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第85話 決意

夕飯を食べ終わった理恵は、なにやら神妙な顔をして恵利の部屋のドアをノックした。


トントントン、という小気味よい音のあとにゆっくりとドアノブをまわす。・・・このときが一番緊張する。気軽に入っていけばいいのだが、『そっち系統』の話をしに恵利の部屋へお邪魔するときはどうしてもこうなってしまう。まるで母親の部屋に叱られにいく子供のようだ。

ドアを開けると、すでに恵利はクッションの上に座っていた。


「あの・・・来たんだけど」


「うん。それじゃ姉さん、そこ座って」


「・・・はい」


言われたとおりに、理恵は恵利の正面に置いてあるクッションの上に座った。


「それじゃ、報告」


いつもの大人しい恵利が、腕組みをしながら言った。


これから始まるのは、理恵の報告会、のようなものだ。しかし、報告会というのも名ばかりのもので、実際はその日にあった刹那に関しての出来事を洗いざらい理恵に吐かせるという、警察の取調べとなんら変わりのないものでしかない。


しかも毎日のように恵利の部屋で行われており、そして今日もまたありとあらゆることを全て話しに理恵が部屋を訪れた、というわけである。


「えっと・・・・・イヴの日に刹那と過ごすことになりました・・・」


「え?! それ本当!?」


身を乗り出して、心底驚いたように目を見開く恵利。理恵がそこまで積極的にアプローチを仕掛けるとは思ってなかったのだろう。


「ほ、本当だってばぁ・・・・・」


あまりの迫力に、涙目になる理恵。しかしこれはいつものことなので、恵利はさほど気に留めず追撃を仕掛ける。


「い、いつ? いつ約束したの?!」


「ほ、放課後ってば・・・そこしか、刹那と2人になれる時間なんてないし・・・」


「そ、それでなんて言ったの?!」


「え、っと、イヴの日に遊ぼうって、ただそれだけ・・・」


「はぁ〜・・・そっかぁ・・・」


よくもまぁ極度の引っ込み思案だというのに自分からそこまでこぎつけたものだ、という感心のあまりため息が出る。

すると理恵は慌てて手を振り申し訳なさそうにそっと言う。


「あ、でも博人から刹那はイヴの日空いてるって聞いたからそう言えただけで・・・・・そんなに感心するほどじゃ・・・」


「いや、それでもすごいよ姉さん」


本当にである。恵利と博人が協力しなければ、刹那を遊びに誘うことなどできなかった頃と比べればずいぶん成長した。その成長っぷりは素直にすごいと思う。


ここまで理恵が成長するまでの過程が懐かしい。最初に刹那のことが気になると頬を赤く染めてもじもじしながら相談しにきたときは驚いたものだ。


あの男勝りの豪快な性格な姉が顔を赤らめて恥らう姿など、本当に生まれて初めて見たからだ。風邪で頭でもやられてるのではないかと心底心配したときのことが、今思えばおかしくて仕方がない。実際は自分よりも弱気でか弱い絵に描いた乙女のような性格なのだから。


「・・・あのね恵利」


「? なぁに姉さん」


理恵の目が、先ほどまでのそれとは違っていた。涙目で、ちょっとからかえば泣いてしまいそうだった脆さを秘めた目とは違い、何か決意をしたような、覚悟を決めたような目をしている。


「どうしたの?」


もう一度訊く。しばらく間をおいて、理恵は答えた。


「・・・アタシ、今年のイヴで・・・その、刹那に伝えようって思うの」


「何を?」


「えっと・・・好きだってこととか。いつも想ってるってこととか。色々・・・」


「・・・・・」


驚きのあまり、恵利は言葉を失ってしまった。頑張ってね、とか、うまくいくといいね、とか、色々気の利いた言葉がぽんぽんと出てくればいいのだが、どうも出てこない。


恵理と博人の協力なしで、1人で大事なことを決めたのだ。今まで1度たりともなかったことに、恵利が言葉を取り戻すまで少し時間がかかってしまうくらい驚いてしまった。


それと同時に、少し不安を覚えてしまう。本当に自分たちがいなくて大丈夫だろうか、失敗したりしないだろうか、赤くなってばかりで喋れないのではないだろうか、と心配の種は尽きない。まるで子供を1人でおつかいに向かわせる母親の気分だ。


「姉さん、本当に1人で大丈夫?」


心配そうな恵利の言葉に、理恵はこくん、と頷いてみせた。強い意志のこもった目をして。


「うん、大丈夫。ちょっと不安だけど、これはアタシ1人で頑張らなきゃいけないことだと思うから」


無理に手助けなどする必要などない。初めて理恵から言い出したことを、わざわざ手助けをして邪魔をするわけはいけない。


理恵の言うとおり、これは1人でやらなければ意味のないことなのだ。仮に恵利と博人の2人が手助けをしたおかげで成功したとしても、理恵は喜ばない。人の用意した線路の上を走る電車のように、ひどく味気なく、むなしい気持ちになるだけだ。


「今までありがと、恵利。でも、今回だけは1人で頑張ってみる。たくさん迷惑かけちゃったけど、最後だけは恵利たちに頼らないでやってみる」


「・・・そっか」


だから、恵利もそれ以上言わなかった。どんな言葉を使って手助けをさせようとしても、理恵は刹那とうまくいくようにという直接的な手助けを望まないとわかったからだ。




・・・それならば、だ。間接的な手助けをしてやろうではないか。




「姉さん!! それなら練習!!」


「へ? え?!」


「イヴまで時間ないよ!! はい!! 告白の練習!!」


「だ、だから手助けはいらないって・・・・・」


「手助けじゃないの!! 練習に付き合うだけなの!! ほら、早く言うの!!」


「うぅぅ〜〜〜・・・わかったわよ〜・・・」


理恵の、再び泣きそうな声。2人は、イヴに向けての特訓を開始したのである。


{このくらいしか役に立てないけど、がんばってね、姉さん}


一気に展開していきますよ〜

これからも「殺し屋」よろしくお願いします!

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