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第9話 一日の終わり

「そういえば、里奈さんってこれからどうするんですか?」


夕食時、刹那はおかずのコロッケを口に運びながら、ご飯を頬張っている玲菜に見とれている里奈にたずねた。


「そうね、もちろんあたしも・・・」


「部屋なんてありませんからね?」


「だめ、お姉ちゃんはだめ」


「ふ、2人ともひどい・・・まだ何も言ってないのに・・・」


当たり前である。部屋ならば・・・まぁ物置をどうにかすればなんとかなるが、そんなめんどうなことをしてまで家を壊した本人を住まわせる必要なんてない。・・・というか、恐ろしくて家に置いてなどいられない、というのが刹那の本音だ。ひょっとしたら寝ている間に首と胴体が離れているかもしれない。ぶるぶる。


「部屋ならあるじゃないの。物置片付ければいいし」


「な、何で知ってるんですか!?」


「あんたが玲菜ちゃんと出かけてる間にちょっと調べたの。散らかってたけど、片付ければ十分使えるし」


「そ、そんなの刹那に迷惑だよ!」


「玲菜ちゃんが居候してる時点で十分迷惑かけてると思うんだけど?」


「こ、これ以上刹那に迷惑かけちゃだめだって言ってるの!」


「いいじゃないの。1人も2人も同じよ」


おいおい、何だか嫌な予感がするのは気のせいか・・・?

玲菜と里奈はしばらく話し合っていたが、いきなり刹那のほうを向くと2人同時に言った。


「刹那!!迷惑だよね!!」


「住んでもいいわよね?」


「え・・・?いや、あの・・・その・・・」


「住んでいいわよね?」


玲菜を差し置いて、里奈がずいっと刹那に迫る。・・・何だ? この人笑ってるのに怖いぞ・・・?何でだろう、あははは・・・


「住んで、い・い・わ・よ・ね?」


・・・怖いです。とてつもなく怖いです。膝が震えてきました。何かシャツが冷や汗で濡れてきました。寒気もします。助けてください。


「せ、刹那!迷惑だって言ってやらないと!」


いやいや、玲菜さん。そんなこと言ったら間違いなく俺殺されますから。俺はまだ死にたくないんです。

ちらっと里奈のほうを見る。・・・相変わらず笑っています。ただ、目が笑ってません。おっかないです。本当に怖いです。


「住んでいいわよね?」


・・・あぁもうだめだ。限界・・・。これ以上引き伸ばすのは本当にまずい。


「ど、どうぞお好きに」


「やったね☆」


「せ、刹那!?」


「玲菜・・・・・俺はまだ死にたくないんだ・・・・・わかってくれ・・・」


刹那は、うぅ・・・と涙を流しながら茶碗のご飯を口に運んでいた。さすがの玲菜も刹那がかわいそうになったのか、ため息をついて受け入れたようだった。


「それじゃ里奈さん。今日はもう片付けるのは無理なので玲菜と一緒に寝てください」


「りょうか〜い♪」


「ちょ!!ちょっと待ってよ!!や、やだよ!!一緒に寝たら何されるかわかんないもん!!」


「も〜玲菜ちゃんったら照れちゃって・・・かわいい!!!」


「寄るな〜〜〜!!!!」


抱きつこうとする姉に抵抗している玲菜。だが、そんなのをお構いなしに愛しい妹を胸の中に収めようとする里奈。・・・なかなか絵になるかもしれない。

だが、刹那も立派な青年だ。高校生だ。思春期だ。美女と美少女が戯れているのを目撃して平然といられるほど、刹那は大人ではない。いや、大人でも平然としていられるかどうか・・・。


「ご、ごちそうさま!風呂先に入ってくる!」


とにかく、この場から抜け出さなければ・・・。刹那は自分の分の食器を両手で器用に持つと流し台に置き、そのまま走って風呂場に行ってしまった。

・・・風呂場からドシャア!!ドボーン!!っという豪快な音が聞こえてきた。よほど慌てていたのだろう。足を滑らせて、転んで、風呂に頭から飛び込む刹那の様子が目に浮かぶ。


「・・・刹那、大丈夫かな・・・」


「ん〜・・・見に行って見る?」


「い、いいよ!!もう!!」


「あぁんもう!!可愛い!!」


「抱きつかないの!!」


む〜、と口をへの字に曲げた里奈は、食べ終わった自分の食器を片付けようと立ち上がった。食器を持ち、キッチンに入ったところで里奈は口を開いた。


「・・・玲菜ちゃん」


「・・・何?」


「あたしもね・・・あいつ、何もしてないんじゃないかって思うな」


「・・・『あいつ』じゃなくて『刹那』だよ」


「はいはい。・・・刹那って、目が死んでないもんね。真っ直ぐで、いい目・・・」


「・・・お姉ちゃん、どっちが嘘だと思う?」


「嘘?」


「うん。情報か、それとも刹那か。情報は今までずっと使ってきたから信用もある。でも、刹那も嘘をついているとも思えない」


「・・・・・どっちにしても、まずは様子見ね。潔白だってあたしたちが見極め次第、情報屋の内部を探ればいいし、刹那が嘘をついていたら消せばいい」


仕事の話になると、ふざけが一切なくなるのが里奈のいいところだ。日常と仕事をきっちり割り切れる人物はそうそういない。殺し屋であるA・B・K社の主軸が里奈だということにも頷ける。

ジャー、と水を出す音と、カチャカチャという食器の合わさる音が聞こえてきた。どうやら話は終わりらしい。


「お姉ちゃん、私やるよ?」


「いいの。それより、早く食べちゃって。一緒に洗っちゃうから」


「は〜い」


シスコンさえなければいい姉なのに・・・まったく。

そんなことを思いながら、玲菜は残ったコロッケを口に運ぶのだった。






+++++






「あ〜いい湯だったぁ〜」


「お姉ちゃん!胸元開けないの!!」


「ぶほっ!!!」


玲菜の声のおかげで盛大に牛乳を口からぶちまけた刹那はゲホゲホっと咳き込んだ。床は牛乳のせいで真っ白になった。

目に涙を溜め、うぅ〜と呻きながら雑巾片手に床を掃除する刹那。・・・何だか痛々しい。


「玲菜ちゃんもお姉ちゃんに欲情しちゃう?」


「しちゃわない!!」


「た、頼むから俺の前でそういうことするの止めてください!!」


必死に抗議する刹那。里奈はふふ、と軽く笑って開けていた胸元を隠した。・・・からかっているのだろうか・・・とにかくそういうことは止めて欲しい!!こっちが持たないじゃないか!!


「と、とにかくですね!本当にそういうことは止めてくださいよ?!」


「あら? どうして?」


「ど、どうしてって・・・」


「どうして?」


「う・・・・・、それは・・・」


「それは?」


顔に笑みを浮かべながら聞き返してくる里奈。・・・絶対わざとだ!!わかっててやってるんだ!!

ここで正直に答えるものならばおそらく、いや、絶対からかわれるだろう。そりゃあもう容赦なくだ。好き放題からかわれるに違いない! ここはよく考えて・・・考えて・・・


「か、体が冷えるからですよ!」


「ふぅん? そういえば来月から7月ね。暑くなってきたらいいってことかぁ」


し、しまった!これは罠か!罠だったのか!!この答えを予想していたというのか!!

くそッ!さすがは殺し屋だ!なかなかやるじゃないか!!


「お姉ちゃん!!刹那を困らせないの!!」


「は〜い・・・」


玲菜に怒られて、やっと里奈が大人しくなった。まぁその代わりに玲菜に抱きついたわけなのだが・・・。

ちらっと時計を見る。もう11時、そろそろ就寝の時間だ。健全な高校生は夜更かしなんてしてはいけないのである。・・・そういえば明日は学校だ。早く寝ないと、授業中に寝てしまうことになる。

点けていたテレビを消し、刹那は立ち上がって言った。


「それじゃそろそろ寝るか」


「そうだね〜、行こっかぁ玲菜ちゃ〜ん」


「そんなにくっつかないの!! あと、変なことしたら部屋から出て行ってもらうからね!!」


「あ〜あ、釘刺されちゃった。お姉ちゃん悲しい・・・」


「・・・・おやすみ、2人とも」


刹那は姉妹のやり取りを見かねて居間を後にした。

廊下を出て、階段を上がる。トントン、と階段を上り終えるとすぐ横に刹那の部屋がある。ガチャっとドアを開けて中に入り、刹那はベッドの中にもぐりこんだ。


「あぁ・・・疲れた・・・」


とにかく今日は疲れた一日だった。というよりも、この連休中に色んなことがありすぎて疲れが溜まっていたのだ。

本屋に行ってマンガを買って、家に帰ったら可愛い女の子が玄関で倒れていた。

看病をして、その女の子が自分の家に住む、と言った。

その女の子・・・玲菜のために部屋を作った。といっても、掃除も何もしていないが・・・。

玲菜の姉がいきなりやってきて家の壁をぶっ壊した。ついでにガラスやらテレビやら色んなものをぶっ壊した。

博人の家に玲菜の家具を貰いに行った。出来がいいのを2つ貰ってきた。

そして、玲菜の姉・・・里奈もこの家に住むと言い出した。

・・・・・新手のいじめか? なんて思ってみたりした。平和に暮らしていたのに、何でいきなり殺し屋が2人も家にやってくるんだ? しかも、玲菜はまだいいとして問題は里奈だ。妹の玲菜のためを思って、寝ている間に自分の頭を粉砕しにくるかもしれない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・


「ぐーぐー」


「よしよし、よく寝てるわね。て〜い☆」


ヒュッ!! グシャア!! ポタポタ・・・。


「よし、これで玲菜ちゃんに取り付く悪い虫はいなくなった! 玲菜ちゃ〜ん、お姉ちゃんがんばったよ〜、褒めて褒めて〜」


・・・・こんな具合に。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


・・・・・ぶるぶる


想像しただけでも、恐ろしい。刹那は無意識のうちに頭をさすっていた。あぁ、頭があるって素晴らしい。


「・・・って、早く寝ないと明日がつらいな」


行き過ぎた妄想をそこで止め、刹那は電灯の紐をくいっと引っ張って明かりを消し、掛け布団をかけて目を瞑った。


{・・・まぁ、怖いことだけじゃないけどな}


怖いときもあれば、楽しいときだってあるだろう。玲菜と里奈がじゃれあっているときとか、玲菜が食事を作ってくれるときとか、里奈さんが時々自分をからかってくるときとか。

楽しいことを頭に思い浮かべているうちに、刹那はいつの間にか寝入ってしまった。


次のお話で、また新しいキャラが登場しますのでご期待を。

これからも「殺し屋」よろしくお願いします!!

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