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第148話 待ちわび続け

最初はまだ希望を持っていた。殺し屋の世界に入って、まだ1年も経っていなかったあの頃は。


―――俺より強い殺し屋はまだこの世にたくさんいるはずだ、次こそ必ず巡り会えるさ。


目の前に現れた殺し屋の息の根を止めた後、決まってそうやって希望を抱いていた。

どんどん仕事を受けて、世界を回って、殺して、そしてまた世界中を飛び回る。

目の前に現れた殺し屋は数知れず。そのほとんどが、蟻を踏み潰すように簡単に死んでいったのを覚えている。

もちろん、楽しめるほどの実力を持ったやつだっていた。片手で数えられるくらいだったが、確かにいた。

でも、そいつらもやっぱり俺に及ばない。面白いだけで、誰1人命の危機を感じるほどの戦いはできなかった。

面白かったやつらは全員生かしておいた。ひょっとしたら、これからまだまだ強くなって自分を超える存在として立ち向かってくれるかもしれなかったからと思ったからだ。

だが・・・俺の期待は見事に裏切られた。要するに、触らぬ神に祟りなし、ということだ。

実力が噂通りだと知ったそいつらは2度と俺の目の前に現れず、落しかけた大事な命をもう危険にさらさないように俺との接触を避けていた。

世界を飛び回っていくにつれて、俺に戦いを挑んでくる奴らはめっきり減ってしまった。

俺は生きた伝説となり、それを恐れた殺し屋たちが挑んでくる道理などどこにもなかった。

抱いていた希望も、『俺より強い奴』から次第に『俺と近い実力を持った奴』に変わっていき、最後には『楽しめる程度の奴』になっていた。

この世に、俺を超えるものは誰もいない。

ずっと孤独で、ただただ戦う相手を探してさまよい続けるだけの存在。

・・・それが、最強の末路だった。

望まずして才を受けた人間の、歩む道だった。






そうずっと思ってきただけに。






『こいつ』の存在は完全な誤算だった。






「・・・あんたホントに人間? エイリアンとか?」


最初は手を抜いていた。だが、2撃目は違う。

本気とまではいかないが、多少力を入れた攻撃。今まではこれの攻撃で沈まなかった奴はいなかった。

だが、目の前で軽口を叩いている奴は流してみせた。初めて、沈まなかった。

全力でいっぱいいっぱいだというのはわかっている。それでも、こいつは受けきってみせた。


「・・・・・」


驚きで言葉がうまく出てこない。期待していなかっただけに、なおさら。

「どうなのよ、何とか言ってみなさいよ。出身の星はどこよ? 火星? 水星?

ブラックホールからやってきました〜とか言ったらぶつからね」


心にはもう怯えや恐怖はない。実力の差を改めて実感して開き直った、というところだろうか。

・・・だが、それでいい。この俺を目の前にして、それだけ軽口が叩けるのなら上等だ。


「・・・っふ、ふふ」


いきなり全力を出せば、あっけなく『こいつ』は壊れるだろう。

ならば、徐々に力を上げていったらどうだ?

勘付かれないほどの小さな力を、どんどん積み上げていけばどうなる?

吊り上がる力に対抗して、もっとこいつは強くなってくれるかもしれない。

俺を、越えてくれるかもしれない。

・・・これが笑わずにいられるか? いられないだろう?

ようやく、俺の目の前に現われてくれた。

長年待ち続け、強さの感覚が麻痺してきた今になって、ようやく現れてくれた。


「ふふ、っくく・・・」


いつ以来だろうか、こんなにわくわくするのは。

背筋がぞくぞくして、刀を握る手が震える。

気持ちが高揚して、抑えられない。

それを誤魔化すようにして、顔につけている仮面を取っ払った。

顔面が外気にさらされて、それが無性に心地よかった。


「今さら何で仮面取ってるのよ。それににやにや笑って・・・何考えてんだか」


「ふふ・・・いや、悪いな。やっと、心から楽しめると思うと、楽しみで仕方がないんだ」


「はぁ・・・冗談じゃないわよ。こっちはいっぱいいっぱいなのに」


いっぱいいっぱい、か。

その『いっぱいいっぱい』が、どれだけ伸びるか・・・今から楽しみだ。


「・・・名前を聞いておこうか」


「何で今さらそんなこと訊くのよ」


「訊きたくなったから、だな」


呆れたように溜息をついて、『そいつ』は言った。


「里奈よ。佐々木 里奈。名乗ってやったんだから、アンタのも教えなさいよ」


「相良 智之だ。伝説も、元はただの人間さ。それも、日本人だ」


そう、生まれは日本だ。

殺し屋になるための過程で、生後5か月で海外に飛んだのだが、昔のことはどうでもいい。


「あ〜、通りで東洋っぽい体つきしてると思ったわ。んで、やっぱり名字は『相良』なわけね」


「あぁ。殺し屋の基礎を教わってた時代の名残だ。・・・さて、続きだ」


言い終えて、足を踏み出す。

今度は先ほどよりも少しだけ速くしてみる。




・・・成長しろ。




今よりずっと強くなれ。




そして、俺を超えてみせろ。




それが、俺の終点なのだから。




ずっと待ち焦がれ続けてきた結末なのだから。


もう少しだけ「殺し屋」よろしくお願いします!

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