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第134話 未来

時間は人によって伸び縮みする、という説をご存じだろうか。


いつまでもこうしていたい、ずっとこうやっていたい、と思うほど楽しい時間を過ごしているときは短く感じてしまうし、逆に早くやめたい、解放してもらいたい、と思うほど辛い時間を過ごしているときは、胃に反して長く感じてしまうというものだ。


そんなことはありえない。流れている時間は一定であり、ただ時間の流れ方が人によって違うだけだ、と意義を唱える人ももちろんいるわけだが、刹那はそうとは思わなかった。


玲菜が妊娠してから早8ヶ月。何もしていない普通の人間ならとてつもなく長い時間に感じるだろうが、刹那にとっては言葉通り『あっ』という間だった。


仕事を探し、そして働き、くたくたになって家に帰るというサイクルが苦しくないと言えば嘘になる。


けれど、産まれてくる子供の顔、性別、そしてその子の将来を考える時間が、苦しい時間とは比べ物にならないくらい楽しい時間だった。こうやってあっという間に時間が過ぎてしまうくらいに。


だが、想像を膨らませる時間はもうじき終わりを告げる。あと約2か月で子供が生まれてくる。今までの苦労などまったく苦にならないくらいの喜びが、すぐ間近に迫っている。

腹を大きくした玲菜がふとある提案をしたのは、そんなある日のことだった。









「名前?」


シャワーを浴びてきた刹那は、玲菜の提案を思わず訊き返す。


「そう、名前。色々あったけど、つけるの忘れてたでしょ?」


「う〜ん、確かに。そろそろ名前で呼んであげたいよな」


玲菜のお腹に話しかけるたびに名前を読んであげれば、いざ生まれてきたときも違和感なく呼べるだろうし。

刹那はそんなに悩むことなく、玲菜の提案に賛成をした。


「うん、そうだな。つけよう、名前。とびきりいいやつをさ」


「うん、刹那ならそう言ってくれると思ってた」


にっこりと笑顔でそう言う玲菜。・・・子供まで作っておいて何だけど、やっぱりこの笑顔を見るたびにドキドキしてしまう。情けないやら、何やら。


だが、そこでふとあることが頭に浮かぶ。名前をつけるとうことは、性別がわかっているということが前提じゃないとダメなんじゃないのか、と。


「玲菜、お腹の子、男の子か女の子かわかったのか?」


「それなんだけどね、先生に訊いても教えてくれなかったの。違ってたらぬか喜びさせちゃうかもしれないからって」


「まぁ、産まれてくるときはどっちも同じ感じだって聞いたしな」


「うん、だから・・・どうしよっか」


お腹を撫でながら玲菜は小難しそうな顔をして考え始めた。

刹那も同じようにして考えようとしたが、やめた。簡単だった。そんなに頭をひねらなくとも、簡単につけられる方法がある。


「どっちにでもつけられる名前にすればいいんだ。それなら、どっちが生まれたって問題ない」


「あ、そっか。思い浮かばなかったよ」


「それで、どういう名前にしようか。まずは玲菜から言ってみてよ」


「へ? あ、うん。えっとね・・・」


う〜ん、としばらく考え込む玲菜。気のせいか、何だか楽しそうな表情をしていた。


「えっとね、『未来』っていうのは、どう?」


ふと、玲菜がそう呟いた。


「未来?」


「そう、未来。そのままの意味。ちゃんと未来を歩けますようにって」





未来・・・。




ちゃんと未来を歩いていけますように。




未来・・・。




俺と玲菜の子供の名前。




・・・いい。悪くない。いや、上出来だ。素晴らしい。




素晴らしいけれど、問題が少々。


「でも、ちょっと女の子っぽくないか?」


「やっぱり? ちょっと女の子みたいだよね」


「まぁ大丈夫だろう。言っちゃえば1/2の確立だし、男の子でもそうつけられないことはないからな」


やっぱり、ちょっと名前だけだと女の子と勘違いされそうではあるが。


「うん、それじゃあ決まり! あなたは今日から未来だよ。み〜ら〜い。わかりましたか〜?」


笑顔で腹を撫でながら、そう言う玲菜。

その顔は本当に幸せそうで、その輪の中に自分も入っているわけであって、それで・・・なぜかはわからないけれど、意味もわからないけど、


「刹那?」


どうしてか、涙があふれてくる。幸せすぎて、意味もなく、泣いていた。


「・・・い、いや、大丈夫。何でもないよ」


「・・・怖い?」


確かに怖い。この幸せが、突然前触れもなく壊れてしまったら、と考えると。自分ではどうしようもない強い力で、成す術もなく幸せが粉々にされてしまったらどうしよう、と。


そう考えるだけで、怖い。これが最高に幸せであればなおさら。

玲菜は、刹那の気持ちをわかっているのだろう。刹那に近寄り、そして抱きしめた。


「大丈夫。大丈夫だから、そんな簡単に終わらないよ。だから泣かないで」


「・・・あぁ、もう大丈夫。落ち着いた」


幸せだと思った。

このままこの幸せがいつまでも続けばいいと、そう刹那は心の底から願った。



次回から最終回まで、ちょっとシリアスな雰囲気になっていきます。

これからも「殺し屋」よろしくお願いします!

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