第53話 博人からのお誘い
「な、なんてことだ・・・・・!!」
8月のカレンダーを見て驚愕したあと、刹那はへなへなと床に座り込んだ。そのまま床に手をつき・・・・・嘆いた。それはもう、はたから見ればこの世の終わりを宣告されたような、医者から余命あと何年です、と言われたような、そんな感じだった。
「どしたのよ〜?」
相変わらずテーブルに突っ伏しながら扇風機の風を浴びている里奈が刹那に尋ねる。それはもう本当にど〜でもいいですよ〜、というやり投げな感じの声で。
「・・・・・最悪です。いつまでもこんな日が続けばいいなって、思ってたのに・・・・」
「だから、何なのよ〜?」
「ずっとずっと続いていくと思ってたのに・・・。こんな平和な日が・・・・いつまでもいつまでも続いていくって信じてたのに・・・・・」
「お〜い、何があったのよ〜ってば〜?」
「終わった・・・・・何もかも・・・・・。俺の全てが・・・・・」
「・・・・・怒るわよ?」
「すみません・・・・・・」
はぁ〜、とため息をついてから、刹那も里奈と同様にテーブルに突っ伏して扇風機の風に当たった。・・・・・あ〜、涼しい。やっぱり夏は扇風機に限るな。体中の汗が風で冷たくなっていって、それが最高に気持ちよくて、涼しい。
「それで、何があったのよ?」
「夏休みがあと3日を切ったんですよ。・・・・・あぁ〜最悪だ。この長期休みが終わってしまう・・・・・」
「よかった! これで玲奈ちゃんと2人っきりでいられる時間がまたやってくるわ!」
「あんた自分本位ですね!? そんなに俺が邪魔ですか?!」
「もち!!」
「何最高の笑顔キメてんですか!?」
この人・・・・・本当に玲奈のことが好きだな。そのうちとんでもないことをしでかすかもしれないぞ・・・・。
「暑いね、2人とも大丈夫?」
掃除機を片手に持っている玲奈が刹那と里奈の顔を覗き込む。こんな暑い日なのに玲奈はせっせと家事をこなしている。・・・暑くないのかな?
「玲奈、暑かったら休んでいいんだぞ?」
「うん、もう少しでお掃除終わるから大丈夫。心配してくれてありがと」
「・・・っち、玲奈ちゃんの前じゃいい子ぶっちゃって・・・・」
「それはあんたでしょ?!」
「お姉ちゃん!!」
「はぁ〜い・・・・・・」
しゅん、と小さくなって、再び里奈はテーブルに突っ伏した。・・・・・それにしても、夏休みもあと少しか。どうしよう、宿題とか、あんまり進んでないぞ。いざとなれば徹夜でもなんでもやればいいけど・・・・・めんどくさい。こんなことになるんだったら最初っから計画的にやっておくべきだった・・・・・。
「そんなのあんたが悪いんじゃないの。自業自得よ」
「とはいってもですよ里奈さん。宿題ってやっぱりめんどくさいじゃないですか。後回し後回し、になっても仕方ないと思いません?」
「まぁ、気持ちはわかるけどね。あんたは学生なんだからそんな生意気言ってないで素直にやりなさいよ」
・・・・・読心術も、もう慣れたもんだな。すでに生活の一部になっている気が・・・・・。
でもまぁ里奈さんの言うことももっともだな、と思った刹那は渋々と椅子から立ち上がった。さっさと宿題を終わらせてしまえば、最後の日くらいは徹夜しないでゆっくり寝れるかもしれない。
そう思って部屋に向かおうとしたそのときだった。
トゥルルルルル〜〜〜♪
「? 電話ね」
「私が出るよ」
電話に一番近かった玲奈が受話器を取った。・・・・・誰だろう、と少し気になったが、今はそんなことに気を取られている暇などない。一刻も早く宿題を終わらせ、睡眠の時間を確保しなければならないのだ。早く宿題を片付けなければ・・・。
「もしもし・・・・・、あ、博人さん。・・・そうですよね、暑いですね〜。・・・・・え、いや、メガネはちょっと・・・・・」
・・・・・電話の相手は博人らしかった。よくも飽きずにメガネを薦められるものだ。メガネのどこがいいのか、刹那にはさっぱり理解できない。
「はい。・・・・・はい。・・・・・え? 今日ですか? ・・・・はい、午後5時頃に博人さんの家にですね。わかりました。・・・・・はい、それじゃまたあとで」
そう言って、玲奈は受話器を置いた。
今日? 午後5時頃? 博人の家? 一体何のことだろうか? もしかして博人が主催の『メガネパーティー』とか。・・・さすがにないか。
でも、本当に何なのだろうか? 気になる。とても気になる。・・・・・考えるより聞いたほうが早いか。
「玲奈、博人が何だって?」
「博人さんが、午後5時頃にみんなおいで、だって」
「何をやるのかって言ってなかったのか?」
「うん。特に何も言ってなかったけど・・・」
・・・・・本当に『メガネパーティー』とかやるんじゃないのか? ちょっと心配になってきたぞ。
「5時まではまだまだ時間あるわね。それじゃ、ちょっと眠るわ。おやすみ〜・・・・・」
そう言うと、里奈さんはテーブルに突っ伏して寝てしまった。・・・・あ、もう寝息が聞こえてきた。どんだけ寝るの早いんだよ。のび○じゃないんだぞ、まったく・・・。
「じゃあ俺はその間に宿題を済ませてくるよ」
「ちゃんと計画的にやらないと駄目だよ?」
「わかっちゃいるんだけどな・・・・・」
結局、博人が一体何をやるのかわからないまま、刹那は部屋へ宿題を片付けに向かったのだった。
次回、博人が何を企んでいるのかが明らかになる! ・・・予感がします。
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これからも「殺し屋」よろしくお願いします!