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第136話 侵入者

夕飯も終わり、刹那たちはテレビを見てのんびりとした時間を過ごしていた。

玲菜の淹れてくれたお茶を啜りながらほっとため息をつく。

・・・なかなかいい時間だった。里奈が来たから結構騒がしくなるかと思っていたが、里奈も同じようにしてお茶を啜り、テレビを見ている。


「・・・玲菜ちゃんまだかな〜」


「大人しくしてたと思ったら、やっぱり玲菜を待ってるんですか・・・」


「当然でしょ! 洗い物が終わってこっちに来たらひっつきまくってやるわ!」


「未来に影響が出るのでやめてください・・・」


「? 未来ってなによ。将来?」


・・・そうだった。里奈は未来のことを知らなかったのだった。


「子供の名前ですよ。『未来』って、そうつけることにしたんです」


「へぇ、結構そういうことには気がいくのね。生まれてから慌てて名前の辞書とか引いてそうなイメージあったのに」


・・・確かに、玲菜が切り出さなかったらそうなっていただろうけど。


「未来ね〜・・・未来ちゃんね〜・・・きっと玲菜ちゃんに似て、とっても可愛いんでしょうね〜・・・」


穏やかな笑みを浮かべる里奈。

何だか、玲菜の姉というよりは、玲菜の母親のような気がしてならない。そんな表情だった。


「・・・あんたの遺伝子はいらないんだけどね」


「やっぱりあんたはとっても失礼な人ですね!」


・・・前言を撤回せざるを得なかった。どんだけ玲菜が好きなんだこの人は。


「お姉ちゃん、また刹那いじめて・・・」


もう諦め半分、といった表情の玲菜が、エプロンで濡れた手を拭いながら居間に入ってくる。


「楽しいんだもん!」


「そんな理由で刹那をいじめちゃだめ! っめ!」


「はぁ〜い・・・」


もうっ! とため息を1つついて、玲菜は刹那の隣の席に腰掛けた。


「・・・こうやって3人で揃うのって、何だかとっても久し振りだよね」


ふと、玲菜がそんなことを言い出した。


「確かに。里奈さんも、ずいぶんここに来てなかったですしね」


「それはルールだって言ったでしょ。それに、ごたごたしてる中遊びにきたって、玲菜ちゃんに相手してもらえるわけないし」


・・・やっぱりそこが里奈の基本らしかった。


「・・・また、3人で暮らせるますかね?」


ぽつりと、刹那が呟く。やはり、1人増えるだけでもずいぶん家の中の雰囲気が違う。2人だけでは味わえない、団欒というものだった。


「ま、それについてはほぼないって思ったほうがいいわね。あのときだって、玲菜ちゃんとあんたを監視するって名目があったわけだし。それに・・・」


「それに?」


「もう少しで増えるでしょ? 一緒に暮らす人」


本当に少しだけの笑みを浮かべ、里奈は玲菜の膨れたお腹を指さした。


「もう少しの辛抱よ。あと1ヶ月くらいで生まれるんでしょ? そうなったら、もっと賑やかになるわ」




未来。




もうすぐ生まれてくる未来。




里奈の言うとおり、産まれてくるこの子は刹那と玲菜の光になるだろう。




2人だけでは足りていなかったものを埋めてくれる、そんな存在になるだろう。




「早く、来るといいわね」




「うん、早く生まれてほしいな。ね、刹那」


「あぁ、もちろんさ」


穏やかな空気だった。

何とも言えないこの雰囲気。

これが幸せかな、と、ふとそんなことを刹那は考えていた。











だが・・・。











「・・・・・」


「里奈さん?」


今の今まで微笑んでいた里奈の目が、変わった。

それを見た刹那は・・・本気で背筋が凍った。

こんな目、今まで見たことがない。明らかにこれは、誰かを殺す目だ。殺意が込められた、『殺し屋』としての目だった。

先ほどまで騒いでいた里奈の面影は、もはやどこにもなかった。


「・・・お姉ちゃん?」


里奈の目を不審に思った玲菜は、恐る恐る里奈の名を呼ぶ。

すると、里奈は椅子から立ち上がり、叫んだ。




「刹那っ!! 玲菜と一緒に机の下に隠れなさいっ! 良いっていうまで絶対に動かないでっ!」




里奈の怒声が居間に響き、刹那は慌てて席を立ちあがった。

そして、できるだけ玲菜の体に負担を掛けないようにそっと共に机の下に隠れる。

瞬間、居間の光が消え、ガラスの砕けた音が耳に突き刺さった。

それと同時に聞こえてくる、2回の無機質な乾いた音。

聞き覚えのあるようなその音は、銃声だった。

・・・意味がわからない。電気が消えて、ガラスが割れて、そして銃声が響いてくる。

今、ここで一体何が起こっている? どうしてこんなことが起きている?

混乱して思考が固まっている中、刹那はただ腕の中の玲菜を強く抱きしめていた。


「・・・もういいわ、出てきて」


時間にすれば、ほんの4、5秒。

でも、刹那にとってはもう何時間も経ってしまったような感覚がある。

そんな濃い時間が過ぎ去り、刹那は玲菜を抱えたままテーブルから這い出た。


「お姉ちゃん、何が起きたの?」


「・・・今日、あたしがここに来たのは正解だったみたいね。見なさい」


暗がりの中、よく目を凝らして里奈の手が指し示すほうを玲菜と共に見てみる。

そこには、黒い物体が2つ倒れていた。・・・いや、物体ではない。細長く、所々凹凸が見られる。これは、人だ。時折聞こえてくる苦しそうな呻き声が、それを証明している。


「同業者ね。たぶん、黒羽家専属の」


「同業者って、お姉ちゃん。何で殺し屋がここにやってくるの?」


「・・・わからない。でも、ここはもう危ない。A・B・K社に避難したほうが安全ね」


里奈の言うことは正しい。理由がわからずとも、殺し屋が襲撃してきたことは事実。それならば、ここよりも遥かにA・B・K社のほうが安全だ。守ってくれる人がたくさんいるのだから。


「とりあえず、ここを出るわよ。外にはもう気配がないから大丈夫。来てもあたしが撃退するから問題ない。行くわよ、2人とも」


そう言って、里奈は居間を足早に出て行った。もちろん、その後を刹那と玲菜が追う。

家の外へと出る。他の家の電気は消えておらず、月の光が刹那たちをほんの少しだけ照らしてくれていた。・・・刹那の家の電源だけを意図的にショートさせた何よりの証拠だった。


「ん?」


ふと、家の前に停められている黒い車に目が行く。・・・見たことのない車だった。この家の物でも、近所の家の物でもない。おそらく、さっきの奴らが乗ってきた車だろう。


「里奈さん、この車・・・」


「? ・・・ちょっと見てみるわ」


そう言って、里奈は車を調べ始めた。ボディーを何度か拳で叩き、タイヤを押し、ボンネットや後ろのトランクを開けて調べ、最後に車の下に潜って何かを確認する。

全てを調べ終わったらしく、里奈は車の下から這い出る。

服についた雪を払い落としながら、里奈は満足気に言った。


「爆弾の類はないみたいね。タイヤもボディーも防弾仕様っぽいから、狙撃されても大丈夫。これに乗っていくわよ」


里奈が嬉しそうに、ドアを開けて運転席に座る。さっきの連中は鍵を閉め忘れたようだった。・・・どうやら、すぐに片付くとでも思っていたらしい。何だか間の抜けた殺し屋だった。


「? 馬鹿ね、鍵もつけっぱなし。基本がなってなさすぎるわ、あいつら」


言うなり、車のエンジンがかかる。・・・音はほとんどしなかった。多少はもちろんするが、家でテレビを見ていれそれにかき消されてしまうほどの小さな音だった。

車のドアを開け先に玲菜を乗せると、次いで刹那も乗り込んだ。中は黒光りしている物騒なものがいくつも積んであり、自分たちを殺す手段はいくらでもあったということを教えてくれていた。

・・・ぞっとする。里奈がいてくれていなかったら、おそらく自分たちはあっという間にあの世へ旅立っていたことだろう。


「よし、じゃあ行くわよ」


そう言って車を発進させる。


目指すは、A・B・K社。


これからも「殺し屋」よろしくお願いします!

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