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第66話 理恵の悩み

「はぁ・・・・・・」


「うみゃお」


自分の部屋でため息をつきながら、理恵は肝試しのときに拾った猫を抱きしめる。猫は大人しく理恵の腕に抱かれていて、非常に満足げにゴロゴロと喉を鳴らしていた。


「初恋は実らないっていうけど・・・・・やっぱり実ってほしいよね、タマ吉」


「うみゃ?」


猫・・・・・もといタマ吉をぎゅっと抱きしめて、寂しそうにポツリとそう漏らす。

この恋がもう実らないかもしれない、とは前々から思っていた。不器用で、うまく自分の本音をぶつけられない性格がいつも邪魔をして刹那に変な風に思われてしまう。こんなのじゃ、当然恋なんて実りっこない。


好きだよ、の一言が言えれば一番いいのに、それが出てこない。それどころか、まともに会話だって成り立たない。クラスの男子も、同じ年の博人も普通に喋ることができるのに、どうしても刹那だけはだめなのだ。ちゃんと話しがしたいと心の中でいつもそう思っているのに、いざとなるとどうしても本音とは逆にツンツンした態度をとってしまう。


この態度は良くない、と思って何度も直そうとした。積極的に男子と会話して努力を積み重ね、どうにかこのキツく当たってしまう態度を直そうとした。


でも、やっぱりだめ。刹那の前だと、そんな努力すぐに無意味になってしまう。どう頑張っても、刹那と普通にお喋りができない。会話ができない。本音を・・・・・ぶつけることができない。


それに、玲奈という存在の登場。これが理恵の恋を実らせるための一番の壁だった。はっきり言って、玲奈は女の理恵から見ても可愛い。外見だけじゃなく、中身も。とても人懐っこくて、誰にでも明るく接することができる、まさに自分の理想だった。


あの刹那にだって、玲奈は至って普通に喋れている。自分みたいにツンツンした、本心とは逆の態度をとることもなく、いつも自分の思ったことを素直に話す。・・・それが、とてつもなく羨ましかった。嫉妬してしまうくらいに。


でも・・・・・嫌いになれない。あんないい子を、嫌いになれるわけがない。それがたとえ恋敵だとしてもだ。


「やっぱり、無理かな・・・・・」


何だか、もう悲しくて仕方なかった。諦めたくない、けど刹那は玲奈を見ている。自分を見てくれない。そして、自分はどんどん刹那から離れていってしまう。・・・想像しただけで、涙がこぼれてきてしまう。


「・・・ぅ、ひっく、うぅ」


とうとう理恵は、しゃっくりをあげて泣き出してしまった。・・・もう、自分が嫌になってしまった。きちんと想いを伝えられない自分、いつもきつく当たってしまう自分、何の魅力もない自分・・・・・消えてなくなってしまいたかった。今すぐここからいなくなってしまいたかった。それくらい、理恵は自分のことが嫌いになってしまっていた。


「・・・姉さん?」


「恵利・・・・・っく、ぐすっ・・・・・」


「!? 姉さん?!」


きぃ、とドアの開く音がし、隙間から恵利が恐る恐る顔を覗かせていた。と、理恵が泣いているのを見つけた恵利は、慌てて駆けつけてきた。


「姉さん、どうしたの!」


「・・・アタシ、もう自分が嫌になっちゃったよ・・・」


「え?」


「ぅ・・・ふぇぇ〜ん・・・・・」


「え? あ、ちょっと・・・・・」


「にゃおぅ・・・・・」


そういって、理恵は再び泣き出してしまった。いきなりのことで、恵利はすっかり混乱してしまった。一体何があったというのだろうか? とりあえず理恵本人に聞いてみるしかない。


「姉さん、何があったの? 相談なら乗るよ?」


「・・・アタシ、ひっく・・・もう、だめ・・・・」


「何が? 何がだめなの?」


「・・・せ、刹那のこと、うっく・・・」


「刹那君? どうして? まだ刹那君、玲奈さんとそういう関係じゃないんじゃないの?」


「・・・ひくっ、刹那がね、今日一緒に帰ってるときにね、ぐす・・・刹那がね、玲奈ちゃんのこと嬉しそうに、ひっく、話すの・・・・・すごく嬉しそうに・・・・・」


「・・・・・」


「玲奈ちゃんって・・・・・アタシと違って、可愛いし、家事もちゃんとできるし、ひっく、女の子らしいし・・・アタシの持ってないものを、たくさん持ってるの・・・・」


「・・・・・」


「・・・・・アタシって、女の子っぽいところなんて・・・何も、ない・・・。刹那に振り向いて、っく、もらえない・・・・・もうやだ・・・・こんな性格・・・・・もっと女の子らしく生まれてくればよかった・・・・言いたいことも言えないこんな性格・・・・大嫌いだよ・・・・」


そう言い終ると、理恵は手で顔を覆って泣き出してしまった。大声で泣きたいだろうに、理恵は声を殺して静かに泣いていた。心の中で自分自身を罵倒しながら。


刹那に振り向いてもらいたい。抱いている感情に気が付いてもらいたい。好きだと、伝えたい。


でも、できない。好きだなんて言えっこない。この感情に気が付いてもらえるはずがない。振り向いてもらうなんてもってのほか。


理恵がこんなに自虐的になるのもわかる。性格のせいで刹那に想いを伝えられず、玲奈という女の子の見本のような存在の登場。自分にはないものをたくさん持っている玲奈が身近に居て、落ち込まないのがおかしいというもの。こうなってしまうのも、仕方のないことかもしれない。






・・・・・でも、だ。






「姉さん。私、何となく姉さんの気持ちがわかる気がするよ」


「・・・そんなの、ひくっ・・・嘘だよ・・・」


「嘘じゃないよ。私だって女だもん。自分よりもずっと女の子らしい人だなって思うもん」


「・・・ひっく・・・・」


「玲奈さんって、とても可愛らしいよね。笑った顔とか見てるだけで女でもドキドキするもん。そんな人と比べたら・・・・・・普通落ち込むよね。だって勝てないもん。玲奈さんを見てると自分の悪いところとかが全部わかっちゃって、どれだけ自分がだめな部分を持ってるかってのがわかるもんね」


「・・・・・うん」


「姉さん・・・・・」


「え・・・・・? あ・・・」


恵利は泣いている理恵をぎゅっと抱きしめた。・・・まるで、大丈夫、と言っているみたいだった。強いのだが、痛くない。程よい抱きしめの強さが、理恵に安心感をもたらしていた。


「確かに、玲奈さんは姉さんにないものをたくさん持ってる。性格でも何でも、多分ほとんど玲奈さんに勝てないと思う。でもね・・・・・玲奈さんは姉さんじゃないの」


「え・・・? それって・・・・?」


「ほとんどのことで勝ってるからって、やっぱり玲奈さんは姉さんにはなれないんだよ。だから、姉さんにしかないものはいくら玲奈さんでも勝てない。持ってないものはどうしようもないもんね。逆も同じ。どんなに姉さんが玲奈さんに憧れてても、姉さんは姉さんで、玲奈さんは玲奈さん。玲奈さんにはなれないの、絶対にね。私の言いたいこと、わかる?」


「・・・・・もう少し詳しく」


「えっとね、玲奈さんがすごいからって、姉さんが玲奈さんみたいにならなくてもいいっていうことだよ。玲奈さんには玲奈さんの。姉さんには姉さんのいいところがあるんだから」


「それって・・・どんなとこ?」


「それは姉さんが自分で見つけるしかないよ。たぶん、他の人にはわからないものだと思うから」


「・・・・・」


自分のいいところなど、理恵はさっぱり見当もつかなかった。そもそも、自分にいいところなど存在するのかどうかさえもわからない。本当に、自分にいいところにあるのだろうか? こんな自分に、いいところなんてあるとは思えない。


「・・・恵利」


「・・・ん?」


「アタシに・・・・・あるのかな?」


「いいところ?」


「・・・うん」


「あるよ、絶対に。気が付くか付かないか、だと思う」


「うん・・・・・あ」


考え込んでいる理恵の体を、恵利はもう一度ぎゅっと強く抱きしめた。・・・・いつも頼り甲斐があって、自分を励ましてくれるのが嘘みたいだった。普段の理恵とは違う。今はとても脆くて、弱くなっている。少しでも絶望させると本当に壊れてしまいそうだ。だから・・・・・今こそ自分が支えないといけない。いつも支えてもらっているぶん、今支えてあげなければならない。


「大丈夫。姉さんなら大丈夫だから」


「うん・・・・・」


「見つけられるから、絶対、大丈夫だから」


「うん・・・・・うん・・・・・ひっく・・・」


「負けないで。ちゃんと立ち向かって。姉さんならきっとできるから」


「う、ん・・・・・ふぇええええええん」


理恵は恵利に抱きついて、思い切り泣き始めた。声を我慢せず、涙も流して、思い切り。

恵利はまるで母親のように理恵の頭を優しくなでた。怖い夢でも見た子供を安心させるかのように、優しく、温かく理恵を抱きしめた。


その後、しばらく理恵が落ち着くまで、2人はじっとお互いを抱きしめあっていた。姉妹だからこそわかる気持ち。他の人には絶対わからないつらい気持ちを、理恵と恵利は2人で分かち合うのだった。









・・・・・ちなみに、


「ふ・・・・・みゃ・・・・・・」


「あ! タ、タマ吉! 姉さん! タマ吉が押しつぶされてるよ!」


「ぐすっ・・・・・え? あ、ご、ごめんねタマ吉! 大丈夫?!」


「ふみゃ・・・・・お」


こんなことがありましたとさ。


どうもシリアスは書きにくくていけませんね・・・。

変じゃないでしょうか?

当分シリアスはないと思います。次回からはまた普通通りということで・・・。

これからも「殺し屋」よろしくお願いします!

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