第99話 決定
それからまた何日も過ぎて行った。
年も明けたということで、またいつものように集まって、騒ぎ、祝い、そして笑った。
楽しい時間だった。忘れたくても忘れられないほど濃密な時間であり、とても有意義だと思える時間だった。
刹那は、こんな日がいつまでも続けばいいと思った。いつまでもこうやって楽しく、みんなと過ごせればいいと。
それは誰もが思っていたことで、そしてそれは当然続いていくだろうと皆信じて疑わなかった。
そんな中・・・・・『それ』は突然やってきた。
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「ふぅあ〜〜〜」
朝食後、里奈はテーブルに突っ伏しながら大きなあくびをした。・・・本当に猫みたいな人だな。ってか仕事しなくていいのかこの人は。これじゃ本当にNEETじゃないか。
「失礼なやつね。あたしだって仕事くらいしてるわよ」
「あれ? してるんですか?」
「当然よ。あたしだって一応社会人なんだから」
「へぇ。それじゃ、ちょっと仕事の内容を教えてもらっていいですかね?」
「あんたの見張り」
「・・・他には?」
「ない。以上」
「ずいぶん簡単な仕事ですね!!」
「ふざけんじゃないわよ! 仕事じゃなかったらこんな家住まないわよ!」
「しかも滅茶苦茶失礼ですね!! 何人ん家馬鹿にしてんですか!!」
「うっさい黙れ!」
「しかも逆切れですか!!」
「お姉ちゃん! そんな失礼なこと言っちゃダメ!!」
と、そこへお茶をお盆に乗せて持ってきてくれた玲菜が一喝。
「はぁ〜い・・・」
里奈はそう返事をすると、まるで水を何日ももらっていない植物のようにしおしお〜、とうなだれた。・・・まぁ実際玲菜が栄養みたいなものだから、あながち間違ってはいないのだが。
「(じと〜)」
なによあんた、いい気になってんじゃないわよ、と言いたげな目で里奈は刹那を見る。・・・どうしてこの人は呼吸をするが如く平然と読心術を使ってくるのだろうか。さっき使われた時もあまりの自然さにまったく違和感を感じなかったし・・・。
「もう、あまり刹那を困らせないの。はい刹那、お茶」
「ありがとう」
玲菜からお茶を受取り、ずず〜と音を立てて飲む。・・・うん、相変わらずうまい。淹れる人が上手だと、ただのお茶でもここまで違うのだなぁと感心してしまう。
「何か淹れるコツとかあるのか?」
「え? あ、お茶ね。う〜ん・・・特に意識はしてないけど」
あまり特別な方法を使っていない、ということらしい。・・・本当に淹れる人が違うだけで変わるのね。すごいね。さすがだね。
そんなことを思いながらずずず〜とお茶を飲んだ・・・そのときだった。
ピンポーン
「あ、誰か来たみたい」
「刹那、あんた行ってきなさいよ」
「俺っすか!!」
「そうよ、それくらいしか役に立たないんだから」
「すげぇ失礼ですね!! ってかこの家俺ん家だから、普通気とか利かせるもんじゃないんですかねぇ!!」
「うっさい黙れ!」
「結局それですか!!」
「お姉ちゃん!! 怒るよ!!」
「ごめんなさぁ〜い・・・」
何と言うか・・・この人は本当に居候なのか? と疑いたくなるくらい横暴だな。そのうちこの家乗っ取られるんじゃないのか・・・。
「刹那、ゆっくりしてて。私いってくるから」
「いや、いいよ。俺が行くよ」
そう言ってすっと立ち上がり、刹那は玄関へと向かった。
サンダルを履き、相手にぶつからないようにゆっくりと開ける。
「お久しぶりです、刹那様」
「あ、シリスさん。お久しぶりです」
玄関の呼び鈴を鳴らしたのはシリスだった。ペコリと丁寧に頭を下げられたので、刹那もそれに倣って深々と頭を下げた。
「それで、今日は何の用ですか? あ、また遊びに来たんですか。どうぞ、玲菜も里奈さんもいるので中で―――」
「刹那様、今日は遊びに来たのではありません」
きっぱりと、真剣な眼差しでシリスはそう言い放った。・・・今日は遊びに来たんじゃない? だったら、シリスさんは何の用で家まで来たんだ? 玲菜と里奈さんの顔を見にきたとか? いや、それだったらこんな真剣な表情はしないはずだ。なら・・・なぜ?
疑問を覚えて考え込んでいる刹那に、シリスは言った。
「刹那様、あなたの処分のほうが決定いたしましたので、ご報告に参りました
「・・・え?」
思考が、凍りついた。
佳境に入ってまいりました。
これからも「殺し屋」よろしくお願いします!