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第147話 決戦

里奈が死に場所として選んだのは、先ほど優子と『相良』が戦った場所だった。

シェルターから近いし、今の時刻だったら誰も来ない。戦うにはもってこいの場所。あるいは、死に場所か。

・・・まぁ、移動するのが面倒だった、というのが本音だ。要は『相良』との戦いの被害が刹那と玲菜に及ばない場所ならいいわけなのだから、別にここでだって構わない。

目的の場所に到着すると、里奈は持っていた鞘を捨て、刀を両手で構え直した。


「はい、到着。お疲れさまでした」


「・・・ここでいいのか?」


意外そうな声で、『相良』が里奈に確認する。

わざわざ死に場所を選ばせてほしいと言われた『相良』にとってみれば、こんなありふれた場所に誘導されたのが不思議でたまらないのだろう。


「ま、ここでいいわ」


「結構だ。・・・だが、やらせてもらう前に訊きたいことがある」


「何よ」


「貴様、その刀をどこで手に入れた?」


里奈の持っている漆黒の刀を指差し、『相良』がそう尋ねる。


「シリスさんから貰ったのよ。あたし、銃よりこっちのが好きだから」


「・・・貴様、あいつの何なのだ?」


「まぁ娘であって、殺し屋としての弟子ってところかしら」


「・・・なるほどな。さしずめ、『witch』の後継者、といったところか」


「は? うぃっち? 何のことよ?」


里奈の問いかけに答えず、『相良』は沈黙した。・・・何を考えているのか、里奈にはわからない。心だって読めないし、仮面をしているから表情だって読み取れない。何がしたいんだ、こいつは。

しばらくの沈黙のあと、『相良』は持っていた真っ白な刀を抜き、そして横にして構えた。


「・・・こいつの兄弟分がこんなところで見つかるとは思ってもみなかった」


「?」


「それは貴様が使っていい代物ではない。回収させてもらうぞ」


何のことかわからないまま、話は終わった。

『相良』は刀を構えたかと思うと・・・姿を消した。


「・・・・・」


消えたわけではないことはわかっている。相手の武器は射程の短い刀だ。攻撃をする際には、絶対に近寄らなければならない。

となれば、答えはたった1つ。『相良』は、見えない速さで突進してきているのだ。

ぶつかってくるような荒々しい突風が、そのことを裏付ける確固たる証拠だった。

脳内の考えを全て振り払い、許されたほんの一瞬の時間でとっさに首を右へと倒す。

突風が通り過ぎたのと同時に、自分の後ろから声がする。


「・・・かすっただけ、か」


里奈の右頬に赤い線が横に走り、その線から真紅の血がゆっくりと流れた。

・・・かわしきれなかったのだ。あまりの速さに、里奈の行動が追いつかない。

しかし、かわしただけ大したものだ。相楽の動きはもはや人間のレベルを逸脱している。その速さは、まさしく『目にも映らぬ速さ』。

その速さから繰り出される攻撃をまともに食らったら、まず死は免れない。・・・攻撃の一発一発が一撃必殺という、何とも形容しがたい恐ろしい敵だった。

だ里奈はそんな化け物のような敵に怯えもせず、いつものような口調で相楽に言ってやった。


「あんた、女の顔に傷をつけるなんていい度胸してるじゃない」


「・・・避けたな。意外だった、これで終わると思ってただけに、な」


刀を肩に担ぎ、驚いたようにそういう『相良』。声にはまだ余裕があり、それが今の動きが全力でないことを教えてくれていた。

・・・冗談ではない。今の速さはシリス以上のものだ。当然、里奈だってこんなに速くは動けない。

これより更に上があるというのだ。・・・馬鹿げている。何だこの常識外れの怪物は。本当に同じ人間なのか疑いたくなる。


「・・・・・」


冷や汗をかきながらも、里奈は再び刀を構え直す。

怯えてはいるものの、逃げ出す気はさらさらないようだった。


「・・・逃げる気は?」


表情の見えない『相良』が、確認するかのように里奈にそう尋ねる。


「まぁ、ないわね」


「実力の差を見せつけられてもか」


「だって、逃げたらあんたあの2人を殺すじゃないの。それだけは我慢できないわ」


「・・・死んでもか?」


「そうね。殺したかったらまずあたしから、ってとこかしら」


平然と、里奈はそう言ってのける。

・・・だが、決して落ち着いてなどいない。

怖い。逃げだしたい。今からここから立ち去りたい。

そんな感情が、里奈の心の中で渦巻く。こんな化け物を目の当たりにして、冷静でいられるほうがおかしいのだ。

今の自分は演技をしているだけ。恐怖心で塗れている自分の心を、ちょっとでも『相良』に悟られないようにするための、必死の演技。

・・・気丈に振る舞え。決して相手から目をそらすな。本気で立ち向かえ。

自分にそう言い聞かせ、里奈はふぅ〜と息を吐く。


「ほら、来なさいよ」


「・・・気丈だな。それなら望み通りにしてやる」


言い終えるなり、『相良』は姿を消す。さっきよりもこちらへ向かってくる速度が速いということは、『相良』のいた場所のアスファルトの抉れ具合が教えてくれた。最初にできたものよりも深く、そして大きい。

この速度から繰り出される攻撃も、先ほどよりも高い破壊力を持ったものになるだろう。もちろん、速度も重さも。



―――目で追うのではありません、こちらへ向かってくる物体が乱している大気を感じ取るのです。



遠い昔、弾丸をかわす時に言われたシリスの言葉。弾丸のように攻撃の速度が速いものは、目に頼るのではなく体で感じ取るようにと散々言われた記憶がある。

『相良』の攻撃の速度は弾丸のそれを遥かに上回る速度だ。だが、根本的に避け方は同じのはず。目で追いきれないのならば、体全体の神経を集中させて感じ取ればいい。


「・・・・・」


・・・わかる、見えなくともわかる。

『相良』が今急接近してきている。もちろん、刀は振り上げられたままだ。

速い。確かに速い。訓練した自分の目でも追いきれないのだから当然だ。

だが、その速度が教えてくれる。早さゆえに、自分自身が乱した大気と震える空気の震動が伝わってくる。

『相良』そのまま突っ込んできて・・・そして加速を加えたありったけの力で、刀を振り下ろしてきた。


「っ!!」


とっさに刀の柄をを頭の上に掲げ、そして切っ先を地面に向けるという構えを取る。瞬間、金属と金属がぶつかるあの鈍い嫌な音が耳に突き刺さった。『相良』の刀を、防いだのだ。

だが、そのまま受け止めるような真似はしない。力に対して力では、弱いほうである里奈が負けるに決まっているからだ。

ならばどうすればいいか。・・・簡単だ。その力をそのまま逃がしてやればいい。

里奈は刀をさらに斜めにし、滑車の要領で『相良』の刀を滑らせた。里奈の頭を真っ二つにするはずだった『相良』の白い刀は、加えられた力に反することなく里奈の真横に外れる。

・・・攻撃をした直後は隙ができる。どんなに小さくとも必ずだ。それは『相良』とて例外ではない。

攻撃を外し、隙が生じたその瞬間に、里奈は間髪入れず斜めに構えていた刀を切り返し、『相良』目がけて振り下ろした。・・・『相良』は目の前だ。この距離からなら、当たる。


「つぁっ!!」


気合一閃。里奈の漆黒の刀は『相良』の体を切り裂いた。







「!?」







はずだった。確かに斬ったはずだった。








すぐ近くにいたはずの『相良』大して距離だって離れてなくて、自分だって全速力で振り下ろしたのだから外れるわけがないと確信していた。

だが、斬ったという手応えはまったくと言っていいほどなく、里奈は単に何も存在しない地面に刀をぶつけただけだった。

慌てて顔を上げて『相良』を探す。気配も消さず、隠れもせず、そいつは距離をおいて目の前に立っていた。





一瞬。





里奈が刀を切り返すたったの一瞬。





『相良』は、そのたった一瞬で里奈の一撃をかわしたのだ。




里奈の振るう刀の速度を上回る速さで。




「・・・あんたホントに人間? エイリアンとか?」


呆れ口調でそう言ってのける。もはや恐怖はない。あまりの実力に、ただただ呆れかえるばかりだ。


「・・・・・」


「どうなのよ、何とか言ってみなさいよ。出身の星はどこよ? 火星? 水星? ブラックホールからやってきました〜とか言ったらぶつからね」


「・・・っふ、ふふ」


「?」


「ふふ、っくく・・・」


前触れなどなく、『相良』は笑った。

それは子供のような無邪気な笑い声で、ただ純粋な笑いだった。

仮面が邪魔をして表情こそわからないけれど、里奈にはわかった。

・・・目の前のこいつは、心の底から喜んでいる。何に対してかはわからないけれど、確かに。

その不気味さに気押されないようにと、里奈は刀を構え直して『相良』と対峙した。


もう少しだけ「殺し屋」よろしくお願いします!

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