第89話 雑貨屋へ!!
やはりクリスマス・イヴということもあって、町は若い男女のカップルで溢れていた。
もちろん普通に買い物をする主婦や、散歩をしている中年、そのほか一般の人もたくさんいるのだが、それでもカップルの数が多いことには変わりはない。
{その中の1人なんだよな、俺}
隣の理恵を見て、ふとそんなことが頭をよぎった。
誘われたときはそんなこと意識しなかったのに、隣を過ぎていくカップルを見ていると途端に意識してしまう。・・・男女2人きりで町に出る。それは・・・
{・・・デートってやつじゃないのか?}
たぶん、そういうことになるだろう。男女2人きり、という条件だけで見れば確かにそうなる。
{・・・やべ、緊張してきた}
そわそわと、急に落ち着かなくなってくる。何といっても、これは刹那にとっては人生で初めてデートなのだ。今までは博人たちが居てくれたが、今回は違う。本当に2人きりなのだ。
例え友達だとしても、理恵は女の子だ。その女の子と、こうやって2人一緒に並んで町に遊びに来るのはたぶん初めてだ。・・・帰り道やら、買い物に付き合ってもらったりしたりするのは結構あるが。
「? どしたの、そんなにそわそわしちゃって。トイレ?」
「い、いえ! 違います!」
そわそわしていることを、トイレに行きたいと勘違いされてしまった。・・・まぁ、体を必要以上に上下させて、辺りをきょろきょろしている様は、用をたしたいのを我慢してトイレを探している風に見えなくもない。
「・・・ホントでしょうね。我慢してない?」
「ホ、ホントですってば!」
「それならいいけど、行きたいならちゃんと言いなさいよね?」
「は、はい」
・・・何だかカップルというか、姉弟のような感じだ。しっかりものの姉に、どこか抜けている弟。知らない人が見たら、そう見えるのではないだろうか。
「別にいいけど・・・それより、どこか行きたいところある?」
「行きたいところですか?」
ん〜、と唸り、行き先を考える。
本屋、CDショップ、その他色々。よく行くところを巡らせて見たが、特に行きたいというところはない。どれもいまひとつ、という感じだ。
「特にはないです。理恵さんの行きたいところで」
「そう? それじゃ行きたいところあるんだけど・・・・・いいかな?」
「いいですよ。どこなんですか?」
「ん〜・・・雑貨屋、かな。行けばわかるわよ! ほら、早く!!」
「おわ! い、ちゃんと1人で歩けますってば!」
理恵に腕を引っ張られながら、2人は理恵の言う雑貨屋へと向かったのだった。
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それからしばらく歩き、2人は雑貨屋へとやってきた。
小さい外見とは裏腹に店の中は意外にも広く、各フロアに応じて品物の種類が置かれている、という感じで存在している。・・・ただ闇雲にボンボン、と品物を置いてあるだけではないのだ。
例えばゴミ箱。丸くて今流行のキャラクターのついている可愛いものもあれば、ただやたらとでかいだけのポリバケツなどもある。ゴミ箱というカテゴリだけでもかなりの種類が存在している。
そのほかにも、ストラップ、携帯電話の傷防止のカバーなど、1時間そこらでは全部見て回れそうにないくらい大量の品物が置いてあった。・・・これではスーパーマーケット店も顔負けだった。
「どう? いっぱい置いてあるでしょ? アタシ、結構ここで買い物したりするから、大抵のものはどこら辺に置いてあるかわかるんだから!」
自慢げに胸を張る理恵。・・・待ち合わせのときの大人っぽさは微塵も見当たらない。いつもの理恵だった。
「反応が薄いわよ!!」
「あ、はいすみません!」
「まったく・・・熱でもあるんじゃないでしょうね?」
「あ、それは大丈夫です。それより、ここで何を買いたいんですか?」
「別に買いに来たんじゃないわよ! 見れば色々楽しいでしょ? こういうのもあるんだな〜って」
それは一理ある。服を買いに店へ行ったときも、新しい靴や上着があるとつい目が行ってしまうのと同じだろう。・・・それだけでも結構楽しい時間を過ごすことも出来るしな。
「そうですね。これだけ広いときっとたくさん見るものもありそうですしね」
「そうよ。本当に広くて、隅々まで見るのに2日くらいかかったんだから」
「それはすごいですね。じゃ、ゆっくり見て回りましょうか」
「うん。何か見たいものとかある? あるんだったらそれを優先するけど」
「ないですよ。あえて言うんだったら、色々ですかね」
「わかった。それじゃ、適当にブラブラして回るわよ!」
「あ、待ってくださいよ!」
先走る理恵の後を、刹那は追いかけた。・・・何だか喜んでいるみたいだ。いつもとは違う品物が並べられているからだろうか?
・・・デートに雑貨屋て、変ですかね・・・?
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