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第128話 尋問と決心

「玲菜お嬢様!!」


半ば叫ぶようにして、居間にものすごく慌てているシリスが突入してきた。

・・・こんなにあたふためいているシリスを見たのは初めてだった。

いつものクールはどこへ行ってしまったことやら。


「あ、シリスさんお久し―――」


「ににに! 妊娠したって本当ですか!? 実は嘘だったりしないんですか!?」


「えっと・・・お姉ちゃんが言ってたから、本当かはわからないけど・・・。でも確率は高いって・・・」


「・・・っ!! 刹那様!!」


「うぁい!! っておおお!!」


きっと睨みつけられ、ぐぃ〜!! とシリスに胸倉を掴まれる。


「何やってるんですか! あなたはまだ学生でしょう!? 学生なんでしょう?! 学生がそんなことしていいと思ってるんですか!」


「ぐぇ! ジ、ジリスざん・・・、ぐるじぃです・・・」


ぎゅ〜っと締めあげられ、完全に取り乱したシリスにぶんぶんと力一杯体を揺さぶられる刹那。


「そういう関係になるのはわかってましたよ?! 若いですから雰囲気とかに流されちゃってそういうことをしちゃうっていうのもわかりますよ?! でもですね、あなただったらそういうことは控えるだろうって信じてたんですよ?! やるとしてもちゃんとそういうことは考えてやるものだって私は思ってたんですよ?! それがこれですよ!! 何ですか妊娠って!! まだ玲菜お嬢様は子どもなんですよ?! まだ親になれるって年齢じゃないんですよ?! ど〜してくれるんですか!! ねぇねぇねぇ!!」


「ごぇ・・・うぐぐ・・・ご・・・」


呼吸ができず、何とか腕を放してもらおうとシリスの手を振りほどこうとするが、力一杯掴まれているため効果がない。

そうこうしている間にも、刹那の意識がだんだん遠のいていく。


・・・あぁ、お花。お花畑。綺麗だな。あはは。あははは。


「シ、シリスさん! 刹那が死んじゃうよ!」


「・・・はっ! せ、刹那様?! ご無事ですか?!」


「な、何とか・・・死ぬ手前でしたけど・・・」


ようやくシリスの腕から解放してもらい、刹那は大きく深呼吸をする。

すぅ〜〜〜〜っと長い時間息を吸い続けて空気を肺に行きわたらせ、

はぁ〜〜〜〜と吸い込んだ空気を全て吐き出す。


・・・あぁ、生きているって本当に素晴らしい。


「も、申し訳ありませんでした。ついかっとなってしまって・・・」


先ほどとは違い、冷静さを取り戻したシリスが深く頭を下げて謝ってくる。

・・・さすがに少し驚いた。あのシリスがここまで取り乱すとは思ってもみなかった。

と同時に、シリスと里奈はやっぱり親子なのだなと納得してしまう。


「そろそろ、僕も話に入れてもらえないかな?」


そう言って居間へと入ってきたのは、


「お父さん」


「やぁ、しばらくぶり。とりあえずさ、みんな座って話そうよ」


「は、はい。わかりました」


口調は柔らかだが、有無を言わせない威圧感のある言葉。

一同は頷き、幸一の言うとおりソファーに座った。

・・・先ほどまでの雰囲気は、もうなかった。


「さてと、本題に入ろうか。玲菜、今から僕が言うことには正直に答えること。これを最初に約束してほしい。いいね?」


「・・・うん」


「それから3人とも、僕が言うことに口を挟まないこと。話の腰が折れちゃうからね」


刹那、里奈、シリスの3人は、首を縦に振り、返事とした。


「うん、それじゃ質問といこうか。玲菜、子供がお腹にいるっていうのは本当?」


「・・・わからない、お姉ちゃんはいるって」


「そっか、ちょっとごめんね」


玲菜に断って、幸一は玲菜の腹に手を置き、目を閉じる。・・・幸一は子供がいるかどうかを感じとっているのだ。


不安そうに見守る3人。いないのだったらお騒がせで済むが、いなかったのなら・・・。


「・・・ありがと。もういいよ」


「それでお父さん、私のお腹は?」


「・・・いるね。生きてるっていう感覚が伝わってきたからね」


表情は皆変わらない。だが、考えていることはそれぞれ違っていた。

そんな中、刹那は自分の中で渦巻く奇妙なものを感じていた。

真面目なこの状況でもにやけてしまいたくなる喜びと同時に、不安で、逃げ出したくなるくらいの恐怖心。

その2つが合わさったような、変な気持ち。


「ん〜・・・となると、だ。選ぶ道は2つある」


すっと手を差し出し、人差し指を立てる。


「1つは、おろす道。僕と明の仕送りで生計を立てている玲菜と刹那君が子供を育てるっていうのはたぶん無理だ。負担とお金はかかるけど、これが一番将来の経理的に楽な道」


次に中指を立てて、幸一は続ける。


「2つ目は産む道。こっちはイバラの道ってやつだ。子供がお腹にいる玲菜は働けないから、刹那君1人が何とかするしかない。もちろん、2人が勝手にやったことだから、僕も明も金銭的な面では一切手は貸さない。本当につらくて、厳しい道」


差し出した手を引っ込めて話は続く。


「と、いうわけだ。玲菜、この2つの道・・・どっちを選ぶ?」


今までになく真剣な表情の幸一。

玲菜は少しだけ気圧されていたが、じっと幸一を見つめ返して・・・言った。


「産みたい、私は産みたい。刹那の子供だもん、産みたい」


言ったあと、刹那のほうを見て、玲菜は笑った。

にっこりと、太陽のような表情で。


「玲菜・・・」






・・・嬉しかった。






自分と同じ気持ちだった、玲菜も。






産みたいと、そう言ってくれた。







自分の子供を、新たな命をこの世に生まれさせたいと言っていた。






よかった・・・、嬉しい。嬉しすぎて、刹那は泣きそうになった。






「・・・うん、了解。それじゃ最後に質問を3つさせてもらう」


刹那に向けていた視線を幸一に向け、再び見つめ合う形になる。


「1つ目、玲菜のお腹の子は刹那君の子供だって断言できるかい?」


「子供がお腹にいるんだったら、刹那以外考えられない。他の人なんてありえないし、そもそも嫌」


「2つ目、玲菜は刹那君のことは好き? 心の底から?」


「大好き」


「3つ目、途中で逃げ出さないって誓える?」


「刹那と一緒なら」


「・・・わかった。もう僕は何も言わないよ」


ふぅと幸一が溜息をついたと同時に、居間を包み込む重い空気が無くなったような気がした。

先ほどの、とまではいかないが、穏やかな雰囲気に戻る。


「玲菜お嬢様・・・」


「シリスさん、勝手なことしてごめんなさい。でも、私・・・」


「いえ、責めているのではありません。・・・進んでください。つらいかもしれませんが、頑張るのですよ」


「うん、わかってる」


「それにしても、こうも早く玲菜ちゃんに赤ちゃんできちゃうなんてね。あたしより早いし・・・」


「里奈さんはそういう人いないじゃないですか」


「まぁそうね。でも別にいいわ、欲しくはないし」


「負け惜しみですか?」


「うるっさいわね! 粉微塵にするわよ!!」


「お姉ちゃん! そういうこと言わないの!」


「里奈お嬢様、そのような口の利き方を教えた覚えはありませんが?」


「ごめんなさいでした〜・・・」


しゅんと里奈がうなだれて、笑いが起きる。

・・・いつも通りの穏やかな空気に戻っていた。


「それじゃ、刹那君。ちょっと来てくれない?」


「? 俺ですか?」


「うん。男同士、腹を割って話したいからね」


そう言って立ち上がった幸一に倣い、刹那も立ちあがる。


「ま、こっちはこっちで3人で話しててよ。男がいたらできない話もあるでしょ?」


「わかりました。お時間はどれくらいかかりますか?」


「2,3分くらいかな」


「承知しました」


シリスが確認を取ったのは、『男に聞かれたらまずい話』をしている最中に入ってこられたら大変なことになるから、という配慮からだろう。

先のことまで考えているというのが・・・何とも言えない。


「それじゃ刹那君、行こう」


「わかりました」


幸一の後を追い、刹那も居間を出ていった。



これからも「殺し屋」よろしくお願いします!

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