第125話 遊びにきたお姉ちゃん!
月日は流れ、刹那と玲菜が2人で暮らし始めてから早3ヶ月が経過していた。
季節も冬から春へと変わり、膨らみかけていている桜の蕾が春の訪れを実感させてくれる。
刹那ももうすぐ高校3年生。いよいよ自分の選んだ進路に向けて一直線に走っていく大切な時期である。
・・・もっとも、刹那はまだ自分の進むべき道を決めかねていたのだが。
玲菜との生活は思いのほかうまくいっていて、別に何の不満もなく続いていた。
逆に、満足で幸せで・・・罰が当たってしまうのではないかと思ってしまうくらいだった。
これから続いていく2人の生活。
楽しく、満ち足りるはずの同居生活。
・・・だが、事件は起きた。
*****
刹那は今春休みの最中である。
朝から晩まで玲菜と2人きり。これ以上の至福の時間はない。
家事の手伝いをしたり、一緒に買い物に行ったり、他愛ない話をしたり、お茶でも飲んだりと、
世間一般から見たら別に何ともないようなことでも、相手が玲菜だったら話は別。恋人だったらなおさらである。
もちろんその合間を縫って宿題等も済ませておかなければならないのだが・・・そんなことのために玲菜と過ごす時間を削るのはあんまりだ。
最終日にまとめてやるという最終手段を使うことを決意し、刹那は今日も玲菜と楽しく過ごすことを決意していた。
・・・のだが。
「はい、ここはこうなって・・・xに98を代入するの。するとyがこうなるから、答えが出るの」
「・・・・・」
「もー聞いてる? ここが解けないと他の応用もできないよ?」
「・・・はい、聞いてます」
「それじゃ、次の問題どうぞ」
「う〜い・・・」
・・・なぜか玲菜に勉強を教えてもらい、一生懸命宿題に取り組んでいる始末。
ことの発端は、玲菜が刹那に尋ねた『宿題ってあるの?』という実に単純な質問だった。
刹那も、そこで嘘をついて『宿題? そんなのないよ』とでも言えばいいものを、正直すぎる性格が災いし、後回しにするということを玲菜に暴露。
それはダメ! と頑なに勉強を後回しにする刹那に喝を入れ、
玲菜が進んで勉強を教えている、という現在の図に繋がるというわけだ。
「・・・なぁ、玲菜って学校行ってないって前に言ってたよな」
「うん、そうだよ」
「なのに、何で勉強ができるんだ?」
「シリスさんにみっちり教わったの。そこらへんの大学レベルの問題だったら簡単に解けると思うよ」
「・・・さいですか」
凄まじく頼りになる恋人であった。
「ほらほら、ちゃっちゃと終わらせよ。早めに終わらすのが一番だから」
「むい〜・・・」
玲菜は喜々として刹那に勉強を教えているが、教えられている刹那にとっては苦痛でしかない。
だって・・・もうやり始めてから3時間は経過している。
刹那の集中力はそんなに持たない。普通だったら投げ出しているところだ。
それをしないのも、教えられている人が玲菜だからだろう。投げ出したくても投げ出せない。
だが・・・それももう限界だ。さすがに疲れる。
玲菜に話して休憩でも入れてもらおうと持ちかけようとしたところで・・・。
ぴんぽーん♪
チャイムが居間に鳴り響いた。
これぞ天の助け・・・! 刹那は迷うことなく立ちあがっていた。
「俺が出るよ」
「え? あ、私が・・・」
「いやいや! 俺が行く! 行かせてくれ!」
「そ、そう? じゃあお願いね」
ランラン気分でスキップをし、刹那はその足で玄関へと向かった。
サンダルを潰して履いて、ガチャリ、と玄関のドアを開く。
「玲菜ちゅわ〜・・・っち、何だ、あんたか」
「来て早々失礼な人ですね!」
里奈だった。私服姿ということは、仕事が休みだから遊びにきた、というところだろうか。
「ま、遊びにきてやったわ。はいこれ、おみやげ」
里奈の持っていた紙袋を、半ば押し付けられるようにして手渡される。
中身を覗きたい衝動に駆られたが、さすがに失礼だろう。玲菜宛のおみやげかもしれないし・・・。
「別にそんな大層なもんじゃないわ。ケーキよ、3人分、あとで食べましょ」
「・・・相変わらずですね、本当に」
さりげなく心を読むのも忘れていない。もうさすがとしか言葉が出てこなかった。
そのまま里奈と一緒に居間へと向かう。
「あ、お姉ちゃん!」
「はいは〜い、玲菜ちゃんの大好きなお姉ちゃんですよ〜♪」
「・・・・・」
「ひ、ひどい! どうして何も言わないで白い目でこっちを見てるの!?」
「自分の胸に訊いてみてくださいよ、ってか邪魔ですから、早く入ってくださいって」
「っち、わかったわよ」
渋々と刹那の言うことに頷き、里奈はイスに座る。
・・・もちろん、玲菜の隣にだ。しばらく時間が経っても、相変わらずというかなんというか・・・。
「ありゃ、勉強道具。玲菜ちゃ〜ん、あんな頭からっぽのやつに教えても意味ないってば〜」
「誰が空っぽですかぃ!!」
「お姉ちゃん! いきなりそう失礼なこと言わないの!」
「はぁ〜い・・・」
しゅん、とうな垂れる里奈。
・・・そのほんの一瞬。1秒後には、
「じゃあこうしちゃう〜」
ずいぶん久しぶりに見る、玲菜への抱きつき攻撃。
「ん〜・・・玲菜ちゃんのに〜お〜い〜・・・落ち着くわ〜・・・」
「ちょ! や、止めてよ! いきなり!」
「だってもう3ヶ月ぶりだもの〜・・・。向こうにいたころはもう発狂しそうだったわよ」
どんだけ依存症なんだあんたは。
「う〜・・・・じゃあ、ちょっとだけ・・・」
「やた! んちゅ〜〜〜!」
「ちゅうしていいなんて言ってないよ! っめ!」
「ちえ〜〜・・・」
しばらくぶりに見る玲菜と里奈の戯れ。
玲菜と2人きりで生活していたときには見られない、姉妹と触れ合っているときの笑顔。
見ていて・・・ちょっとだけやきもち。
「つぅことで、あんた邪魔。玲菜ちゃんといちゃいちゃしたいから出てって」
「ここ俺ん家なんですけどねぇ?!」
「今日からあたしと玲菜ちゃん家ってことで」
「ことで、じゃないですよ!」
「あぁもう! 人ん家でそんなに叫ばないでよ」
「盗人猛々しいとはこのことだよ! まだ盗まれてないけどさ、俺の家!」
「お姉ちゃん!」
「はぁ〜い・・・」
腕の中で玲菜に怒られ、しゅ〜ん、と小さくなる里奈。
・・・でもまぁ、たまには姉妹水入らずの時間っていうのも必要なのかもしれない。
何せ3ヵ月だ。刹那自身、玲菜とそれくらい離されたら、たぶん里奈と同じ状態になるかもしれない。
ここはひとつ、譲ってやらなければ・・・。
「・・・まぁ、それじゃ適当にそこらぶらついてきますよ」
「うん、じゃとっとと行け」
「悪いわねの一言くらいないんですかねぇ?!」
「ない、とっとと行け」
「あんた無茶苦茶だよ! ちくしょー!」
捨て台詞と共に、刹那は外へと飛び出したのだった。
最終章ってことになります。
最終回まで突っ走ります!
これからも「殺し屋」よろしくお願いします!