第77話 後輩たち
理恵のクラスに向かっている途中のこと。先ほどは聞かないでおこうと思った理恵が渋る理由だが、やっぱり気にはなってしまうものである。・・・あまり怒らせない程度に聞いてみようか。
「あの、理恵さん」
「な、何よ?」
「どうして理恵さん、自分のクラスの出し物に行きたくなかったんですか?」
「え、あの、それは・・・・・その・・・・・い、行けばわかる、かも」
頬を染め、俯いてしまった。・・・結局わからずじまいになってしまった。本当に一体どういった理由なのだろうか? 知りたいが、深く聞いてしまうと怒るかもしれない。ここら辺で詮索は止めておくのがよさそうだ。
そのまま歩いていき、3年生のクラスである廊下へ着いた。1組のほうから、逆さ教室、プラネタリウム、なんちゃって縁日、お化け屋敷、という具合になっている。さすが3年生というだけある。ぱっと見、どれもクオリティが高そうだ。
「まずは1組から行ってみましょうか」
「そうね、順番通りに行ってみましょ」
とりあえずそういうわけで、1組の教室に入る。幸いお昼時だったため客が少なく、簡単に入ることができた。
「おぉ〜、面白いですね」
「本当ね。でも・・・戻すのがめんどくさそうね」
1組の逆さ教室は、机、椅子、掲示物などをすべて反転させ、まるで教の上下が逆転したかのように見せるというものだ。さすがに机や椅子を逆さにすると落ちたときが危ないため、紙で作られたものを逆さにしているが・・・・・これが実に精巧にできているのだ。よくよく見てみないと紙だとわからないくらいよくできている。あの博人が見てもうなる代物だった。
1組の作品を見終わると、次は2組の番だ。教室の戸を開けると・・・中は真っ暗だった。中に入り、戸を閉めて光を遮断すると・・・・・天井や壁、床に散りばめられた星が光りだした。
「・・・・うわ、すげぇ」
「何か、浮いてるみたい。すごいわね、これは・・・・・」
2組のプラネタリウムは、暗幕や黒い画用紙などで外からの光を完全に遮断し、光を当てると暗いところで光る星型の蛍光シールを四方八方に貼り付ける、というものだった。あまり強くない光は、本当に夜空を見ているような錯覚に陥ってしまう。
夜でもないのに星が見ることができるという、とても神秘的な作品だった。
しばらく見たあと教室を後にし、3組のクラスへと移動する。教室の中は祭囃子が流れており、少し遅めの夏祭りを感じさせた。
「射的と、スーパーボールすくいと、綿あめか。本当に縁日って感じですね」
「提灯も飾ってるし、雰囲気出てるわね」
3組の教室内も2組のプラネタリウムと同様に外からの光を完全に遮断しているが、大きな違いはやはり綺麗に光っている提灯が暗くなっている教室をを照らしていることだろう。流暢に流れている祭囃子に、光を放って雰囲気を醸し出している提灯。出し物と広さこそ本物の縁日には勝てないが、それ以外はそこら辺の縁日には勝るとも劣らない出来だ。・・・当番の生徒が浴衣姿というのもなかなか面白い。
十分雰囲気を堪能したところで、いよいよ本命である4組のお化け屋敷だ。刹那はわくわくしながら3組の教室を出て4組の教室に向かおうとするのだが・・・・・理恵が行くか行かまいか迷っていた。ここまで来てやっぱり駄目!! とかは・・・ないよな?
「ねぇ、やっぱり・・・・・・どうしても行きたいの?」
「どうしてもです!! 文化祭の楽しみはお化け屋敷と言っても過言ではありませんから!!」
胸を張り、迷うことなく断言する。毎年お化け屋敷を堪能してきた刹那にとって、これはどうしても譲れない点であるらしかった。
刹那の一途な思いに理恵はついに折れ、渋々と刹那の隣にくっつき一緒に並んで4組へ歩き始めた。
「うわ、これは・・・・・」
4組教室前の受付には、昼時にもかかわらず列がずら〜っと並んでいた。受付の人も忙しそうに列を整理している。それだけ人気があるということなのだが・・・・・並んでいるのが女子しかいない。それも何だか全員ソフトボール部のような気がするのだが・・・。
「あ、理恵先輩だ!!」
「ホントだ!! 理恵さん!!」
「お姉様〜〜〜〜」
「え? あ、ちょ、きゃ!!」
理恵を発見するなり並んでいた列が崩れ、お菓子に群がる蟻の如くソフトボール部は理恵に群がってきた。理恵は大群の中で悲鳴をあげるが効果はなく、ちょっと目が血走り気味な部員たちにされるがままになっていた。・・・どうやらこの女子たちは、理恵を目的にお化け屋敷に来たらしかった。
そんな中刹那は、容赦なく弾き飛ばされ、踏まれ、蹴られ、まるで木の葉のようにひらひらと舞っていた。言うなればノックアウト寸前というやつである。こんな怒涛の攻撃を受ければ、刹那でなくともノックアウトされてしまう。・・・まったくもって女の子とは恐ろしいものである。
「・・・ところで理恵先輩、さっき木下と一緒に歩いてましたけど・・・・・」
「そうです! 何で先輩があんなやつと一緒なんですか!!」
「ずるいです! 私もお供したいです!!」
「えっと、何ていうかね、あはは・・・」
「あははじゃないです!! もしかして、ずっと前に言ってた好きな男ってこいつですか!!??」
「え、へぇ?! ば、馬鹿なこと言うんじゃないの!! そ、そんなこと言って!!」
「「「・・・・・(じぃ〜)」」」
「ぅ・・・・・」
何とか否定しようとするが、自分を取り巻く女の子たちの無言の圧力のせいで完全に否定はできず、理恵は頬を真っ赤にうつむいてしまった。1年ちょっとの付き合いがあるソフトボール部には、それですべてがわかってしまう。
「・・・わかりました、そういうことなら応援します。・・・悔しいけど」
「うぅぅ〜・・・・・先輩が・・・・・」
「よりによってあんなやつと・・・・・でも応援しちゃいます!」
「お、男なんて・・・男なんて・・・」
「み、みんなには秘密だよ?! 秘密だからね?!」
憧れの先輩の恋路を邪魔しては悪いと思ったのか、ソフトボール部は渋々と帰っていく・・・はずだったのだが。
「うぅ・・・痛い・・・すげぇ痛い・・・ん?」
「「「・・・・・(じぃ〜)」」」
「な、何?」
「「「ふんっ!!!!」」」
「いでぃ!!」
腹いせに刹那を踏みつけ、それから帰っていった。・・・何なんだ、一体、俺が、何を、したと・・・いうん、だ。いてぇ・・・。
「刹那、あんた大丈夫?」
パタパタ、と心配そうな顔をして理恵が駆け寄ってくる。
「な、何とか。それより、さっき何かあったんですか? 理恵さん、顔赤いし・・・」
「え? べ、別にな、なんでもない!! なんでもないの!! ほ、ほら、後輩と世間話してただけだから!!」
「そ、それならいいんですけど・・・・・」
ソフトボール部の輪から外れ、地面に倒れ付していた刹那には話が聞こえていなかったらしい。理恵のごまかしをあっさりと受け入れてしまった。
「ま、まぁいいわ。それじゃ受付にいくわよ」
「はい、わかりました」
僕の文化祭はもう終わっちゃいましたけどね。
みなさんはどうでしょうか?
これからも「殺し屋」よろしくお願いします!