プロローグ
「魔法少女♪マジカルゆまりん、参上☆」
女児向けアニメ、というものをいつまで見ていたのか。
そう言われるとあまりハッキリとした記憶が無く、明確な答えが出せない。
興味のなくなったものの最終盤など往々にしてそんなもので、いわゆる尻切れトンボ状態なのだから当たり前と言われれば当たり前なんだけど。
しかし、それを『見ていた』という記憶は、わたしの中で案外しっかりしたものがあった。
幼少期に夢見ていた、魔法を使って悪を退治する可憐な少女たち。
あの頃は自分も将来はああやって、仲間たちと悪い人達を退治するものだとばかり思い込んでいた。それを本気で信じ、悩むほどではないにしろ考えるくらいのことはしていたのだから、我ながら恥ずかしいというか。それは、あまりにも今の自分とギャップがありすぎる思い出で。
ある日、突然謎のステッキであったり、マスコットみたいなキャラクターであったり。そのようなものが現れて、特別な力を授けてくれるのだと。わたしは確かにあの頃、そんな事を思っていた。
「イールワ帝国、今日こそあなた達の思い通りにはさせないわ!」
ゆまりんはそう言って、敵の怪物に向かってビシッと人差し指を突き出す。
中でも、わたしがとりわけ気に入っていたのが日曜日の朝にやっていた女児向けアニメだった。内容を詳しく語れと言われたら多分、そこまで詳細に覚えていない。
だけど、『見ていた』記憶はある。彼女たちがとてもかわいくて、かっこよくて、共感できて。等身大の女の子たちが魔法を使って戦う話は、それはそれはセンセーショナルだった。
「私は負けない! だって、みんなが一緒だもん!!」
毎週、休日なのに早起きをして画面に齧り付くくらいに、わたしを魅了すること。
それはあまりに容易い事だった。
◆
この世界には、『魔法』が存在する。
有史以来、人々は魔法と共に歴史を紡ぎ、秩序を作り上げてきた。
この世界における魔法にはいくつかの法則、条件、理論が存在する。
中でも最も重要で、魔法使用における基本中の基本である絶対条件が一つ。
それは、『魔法を武力転用することは出来ないこと』である。
戦闘を目的として魔法を使おうとしたその瞬間、魔法は全ての法則を無視してその効力を停止させる。発動者が故意にしろ不意にしろ、結果それが『武力』に繋がると判断されれば、そのようになるのだ。
人類は長い間、この法則に悩まされ続けていた。
何が1番の問題なのか。それは定義が曖昧すぎることだ。
どこからどこまでが武力転用で、何がそうではないのか。それがひどく不明瞭な法則である以上、魔法を武力活用することはリスクが高すぎた。
そしてこの縛りは人類の魔法技術発展にとって大きな障害となっていたのだ。
―――今から18年前、人類史に名を残す画期的な魔術理論が提唱されるまでは。
『魔法確定理論』
そう名付けられた理論は、世界の法則を文字通り覆した。
どこの国の教科書にも記され、何千年後もその言葉を子供たちが暗記するようになると言える、それほどの歴史的大発見だった。
そう。この技術が提唱されて間もなく、世界の中心が焼野原になったとしても。
それは、些細な犠牲だったのだと言えるほどに。