表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/155

第150話 決着

「? どこへ行く」


「さぁね!!」


地を蹴り、里奈は後ろへと跳んだ。距離を取るとか、そういう意味合いでないことは明確だ。だって、里奈は『相良』に背を向けていたのだから。それが表しているのは、逃走だった。


「・・・ふざけるな。ここで、逃がしてたまるか」


『相良』にしてみれば、ようやく出会うことができた最大の好敵手。それと戦えず、みすみす逃がすなどごめんだ。この機会を逃せば、また何十年という時を何の面白みもないまま過ごさなくてはならないのだ。

『相良』も同じようにして地を蹴り、里奈の後姿を追う。・・・才能を開花させたのが災いしたのか、簡単に追いつけるような速さではなかった。

里奈はただ走り回り、そして『あるポイント』へと『相良』を誘導する。わざわざ後ろ姿を見せて逃げているのも、少しでも『相良』の冷静さをなくすためだった。

その『ポイント』にうまく引き込んだとしても、冷静であればうまく対処されてしまうかもしれない。里奈が勝つためには、『相良』は冷静でいてはならないのだ。

徐々に『相良』が迫ってくるのがわかる。次第に縮まってくる距離。追いつかれれば死ぬという、遊びじゃない鬼ごっこ。里奈の心拍数が、急激に上昇してくる。


「・・・逃げて悪かったわね、じゃあ行かせてもらうわ」


高鳴る鼓動を押さえつけるように、里奈は言い放つ。

―――そう、『ポイント』へと誘導することに成功したのだ。

急ブレーキをかけて一瞬で踏み止まり、そして180°方向を変えて里奈は『相良』へと突進した。

逃げる1択しか行動を取らないだろうと思いこんでいた『相良』は、里奈のこの突然の行動に面喰ってしまう。


「っふん!!」


勢いに身を任せ、里奈は『相良』に蹴りを食らわせる。

『相良』自身のスピードと、里奈の向かってくるスピードがあまりに速すぎたため、『相良』は避けることなどできず、ギリギリのところで蹴りを腕で防ぎ、そして吹っ飛ばされた。

・・・だがそれだけだ。『相良』にダメージはない。吹っ飛ばされても、すぐさま地を蹴って体制を整えるだろう。そして、それから始まる『本気の戦い』。

里奈が何を考えていようが、戦うことさえできればいいと思っている『相良』は、ただ相手である里奈を見つめていた。

戦う気になったのならそれでいい。始めよう。

刀を構え、そして着地の準備をする。






だが・・・






「!?」


落下する際に背中にワイヤーのようなものが引っかかる。

それと同時に、パンっという乾いた音が1つ。

一瞬の静寂の後にくる、肩への激痛。

これは・・・トラップだった。

先ほど戦った幹部が発動し忘れた、たった1つのトラップ。

里奈の狙いはそれだった。少しでも勝率を高めようと必死に周りを観察し、ようやく見つけたたった1つの勝機だった。

トラップに引っかかった『相良』には、当然ながら隙ができる。驚愕と、激痛のせいだ。

それを最初から狙っていた里奈は、間髪入れず『相良』に追撃を入れようとする。

・・・これが最後だ。

外したら終わりという、命をかけた最大の博打。

その結果が怖くて、里奈は目を瞑ったまま刀を横一閃に振るった。



狙いは・・・首。



「はあっ!!」




振るった刀から伝わってくる、確かな感触。




何度も味わった、肉を斬る感覚。




刃が肉を突きぬけ、突如消えた手応えのなさが、両断したことを教えてくれた。




・・・あぁ、終わった。




やれたんだ。




ちゃんと守れたよ、大事なもの。




安心の溜息を洩らす。




ようやく終わったから。




化け物との対峙が、ようやく終わってくれたから。











―――惜しかったな。











「え?」











不意に聞こえた声。

それと同時に走る、肩口への凄まじい痛み。

鈍く響くような音がし、里奈は肩の骨が砕けたのを悟った。


「・・・う」


打撃の勢いに身を任せ、地面に全身を叩きつけられる。

激しい衝撃とともに痛みが襲い、里奈は歯を食いしばってそれに耐える。


「・・・今のはかなり冷や冷やした。初めてだ、死ぬかもしれないと思ったのは」


声がしたほうに顔を向ける。




そこに、立っていた。




わずかな筋と皮だけでつながっている左の二の腕を押さえながら笑っている『相良』が。




「ウソ・・・でしょ」


「残念ながら事実だ。間一髪だった。とっさに身を翻してなかったら、確実に首を落とされていただろうな」


確かに感じた肉を斬ったというあの独特の感触。

あれは・・・腕だったんだ。首じゃなかった。

それなのに勘違いして気を抜いて・・・なんて馬鹿なことを。


「まさかあの女のトラップがここで効いてくるとは思わなったな、ふふ。実に楽しい戦いだった」


「く・・・」


体が思うように動いてくれない。

もう完全なスタミナ切れだ。全身が悲鳴を上げている。

いくら能力が伸びたといっても、やはり体にかかる負担が半端な量でなかったのだ。


「感謝する。生きていて、一番楽しかった」


ふ、っと笑って、『相良』は里奈に背を向ける。


「ど・・・どこに行くのよ・・・」


「仕事だ。あの2人を殺しに行く。もう遊びの時間は終わったんだ」


「!? ま、待ちなさいよ! まだ・・・まだ・・・」


「まだ、なんだ? その体で動けるなど言うつもりか? 笑わせるな、動けたとして、俺に勝てるわけがないだろう」


「・・・っく、でも・・・あたしは・・・」


「・・・じゃあな」


里奈が動けないのをいいことに、『相良』はゆっくりと歩き始める。

・・・そう、もはや行く手を阻むものは何もないのだ。あとは、殺すだけ。それで、今回の仕事は終わりを告げる。


「くっ・・・うぅ・・・」


全身の痛みに耐えながら、里奈は地面を掴んで『相良』の後を追おうとする。

だが、無駄だった。追いつけるわけがない。追いつけたとしても、どうすることもできない。

完全な、敗北だった。

刹那と玲菜は、殺される。

この、化け物に。

止める術は・・・もうない。


「・・・・・」


悔しさと自分の弱さに、里奈は絶望した。

前へ進むことを止め、大人しく体を地面に横たえる。

・・・目からは、一滴の涙が流れていた。

もうどうすることもできない、諦めの涙。


{ごめんね・・・2人とも・・・}


心の中でそう呟いて、里奈は目を閉じた。


もう少しだけ「殺し屋」よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>恋愛コミカル部門>「殺し屋はターゲットに恋をする」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ