第4話 殺し屋の部屋作り
ぴぴぴ、ぴぴぴ、ぴぴぴ
音が鳴り響くと、玲菜は銜えていた体温計を手に取り、数字を見た。すっと手を伸ばしてきた刹那に体温計を手渡し、刹那の言葉を待つ。
「・・・・・・うん、37度1分。今日一日大人しく寝てれば大丈夫だな」
「うん。じゃあ大人しく寝てるから私の部屋ちょうだい」
「・・・・やっぱり住むのかよ・・・・」
「昨日言ったでしょ、住むって。1人暮らしだから、一部屋くらい余ってるはずだし」
「まぁ、あるけどさ。・・・・・・はぁ、わかったよ。掃除しておくよ」
「お願いね〜」
ため息をつきながら部屋を出た刹那は頭をポリポリと掻きながら考えた。
今空いている部屋は2つある。1つは物置として使っている日当たりの悪い部屋。もう1つは現在外国へ出稼ぎ中である刹那の父親の部屋。どちらを玲菜に貸し与えるべきか・・・・・。
物置の部屋を与えるとしよう。となれば、物置に入っているもの全て片付けなければならない。まさかゴミ同然の物を置いたまま使わせることなどできるものか。
物置に入っているのは、当然だが邪魔な物だ。普通捨てられない物専用のゴミ箱と考えても良い。その部屋ぎっしり詰まったゴミを全て片付けるのは・・・・・おそらく無理だろう。時間的にも、刹那の体力的にも。
となれば、残るは刹那の父親の部屋。空いているのはさっきも言ったとおり、海外へ出稼ぎに行っているためだ。―――何の仕事をしているのかわからないのが気がかりかもしれないが、そこら辺は割愛させてもらおう。
刹那の父親が海外から帰ってくるのは非常に稀なことだ。年に1回、戻ってくるかどうか。それに、部屋を片付けるにしても物置よりは遥かに楽なはず。その2つで決まった。
「・・・・・・・ま、いっか」
自分の父親が帰ってきたら・・・・・まぁ説明すればいいかと思い、刹那はすぐさま掃除に取り掛かった。
部屋はいたってシンプル。ベッドと机、あとは何もない。ほとんど海外で生活しているため、ここに家具を置いていないのが明らかだ。
「よし・・・・・ってか、片付けるとこあるか?」
答えは、『ない』である。ベッドと机の他には何もないのだ、これ以上片付けようがない。
{あの親父、ここ家だと思ってないんじゃないのか?}
一理ある。刹那の父親が海外へ出稼ぎに行き始めたのが、ちょうど中学生入学前だった。これから入学式に行こうと準備をしている自分を手伝わないで何をやっているんだ、と頬をふくらませている刹那に、父親はこう言って家を出た。
「じゃあな〜、俺外国行ってくっからいい子にしてんだぞ〜」
入学前の息子を放っておいて外国に行くやつなどいるものか。あまりの身勝手さのせいでぷちっと頭の何かが切れて、刹那は父親に殴りかかっていったのだった。
{・・・・・結局逃げられたけどな・・・・・}
あのことを思い出すとどうもため息が出る。唐突に家を出て行った父親、長い間放置プレイされていた純粋な少年。あぁ、なんてかわいそうな子だったんだろうと思ったりもしてみた。
何はともあれ、部屋の準備はできた。親不孝者ならぬ、息子不孝者の部屋だ、自由に使われても文句などないだろう。
「玲菜、のど渇いてないかな」
熱はほとんどなくなったと言っても、風邪は風邪。汗をかいてのどが渇いているかもしれない。何か飲み物でも持って行ってやるか、と刹那はキッチンへと向かったのだった。
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「お茶とスポーツドリンク、どっちがいい?」
「部屋がいい」
「・・・・・のど渇いてないの?」
「渇いたけど、とりあえず部屋がいいの」
「・・・・・部屋あげるからとりあえずどっちか選んで」
「じゃあお茶でいいよ」
わかった、と一言言ってから、刹那はコップにお茶を注いだ。なみなみと注いでいる間に、ちらっと玲菜のほうを見てみる。昨日よりは大分顔色も良くなった。うん、一晩寝てればなんとかなるもんなんだな。
「はいよ」
「ありがと」
刹那が渡したお茶をちびちびとゆっくり飲む玲菜。
・・・・・・何なんだろう、と刹那は思った。この懐かしい感じは何だろう、どこかで会ったようなきがするのはなぜだろう。レナを見てると湧き出してくるこの感情が不思議でならなかった。
会っているはずなんてない。自分の知っている友達の中で玲菜なんて名前のヤツはいないし、大体こんな可愛い娘だったら覚えてるはずだ。
親父の友達の娘かなんかだろうか?いや、それはない。親父は基本的に友人を家に連れてはこない。―――友人の家の行き、まるで自分の家みたいくつろぐのだ。自分の家に連れてくるところなんて見たことがない。だからその線はありえない。
ならば、一体どこで?
う〜ん・・・・・う〜ん・・・・・
「? 何?」
お茶を飲み終わった玲菜が刹那の視線に気付き、疑問符を浮かべながら聞いてくる。
「あ、あぁ、ごめん。何でもないよ」
「それより部屋に案内して。もう準備できたんでしょ?」
「うん、それじゃ行こうか。立てる?」
もう大丈夫、と言ってベッドから立ち上がるのを見届けた刹那は、部屋のドアを開け階段を下りていった。もちろん後から玲菜がついてくる。
ぺたぺたと裸足で床を歩く音が2つ。やがて2人は刹那の父親の部屋、もとい玲菜の部屋にたどり着いた。
「ここだよ」
「何にもないね。ベッドと机だけ・・・・・」
さすがの玲菜も、ちょっと呆れたようだった。まぁ、刹那も同じようなことを思っていたので仕方がない。
「まぁいいだろ。家具とかは自分で何とかしてくれ」
「よくないよ!!部屋の中にベッドと机だけってどんな仕打ち?!」
「まぁ受験生になったと思えば・・・・・」
「受験生でももっと家具があるよ!!こんなあっさりした部屋やだよ!!」
「・・・・・わかったわかった。知り合いに頼んでみるから、今日は我慢してくれ」
「・・・・・絶対だよ?」
「わかったって。・・・・・そういえば腹減ったなぁ・・・・・」
部屋の時計を見ると、もう8時を回っていた。朝食には少し遅い時間だ。
今日は何にしようかなぁ・・・・・そういえば卵がいっぱいあったっけ?目玉焼きでいいか。
そんなことを考えていると、玲菜がそうだ、と言ってポンッと手を叩いた。
「私がご飯作るよ」
「玲菜が?」
しばらく考え込んでみる。・・・・・うん、たまには自分以外の人が作ったものを食べたい。それに、楽ができる。部屋を貸したんだ、それくらいはしてもらっても罰は当たらないだろう。
でも、万が一のことがあるので確認してみる。
「玲菜って、料理できるよな?」
「できるよ。自分で自炊してたから、結構うまく作れると思うよ」
これで安心できる。ここで料理なんてやったことないよ、などと言われたものなら大変なことになる可能性大だ。後片付けを自分がやらなければならない羽目になるかもしれない。
でも、自炊はしているから料理は大丈夫だろう。
「じゃあお願いしようかな」
「うん、任せて。あ、ただ調味料とか包丁とか鍋とかどこにあるのかは教えてね」
「わかった、わからなかったら呼んでくれよ」
そう言うと、玲菜は台所へと向かっていった。
一体どんな朝食が出てくるのだろうか?とても楽しみで待ち遠しいな。
刹那はそんなことを思いながら居間へと向かうのだった。
さて、ここからが連載です。今までは短編のほうでやっていたため、どんな内容かわかっていたかもしれませんが、今回からはまた新しく更新していきます。
これからも殺し屋をよろしくお願いします!!