第90話 雑貨屋での時間
気がつけばもう姿が見えなくなってしまっていた。早いところ追いかけないと、理恵とはぐれてしまう。
「相変わらず早い・・・」
理恵のすばしっこさに感心しながら、刹那は理恵の歩いていった道順をたどり始めた。
まっすぐ行って、確かここを右に曲がっていったような気が・・・
「あ」
居た。なぜかは知らないが、いろいろなサイズの収納ボックスを興味深そうにじぃっと眺めていた。・・・それほど珍しいものでもないだろうに。
「理恵さん、早いですってば」
「む、わかったわよ。今度はちゃんとあんたに合わせてあげるわよ!」
「はぁ・・・。ところで、これ収納ボックスですよね」
「そうよ。やっぱり種類が増えてるわね。ほら、これなんかすごく物入りそうじゃない?」
そう言って理恵が差し出してきたのは、スーパーでよく見かけるダンボールくらいの大きさの収納ボックス。・・・確かに、これは大きい。頑張れば、理恵も中に入れるのではないだろうか?
「確かに、これはでかいですね」
「でしょ! だからこれなら・・・全部入りきるかな?」
「? 何がです?」
「・・・手紙」
「手紙、ですか」
理恵はちょっとだけ恥ずかしそうにそう言った。・・・恥ずかしがる手紙といったら・・・・・ラブレターの類だろう。たぶん。
可愛くて元気いっぱいな理恵だ。ラブレターの1枚や2枚くらい貰ったって、ちっともおかしくない。・・・ただ、こんな大きさの収納ボックスが必要になるくらい貰っているというのが腑に落ちない。聞いてみるか。
「理恵さん、そんなにラブレターもらってるんですか?」
「は、はぁ?! 冗談言わないでよ!! ラブレターなんて貰ってるわけないでしょ?!」
「え? 違うんですか?」
「ち、違うわよ! 誰もラブレター貰ってるなんて言ってないでしょ!!」
・・・そう言われてみれば、確かに理恵はラブレターを貰っているとは一言も言っていない。
それなら、どんな手紙を貰っているのだろう?
「いい? アタシが貰ってる手紙は、ソフトロール部の後輩と、アタシが一年生だったときの先輩からの手紙だけ! 男子からなんて1通も来ないんだからね!!」
少しだけむきになって理恵はそう言った。
・・・なるほど、そういうことか。ソフトボール部の人数はかなり多いし、先輩からも貰ってるとなれば確かにこれくらいの大きさは必要になる。・・・理恵さん、後輩からも先輩からも好かれてそうだしな、それはもう数え切れないくらい貰ってるのだろう。
「モテモテですね、理恵さんは」
ちょっとだけ冗談でそう言ってみる。
「・・・アタシ、そっち方面に興味はないから。普通に男の子が好・・・・・あ!! な、なんでもない!! なんでもない!!」
いきなり赤面して、慌てて手を横に振って否定する理恵。・・・途中で何かを言いかけたような気がしたが・・・まぁいいか。
「それより理恵さん、これ買うんですか?」
「今買っちゃったらちょっと邪魔でしょ? 今度来たときにでも買うわよ」
「そうですね。それならまた今度買うときに呼んでくださいよ。俺、手伝いますから」
「え? そ、それ本当?」
何気なく言った刹那の言葉を、理恵は驚いたような顔をして聞き返した。
その問いに、刹那はにこっと笑顔で答えた。
「もちろんですよ、ぜひ手伝わせてください」
「あ、ありがと・・・」
少しだけ赤くなって、理恵は恥ずかしそうに刹那から視線をそらした。・・・何だろうか? 何かまずいことでも言ってしまったのだろうか? いや、でも手伝うって言っただけだし・・・。
「そ、それじゃ遠慮なく手伝ってもらうから! 覚悟しておきなさい!」
「ははは、わかりました。覚悟しておきます」
・・・でもまぁ、元に戻ったからよしとしようか。
そういえば、今日はずっとここでぶらぶらと商品を見て過ごすのだろうか? いや、まさかそんなことはないだろう。いくらたくさんの商品があるといっても、さすがにちょっと飽きる。
ちょっと聞いてみようか。
「理恵さん、この後どうしますか?」
「そうね、もうちょっとうろうろしてから、他のところね」
・・・よかった。どうやら他のところにも行くらしい。ここも色々な商品を見ることができて楽しいが、せっかく理恵と町に来たのだからもっとたくさん回りたい。
「あ、ほら、これ見て!」
と、いきなりそう言って理恵が刹那の目の前に差し出したのは、蛇の形をした人形。ぬいぐるみではく、人形なのだ。なんというか、蛇の尻尾が人間の足になった感じの、薄気味悪い代物だ。・・・子供が見たら泣くんじゃないだろうか?
「あ、あとこれ! どう? 可愛いでしょ」
再び刹那の目の前に商品を差し出してくる理恵。今度はちゃんとしたぬいぐるみなのだが・・・これは何の動物だろうか? ウサギ、のようにも見えるし、熊、のようにも見える。じっくり見ると、カラスにも見えてくる。・・・なんだこの不思議生物は? 子供でなくても泣いてしまうかもしれない。ってか、不気味すぎてちょっと涙出てきた・・・。
「あ、ほら! あっちにも可愛いのある! ほら! さっさと行くわよ!」
目をらんらんと輝かせて、理恵は奥の呪い人形のコーナーへと向かった。・・・いくら雑貨屋だからって、呪い人形を売ってるってどうなんだろうか。
「待ってくださいよ理恵さん!」
刹那は慌てて理恵の姿を追った。
・・・こうして、雑貨屋での時間はどんどん過ぎていった。
そういえば、もう少しでクリスマスですね。
これからも「殺し屋」よろしくお願いします!