第82話 発見! でも・・・
刹那のクラスをあとにしてから、里奈たちはとにかく校内を歩き回った。
各クラスの出し物を見てきたり、体育館のバンド演奏を聴いてきたり、出店のものを買って食べたり、とりあえず目ぼしいものは全て見て回った。
「大体制覇したわね。なかなか面白かったわね」
外に出ることがほとんどない里奈も、初めての文化祭にずいぶん満足したようだった。珍しく微笑んでいるのが何よりの証拠だ。
「でも、結局刹那は見つからなかったね。どこにいるんだろ?」
少しがっかりしたようにそう言う玲奈。
隅々まで校内を回ってみたのに、どうしても刹那が見つからなかったのだ。
探していればそのうち見つかるだろうと思っていた玲奈も、校内を散々歩き回っても見つからなかったためか、いささか不安になってきたようだった。
「本当ね、どこ行ったのかしらあいつ」
「すれ違って気がつかなかったとか・・・」
「ありえるけど・・・・・もしかしてあいつあたし達をわざと避けてたりしてね」
「え・・・・。お姉ちゃん、それ本当?」
まるで捨てられる寸前の子犬のようなうるうるとしたような不安げな瞳で里奈を見つめてくる。・・・これは反則すぎる。耐え切れない。
「じょ、冗談だってば。あいつに限ってそんなことあるわけないわよ」
「そうだといいけど・・・」
冗談のつもりでそう言ったのだが、どうやら本気にしてしまったらしい。先ほどのはしゃいでいたときとは違い、今は何か悪いことを考え込むような感じになっている。・・・少し悪いことをしてしまったと里奈は反省した。
「でも、本当にどこにいるんだろ。具合悪くなって保健室に行ったとか?」
「ちょっと考えにくいわね。朝は元気そうだったし、博人ちゃんもそんなこと言ってなかったし」
「で、でも急に具合悪くなったとか・・・・・」
「いくらなんでも考えすぎよ。どうせその辺でうろうろしてたりするわよ」
さも当然のように言う里奈。
しかし、これだけ歩き回って見つけられないというのも何だかおかしな話だった。偶然にしてはちょっと出来すぎのような気がする。ひょっとしたら単なる偶然などではなく、刹那が意図的にそうしているのかもしれない。
だが、先ほども言ったように、刹那がわざと避けているというのはどうも考えづらい。見つけたらほぼ確実に声をかけてくるはずだ。・・・本当に偶然なのか、それとも何か理由があるのか、どっちだかわからない。
「・・・ま、家に帰ったらどこにいたか聞けばいいじゃない。そんなに心配しないの」
「・・・うん」
納得がいかないようだったが、玲奈はこくりと頷いて見せた
「もう全部出し物は見ちゃったし、そろそろ・・・・・あれ? いた」
「え? 刹那が?」
「うん、ほら」
里奈の指さす方向には、探しても探しても見つからなかった刹那の姿があった。確かにいた。・・・・・理恵と一緒に。
「・・・・・」
刹那が理恵と一緒に歩いている。とても楽しそうに笑いながら、あちこちを見回している。
それだけではない。刹那が笑顔で口を動かすと、理恵はすぐ赤くなってしまい、そのお返しとばかりに刹那の額を人差し指で突っつくという恋人同士のようなやり取りだってしていた。
玲奈は、言葉を失った。自分が今何を見ているのかよく理解できなくて、わけのわからない胸の苦しさが襲ってきて、息をするのも忘れてて、それから、それから―――。
「なぁんだ。あいつ、理恵ちゃんと一緒にいたんだ」
「・・・・・」
「こっちが心配してたってのに、あいつなんか楽しそうだし・・・」
「・・・・・」
「それにしても・・・いい雰囲気ねぇ〜。理恵ちゃんなんて赤くなっちゃって、か〜わい」
「・・・・・」
「ひょっとして刹那と理恵ちゃん付き合ってたり・・・・・玲奈ちゃん?」
「・・・・・」
いくら里奈が話しかけても、一向に反応はない。
玲奈は刹那と理恵のほうをじっと見つめたまま、何も喋ろうとしなかった。唇をへの字に曲げて、こぶしをぐっと握りこんでいてそれはまるで・・・・・怒っているようだった。というか、完全に怒っていた。
「・・・・・」
「れ、玲奈ちゃん?」
「・・・帰る!!」
「え? あ、ちょっと!」
里奈が止めるまもなく、怒った玲奈はさっさと玄関のほうへと歩いていってしまった。大人しく静かだった歩き方も、不機嫌なためかうるさい足音を響かせていた。
「あらら・・・怒っちゃった」
ふ〜、と軽くため息をついて、刹那と理恵のほうを見る。
様になっている。知らない人が見れば、絶対に付き合ってると思われる。それだけ自然だった。刹那の振舞い方も、理恵の笑顔も、全部。
{まったく・・・人の気も知らないでってやつね。どうせなら最後まで現れなかったらよかったのに}
もう一度ため息をついて、里奈は先に行ってしまった玲奈の後を追いかけたのだった。
これからも「殺し屋」よろしくお願いします!