第91話 お昼ご飯タイム!
雑貨屋に入ってから約1時間ほど経った。色々な商品と、お世辞にも可愛いとは言い難い人形や置物に見入っていた理恵の反応のおかげで、とても楽しい時間を過ごすことができた。・・・これも、たぶん理恵がいてくれたおかげだ。きっと1人だったらこんなに楽しくなかっただろう。
「だいぶ回ったわね、そろそろお腹空かない?」
「確かに、空きましたね」
店の中をたくさん歩き回ったせいか、理恵の言うとおり空腹だった。
腕時計を見て時間を確認してみると、時刻は大体12時。この時間帯だったら空腹になっているのも頷ける。
「ご飯食べに行こっか。腹が減っては何とかって言うし」
「それって戦じゃ・・・」
「揚げ足とるんじゃないの!」
「は、はい!」
・・・取ったつもりなんてないのだが。
「昼食って言っても、やっぱりこの時間帯は混んでますよね」
昼時の今、たぶんたくさんの人が外食しているはずだ。カップルやら親子連れやら、とにかくたくさん。・・・ごたごたしてる中ではちょっと食べづらいだろうし、まいったな。
「あ、それなら大丈夫。アタシ、いい所知ってるから。隠れた名店、ってやつかな」
「隠れた名店・・・ですか」
「そ。・・・でも、クリスマスに行くような店じゃないんだけど、いい?」
「おいしいんですよね? そこの店」
「すっごくおいしいの。これだけは絶対保障できるわよ」
店の中が空いていて、さらにはすっごくおいしい店だ。行かない理由など、どこにもない。・・・クリスマスに行くような店じゃない、と言っていたのが少し気になるが、細かい点はこの際無視だ。
「構いませんよ、ぜひ行きましょう」
迷うことなく刹那がそう言うと、少しだけ不安げだった理恵の顔が、みるみるうちに笑顔になっていく。見ているほうが笑顔になってしまうくらい、その笑顔は輝いていた。
「そうと決まればさっさと行くわよ! ほら! 早くってば!」
「わ! ちょ、ちょっと理恵さん! 引っ張らない・・・のぁ!!」
またもや引っ張られていく刹那は、そのまま理恵の言う『隠れた名店』へと向かったのだった。
+++++
理恵に腕を引っ張られること10分少々、2人は町外れの路地裏を歩いていた。昼間だというのにうっすら暗く、人もほとんど見かけない上、これといった店も何もないので、なんだかがらんととた寂しい場所だった。
「理恵さん、こっちで本当に合ってるんですか?」
さすがに少々不安になってきて、刹那に理恵にそう尋ねた。
「大丈夫よ、もう何回も行ってるんだから。・・・あ、ほら。見えたわよ」
そう言って理恵が指差した先にあったのは、ラーメン屋。ドアのところに掛かっているのれんがなかったら、普通の家とは変わりのない外見だった。・・・確かに、普通はわからないな。言っては悪いが、たぶんそんなに人はいないような気がする。
「あれですか」
「そうよ。すごくおいしいんだから! 早く入るわよ!」
「わ、わかりましたからそんなに引っ張らないで、うわ!!」
ここまで連れてこられたときと同様、刹那は引っ張られながら店の中へと入った。
店の中は思った通りと言うべきか1人も客はおらず、店員が1人新聞を読みながらタバコをふかしているだけだった。・・・ほんっとうに空いている。これはこれで少し寂しいような気もしないでもない。
「お兄さん! 接客接客!」
理恵の声で初めて刹那たちに気がついた店員ことお兄さんは、急いで新聞を畳んで歩み寄ってきた。
「・・・お、理恵ちゃんじゃないか。今日は家族連れじゃないのか?」
「まぁね。今日はちょっと違うの」
「それもそうだな。そっちのも、あまり見ない顔だ」
興味津津といった具合に、その店員はまじまじと刹那の顔を見た。ん〜と唸り、たまに首を傾げたりもしている。・・・一体何なのだろうか? 何かついてたり、とかだろうか?
「あ、あの、何かついてますか?」
「いや、そんなことはない。ただ、少し女みたいな顔だと思ってな」
「・・・俺、男です」
「わかってる。ただそう思っただけだ」
「ほらおじさん! 愚痴ばっかり言ってないで仕事してください!」
放っておくといつまでも話していそうな店員の雰囲気を悟ったのか、理恵は店員にそう促した。
「おっとそうだった、すまない。2人とも何味がいい?」
「アタシは塩」
「じゃあ俺はみそで」
「わかった。それなら座って待っててくれ。すぐ持っていく」
そう言い残して、店員はタバコの煙をプカプカ吹きながら厨房へと向かった。・・・タバコ吸ったままで料理って、大丈夫なのかな? かなり不安だぞ。
「さ、それじゃ座るわよ」
言うなり理恵はいすに座り、隣の空いているいすをポンポンと叩いた。どうやらここに座れ、ということらしい。
理恵の叩いたいすに座る。・・・って、これって普通対面で座るもんじゃないか? 隣同士だとかえって食べづらくないか?
「♪〜」
・・・でもまぁ、理恵さんが機嫌よさそうだからいいか。鼻歌も歌ってるし。
「そういえば理恵さん、家族でよくここに来るんですか?」
「まぁね。買い物とか、色々な用事で街に出るときはいっつもここでお昼ご飯食べるの」
「それでさっきの店員さんと親しげだったんですね」
「毎回食べに来てるからね、とって仲良しよ」
となれば、理恵はやはり相当な常連客なのだろう。通りで店員が理恵のことを『ちゃん』付けで呼んでいるわけだ。
「それでね、ここの店、おいしいのが自慢なんだけど、もう1ついいところがあってね。それが・・・・・」
「お待ちどう」
と、理恵が何か言いかけたところでちょうどよく店員が登場。手には2つのラーメンがある。店員はそのままラーメンをテーブルに置いた。
「ここのラーメンってね、注文してから来るまでがすごく速いの。速くて3分。遅くても5分」
・・・ちょっと待て。それってカップ麺ができる時間じゃないのか? ということは、このラーメンも実はカップ麺だったり・・・
「おっと兄ちゃん。今、このラーメンがカップ麺だなんて失礼なこと考えただろ?」
「うぇ!? 何でわかったんですか?」
「ここに来る客はいっつもそう言ってくるからな。兄ちゃんもじゃないかって思ってよ」
・・・びっくりした。てっきりこの店員、里奈さんみたいに読心術使えるんじゃないかって思ってしまった。
でもまぁ、よくよく考えたら一般人が読心術なんて高度な技術使えるわけないか。里奈さんにからかわれているうちに、一般人としての感覚が鈍ってきたようだ。
「? どうしたの刹那。難しい顔して」
「い、いえ何でもないです」
「さ、冷めないうちに食ってくれ。俺は新聞読んでるから、食い終わったら言ってくれよ」
タバコを実にうまそうにふかしながら、店員は元居た場所に座り込んで新聞を広げた。
「いただきま〜す」
「じゃあ俺も、いただきます」
理恵のいただきますを復唱し、刹那も目の前に置かれたみぞラーメンを食べてみる。
「・・・・・」
・・・何だ、このラーメンは。口では表現できないこの香ばしさと味。そしてもっちりと歯応えのある麺と見事に合わさっているスープ。具の野菜も、しゃっきりとして実においしい。
たった3分程度の短時間で、ここまでうまいラーメンが作れるものなのか? ちょっと信じられないが、インスタントではないことは確実だ。ここまでうまいインスタントなんてあるわけがない。
「どう? おいしいでしょ」
「はい、確かにこれはうまいです」
刹那がそう言うと、理恵はふっふっふーと、自慢げに笑った。自分のお気に入りの店が褒められたからうれしいのだろう。
そんなこんなで、2人だけでラーメンを食べる時間は過ぎていった。