第22話 CDショップと理恵先輩
刹那と理恵は、町中のCDショップに到着した。町で唯一のCDショップではあるが、置いているCD種類はかなり多く、不便することがない。刹那も好きなバンドのCDを買い集めているが、一度もなかった、ということがないからすごい。
「へぇ〜。結構広いのね」
理恵はショップの中を見渡し、興味深そうにきょろきょろと眺めていた。・・・初めて来たのだろうか? いや、だって理恵さんだって音楽くらい聴くだろから、ここが初めてってことはないはずだ。町でCDショップはここだけなのだから。・・・聞いてみるか。
「理恵さん、こういうところに来たことなかったんですか?」
「CDは、いっつもアタシより先に恵利が買ってきちゃうからね。来る理由がないのよ。それに、部活で忙しいから来る暇もないし」
なるほど。忙しくて来れないから、妹の恵利が買ってきてくれるのか。気が利く妹だ。・・・・・彼氏の博人が少し羨ましいぞ。
「大変ですもんね、ソフト部」
「まぁね。ほら、さっさと買いたいCD買っちゃうわよ」
「あ、理恵さん。そっちはアニメソング集です。俺の探してるCDはこっちですよ」
「は、早く言いなさいよ!! もう!!」
ははは、と軽く笑いながら、刹那は目当てであるロックCD集のほうへと向かった。後ろからはきょろきょろと物珍しそうに周りを見渡す理恵がついてくる。・・・何だか面白いな。
やがてロックCD集のところに着き、刹那は買う予定のCDを探し出す。んと、あいうえお順に並んでるから・・・・・そっちだったはず。
「お、あったあった」
嬉しそうに刹那は一枚のCDを取った。タイトルは、黒いバックとは対照的に白文字の英語で書いてある。
「Black bird・・・ぶらっくばーどって読むのこれ?」
「はい。でも、それはアルバムタイトルで、バンド名は『Heaven And Hell』っていいます。気に入ってるんですよ、このバンドの音楽」
「ロック歌手なんだよね」
「そうですね。出してる局の9割はロックだから、一応そうなると思います」
「9割? 残りの1割は?」
「ヘビメタです。でも、英語で歌ってるからどんな意味なのかよくわからないんですよね」
ふぅ〜ん・・・と声を漏らしながら、いつもより饒舌になっている刹那のちらっと顔を見る。刹那は、本当に嬉しそうな顔でCDのジャケットを見つめていた。こんな嬉しそうな顔、今まで見たことがなかった。・・・その顔が、何だか微笑ましい。思わずこっちも笑顔になってしまう。
「それじゃ俺、会計を済ませてきますね」
「あ、うん。それじゃ、買ったら外で待っててちょうだい」
「わかりました。それじゃ、待ってますね」
そう言うと、刹那はレジのほうへと歩いていった。よっぽど嬉しいのだろう、歩くのが速くなっている。あ、スキップした。可愛いなぁ、もぅ・・・。
刹那が見えなくなった頃、理恵は先ほど刹那が取ったのと同じCDを手に取った。・・・はっきり言って、ジャケットが怖い。何だかアメリカのホラー映画のDVDみたいだ。こんなCD、アタシだったら絶対買わない。怖いもん。怖いの聞いたら、夜とか怖くて布団から出られなくなるもん。
でも・・・・・刹那が買ったんだから、アタシも買ってみようかな? うん、そうだよね。刹那がすっごく褒めてたんだから、大丈夫だよね? こ、怖くないよね?
「・・・よし」
CDを手に取り、レジに向かう。刹那はもう会計を済まし、外で待っているみたいだった。・・・よかった、これで同じの買ったってばれなくてすむ。
「いらっしゃいませ」
「えと、これください」
手に持っていたCDを渡すと、店員はCDをちらっと見て言った。
「3050円なります」
・・・バーコードは読み取らないのかこの店は。それとも何? 店員の気分しだいで値段決めてるの? 今日はいい天気だから100円にしよう! って、そんな店あるか!!
「ば、バーコード読み取らないんですか? ここのお店」
「あぁ。そのCDの値段、もう覚えちゃったんですよ。そのCD、今日が発売日なんですけど、もう在庫がなくなっちゃいましてね。一日でこんなに売れたのは久しぶりですよ」
今日が発売日でもうすでに在庫がないということは・・・・・このCD、とてつもない人気があるということになるのではないか? そ、そんなにすごい音楽だったんだ。知らなかったわ・・・。
財布から千円札を3枚と50円玉1つ取り出すと、直接店員に手渡しした。
「3050円ちょうどになります。ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をする店員をあとにし、理恵は刹那の待っている入り口に向かった。自動ドアをくぐると、刹那が買ったばかりのCDをにやけた顔で見つめていた。・・・これは、怪しい。変な人と間違われちゃいそう。あ、ほら。何か刹那を指差してひそひそ話してる人がいる。・・・まったくもう、ちょっとは周りのこと考えなさいよね。
「ちょっと刹那!」
「うぁい! あ、理恵さん。用事終わりました?」
「まぁね。それよりも、通行人から変な目で見られるからこんなところでボーっとしないの! まったく、あんたってばどうしていつもぼけっとしてるのかしらね!」
「はは、すみません。ちょっとCDを見てたら嬉しくなっちゃいまして・・・」
照れたように笑い、刹那はポリポリと頭を掻いた。と、いきなり理恵の持っているビニール袋を見て、興味深そうにたずねた。
「あれ? CD買ったんですか? 何のCDです?」
刹那に言われて、理恵は慌てて手に持っているビニール袋を後ろに隠した。刹那は気になるのだろうか、どんなCDを買ったのか理恵にたずねる。
「どんなCDなんですか? もしかして、俺と同じやつですか?」
「あぁ〜うるさいうるさい!! それより、もうすぐ集合時間だから行くわよ! まったく、時間がないっていうのに」
「あ、待ってくださいよ」
誤魔化すように理恵は刹那を置いて歩き出した。刹那も、少し遅れて理恵の後を追う。
・・・うぅ、恥ずかしい。今、絶対アタシ顔赤くなってるよね。刹那には見られたくないなぁ、こんな顔・・・。
「理恵さん! そっち逆!」
「わ、わかってるわよ!」
赤い顔をさらに赤くして、理恵は追いかけてくる刹那と一緒に集合場所に向かったのだった。
Black birdは、外のカラスを見て、Heaven And Hellは、携帯に入っていた天国と地獄から取らせていただきました。実際の団体名ではない・・・・はずです。
これからも『殺し屋』よろしくお願いします!