、それと同時に。


『おめでとうございます。初陣でこの戦果・・・さすがワタクシのマスターです』


 アイリスの声が聞こえてきた。しかも、とんでもなく浮かれた声色の、だ。


「あったりまえじゃん!」


 わたしは満面の笑みを浮かべながら、彼女に語りかけた。


「魔法少女の戦場に、敗北無し! ぶいっ!」


 そう言って、誰に見せるでもないVサインを作ってみたりする。


 わたしは倒したのだ。

 今まで人類が後退の一途をたどらざるを得られなかった、バーストモンスターを相手に、ほぼ単騎で勝ってしまった。


 ―――だけど、いや。だから。

 ―――少なくともこの時点で、わたしが気づくはずもなかった。


「きれい~、BMがこんなキラキラしたものだったなんてー」


 目の中にある星型を輝かせ、全身で粒子を浴びるように両手を広げる。


 この戦いは、全ての始まり―――

 自ら火ぶたを切って落とした、開幕試合(オープニングゲーム)であったという事に。

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