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第63話 花火も終わり・・・・・

『本日はお越しいただき、誠にありがとうございました。ただいまを持ちまして、夏祭り終了いたします。来年またお会いいたしましょう。本日はお越しいた・・・・・』


アナウンスが薄暗い暗い会場に流れたと同時に、屋台などの電気が点き始め、会場は再び明るくなった。


「あ〜あ、終わっちゃったね。もっと見たかったのに残念」


「それで、どうだった? ここの花火」


「うん、すっごく綺麗だった。花火ってあんなに綺麗だったんだね、知らなかったよ」


よっぽどこの祭りの花火が印象に残ったのだろう、玲奈はやや興奮気味に感想を聞かせてくれた。あまり大規模花火じゃなかったかもしれないけど、そんなに喜んでもらえるなら一緒に来た甲斐があるというものだ。祭りに来て本当によかった、うん。


「玲奈ちゅわああぁぁぁぁぁぁあああん!!!!!」


・・・何だか聞いたことのあるような大声が聞こえてくる。この声、そして玲奈をちゃん付けで呼ぶところ。間違うはずなんてない、この声の主は・・・・・。


「お、お姉ちゃん!!」


勢い良く走ってきた里奈は刹那をど〜ん! とふっ飛ばし、驚いている玲奈をぎゅ〜っと抱きしめて、頬をすりすりし始めた。・・・うわぁ、里奈さんの胸に玲奈が埋もれてるよ。窒息するぞ、あれ。


「あぁ!! 玲奈ちゃんよかった!! 心配したのよ!! すっごく心配したのよ!! 変なやつに誘拐されたらどうしよう〜・・・・って心配で心配でたまらなかったのよ!!」


「く、苦しい・・・・、お姉ちゃん・・・・苦しいよ・・・・・」


胸に顔を埋められて息ができないのか、玲奈はじたばたと暴れだした。

必死に体を動かして里奈の殺人的な胸から逃れようとするが、身動きが取れないようにガッシリと抱きしめられているのでどうやっても抜け出すことができない。・・・・・里奈さんの胸も、あそこまでいくともはや凶器だな。おそろしやおそろしや。


「それくらい我慢しなさい!! あたしの気持ちを考えたらそんなの全然たいしたことじゃないわ!! それより!! そこで無様にぶっ倒れてるやつに何もされなかった?! 薄暗いからって変なことされなかった?!」


・・・えらい言われようだ。そんなことをしたらあんたに殺されるってのに・・・。


「せ、刹那はそんなことしないってば。そろそろ離してよ・・・苦しいんだから」


「え〜・・・・・。もうちょっとだけ」


「だめ! 離すの!」


「はぁ〜い・・・」


しゅん、とうな垂れ、里奈は渋々と自分の腕を広げて胸の中でじたばたしている玲奈を解放した。・・・・・あれ、ちょっと待て。里奈さんがここにいるってことは。


「里奈さん、博人たちはどうしたんですか?」


「あ、2人とも、置いてきちゃった! 玲奈ちゃんに夢中になってて気が付かなかった! どうしよう!」


・・・・・玲奈好きも、ここまでいくともう病気だな、おい。でも、博人たちのことだ。すぐ追いついてくるだろう。と、思った矢先だった。


「り、里奈さ〜ん!! 速いですってば〜!!」


「ひ、博人君も速いよ・・・・。つ、疲れちゃった・・・・」


里奈が走ってきた方向から博人と恵利が追いかけてきた。・・・よかった。思ったよりも早く合流することができた。


「あ、よかった2人とも。置いてきちゃったからどうしようって・・・・・・」


「に、匂いがどうのこうのって言った瞬間走りだしたからかなりあせりましたよ・・・」


・・・本当に匂いで探知してきたのか。犬か、あんたは。


「はぁ、はぁ・・・・・。あ、刹那君と玲奈さん。よかった、2人とも一緒だったんですね。・・・・・あれ? 姉さんは、どうしたんですか?」


「理恵さん? って、理恵さんもはぐれたのか?!」


「はい。玲奈さんのあとを追いかけてそのまま・・・」


ぐあ・・・・・せっかく博人たちを見つけたと思ったのに、今度は理恵さんか。厄介だぞ、花火は終わったから神社のほうに溜まってた人が一気に流れてくる。そうなったら探すのにかなり時間がかかってしまう。・・・どうしようか。







ガサガサガサ!!!







「うぉぅ!!!!」


「きゃ・・・・!!」


「な、何だ?!」


「ひ、博人君・・・・」


「今更玲奈ちゃんを狙う不審者が?!」


近くの茂みから、何やら音が聞こえてきた。

風が吹いてカサカサ鳴ってるなどという生易しいものじゃなく、とにかく滅茶苦茶激しく音が鳴っている。

何というか・・・激しすぎて何か怖い! 何だ!? 何がいるんだ?! ってかいるのは生き物か?! 生き物なんだな! 猫か?! 犬か?! それとも狸か!? ひょっとして狐か!? とにかく出て来い!! ・・・や、やっぱり出てこなくていい! 怖いからそのままでいてくれ!

手を合わせて必死にそう願っている刹那とは裏腹に、茂みから何かが出てきた。その正体は・・・


「うぅぅぅぅ・・・・・みんなぁ〜・・・・どこぉ〜・・・・? ぐす・・・」


・・・土ぼこりにまみれ、頭に葉っぱを乗せ、涙目になっている理恵だった。って、何でこんな茂みにいるんだ?


「ね、姉さん!」


「あ・・・・・み、見つけたぁ〜・・・・・」


理恵はよろよろ、とおぼつかない足取りで恵利に近寄り、そのまま胸に飛び込むようにして恵利に抱きついた。


「うぅぅ・・・・・やっと見つけた・・・。もう会えないかと思った・・・・。うぅ〜・・・」


「ね、姉さん。なんで茂みにいたの? 何もあんな所にいなくても・・・」


「み、みんなを探してたら、人ごみに流されて、途中で人にどんって押されて森に入っちゃって・・・・・」


「・・・それでどうしたの?」


「何か火の玉みたいなのが目の前に浮いてたから、ふら〜ってついていって、そのまま森の中をずっと歩き回って、気が付いたらここに・・・・・」


・・・ちょっと待て。火の玉ってなんだ。おばけか? 幽霊か? それとも妖怪か?

理恵さんの言うことが本当だったら・・・この辺に出るって事か?! 夏の定番の『アレ』が出るっていうのか?! 足がなかったり、ちょっと透けてるっぽい感じだったり、ふわふわ浮いてる『アレ』か?! そんなのについていっちゃだめですよ理恵さん!!


「ま、まぁ無事に戻って来れてよかったじゃないの。おばけとかに連れていかれなくてよかったわね」


「う、うん。そうですよ、おばけに変な世界に連れて行かれなくてよかったじゃないですか。あはは・・・・・」


玲奈と里奈は顔をひきつらせて、お互い浴衣の裾をぎゅっと握っていた。心なしか、表情が青ざめているような気がする。・・・2人とも、おばけとか苦手だったのか。何だか親近感が湧く。


「でもよかったじゃないですか! そんな心霊現象を体験できて!」


「よ、よくないわよ・・・・・。ほ、本当に死ぬかと思うくらい怖かったんだから・・・」


ちなみに、博人はそういう心霊現象は信じていない。何でも馬鹿馬鹿しいとか何とか。・・・・・呪われても知らないぞ。


「でも本当に無事でよかったです。さ、お祭りも全部終わりましたし、そろそろ帰りましょうか」


「そうね。早いうちに帰らないと、また人ごみに紛れてはぐれちゃうかもしれないしね。・・・ほら、言ってるそばから戻ってきた」


噂をすれば陰、とはよく言ったもので、神社のほうから花火を見ていた人々が一斉に戻ってきた。里奈の言うとおり、あの人ごみに飲まれてしまえばもう一度はぐれてしまうかもしれない。飲まれる前に帰ってしまうのが得策だろう。


「それじゃ、今日はここまでってことで。俺は恵利と理恵さんを送ってくから、先に行くわ」


「今日は楽しかったです。また今度一緒に行きましょうね。あ、玲奈さん、里奈さん、浴衣は後日取りに伺いますので」


「うぅ、ひどい目に合ったわ・・・」


「あぁ。気をつけて帰るんだぞ」


「みなさん、今日は本当にありがとうございました。また誘ってくださいね」


「博人ちゃん、2人をちゃんとエスコートしてあげてね。またはぐれちゃだめよ」


博人は恵利とぼろぼろの理恵を連れて、ひとまずその場を後にした。・・・・・あ、手を繋ぎ出した。理恵さんが嫌がってる。博人のやつ、無理矢理握ってら。里奈さんにはぐれるなって言われたからって、そんなことしなくてもいいのに。


「それじゃ、帰ろっか刹那。のんびりしてるとまたはぐれちゃう」


「じゃあ玲奈ちゃん、お姉ちゃんと手を繋いで帰りましょうか!」


「え〜! 嫌だよ! 恥ずかしいもん!」


「何言ってるの! 迷子になっちゃったら大変でしょ! わがまま言わないで早く繋ぎなさい!」


里奈さんの手が、魚を捕食しようとしているイソギンチャクみたいにうねうねしている。・・・不気味だ。うまくは言い表せないが、気持ち悪いというか、怖いというか、何ともいえないおぞましさがあるというか、こんな手は繋ぎたくないというか、とにかくそんな感じ。


「そ、そうだ! 私刹那と手を繋ぐよ! これなら安全だし!」


「え?! 俺!?」


花火が始まる前まではつないでいたのだが、それでも抵抗がないというわけではない。・・・いや、嬉しいんだけど恥ずかしいって言うか・・・。


「だ、だめよ玲奈ちゃん! そんな変態と手をつないだら変なことをされかねないわ!」


・・・あんただけには言われたくない。ってか、変態はあんただろ。


「だって、お姉ちゃんの手怖いもん」


「ひ、ひどい・・・! な、何という言い草・・・・」


よよよ、と倒れこむ里奈。・・・・待て、そんなコントみたいなことをしている場合じゃない。人ごみはもうそこまで迫っている。このままだともう一度はぐれてしまう。何かうまい手は・・・・・。


「・・・・・あ、そうだ! いいこと考えた!」


「え? 何? どうしたの?」


「どうせろくでもない考えでしょ。あたしにはわかるんだから」


「て、手を繋いで帰るよりはましですよ」


「? じゃあ何よ? 行ってごらんなさい」


「・・・・・家まで競争!!」


そう言うと、刹那はだ〜!! っと全速力で走り出した。・・・呆気に取られている玲奈と里奈を置いてけぼりにして。


「・・・行っちゃったね、お姉ちゃん」


「・・・そうね、玲奈ちゃん」


「・・・殺し屋の足の速さ、刹那わかってないよね」


「・・・全然ね。勝負にならないことくらい、何でわからないのかしら」


「・・・じゃあお姉ちゃんと競争だね」


「・・・そうね、本気で走らないと勝てないわよ?」


「・・・油断してるとすぐ抜いちゃうからね。じゃあ行くよ?」


「・・・いつでもどうぞ」


「よ〜い・・・・・・どん!!」


玲奈の掛け声と同時に、2人は消えた。同時に突風が起こり、2人の居た場所には足跡のような黒い焼け跡が残っていた。







・・・・・・余談だが、刹那が一生懸命道路を走っているとき、2人はとっくに家に到着していた。それと、競争に負けた玲奈は、罰として里奈と一緒にお風呂に入らされてしまったとか何とか。


今回で夏休み編は終了、という形となっています。

前のほうで修学旅行編のようなものをやると言いましたが・・・・・ちょっと変更になるかも、です。修学旅行だと、メンバーが限られてしまうので・・・・・。

これからも「殺し屋」よろしくお願いします!

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