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第83話 ・・・怒ってる?

忙しく、そして楽しかった文化祭も終わりを告げ、刹那たちはクラスの中でミーティングを行っていた。


先生からのねぎらいの言葉と責任者である博人からの評価、そして準備などたくさんの苦労した委員長の最後を締めくくる言葉。・・・ついに終わったんだなと改めて実感する。あれだけ夜遅くまで準備してきたのに、終わってみれば何だかあっという間だった。


ミーティングも終わり、帰ろうと鞄を持って教室から出ようとしたそのときだった。


「お〜い、刹那。今から帰りか?」


片手を振りながら、博人が話しかけてきた。


「ん? あぁ、そうだけど」


「打ち上げ付き合わないか? クラスのみんなでパーッとよ!」


博人の提案に、腕組みをしながらどうするかを考える。

打ち上げ・・・・・楽しそうだ。

みんなと一緒に今までの苦労と今日の成功を喜び、自分たちを称え、よく頑張ったと肩を抱きながら飲み、食い、騒ぎ、今日はとてもいい日だったと言い合う。・・・・・打ち上げそういう時間だ。ぜひ行って、みんなと一緒にわいわい騒ぎたい。楽しみたい。


・・・しかしだ。


「ごめん、今日はちょっとパスするよ」


「ん? 何か用事でもあるのか?」


「用事ってほどでもないんだけど、家で玲奈が夕飯作って待ってるからさ」


「あ〜なるほどな。そりゃ帰らないとな。可愛い可愛い玲奈ちゃんの夕飯が待ってるもんな〜」


「からかうなっての。とりあえずそういうわけだから、ごめん」


「あぁ、了承。じゃあ、また来週な」


「わかった。それじゃ」


博人にそう言って、刹那は教室を後にした。





+++++





鼻歌を歌いながら、刹那は家路についていた。


ほど良い疲れ、空っぽの腹、それを満たしてくれるのが玲奈の料理だ。毎晩毎晩口に運んでいても、うまいものはうまい。


「今日は何だろうかな」


うきうきしながら歩いていると、いつの間にか家についてしまっていた。・・・気がつかなかった。玲奈の料理を考えているだけでこんなに時間が過ぎるのが早く感じるなんて。


{恐るべし・・・・・}


そんなことを考えながら玄関のドアを開ける。


「ただいま〜」


いつも通りの挨拶をしながら家に入る。が・・・・・


「あれ?」


おかしかった。いつもなら玲奈がおかえり、と言って迎えてくれるのに、今日はそれがない。

それに、なにやら居間のほうが静かなような気がする。玲奈が料理しているときの音や、里奈さんが見ているテレビの音やらが聞こえてくるのに、それも聞こえない。


「出かけてるのか・・・」


居間のドアを開けると、いつものようにテーブルに突っ伏している里奈と、口をへの字に曲げた玲奈が椅子に座ってお茶を飲んでいた。・・・何だ、2人ともいたのか。聞こえてなかったのか?


「ただいま」


「・・・・・おかえり!」


「?」


とげのある声で、玲奈は一言だけそういった。いつものような労いがまったくなかった。・・・どうしたんだろう。何かあったのだろうか?


「えっと、どうしたんだ、玲奈」


「別に!!」


・・・もしかして、怒ってるのか?

でも何か怒られるようなことをした覚えなんて・・・・・。

と、そこまで考えて1つの事柄が頭に浮かんだ。おそらくは、文化祭のことだろう。迎えに行かず、しかも一度も校内で見つけられなかったから、それで玲奈はこんなに怒っているのだろう。


「えっと、その、文化祭のことなんだけどさ。ちゃんと時間とか聞いてなくて、その、案内できなくて、ごめん」


「・・・・・」


「玲奈?」


「知らない!!」


そう怒りながら叫んで、玲奈は居間を出て行ってしまった。・・・バタンッ!! 大きな音を立ててドアを閉めて。

シーンと静まる居間。そんな中、刹那は一言だけポツリと言った。


「どうしよう・・・・・」


「どうするも何もないわよ。この鈍感男」


「おわ!! 起きてた!!」


驚いて見てみると、里奈は顔だけ起こして刹那のほうをじっと見ていた。・・・何やら疲れたような顔をしている。どうしたのだろうか。


「・・・どうしたんですか? 疲れた顔して」


「疲れてんのよ。あんたのせいでね」


「え、俺のせいですか?」


「そうよ。あんたの馬鹿加減にはいつも頭が痛むわ」


「無茶苦茶失礼ですね!!」


「姿を見るだけでも目まいがするわ」


「すげぇ失礼ですね!! ってか言うこときつくないですか?!」


「うっさい!! 本当のことでしょ!!」


「ひでぇですね!! 俺もう泣きそうです!!」


「あぁもう、うっさいうっさい! 寝るわ!」


散々言っておいて、里奈は先ほどよ同じようにテーブルに突っ伏した。

・・・この人は本当に・・・。


「あ」


そういえば、とばかりに刹那は寝ている里奈に尋ねた。


「そういえば里奈さん、今日の夕飯は?」


「ん」


そう短く唸って、とん、とテーブルに差し出したものは、カップ麺だった。しかも、刹那の一番苦手なとんこつ味。


「・・・マジですか?」


「ま〜じ。今日はそれだけ。玲奈ちゃん、へそ曲げちゃって今日作らなかったから」


「・・・・・」


それだけ言い残して、里奈は眠りについてしまった。3秒も経たずくーくーという可愛らしいいびきが聞こえてくる。


「はぁ〜・・・・・」


刹那が思わずついたため息は、本当に長い長いため息だった。







+++++







ゆさゆさゆさゆさ・・・・・


「ん〜・・・・・」


何度も何度も揺さぶられている。でも、起きられない。瞼くらいは開けるものなのだが、今日はそれすらできない。


それもそのはず。昨日は里奈の言ったことが頭に離れなくて、ずっと寝付けずにいたのだ。

鈍感野郎って、何なんだ・・・。


それを考えているうちに、うっかりと眠ってしまった時間は午前3時。日曜日でなければ学校で爆睡していたところだ。到底起きられるはずかない。だが、


「・・・起きてよ、刹那。朝だよ」


玲奈の声が耳に入ったとたん、飛び起きた。布団を足で蹴っ飛ばして、反動をつけて起き上がる。


何度も揺さぶって起きなかったのに、声をかけたらいきなり起き上がった刹那を、ぱちくりと呆気に取られたような瞬きをする玲奈。本当に驚いたようだった。


「えっと・・・刹那、起きた?」


「え? あ、あぁ。起きた」


「そう、よかった。なかなか起きないんだもん。どうしようかなって思っちゃった」


そう言って、口に手を当ててくすくす笑う玲奈。・・・昨日の怒っていたのが嘘のようだった。そんなこと最初からなかったかのように笑顔を浮かべている。


どうしよう、と刹那は思った。このまま昨日のことを流してしまってもいいのだろうか? 玲奈も幸い、何も言ってこない。触れないようにして、掘り返さないほうがいいのだろうか、と。


でも、自分のせいで怒ってしまったのなら、しっかりと謝りたい。謝って、そして許してもらいたい。・・・一晩考えてもその理由がわからないからなおさらだ。


どちらにすればいいのか。それを考えていると、不意に玲奈がそっと呟いた。よく耳をすまさなければ聞こえないくらい小さな声で。


「・・・ごめんね」


「え?」


「昨日、ごめんなさい。いきなり怒っちゃったりして」


「いや、それはいいんだけど・・・・・俺のせい、だよな? こっちこそ、ごめん」


「うぅん、刹那は悪くないの。全部私のせいだから。本当に、ごめんなさい」


言い終わって玲奈は、本当にすまなそうな顔をしていた。俯いて悲しそうな目で刹那を見てくる玲奈は、今にも泣き出してしまいそうだった。


・・・これ以上、話を引き伸ばすと玲奈が可哀想だ。玲奈は謝ってきている。ならば、許してやらなければならない。そうしなければ、いつまでたっても玲奈は立ち直れない。


「・・・わかったよ、玲奈。だからもうそんなに謝らなくてもいいよ。怒ってないから」


「・・・本当?」


「本当だって。ちっともさっぱりまったく怒ってないよ」


「・・・くす、よかった。ずっと不安だったの。怒ってたらどうしようって」


そこでようやく、玲奈の表情から不安の色が消えた。・・・よかった、仲直りできて。このまますれ違ってしまったらどうしようかと思った。


「ご飯できてるよ。先に行ってるからね」


「わかった。着替えたらすぐに行くよ」


最後ににこっと笑って、玲奈は部屋を後にした。

ゆっくりと伸びをし、刹那はベッドから降りて着替え始めた。









着替え終わって居間に下りてくると、相変わらず里奈がテーブルにあごを乗せてぼへ〜っとしていた。やわらかな日光を背に受けて、少しだけ開いた窓から吹いてくるそよ風が実に気持ちよさそうだ。・・・何だか猫みたいだった。知らないうちにぴょん、と細長いひげが生えているかもしれない。


「失礼ね、そんなの生えないわよ」


「それじゃ猫耳とか。ぴこぴこ動かして遊んでそうな・・・」


「それもなし。尻尾はあっていいかもしれないけどね」


「? なんでです?」


「身近なものは全部尻尾使って取れるじゃない。まぁ便利」


「・・・物臭もそこまでいったら大したものですよ。本当に」


「うるさいわね。お腹減ってるんだからあんま話しかけないで」


「あんたが先に話し振ってきたんでしょ!?」


・・・読心術のことにはもはや触れるまい。最初はあんなに驚いていたのに、今では完全に自然体になってしまっていた。


「・・・玲奈ちゃんとは仲直りできたみたいね。あんたを起こして帰ってきたときの顔が明るかったもの」


「まぁ・・・できました、はい」


「ならよかった。あんまり心配の種増やすんじゃじゃないわよ」


「はい」


・・・やっぱり、ふざけているように見えてもしっかりとした姉だ。ちゃんと玲奈のことを心配している。


「はい、お待たせ。座って座って」


玲奈が朝食を乗せたお盆を持ってやってきた。今日もおいしそうだ。朝食の匂いが鼻に入ると、腹の虫が勢いよく鳴り出す。


・・・こうして、いつも通り朝は始まったのだった。




次で文化祭編は終わりです。

・・・本当です。今度こそは本当です。信じてください。

これからも「殺し屋」よろしくお願いします!

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