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リトルウィッチ・プログラム  作者: 坂本一輝
第一部:魔法少女ルーチェ×アイリス
11/60

魔法ときらきら 10

 『コード:シークレット・アンノウン』、通称"バーストモンスター"。


 彼等は魔力爆発と呼ばれる災害と共に、どこからともなく・・・そしてありとあらゆる法則を無視して出現する。

 その力は魔力爆発の規模に比例し、例えば今回のような中規模爆発の場合、"中規模型"と呼ばれるバーストモンスターが出現する。


 中規模型の体長は10~15m強ほど。

 彼等の見た目は生物というより巨大な兵器ともいうべき形相をしている。体毛の類は全く見られず、ポリゴンと見紛うようにそのフォルムは機械的だ。

 この世のどの生物も持たない大きな爪を携えた四つの脚とも見える部分と、目はないが鋭く白い牙を持つ顔。顔部分だけがペイントされたかのように赤い以外、彼らの外装は黒一色だった。

 そして彼らが生物だと思えない理由の一つに、中規模型の場合は背中に8つほど、蒸気を噴出させている管のようなものが飛び出ているという点があった。


 バーストモンスターの戦闘手段は大きく2つに分けられる。

 一つ、その巨体と爪、牙を用いた近距離格闘攻撃。これだけでも彼等は人類にとって、とてつもない脅威となる。

 そしてもう一つ、前述した管から放たれるビームプラズマによる遠距離攻撃。バーストモンスターが放つビームはその軌道を空中で曲げること(・・・・・・・・)が出来る(・・・・)、というのは人類にとって非常に厄介だった。


 これ以上ないほどにタフで、爆弾による攻撃を全く受け付けない強靭な身体と外装皮膚。人間の作ったものなど何でも破壊してしまう牙、爪。そして長距離攻撃を無力化するトンデモビーム砲。

 人類が彼らを脅威だと認識するのには、これで十分だった。


 対バーストモンスターにおいて、人類は自らが手にしている最強の力・・・魔法を用いて抗うことへ、その戦術をシフトしていくのにそう時間はかからなかった。

 そこで使用されることになったのが、『魔法確定理論』と、それを基礎理論として設計された『W.I.Z.A.R.D.』デバイスである。

 だが、それでも。人類が持っている魔法と科学の力を結集しても、シークレット・アンノウンとの戦力差は絶望的なものだった。


 そう、『だった』。





 全身が光に包まれ、意識が薄らいでいったのはほんの一瞬。

 わたしは、ゆっくりとその瞼を開いた。

 そこに見えたものは。


「えっ?」


 上半分はオレンジ一色。そして少し下に目を向ければミニチュアのようになった、まるで航空写真でも見ているかのような我が街、御崎市(みさきし)

 どう見ても、わたしは空を飛んでいる。


「えっ、えっ」


 何から不思議に思ったら良いのか、それすらも分からなかった。

 だって、わたしが今、見ている世界は今まで・・・つい、先程までのわたしが見ていたものと、何から何まで違ったからだ。

 そして、それより何より驚いたことは。


「ふえぇぇぇ~~~!?」


 さっきからわたしの脳は言葉を出せなんて命令していない。

 それなのに、次から次へと飛び出してくるこの媚びた声色の『えっ?』という台詞の事だった。

 『ふえぇぇぇ~~~』? 普通、大の高校生がこんなことをこんな声で言うわけがない。ましてや、わたしの性格を思い出して欲しい。

 ・・・自分が正気なのか、正直疑いたい気分だった。


『第2フェイズは無事完了したようですね』


 有り得ない。

 耳ではなく、脳に直接声が聞こえた。一瞬、聴覚がぶっ壊れたのかとも思った。

 だが、それを言葉にしようと思っても、口から出てくるのは別の言葉だったのだ。


「えぇっ、だ、誰なの・・・?」


 わたしの身体が、わたしの意思で動いてない。わたしはこんな台詞を言え、なんて思ってないし、猫撫で声みたいな声も出さない。自分の身体が、乗っ取られたかのような感覚。


『お楽しみいただけていますか、マスター。マスターが今、使用しているのはW.I.T.C.H.プログラム"試作一号機"の豪華7大特典の一つ、"変性異識"です』


 脳に直接聞こえてくる声に戸惑いながら、わたしは何かを話そうとした。しかし。


「へんせいいしき~?」


 口から出てくるのは自分が思った以上に間の抜けた声だった。

 これを世に言う"萌えボイス"、とでもいうのだろうか。


『今のマスターはマスターであってマスターではない。マスターが、ご自身が理想とする人格(・・・・・・・)を、強制的に表層へと出した状態。それこそが変性異識です』


 これがわたしの理想としている自分?

 ウソでしょ、反吐が出る。


『まあまあ、そうおっしゃらず。なかなか可愛らしいじゃありませんか、ワタクシ達が"合体"した姿は』


 そこで再び頭が真っ白になった。

 試しに右手を動かしてみる。どうやらこの変性異識下においても、身体の自由は利くらしい。


 それにしても、今の状態は色々とおかしい。おかしいことだらけだ。


 まず、身に着けている服が変。いや、変というのは語弊があるかもしれないが、少なくともわたしがさっきまで来ていたブレザーの制服でないことだけは確かだった。

 身体のラインが見えるほどくっきりした形をしている上半身の白い衣装。ピンク色のリボンが胸元にあしらわれていて、まあ可愛らしいと言えば可愛らしい。スカートも同じく純白。フリルがふんだんに使われていて、しかも丈が短い。肩から肘辺りまでは何もつけておらず、肘から手にかけては金色の、ウェディングドレスのような長いアームカバーを着けていた。スカートより下に穿いているオーバーニーソックスと靴が一つになったような純白のブーツは、身に着けていること自体が恥ずかしくて外も歩けそうもないくらい。

 なのに。


「へえ~」


 自らの全身を見ながらそう呟いている自分が心底、嫌になった。

 これが理想の性格・・・嘘だろ、という感想しか持てない。


「髪の色もアイリスのと混じってる・・・」


 一瞬だけ見えた、あの天使のような女の子を思い出す。状況から察するに、彼女が『アイリス』だ。


 今のわたしの髪は、その長さこそ先ほどまでのわたしと変わっていなかったものの、髪の先や、ところどころに地の色である金色に加え、アイリスのストロベリーピンクが混じっている。

 そして、15年間維持してきたすらりと伸びたストレートの髪と違い、今のわたしの髪はふわふわと波を打っている。自分の姿かたちが別人のものになるなんて・・・。ああ、わたしは本当に後戻りできない領域に踏み込んでしまったんだ。


 身体の異変で最もおかしいと思ったのは髪の色ではない。わたしのスタイルだ。

 まるでグラビアアイドルの中でも頂点に分類されるほどの完璧なプロポーション。

 要するに、でかい。わたしはここまで胸は大きくなかったし(大きくないどころか普通以下)、くびれてもいなかった。そして身長が若干・・・というより、10㎝ほど小さくなっているのも問題と言えば問題だろう。


「これが、わたし・・・ううん、わたし達(・・・・)


 アイリスの言葉を使うのなら、この姿はわたしとアイリスが合体した姿だ。髪の色や見た目なんかはまさにハイブリットという感じがする。

 これが、わたしが望み、選択した姿。


 だが、1つだけ疑問が残る。

 この姿が、バーストモンスター(BM)を倒すことにおいて、有利な姿であるか否かである。

 随分可愛らしい見た目だが、現状において空を飛んでいるという事以外、自分に強くなったという実感が無い。というより、今はこの身体の説明書を読むのに必死、という言い方も出来るか。


 そこで再び、咆哮が聞こえる。眼下を見ると、バーストモンスター(BM)が雄叫びを上げていた。

 だけど、今。わたしは全く耳を(・・・・・・・・)塞ごうと(・・・・)思わなかった(・・・・・・)。あのバケモノの鳴き声を、ただの「うるさい音」程度にしか認識しなかったのだ。


『あのような下級モンスターの鳴き声でワタクシたちが動じることなどあり得ません』


 その時、脳裏にとある感情が過ぎる。

 それは恐怖にも似た感覚。だが、自然とその感情は芽生えた瞬間からどんどん小さくなっていって、最後にはどこかへ消えていった。

 躊躇するわたしの下層意識になど目もくれず、表層意識のわたしは。


「そうだね・・・そうだよねっ。わたしは、この街の自由と平和を守る魔法少女♪ルーチェ・アイリスなんだもん!」


 "ルーチェ"。

 その言葉がどこから出てきたかは分からない。ただ、脳にその言葉が送られてきたから言った、としか説明のしようがないのだ。


 訳わかんない気持ち、意識、考え。コスプレとしか思えない外見と服装。

 これが幼いわたしがテレビの中で見た、『彼女たち』なのだろうか。


 その瞬間、わたしは笑みを零していた。笑っちゃう。

 ・・・だけど、悪くない。

 こんなメチャクチャ、やってて楽しい事この上無かった。

 だって、夢が叶ったんだから。


 わたしはなったんだ。

 子どもの頃、わたしを魅了してやまなかった『魔法少女』に。

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