第81話 メイド喫茶へ! その2
「と、ところで博人ちゃん、刹那いる? あいつの写真とってやりたいの!」
「え? あ、刹那ですか。もう上がりましたよ」
「え? 刹那、いないの博人さん?」
「ちょっとした都合でな、早めに上がらせたんだよ。もう文化祭が終わるまで戻ってこないと思うけどな」
「そうなの。・・・っち、残念」
舌打ちをしながら、里奈は手に持ったカメラをバッグにしまいこんだ。・・・非常に残念だ。家に帰ってから刹那を写真でからかうのが楽しみだったのに。
「ふっふっふ〜。里奈さん里奈さん」
「? 何、博人ちゃん?」
「いつもお世話になってますから・・・・・どうぞもらってやってください!!」
そう言って博人が出したのは・・・3枚の写真だった。それも、里奈が欲していたメイド服の刹那だった。
1枚目は、げんなりした顔で着替え所から出てきたところ。これからメイド服で仕事をしなければならないのか、というため息が写真越しで伝わってきそうな写真だった。
2枚目は、ぎこちない動きでコーヒーを運んでいるところ。初めてこんなことをするのか、とても緊張しているのがわかる。
3枚目は、入り口のところで客を出迎えているところ。先ほど玲奈と里奈がされていたやつだ。
顔が引きつっていて、とてもぎこちない。それのせいか、写真に写っている客も口に手を当てて笑っている。
「・・・でも、これ本当に刹那?」
「そうです。似合ってますでっしょ!」
「似合ってるっていうより・・・生まれてくる性別、間違ってんじゃないのこいつ」
「刹那可愛い〜」
玲奈の言うとおり、世辞抜きでも普通に可愛い。先ほど迎えてくれたごついメイドたちとは全然違う。刹那自身、体が細いためだろう。
これは普通に町を歩けてしまうレベルだ。他の男たちの女装とはまるでレベルが違う。・・・ぎこちなささえなければ、だが。
「いや〜、大変でしたよ! あいつにばれないように写真を撮るのは!」
「間近で見られなかったのは残念だけど、まぁこれもらえたからいっか。ありがとね、博人ちゃん」
「いえいえ、どういたしまして」
「それより博人さん、刹那どこにいるか知りませんか?」
「刹那か〜・・・。さすがにどこにいるのかはわからないな。でも校内にはいるはずだから、歩いてればそのうち会えると思うよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「いや、役に立てなくてごめんね。それじゃお2人とも・・・ごゆっくりどうぞ♪」
ウインクをし、唇に人差し指を当てながらそう言い残し、博人は奥へと消えていった。
「・・・あの子、本当に大丈夫かしら」
「だ、大丈夫だよ。仕事だから仕方なくやってるだけだってば」
「だといいんだけどねぇ・・・」
そう言いながらコーヒーをすすり、博人の将来を心配する里奈なのであった。
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「「「いってらっしゃいませ、ご主人様〜♪」」」
最初に出迎えられたメイドに見送られ、玲奈と里奈は2−3組の教室をあとにした。・・・出し物を思案した博人には悪いが、男たちにまでメイド服を着せるのはどうかと思う。
「・・・ひどかったわね。何か色々」
「で、でも結構面白かったよ。うん」
乾いた笑顔を浮かべる玲奈。・・・この娘ったら、優しいんだかはっきり物事を言えないんだか。
「さてと。玲奈ちゃん、どこか行きたい所とかある?」
「私はとりあえず、色々回れればいいけど・・・・・お姉ちゃんは? どこか行きたい所は?」
「あたしはもう玲奈ちゃんと一緒だったらどこへでも!!」
びしっ!! と親指を立ててながらそう言う里奈。目はきらきらと輝いていて、いたずらに舌もちょろっと出している。・・・普通の男なら一発でKOされるくらいの威力だ。外見に反する茶目っ気なポーズが反則的に可愛い。
だがしかし、そんな可愛さも玲奈には通用しない。実に慣れた感じでさらっと受け流す。
「はいはい、それじゃ適当に回ってみよ。もしかしたら刹那にも会えるかもしれないし」
「・・・ん〜。玲奈ちゃん、学校に来てからずっと刹那のこと探してるよね。気になるの?」
「え? あ、うん。やっぱり気になるじゃない。どうしてるかなって」
笑顔でそう言う玲奈。
・・・やっぱり、そうなのだろうか? 何だか刹那のことを話しているときの目が輝いているような気がするし、今だってこうやって刹那を探している。最初に行こうとしたところも刹那の教室だ。
間違いであってほしいのだが、そうではないのだろう。玲奈は刹那を無意識のうちに・・・。
「? どうしたのお姉ちゃん。考え事?」
「はぁ〜。まぁね。玲奈ちゃんのこと」
「? どうして私のこと?」
「色々あるのよ、可愛い妹を持つとね。さ、行きましょ」
「あ、待ってよお姉ちゃん」
一足先に歩く里奈の隣まで小走りで移動する玲奈。
そんな調子で、2人は仲良く並んで校内を歩き回るのだった。
これからも「殺し屋」よろしくお願いします!