第60話 2人きりの夏祭り
すい〜、と気持ちよさそうに泳いでいるたくさんの金魚。だが、一向に捕まえられる気がしない。すくおうと網を金魚の下に持って行くのだが、勘のいい金魚たちはひらり〜、とかわしてしまう。
フェイントとか、すごいスピードですくうとか、色々試してみたのだが全然効果がない。・・・・・網が破けてしまった。これで3つ目だ。
「う゛〜〜〜!!!」
唸ってみるが、そんなことで金魚がすくえるのなら苦労はしない。もう一度挑んでみるが、効果はなし。・・・・・一体どうしたらすくえるんだ。難しいぞこれ。
「刹那、そんなに力んじゃだめだよ」
にっこりと笑って、玲奈が刹那に話しかける。手に持っているおわんの中には、赤い金魚と黒い金魚が2匹ずつ入っていた。それでもなお、玲奈が持っている網は無傷で、このままいけば屋台の金魚全部取ってしまいそうな勢いだった。
「網はね、破れやすいからそんなに激しく上下させたらだめなの。激しく動かしていいのは横のときだけ。上下だと水の抵抗のせいで網がすぐ破けちゃうよ?」
「ん〜と、つまり金魚の下に網を持っていくときは早くてもいいけど、すくうときはゆっくり、ってことか?」
「そう。こういうふうに・・・・・ね」
玲奈は話しながらす〜っと金魚の下に網を忍ばせ、気づかれないうちにすっとすくい上げた。金魚は水中から外に出せば、バタバタと暴れるため網にダメージがいく。
玲奈はそのことを考慮して、水中から出したあとすぐにおわんに金魚を入れていた。・・・計算してやっているのだろうか? 動きが滑らかで、すごく上手だ。実にうらやましい。
刹那も真似をして、す〜、と気がつかれないように金魚の下に網を忍ばせる。そしてそのままゆぅ〜っくり網をあげる・・・・・。
金魚は自分の下に網があることにまったく気づいていない。気持ちよさそうにすいすい泳いでいる。・・・・・甘い。そこだ!!
金魚が水面近くまで上がってきたのを見計らい、刹那は素早く網をあげる。
「よ、よっしゃ!! すくえた!! すくえた!!」
嬉しがる刹那。無邪気に、何度も挑戦してようやく成功できたことを楽しんでいる。まるで子供のようだった。・・・もともと刹那は子供っぽいところがあるのだが。
「せ、刹那。早くおわんに入れないと・・・」
だが、微笑ましい光景はそれまでだった。金魚をすくったことに興奮した刹那は、おわんに金魚を入れる作業を忘れてしまっていた。
水のない空中にすくわれた金魚が、大人しくしているはずがない。苦しがってバタバタして暴れるはずだ。当然、そんなことをすれば網に相当なダメージがいくということは・・・。
ビチビチ、バタバタ、ビリ・・・・・トポン・・・・・
「あ゛・・・・・」
金魚は網を破り、再び水の中へと戻ってしまった。すい〜と何事もなかったように、気持ちよさそうに泳いでいる。
刹那はため息と共にがっくりと肩を落とし、破れた網を店員に返した。
「あ〜あ・・・・・。結局1匹もすくえなかったよ・・・」
「コツみたいなのがあるからね。それを掴まないと結構難しいんだよ。・・・それじゃ、次の屋台行こっか」
玲奈はおわんを水中に沈め、すくった金魚を再び水槽へと逃がした。普通は持って帰るのだが、正直言って刹那の家では金魚は飼えない。水槽もなにもないし、餌だってない。金魚を持ち帰ったとしても、死なせてしまうのがわかりきっている。
玲奈はそのことを考慮して金魚を返したのだろう。屋台のほうにしても、金魚が持っていかれないので文句は言わないだろう。
「死んじゃうのに持って帰るのって可哀想だしね・・・」
寂しそうに笑って呟く玲奈。・・・ってか、あなた今さりげなく心を読みましたね?
「それにね」
「?」
「私は刹那とお姉ちゃんのお世話でたくさんだから♪」
にこっと笑って玲奈は言った。ペロっと出している赤い舌が子供っぽくてなんとも可愛い。
・・・って待て。ちょっと待て。今さりげなく失礼なこと言わなかったか?
「やっぱりばれちゃった?」
「・・・ちょっと騙されかけたけどな。む〜、玲奈ちょっと失礼だぞ」
腕組みをして、ちょっとだけ拗ねる刹那。口を尖らせてむぅ〜〜〜、と唸っている。・・・何だか本当に子供みたいだった。
そんな刹那を見て、くすり、と笑い、玲奈は刹那の手を取った。
「ほら、拗ねないの。次行こ?」
・・・玲奈の笑顔を見ると、さっきのことなんてどうでもよくなってしまった。不思議な話だが本当のことだ。玲奈の屈託のないにっこりとした笑顔は、何だか眩しすぎて太陽みたいだった。
「・・・そうだな。それじゃ次行くか!」
「お〜!」
小学生が遠足にでも行くかのように、2人は祭り会場を歩いて行った。
今度ははぐれないように、しっかりと手を繋いで。
ちなみに、刹那と玲奈が金魚すくいをしている頃・・・。
「うぅぅ・・・・・みんなぁ〜・・・・・どこ〜・・・・? うぅぅ・・・」
こんな感じで、理恵は1人でとぼとぼと刹那を探していましたとさ。
ということで、夏祭りは玲奈フラグです。
先輩のほうはこの間の肝試しの分我慢してもらおう、とこうなったのですが・・・・・やっぱりちょっと扱いがひどすぎでしょうか?
これからも「殺し屋」よろしくお願いします!