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第133話 博人の怒り

家に到着し、玄関のドアを開ける。


「玲菜〜、ただいま〜」


大声でそう言うと、パタパタと奥から玲菜が駆けてくる。

手には洗濯かご。どうやら洗濯物を取り込んでいたようだった。


「おかえりなさい。あ、博人さん、恵利さん、こんにちは」


「・・・あぁ、こんにちは」


「・・・こんにちは、玲菜さん」


挨拶をする博人と恵利。いつもなら笑顔で冗談でも言うところだが、今回に限ってはそういうことはできない。

今から真面目な話があるのだ。そんなことをしたって、白けるだけ。


「・・・遊びに来たっていう感じじゃないですね」


「ちょっと話があって来たんだ。時間、いいかい?」


「はい、大丈夫です。話っていうと・・・」


「たぶん、玲菜ちゃんの想像通りだ。どうしても・・・話がしたくてな」


「私も、少しだけ言いたいことがあります。刹那君のことで」


玲菜はそれ以上何も言わなかった。

こくん、と首を縦に振り、居間へと入っていった。

刹那たち3人は後に続いて話し合いの場・・・居間へと入る。


いつもとは一見変わらない居間。でも、空気が全然違う。

重く、苦しくて、逃げ出したくなる。そんな張りつめた雰囲気。今から起こることが一体どういったものになるのかを暗示しているかのようだった。


4人は無言で、刹那たちがいつも食事をしているテーブルに着く。刹那と玲菜が隣り合い、博人と恵利が隣り合うようにして座り、それぞがれ向かい合う。

しばらくの無言。それを破ったのは博人だった。


「・・・玲菜ちゃん、俺は君のこと嫌いじゃない。どちらかといえば、好きなほうだ。話していて楽しいし、明るい。とても、いいやつだって思う。・・・でも、俺は許せない」


「・・・・・」


黙り込む玲菜。下を俯き、ぎゅっと裾を握る。


「俺たちはずっと刹那と居た。楽しいことだってあったし、もちろんつらいことだってあった。お互い共有しあって今まで来た。ずっと、それが続いていくと思っていた。


だけど、君が現れた。何の前触れもなく突然に。そして・・・俺たちから刹那を奪い去った。親友と過ごせるはずの時間を、君は俺たちから奪ったんだ!!」


そう叫ぶ博人。明らかな激昂だった。高ぶり、自分の中で膨らんだ怒りを玲菜にぶつける。怒った子供が、でたらめにおもちゃを投げつけるかのように。そこにあるのはいつもの博人ではなかった。あと先を考えず、ただ怒りを爆発させている子供だった。


気持ちはわからないわけではない。大切な親友、そして時間を奪われた博人の怒りは、やはり計り知れないものなのだろう。奪った人間が長年付き添った人物ならば話は別だが、いきなり現れた玲菜だったら、なおさら怒りを感じずにはいられない。


「妊娠のことはお互いに悪い。だけど、ここはあえて刹那の味方で話させてもらう。玲菜ちゃん、男の刹那ならそうことに疎くても、君ならそういうことは理解していたはずだ。止められたはずなんだ。どうして・・・どうして止めなかった!!」


「・・・・・」


「玲菜さん、ちょっと聞きたいことがあります。えっと、その・・・避妊はしていましたか?」


黙っていた恵利が口を出す。

その問いに、玲菜は少し戸惑いながらも答えた。


「・・・してなかったです。大丈夫だと、思って」


「・・・玲菜さん、わかってたはずですよね? 女には、安全な日なんてないってこと。どんな日だって、危ないんだってこと」


「・・・ごめんなさい」


本当に申し訳なさそうに、玲菜がぽつりと呟く。幸一とシリスの前では見なかった、今にも泣き出しそうな表情だった。


幸一とシリスは、刹那と玲菜のしたことに関しては深くは追及しなかった。やった後、どうするか、どういった対応をするか、そこを知りたかったためだ。2人を責めるようなことは一言も口にしなかった。


だが、博人と恵利は明らかに玲菜を、玲菜だけを責めている。全て玲菜が悪い、まるでそう言っているかのように。


「博人! 玲菜だけが悪いわけじゃ―――」


「悪いが最後まで口を出すな刹那」


「ごめんなさい、刹那君。どうか最後まで言わせてください」


2人にそう言われ、刹那は閉口せざるを得なかった。玲菜が一方的に責められているというのにだ。


博人と恵利から、怒りとはまた別の感情が感じられたからだ。根拠と言える根拠などない。言うなれば、直感だ。長年付き合ってきた刹那の勘が、そうだと言っている。


刹那が黙ったのを確認したあと、少し落ち着きを取り戻した博人が続ける。


「・・・玲菜ちゃん、今回のことどう思ってるか、聞かせてもらえるかい?」


「・・・軽率だったと思っています。博人さんと恵利さんにも、申し訳なく思っています。本当に、ごめんなさい・・・」


そう言って頭を下げる玲菜。それに倣って、刹那も頭を下げる。


「俺からも、悪かった。まさかこうなるとは、あのときは思ってなかったんだ・・・」


「・・・わかってる。わかってなかったら、こんなことにはならなかったはずだからな。玲菜ちゃん、俺から1つ頼みがある。厚かましいかもしれないが、刹那の親友としての頼みだ」


「・・・なんでしょうか」


真剣に見つめ合う両者。

そして博人の口から出た言葉は、思いもよらないものだった。







「・・・刹那を幸せにしてやってくれ」







「え?」


もっと他のことを言い出すと思っていた玲菜は、当然面喰ってしまう。

刹那を返してくれ、ここから去ってくれ、とか、てっきりそんなことを言われるものだと思っていただけに、博人のその言葉は意外だった。


「どんなにつらいことがあるとわかっていても、その先に幸せがあると信じたから、刹那は君と居ることを選んだ。君と一緒だと幸せだから、それを選んだ。すべて、君のためだ。だから、君は刹那を刹那を幸せにしなくちゃいけない。絶対にだ」


「・・・はい」


「もし、もしもだ。君が刹那を幸せにできず、選んだ道を後悔させるようなことがあったら、俺は君を許さない。絶対に、許さない」


博人の言葉、『許さない』。短いその一言に込められている博人の想いを、玲菜はひしひしと感じていた。


刹那を大切に思う気持ち。


親友として幸せになってもらいたい気持ち。


反面、奪った玲菜に怒りを感じている気持ち。


たった一言だけでも、それを玲菜が理解するには十分だった。だから・・・


「・・・してみせます。絶対に、刹那を幸せにしてみせます」


そう答えていた。


「それが聞きたかった。一番」


そう言って、博人は笑って見せた。もう、怒りなどどこにもなかった。刹那のために激昂した博人ではなく、2人を祝福する1人の親友がそこにあった。


「これからどんなことが起こるかわからない。でも、つらくなったら相談してくれ。力になって見せるからよ」


「私にも話してください。必ず役に立ってみせますから」


友の言葉がこれほど温かいものだと、刹那は知らなかった。玲菜と2人でこの危機を乗り越えなければならないと、勘違いをしていた。

でも違った。2人ではなかった。自分たちには、まだ力になってくれる心強い友がいる。大切な親友が、ここにいる。


「ありがとう、2人とも」


「本当に、ありがとう。それと・・・ごめんなさい」


「もういいさ。頑張るんだぞ、2人とも」


「2人なら大丈夫ですよ。きっと乗り越えられます」


温かくそう言った2人。

やれる、と刹那は思った。

これならば乗り越えられると思った。

例え、どんな苦難が待ち受けていようとも・・・。


これからも「殺し屋」よろしくお願いします!

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