第96話 結果
家に帰ってから、何やら理恵の様子がおかしいのに一番早く気がついたのは、父親でも母親でもなく、恵利だった。
夕飯を食べているときもどこか元気がなかったし、話しかけても上の空。明らかにいつもの理恵と違うことは明白だった。
夕飯を食べ終わったあと、恵利は理恵の部屋を訪れた。・・・いつもの相談事だ。何かあったのなら、話すことで楽になるかもしれない。そう思っての行動だった。
トントントン、といつもの回数ドアをノックし、ドア越しに声をかける。
「姉さん、入っていい?」
「・・・・・」
返事がなかった。電気も点いているから、部屋の中にいないということはないはずだ。
「姉さん?」
もう一度呼びかけてみる。
「・・・え? あ、何?」
今度は返事があった。・・・何か考え事をしていたのだろうか? 今やっと気がついた、という反応だった。
「入っていい?」
「あ、うん。いいよ」
理恵の了承を確認したあと、恵利は部屋の中に入った。
理恵は、部屋の真ん中でクッションを抱いて座っていた。・・・やはり、いつもと違う。こうやって理恵がクッションを抱いているときは、何かを深く考えているときだ。今日、町で何かあったのだろう。
「・・何か、あった?」
単刀直入に、恵利は理恵に訊いた。
理恵は視線を絨毯に落としたまま、何も言おうとしなかった。
「・・・・・」
だから恵利も何も言わず、理恵の言葉を待った。
本当ならば放っておいたほうがいいのかもしれないが、理恵の場合は違う。理恵は自己解決できるタイプではない。どんどん溜め込んでしまって潰れてしまう、そんな難儀なタイプなのだ。
だからこそ、理恵に喋ってもらわなければならない。話してもらって、楽になってもらわなければ、潰れてしまう。
しばらく沈黙が続いた。お互い、何も喋ろうとしなかった。重い空気が部屋の中を渦巻いていた。
「・・・振られたの、アタシ」
不意に、理恵が口を開いた。
*****
『すみません、理恵さん・・・。俺、理恵さんのこと、友達だと思ってたんです。そういう風には、見れません。だから・・・すみません』
*****
「友達にしか見られないんだって。やっぱり、そういう関係には・・・なれなかった」
寂しそうに笑って、理恵はそう言った。・・・泣くのだろう、と恵利は思った。この前そうだったように、今回もまた泣いて、また頑張っていくのだろうと、そう思った。
「でもね、何だか悲しくないの」
理恵は笑った。悲しい笑顔ではない、いつもの通りの笑顔で、笑った。
「自分でも不思議なんだけど、やっぱりねって感じ。少しは期待してたけど、やっぱりこうなっちゃったかって感じ」
「わかってたの?」
「うん。けじめっていうのかな。やっぱりわかっててもやらなくちゃって思ったの」
恥ずかしそうに理恵はえへへと笑ってそう言った。
恵利は、理恵の笑顔が取り繕った笑顔なのか、それとも心の底からの笑顔なのか判断がつかなかった。こんなこと生まれて初めてだった。姉の表情から心情を読み取ることができなかった。
だから、訊いた。
「姉さん、本当に大丈夫?」
「何が?」
「無理、してない? つらくない?」
理恵は、笑って答えた。
「うん、大丈夫。つらくないって言ったら、やっぱり嘘になるけどね。でも平気。そんなにへこんでないから」
・・・ここで、ようやく恵利はわかった。この笑顔は、紛れもなく心からの笑顔だと。
理恵は抱いていたクッションをベッドに置いて恵利に言った。
「えっとね、さっきまでちょっと明日のこと考えていたの」
心配している恵利を安心させようと、理恵は取り繕うように言った。
「告白失敗したあとね、家に送ってもらうまで一言も喋らなかったの」
「あ、刹那君、それ自分のせいだって思って・・・」
「うん、そう。勘違いしてるかもしれないから、明日なんて言おうかな〜って、それを考えてたの」
これも初めてのことだった。切り替えが早く、もう次のことを考えていることなんて。
理恵は成長したのだ。刹那という存在が、ここまで理恵が成長させたのだ。
「よし! それじゃ姉さん、一緒に考えよっか」
「え?」
「刹那君に言う言葉。誤解を解かないと! ほら、早く案出して!」
「こ、告白が失敗しても結局そうなるんだね・・・」
結局、いつもどおりだった。
恵利のおせっかいも、理恵の苦笑も。
理恵を応援していた方・・・すみません!
だって、だって理恵とくっついちゃったら「殺し屋」のタイトルの意味がないんだもの!(半狂乱)
殺し屋いらないじゃん! 「先輩は後輩に恋をする」じゃないんだもの! 「殺し屋」なんだもの!(狂乱)
っと、失礼いたしました。思わず取り乱してしまいました。
これからも「殺し屋」よろしくお願いします!