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第74話 1周年企画〜酔いどれなお姉ちゃん?!


「ごめんね刹那。荷物持ち手伝ってもらっちゃって」


金曜日の夕方、刹那は玲奈の買い物に付き合っていた。昨日の夜にシリスさんから電話があり、偵察という名目で家に遊びに来るということで、特別においしいものをごちそうしてあげよう、という話になったのだ。・・・・・里奈さんは苦い顔をしていたが。


幸い、刹那の学校は金曜日が休みだったので荷物持ちに刹那が同伴。今現在、刹那の両手にはパンパンに膨れ上がったビニール袋が握られている。・・・かなり重いが、いつも玲奈が頑張っていることを思えばどうってことない重さだ。いける。うん。


「気にしなくていいよ。俺も、いつも家事まかせっきりで悪いと思ってるし」


「それは別に気にしてないんだけど・・・・・本当に大丈夫? 代わろうか?」


「重いけど、大丈夫だ。たまには手伝わせてくれよ」


「でも・・・・・」


「いいってば」


「それならいいんだけど・・・・・」


玲奈は刹那に自分が作る料理の材料を持たせるのに納得がいかなかったようだが、ついには折れたようだった。・・・・玲奈は何でも自分がやらなければ、と背負いこんでしまう悪いくせがある。こういうところで手助けをしてやらなければ、背負ったものの重さで潰れてしまう。もうちょっと玲奈には楽をしてもらわなければ・・・困る。


「玲奈も、もうちょっと休まないとなぁ」


「え? どうして?」


「働きすぎだよ、どう考えても。そんなんだと倒れるぞ?」


「大丈夫! 体力はあるから!」


にっこりと笑って力こぶお作ってみせる玲奈。・・・・・ちっともこぶができていないのが、何だがものすごく可愛かった。


「ぷっくく・・・・」


「な、何で笑うの刹那?!」


「ちょっと・・・くく・・・おかしくて・・・・っくっふふ・・・・」


「なっ!! も、もう!!」


真っ赤になってそっぽを向く玲奈。こういう照れているところも、やっぱり可愛い。


「ごめんごめん。それじゃ、さっさと帰ろうか。シリスさん、もう来てるかもしれないし」


「む〜・・・。ごまかしてない?」


「ごまかしてないごまかしてない。ほら、行こう!」


「あ、待ってよ刹那!」


刹那のあとを追いかける玲奈。2人はそのまま家へと歩き出したのだった。





+++++





話しながら歩いているうちに、いつの間にか家へと辿り着いてしまった。玲奈と話していると時間が早い、と改めて実感させられた。・・・・・それだけ玲奈との話しに夢中になっているということも。


「ただいま〜」


「帰りました」


玄関を開けて2人は同じタイミングで叫ぶ。

買い物袋を置き、靴を脱ごうとしたところで・・・・・気がついた。


「あれ、シリスさんの靴だ」


「本当だね。もう来てるんだ」


丁寧に並べられた女物の靴。見慣れないことから、シリスのものだと一発でわかった。

確か玲奈の話ではもう少し遅くに来るとのことだったのだが・・・・・仕事が早く終わったのだろうか? それとも、玲奈と里奈に早く会いたくてつい早く来てしまったのだろうか? ・・・・・まぁどちらにしても、挨拶をしにいかなければ。


「楽しみだな〜。シリスさん、どんなお話してくれるのかな〜」


本当に嬉しそうに笑う玲奈。シリスと話せることが楽しみで楽しみでたまらないという感じだ。

玲奈の笑顔に、ついつい刹那も頬が緩んでしまう。


「早く行こ、刹那」


「あぁ、わかった」


シリスに会いたいのは刹那も同じだ。シリスからは色々な興味深い話を聞くことができる。単に面白かったり興奮できたりするだけではなく、ためになったり、何かを考えさせてくれる。そんな話がまた聞くことができるとなると、やはり興奮せずにはいられない。

やや急ぎ気味で居間のドアを開ける。




・・・・・そこには、




「ふ、2人とも・・・・・た、助けてください」


「シリスさぁああん・・・・・。ど〜して逃げるのよぉ〜? えへへ〜・・・・」


「り、里奈お嬢様・・・。お、お離しください・・・・」


「何で〜? どうして〜? ほわ〜い〜?」


めちゃくちゃ上機嫌の里奈に抱きつかれているシリスがいた。シリスは嫌がっているようで必死に里奈の抱擁から逃れようとしていたが、里奈ががっちりと抱きしめているため、逃げようにも逃げられないようだった。


あまりの驚きに、刹那は手にしていたレジ袋をどさっと落とし、玲奈も何も言うことができず、2人ともただ呆然とその光景を見ていた。


確か自身の記憶が正しければ、里奈はシリスが苦手だったはずだ。それなのに、どうしてこうも笑って抱きつけるのだろうか? いつもだったらシリスさんに小言を言われてうんざりしてそうなのに・・・。


それに、何だかいつもより里奈のテンションが高いような気がする。クールっぽい性格のはずなのに、えへへと無邪気に笑っている。まるで子供みたいだ。顔も心なしか赤いような・・・・・赤い?


もしやと思い、テーブルの上を見てみる。そこには空っぽになったビールやらチュウハイやらの空き缶が大量に転がっていた。1本や2本などというちんけな数ではない。文字通り『大量』である。


そして、里奈の顔が赤い。テンションもいつもより高い。これらから推理してみるに・・・・・まさか。


「あ、あのシリスさん。里奈さん・・・・・飲みました?」


「は、20歳にもなってお酒が苦手なんて、殺し屋にはありえないことです、と叱って、無理やり飲ませたところ、顔がどんどん赤くなってしまって・・・・・気がついたら私の持ってきていたお酒を全部・・・・・・んきゃ!!」


「ん〜ふふ〜♪ ふふ〜ふんふ〜♪」


いやいやをするシリスを、非常に嬉しそうにすりすりと頬擦りをする里奈。・・・・・なるほど。これは明らかだ。酔っている。絶対酔っている。こんな陽気な里奈なんて、珍しい。やっぱり、酒の力は偉大だということか。


そこで、はっ! と我に返る玲奈。すかさず里奈を叱り付ける。


「お、お姉ちゃん!! 何やってるの!! シリスさん迷惑してるでしょ!!」


「だってぇ〜。玲奈、いっつもシリスさん独占するんだも〜ん・・・・・。たまにはあたしに譲りなさぁいよ〜」


「ど、独占って・・・・」


「い〜っつもべ〜ったりしてさ〜。あたしだってもっとシリスさんに甘えたい〜っていうの〜。わかる〜? 20歳だからってねぇ〜、寂しくならない〜っていうわけじゃないんだからねぇ〜?」


「で、でも・・・・・」


「あたしだってねぇ〜、たまにはねぇ〜、甘えたいときだってあるっていうのよ! 何?! それが悪いことなわけ?! いいじゃないの!! こういうときくらいねぇ、あたしだってこうやってぬくもりを感じたいわけなのよ!! わかるぅ?! ぬくもりよ!! え?! どうなの玲奈?! 悪いわけ?!」


「う・・・・・」


「どうなのよぉう!? 答えなさいよぉ!!」


「い、いいと思います・・・・・」


すげぇ・・・・。玲奈が押し負けた。いつもだったらビシッと言ってすぐさま止めさせるはずなのに、今日は違う。里奈さんが姉として、逆に妹である玲奈にビシッと言って自分の行動を認めさせる。・・・・・これは、かなりレアな光景なのではないのだろうか? 里奈さんが姉として機能していることなど。


「ふふふぅ〜、素直でよろしい♪ それじゃぁシリスさん〜、もっといちゃいちゃしましょ〜♪ んふふふふふふ〜・・・・」


「え? あの、ちょッ!! や、やめてください里奈お嬢様!!」


「ずる〜い〜、玲奈ば〜っかり構って、あたしには構ってくれないなんてずる〜い〜。差別〜、区別〜、決別〜」


・・・・・最後のはちょっと違うと思うが。


「その・・・れ、玲奈お嬢様はまだ成人ではないし・・・・・」


「何よそれぇ・・・・あたしが未成年のときだって構ってくれなったじゃなぁ〜い? じゃなぁ〜い?」


「そ、それは・・・・・その・・・・・・」


「ふぅ〜ん・・・・・シリスさんってぇ、玲奈は大事なのに、あたしのことは何とも思ってないのねぇ・・・・・」


興が冷めたかのように、そっとシリスから離れる里奈。テーブルに置いてあるまだ手のつけていないビールの缶を開け、ちびちび飲む。


「え、お譲さま・・・・。別に、そんなわけでは・・・・・」


必死に弁解するシリス。いつも冷静沈着というイメージからは想像のできない、子供から嫌われてしまったのではないかと不安がっている母親のようにうろたえた態度。

そんなシリスを尻目に、里奈は片手でビールをちゃぽちゃぽと小さく振りながら、ぼそぼそ文句を漏らした。


「べぇっつにぃいいんだけどねぇ〜・・・・・。わかってたしねぇ〜。玲奈のほうが大事だもんねぇ〜。玲奈のほうが可愛いもんねぇ〜・・・・・。あたしなんか抱っこもしてもらえないしねぇ〜・・・・・」


「そ、そんなことはありません!」


少し強めの口調で言うシリス。

そのシリスをじと、と見据え、里奈は言った。


「嘘」


「う、嘘ではないです!」


「じゃあどうしてあたしは抱っこしてくれないのよ」


「それは・・・・・その・・・・・。大の大人が抱きつくなど・・・・・そういうことは・・・」


「やぁ〜っぱりそうじゃないの。あたしのこと嫌いなんじゃないのよぅ・・・。もういいも〜んだ。ふ〜ん」


「ち、違います! ・・・・・あぁ、もう!! わかりました!! お好きなようにどうぞ!!」


「わ〜い♪ シリスさんだぁ〜い好き♪」


「お、お譲様! だ、抱きつく場所を考えて・・・・・きゃ!」


まるで2重人格のように態度を翻し、里奈はシリスのふくよかな胸に顔をうずめながら抱きついた。・・・・・うわ、これは・・・里奈さんの大きさといい勝負だ。里奈さんが顔を動かすたびに形を変えるその豊かな胸は、相当の柔らかさと大きさを持っていると容易に予測できる・・・・って、何考えてんだ! 変態か! 博人じゃないんだぞ!


「うぅ〜・・・・・」


「あぁ〜・・・あったかいぃ〜・・・柔らかいぃ〜・・・」


クールなシリスさんが珍しく顔を赤くし、もじもじしている。そんなのお構いなしに、胸に顔を押し付けて頬擦りをする里奈。・・・・・さすがに、ちょっと迷惑っぽそうだ。止めさせておこうか。


「里奈さん、あの、シリスさんも嫌がってますし・・・・」


シリスの胸に顔を埋めながら、里奈はにやっと笑って刹那に言ってのけた。


「ふふふ、うらやまし〜んだ。うらやまし〜からそんなこと言うんだぁ。あたしにはぁお見通しなのよぉ〜」


「べ、別にそういうわけじゃないですけど・・・」


「照れなくてもいいのにぃ。そうよねぇ〜・・・・・玲奈には抱きつけないもんねぇ〜。こんなことできないもんねぇ〜。うらやまし〜もんね〜」


「な、何でそこで私が出てくるの?!」


「玲奈は黙ってなさい!!」


「ひぅ!! ・・・・はい」


うわ・・・、酔っ払いってひどいな。いつもべったりしてるのに、酔ったらどなり散らす。まさに容赦がない。・・・玲奈、ちょっと怯えちゃってるし。


「そうよねぇ〜・・・・。年頃の男の子だもんねぇ〜・・・。興味あるわよねぇ〜・・・。触ってみたいわよねぇ〜・・・。顔を埋めてみたいわよねぇ〜・・・」


・・・・・ひどい言われようだ。完全に変態扱いじゃないか・・・。何か泣きたくなってきた。・・・うわ・・・玲奈からの視線が痛い。刺さるような、それでいて冷たい視線。


「・・・・・(じぃ〜)」


「ち、違う玲奈! そんなこと思ってない!」


「・・・・・(じぃ〜)」


「本当だって!! 微塵も思ってない!!」


「・・・・・(じぃ〜)」


「そ、そんな目でみるなよぉ・・・・」


「・・・・・(じぃ〜)」


「う・・・・・」


何とか弁解を試みるが、玲奈の厳しい視線は刹那に注がれたままである。・・・・・ぬ、濡れ衣なのに。不当だ、こんな視線・・・・。


「そんな顔しないの玲奈ぁ〜。刹那だって男よぉ〜? 興味ないわけな〜いじゃないのよぉ〜ぅ」


「あんたがそんなこと言うから勘違いしてるんでしょ?! 俺そんなのないですから!!」


「黙りなさい!!」


「ひぐ!! ・・・・・はい」


里奈の痛烈すぎる怒鳴り声に、思わず身を縮こませる刹那。・・・だめだ、見境がない。この人、その気になったらどこぞの組の人だって平気で怒鳴り散らすに違いない。恐ろしいことこの上ないな、この人。


怒鳴った里奈だったが、酔いのせいかころっと表情を変え、にんまりと何か企んでそうな怪しい笑顔を浮かべて言った。


「だ〜か〜ら〜・・・・・」


バッ!! と、いきなりシリスさんの胸から離れ、刹那に接近する里奈。そして・・・・・


「ほ〜ら〜♪」


「うゎぷ!!」


自分の大きな胸に、刹那の顔を押し込んでしまった。


「ちょ、ちょっと!! お姉ちゃん!!!」


「あわわ・・・・・」


唖然としながらも、顔を紅潮させていく玲奈に、いきなりのことで慌てるシリス。そんな2人に構うことなく、里奈は刹那の頭をぎゅ〜っと抱きしめる。


「ど〜? ど〜よ? あたしの胸? ど〜〜〜〜よ〜〜〜〜?」


「むぐっっっ!! むがっぐ!!」


里奈は楽しそうに刹那を自らの胸に埋めるが、やられている刹那にとってそれはもう拷問でしかない。何といっても空気が吸えないのだ。


嬉しいとかラッキーだとか、そんなことは全然頭に浮かんでこない。ただただ苦しいだけだ。・・・たまにむにむにと形を変える胸がなんともいえないが、今はそんなことに気をとられている場合じゃない! 苦しい! すごく苦しい! 早く抜け出さないと!


「お姉ちゃん!! せ、刹那が死んじゃうよ!!」


「むむむ〜!! むご〜!!!」


「ふっふっふ〜・・・・」


だが、里奈が押さえつけているためか、なかなか抜け出すことができない。じたばたと暴れてもまるで無駄、一向にこの苦しみから逃れることができない。・・・あ、何か花畑が見えてきた。綺麗だな〜。川も流れてるし・・・。


「あら〜? だいじょび?」


「・・・・っは!!」


すんでのところで胸から刹那を開放する里奈。・・・・・危ないところだった。あと10秒も捕らえられていたらあの世へ旅立ってしまったことだろう。恐ろしき・・・・・胸!! もはやそれは凶器に値する代物である!!


「せ、刹那を離してよお姉ちゃん!! 迷惑してるでしょ?!」


「あらららら〜? 嫉妬〜? や〜ね〜!! 見苦しいわよ〜?」


「へ?! え、あの・・・・・それは・・・・・」


言われた玲奈は頬を赤くしながら両手の人差し指を合わせ、ツンツンつついて大人しくなってしまった。・・・・あれは、照れてる、のか? 照れてる玲奈も可愛いな、うん。


「それじゃあ〜!! 次はあたしのばん!!」


「え? おわ!!!」


言うなり里奈は刹那の胸に飛び込み、まるで猫を思わせるような態度で刹那に甘える。


「お、おわわわ!」





ドシン!





飛びついた勢いが強すぎたのか、刹那はそのまま押し倒されてしまった。下に刹那、上に里奈という感じだ。


それで、何と言えばいいのか、何だかちょっとやばい体位になったというか、はっきり言うとなれば、里奈の胸が刹那の体に直に当たっているというわけで、先ほどとは違い今度は苦しさがないため触感がじっくり伝わってきたというか、つまりはそんな感じであって・・・・・。


「―――――!!!」


口に手を当てて、仰天する玲奈。顔は真っ赤になったままであり、信じられない! と言いたげな目で2人の様子を見ている。


「あ、わわ・・・・・」


そしてシリスは口元を押さえて慌てている。おたおたと世話しなく動き回ったり、刹那と里奈辛目を逸らそうとしているのかあちこちを見たりしている。

そして・・・・・


「!?!?!?!?!?」


「えっへっへ〜♪」


混乱してもはや日本語を話せないでいる刹那。自分の上には満足そうに微笑んでいる里奈がいて、懐ききった子猫か何かのように甘えてくる。・・・そう、先ほどシリスにしていたように。


「甘えさせて〜? んふふ〜・・・・・」


「?!?!?!?!?!?」


刹那はというと、心臓が爆発するのではないかというくらい跳ね上がっているせいで身動き1つ取れなかった。思考が完全に停止し、今どうなっているのか、どういう状況なのか、それすら飲み込めていない。つまるところ、逃げ出したくとも逃げ出せないということだ。・・・・まぁ、正気だったとしても、ここで里奈がやすやすと逃がすわけないのだが。

里奈に甘えられているこの間、刹那の止まってしまった思考が必死に再稼動しようといていた。








・・・・・・




・・・・




・・




「た、隊長!! 思考が完全に停止しました!!」


「く・・・・! 早急に修復作業に入れ!! もたもたするな!!」


「しかし・・・・」


「やるしかないのだ!! 頼む!! 思考が修復されなかったらこの体は・・・!!」


「は、はい!! わかりました!!」


タッタッタ・・・・


「頼んだぞ・・・・・後は、頼んだ・・・・」




・・




・・・・




・・・・・・







「っは!!」


脳内で変な寸劇をしている間に、崩壊寸前だった刹那の思考は完全に回復した。

そして今自分が置かれている事情を把握してみる。・・・・・俺は今倒れている。そして体の上には里奈さんがいる、っていうか乗っかっている。やはり姉妹というだけあって、玲奈によく似た笑顔でさぞかしご満悦の様子だ。


下から里奈をじっくり眺めてみる。今浮かべている笑顔は純粋そうで、いつも浮かべるような邪悪な笑みではない。美人だというイメージが強かったが、笑ってみると可愛いというイメージが途端に強くなる。少し大人になった玲奈が抱きついていると言えばわかりやすいか。


「んふふふふ〜? あっれ? おかしいなぁ、さっきはわたわたしてたのにぃ〜」


「・・・・・まぁ、人間は慣れる動物ですから。って、酒臭い・・・・」


「むぅ〜!! 女の子に臭いって言うなんてモラルってのがなってないわ!!」


「あた!」


不機嫌に、里奈からビシ!! とチョップを食らってしまった。手加減をしていたのか、声を上げた割にはそんなに痛くはなかった。


「ほんとに〜・・・・・あんたって、子は〜・・・・・そん、なん、だか、ら・・・・・」


「? 里奈さん? どうしたんですか?」


「いっつ、も・・・・・。あの子に、心配、かけ、て・・・・・」


開いていた里奈のまぶたがだんだんと下がっていき、言葉も途切れ途切れになっていく。そのままぎゅっと、刹那の服を掴むと・・・・。


「く〜・・・・・す〜・・・・・」


眠ってしまった。刹那の胸の中で、とても気持ちよさげに。


「・・・・はぁ〜〜〜〜〜〜」


大きくため息をつく刹那。やっと終わってくれた、と言いたそうな安堵のため息だった。

長い、実に長い嵐だった。このまま、とんでもないことをされるかもしれないと覚悟を決めていたが・・・・・よかった。寝てくれてよかった。


「終わったぁ〜・・・・・。大変だったなぁ玲奈」


「・・・・・」


「玲奈?」


話しかけても、一向に返してくれない。きゅっと口をへの字に結び、拳がぷるぷる震えている。・・・・・え? 怒って、らっしゃる?


「刹那! いつまでお姉ちゃんとくっついてるの!!」


「は、はい!! 今離れます!!」


玲奈に怒鳴られて、慌てて里奈と離れようとする刹那。・・・しかし、


「あ、あれ? はな、れない?!」


「く〜・・・。ん〜、ん・・・」


服を掴んでいた里奈を何とか離そうとするが、がっちり掴んでいてどうも離してくれない。頑張って指を開かせようとしても、イヤイヤと首を横に振るだけで一向に開こうとはしない。


「・・・・・刹那?」


玲奈が冷ややかな視線を送ってくる。・・・・やばい、怖い。すっごく怖い。さっきはちょっと激しい感じの怒り方だったのに、臨界点を突破したのか何も言わなくなって逆に恐怖心を煽られる!! いわゆるプッツン状態ってやつ!! ・・・・や、優しかった玲奈がこんなに怖くなるなんて・・・・・!!

は、早く離れないともっと怖くなるかもしれない!! こうなったら服を脱いで・・・・・。


「ん・・・う〜ん・・・・・」


「おわ!! ちょっと!!」


服を掴んでいた里奈の手がいきなりパッと開いたかと思うと、今度は刹那の体に手を回してきたではないか! これはまずいだろ! これだと玲奈の怒りの炎に大量の油を注ぐ結果に・・・・・!!


里奈の肩を掴んで強引に離そうとするが、背中に手を回されているせいで離せない! むしろ離されまいと腕に力を込めて強く抱きついてくる! やばい! これは・・・やばすぎる!


不意に、後ろからゾクッとしたおぞましい『何か』を感じ取った。まるでそう、いつも里奈が出すような殺気みたいな、でもそれよりももっと恐ろしいもののような・・・。

おそるおそる、ゆっくり後ろを振り向いてみる。そこには・・・・・!!


「・・・・・・」


「ひ、ひぃい!!」


鬼のような形相でこちらを見てくる玲奈が!! しかも、周りに見えるどす黒いオーラみたいなようなものは・・・・・殺気ってやつか!? ここ、怖い!! めちゃくちゃ怖い!! すっげぇ怒ってる!! 俺悪くないのに!!


「・・・・・離れないの?」


「り、里奈さんが離してくれないんです!!」


いつの間にか敬語になっていしまってる刹那。いつもの感じで話しかけたら現状がますます悪化するのではないかと思ってしまうくらい、玲奈は怒っていた。・・・・な、何とかして怒りを鎮めなければ!!


「うぅ・・・・・・」


藁にでもすがる思いで、刹那はシリスを見つめた。・・・案の定、見たことのない玲奈の態度に怖気づいていた。1番怖いのは俺だよ!! 何とかしてくださいよ!!

刹那と玲奈を交互に見ながら、シリスはおそるおそる口を開いた。


「あ、あの・・・・玲奈、お嬢様・・・・」


「・・・何ですか、シリスさん」


シリスにも容赦ない視線を向ける玲奈。多少怯んだようだったが、勇気を出してシリスは玲奈に話しかけた。


「あの・・・・・里奈お嬢様をベッドに運ばれてはいかがでしょうか? その、落ち着いて、離れるかも・・・・・」


「・・・・・そうですね。それじゃ刹那、お願い。できれば早くね?」


「は、はいぃ!!」


実に情けない声を出して里奈を抱きかかえ、刹那は逃げるように居間を後にした。本当に全力で。まるでライオンから追われるシマウマのように。


そのまま走って走って・・・・・気がついたときには里奈の部屋の前にいた。部屋は居間からそんなに遠くはないのだが、精神が磨り減っていたせいだろう。かなり長い距離をずっと走っていたような錯覚に襲われる。


「はぁ、はぁ・・・・。はぁ〜〜〜・・・・・」


里奈の部屋の前で、刹那は大きく安堵のため息をついた。・・・と、こんなのんびりしている場合ではない。早くしないと、玲奈の怒りがさらに・・・・。


ぶるぶる、と身震いしながらドアを開けた。部屋の中は以外にも綺麗で、物も置いていないためごちゃごちゃしておらず、いたってシンプルな部屋だった。・・・・ベッドに立てかけてある漆黒の日本刀を除けば、だが。


そのベッドによろよろと近づき、ゆっくり、優しく里奈を寝かせる。ここで間違って目を覚まされてしまったら、もうこの家はおしまいになってしまう。酔っ払った里奈。そのせいでさらに怒る玲奈。・・・想像するのも恐ろしい、まさに地獄絵図だ。


「ん・・・・・んぅ・・・・・」


ベッドの柔らかな感じがよかったのか、里奈はあっさりと刹那を腕から解放し、そのまま毛布にくるまって寝入ってしまった。・・・・・無防備な寝顔が、何だか可愛い。こういう無邪気な顔が姉妹そっくりだ。


「・・・・今度は絶対飲ませませんからね」


「・・・ん・・・・」


寝ている里奈にそう言うと刹那は部屋を後にし、居間へと戻っていった。・・・・・怒っている玲奈がいる居間へと。





・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・




・・・・・・・・




・・・・・・・




・・・・・・




・・・・・





あの悪夢のような日が過ぎ去り、現在朝の7時。刹那はおそるおそる扉を開け、ゆっくり居間へと入っていった。・・・・・頼む、頼むから玲奈。機嫌直っててくれ!


「あ、刹那! おはよう!」


「!? お、おはよ」


玲奈はいつも通りエプロンをつけて、朝食をテーブルへと運んでいる最中だった。・・・・・よかった。機嫌、直ってるみたいだ。


ほっとため息をついて椅子に座ると、玲奈がお盆を胸に抱えて何かこちらをじぃっと見てきた。何か言いたいことでもあるのだろうか?


「あ、あのね刹那」


「? どうしたんだ?」


「えっと、昨日はその・・・・ごめんね。怖かったでしょ?」


「・・・・・かなり」


玲奈は、あはは・・・・と、力なく苦笑した。この様子だと、怒ると怖くなってしまうというのは自覚済みらしい。


「と、とにかくごめんね! 何だかその、ムッとしちゃって・・・・・」


「ムッとしたって、何に?」


「自分でもよくわからないの。もやもや〜ってしちゃって、それでつい・・・」


「う〜ん・・・。まぁいいや。もう怒ってないみたいだし。やっぱり玲奈は笑ってるほうが可愛いからさ。・・・・あ」


「え? あ、あのそれって・・・・?」


「あ、いや、その・・・・・」


つい口が滑ってしまい、お互い顔を真っ赤にして口ごもってしまう。刹那は目が変な方向へ泳いでいるし、玲奈は胸にお盆を抱いたまま俯いている。


どちらかが雰囲気を気にして何とか喋ろうとしても、恥ずかしくて相手の顔がまともに見れない。2人とも沈黙し、気まずい空気が包み込む。そこに・・・・・


「おはよう諸君!」


「おぁ!!」


「おお、おはようお姉ちゃん!」


めちゃくちゃ機嫌の良い里奈が乱入し、居間の気まずい空気をぶち壊してくれた。・・・・・あれだけ酒を飲んでベロベロに酔っていたはずなのに、なぜこんなに元気なのだろう。


「あの、里奈さん。二日酔いとか、ないんですか?」


「そうなのよ! 全っ然ないのよ! むしろね、起きたときの爽快感がすごいの! パッと目が覚めたし、すくっと起きられたの! ・・・まぁ昨日のこと覚えてないのが玉に瑕だけどね」


上機嫌に話す里奈。・・・そういえば、里奈さんいっつも朝はテーブルに突っ伏してぐて〜ってなってたな。朝が弱いからこそ、気持ちよく起きられたことが嬉しいのだろう。


「お酒苦手だったけど、1回飲んだら慣れたし、朝は気持ちよく起きられるし、これからは毎日飲もうかしら!」


「「やめて!! もう絶対飲まないで!!」」


刹那と玲奈、2人の声が重なって家全体に響いた。・・・もう絶対飲ませてはならない。この人には、絶対・・・。2人は固く、それはもうダイヤモンドよりも固く心に誓ったのだった。

・・・・・こうして、また木下家の1日が始まったとさ。


ついに1周年・・・・です。1年経っちゃいました。とりあえず、ここまでの感想みたいなものをば・・・。


※下からは本作品の内容と一切関係ありません。単なる独り言+くっそ長いのでスルーを推奨します。










































もともとは、異次元図書館の息抜きと思って書いた短編になる予定でした。恋愛とか、コメディとか、そういう面白おかしい物を書いてみたいな、と気まぐれに書いたのが殺し屋でした。


女の子が特別、それなのに男の子のほうはそうでもない。そういう結構ありきたりな設定を使った作品ですが、思いのほかご支持を頂けて連載へ向けて頑張ろう、ということになったわけです。


小説のほうを見ていただければわかると思いますが、私文を作るといった才能は持ち合わせておりません。3人称と1人称が混じったりしてますし、その他欠陥も多数見受けられます。

何よりも、話をうまくまとめられない、というのが最大の欠点です。今現在で4作を公表していますが、うち2つが長編の作品です。残り2つは短編でありますが、1つは殺し屋の最初の方を短編として出しただけであって、ちゃんとした短編は1つしか出てないわけです。

何が言いたいかというと、まとめられないが故、どうしても長編になってしまう、というわけです。それも飛び切り長い・・・。

まだ続くのか・・・・・と、非常にうんざりしている方に、本当に申し訳なく思っています。恋愛は、どうも長い目で見ないとくっついていくなぁっていう感じが出せないのです。(自分は)

急接近の恋愛のお話もありますが、やっぱり私はゆっくり時間をかけて近づいていくお話が書きたいわけでして、たらたらしているうちにこうして70話を超える長ったらしいお話になっている、というわけです。


すぱっと切れればいいんですが・・・・・私、物語を書くときはいつも最初と最後の筋道を構想してから文字に入るんです。あぁいうのもいいなぁ、こういうのもいいなぁ、と、色々考えているうちに全部入れてしまう、とう書き方です。

そうなると、やっぱり自然に長くなってしまうんです。短いのをポンポン出せればいいんですが・・・・・もうスタイルが固まってしまったので、たぶんこれはもう直りません(笑)


変に私情をお話してしまいました。殺し屋のほうに話を持っていきます。


1年を過ぎて、ついに70話を突破したわけですが、はっきりと申し上げます。たぶん今年中には終わりません。・・・・・ごめんなさい、許してください、すみません。

後半部の構想も練ってありますし、実は後ろのほうから書き始めちゃってるんです。悪いくせです。書きたいところから書いちゃうから後ろばっかり埋まっていくんです。そこまで話が繋がるまで出せないというのに・・・。


そんなわけでして、後半部、た〜っぷりございます。・・・・・今ふざけんな、と怒られたような気が。


本当にまだまだ続きます。CMのあとに出る、「まだまだ続くよ☆」っていうレベルじゃないです。本当にまだまだ続きます。私もいつ終わるかわかりません。・・・・ごめんなさい、すみません、申し訳ないです。


話を変えましょう。今回の番外編に移しましょう。


今回、里奈が酔っ払って刹那にからむ、というシーンがありましたが、ご感想に里奈が刹那にデレるところが見たい、というご希望がありましたので書きました。

といっても、普通の状態の里奈では「まず」ありえないので、じゃあ酔ってもらおうかwということになったわけです。

酔うと理性が吹っ飛びます。そこを利用して、玲奈にちょっとだけ厳しい里奈も書いてあります。文中を見ると、呼び捨てにしてますし、厳しい言葉もかけてますよね。

私自身、刹那と里奈の話が書きたいと思っていたので、頭の中を思い切り文に詰め込みました結果が・・・これであります。ゆえに結構長くなったわけなのですが・・・。

とりあえずはそんなところです。


今後の展開をば。


とりあえず今の文化祭編を終えたら、事を荒げようかなと思います。どう荒げるかは未定です。

そのあとにはクリスマス編。そこで何とかまず何とか恋愛関係に決着をつけたいな、と考えています。

後は秘密です。それからまだ続くかもしれませんし、番外編みたいのものをどんどん出していくかもしれませんし、やっぱり、すっぱりきっぱり終わるかもしれません。どうなるかは・・・・・秘密ということで。




以上、こんな感じです。

1年間、長かったようで短かったです。自分でもちょっと見返してみて、「あれ? こんなに書いたっけ?」と思うくらいです。本当に、いつのまに? という感じでした。

だんだんと増えていくアクセス数、ご感想や評価。嬉しくてモチベーションがあがって、それで書き続けた結果が1年です。皆様のおかげであります。

月並みですが、本当にありがとうございました!

これからも「殺し屋」よろしくお願いします!




以上で独り言終わります。

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