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第94話 公園で・・・

アクセサリーショップを出てから、30分少々が経過していた。

日もとっくに暮れており、町の中は小さな豆電球が点灯されていて実にきれいだった。いわゆる、クリスマスイルミネーション、というやつだ。中にはサンタクロースの形をしたものや、トナカイの形をしたもの、さらには巨大なクリスマスツリーの形をしたものまで、とにかく様々な種類があって飽きることなどなかった。


町を歩いている人も、カップルがほとんどを占めていた。仲良く腕を組み、笑顔で会話している男女以外にいるのは、飲んだくれたサラリーマンだけだった。


「人、何だか増えたような感じがしますね」


「そうね。ほ〜んと、カップルだけの町って感じ」


「言えてますね。大半がカップルですし・・・」


言いながら、歩いているカップルを見てみる。・・・幸せそうな顔をしている。腕ではなく、手をしっかり握り合って、町のあらゆる場所のイルミネーションを指さすたびに、2人で笑い合っていた。


いつか、自分もあのようになるのだろうか、と刹那は思った。自分もいつかあぁいう風に自分にとって大切な人を見つけて、そして一緒に笑い合って歩いていくのだろうか、と、ふとそんなことを考えてしまった。


「それより理恵さん、これからどこに行くんですか?」


そういえば行き先が告げられていなかったな、と思った刹那は、隣を歩いている理恵にそう尋ねた。


「えっと、秘密」


「秘密ですか? とても気になるんですが・・・」


「いいの! 黙ってついてくるの!」


「は、はい。すみません」


なぜか怒られてしまった。・・・でも、いったい本当にどこに行くんだろうか?

そんなことを思いながら、刹那は理恵に行き先を委ねたのだった。





+++++





それからまた歩くこと10分少々。賑やかな町から出て、2人は小さな公園にたどりついた。

公園にはブランコやシーソーといったありきたりな遊具しか置いておらず、他にはベンチも何も置いていない簡素な公園だった。


「小さな公園ですね。ここですか? 理恵さんの来たかった場所って」


「うん、ここ。アタシにとって、とても思い出のある場所だからね」


そう言って、理恵はブランコに乗ってゆっくり前後し始めた。


「思い出ですか」


「そう、思い出。大切な思い出があるの」


そう言って、理恵は笑った。笑っただけなのだが、妙にどきっとした。何だかいつもの理恵の雰囲気ではなかったから。何というか、いつもと違って大人びて見えるというか、そんな感じ。


「さて、唐突ですが問題です。アタシと刹那が出会ったのはいつでしょうか?」


「え? ん〜・・・確か、博人と恵利が付き合って、よくわからないうちに顔合わせて、理恵さんと会ったんじゃなかったですかね?」


「そうだよね。それが刹那にとっての『最初』だもんね」


そう言って理恵は寂しそうに笑った。・・・刹那には、どうして理恵がそんな表情をするのかがわからなかった。だって、出会ったのは紛れもなく高校に入ってからだ。それ以外に理恵と初めて出会う機会なんてないのだから。


「この公園の思い出の話、聞いてくれない?」


刹那が考えている最中に、ふと理恵が話を振ってきた。

刹那は迷うことなく、こくりと頷いていた。


「昔、本当に昔ね、アタシ家族でこの町まで買い物に来てたんだ」


話の出だしは至って普通のものだった。休日の日、家族みんなで町に出かけて様々な生活用品を補充し、帰りには何かレストランか何かでちょっとだけ贅沢をして、そしてそのまま笑顔で家路に着く。ごく平凡でありふれたものだった。・・・もっとも、刹那自身にはそんな記憶や体験はないのだが。


「その日はね、いつも町に出かけるよりも人が多かったの。アタシたちにみたいに家族連れが多くて、お父さんの手ずっと握ってないとはぐれちゃうくらい混んでたの。


アタシもはぐれたくなかったからお父さんの手をぎゅっと握ってたんだけど、いきなり男の人にぶつかられちゃって、そのまま人ゴミに飲まれちゃって・・・迷子。


あの時は怖かったな〜・・・。来たことがある町でも、お父さんもお母さんもいないからね、パニックっちゃって」


恥ずかしそうにふふふ、と笑う理恵。

今こそこうやって笑ってはいるが、当時は本当に怖かったに違いない。子供はまだ頼る存在がなければいけない。

『親』という存在がなければ、そこがいかに見慣れた町並みといえど、見知らぬ土地と変わってしまう。家から遠ければなおさらだ。パニックに陥り、どうすればいいかわからなくなって、右往左往してしまうに決まっている。


「もうそんなこと初めてでね、とにかくがむしゃらに探し回ったの。人ゴミにわざと入ってはぐれた所に戻ってみて、いなかったらとにかく辺りを探して、それでも見つからなかったから路地裏に入って・・・。それでここに来たの」


とんとん、と理恵は靴で地面を叩いてみせた。










そして、じっと刹那の目を見つめて言った。









「そこで、アタシは刹那に出会った。まだ子供のころに、この公園で」


「え?」







*****







「くすん・・・くすん・・・」


「どうしたのこんなところでないてて?」


「くすん、ぐず・・・」


「おとうさんとおかあさんは?」


「・・・は、はぐれちゃったの・・・ぐす」


「きょうひとがおおいもんね」


「うん。わたし、もうこわくて・・・こわくて・・・」


「う〜ん・・・よし! じゃあぼくといっしょにいこう!」



「・・・ぐす、あ、あなたと?」


「うん。ぼくにまかせてよ! いいかんがえがあるんだ!」


「ど、どういうの?」


「まぁいいからいいから。ほら、いっしょにいこうよ!」


「あ、ま、まってよ! おなまえおしえて!」


「ぼくの? どうして?」


「しらないひとについていっちゃいけないよって、おかあさんがいってたの。だから、おなまえがわかればしらないひとじゃないからついていってもいいの」


「そっか、それならしかたないな〜。ぼくのなまえは『せつな』っていうんだ」


「みょうじは?」


「『きのした』だよ。『きのした せつな』」


「せつなくんっていうんだ。これでしらないひとじゃないね」


「そうだね。それじゃいこう! きみもはやくおとうさんとおかあさんにあいたいでしょ?」


「うん! あいたい!」


「よし! いこう!」








*****



いよいよ迫ってまいりました!

これからも「殺し屋」よろしくお願いします!

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